14話 錬金術師の娘ビルジニ・ド・タグマウイ
そして魔術省の魔術師のお子さんを集めたお茶会が開催されることになった。私は紅いドレスを身に纏い、中央の席に座っている。セシルが給仕をしながら、私の所には子供が一人ずつやってきて、挨拶をしては自席に戻るということが繰り返された。
思っていたのと違う。もう少し和気あいあいとしてせっかくだから魔法を見せて貰うくらいしたかったが、子供たちは思ったより集まり、一人一人名前を聞いては忘れてを繰り返していた。
そもそも長い横文字の名前とか覚えられません。でも家名だけは聞き逃さない。だって作中の登場人物に関係あるキャラクターが登場するかもしれませんし。そして目の前に現れた黄色いドレスを着た少女は、突然私に向かって膝をつき頭を下げた。
栗色の髪の毛は長く腰まで伸びている。
「美しい」
「はい?」
何言い出しているのでしょうか彼女は…………。
「申し遅れました。私の名前はビルジニ・ド・タグマウイ。貴女は私の運命の人です」
「女性ですよね?」
「それが何か? 貴女を一目見てわかったのです、私が産まれた意味」
ダメだ、この人早く何とかしないと。私がそう思いながら彼女を見つめていてどこか既視感を感じ始めました。似ている。【黄】のワンダーオーブを入手するルートの攻略対象、錬金術師シャルル・エル・タグマウイにそっくりだ。特にヒロインに一目ぼれして運命だと言い出すところや、栗色の髪もそっくりだ。
てゆうか、彼女もタグマウイってことはもしかしてシャルルの娘!?
「そうですか、えと、ではまた」
でも彼女はなんか怖い。ゲーム越しに語られる深い愛にはキャーキャー言っていた記憶もありますけど、現実で言い寄られると思ったよりドン引きですね。多分、異性だったらもっと怖かったしなんなら同性で一安心しました。
ワンダーオーブって男女のペア以外で入手できるのかしら? まあ、別にそういう縛りはなかったはずですし、彼女も候補者であることに変わりはありませんね。それに【黄】のワンダーオーブは友情。…………いや、彼女から友情じゃないものを感じるんですけど大丈夫でしょうか。子供の頃だけですよね?
一通り挨拶が終わり、やはり謎の少年がここに現れることはなかった。ついでにレイモンの子供もいない。どなたか気を利かせて連れてきてあげるとかなかったのでしょうか。
ですが、彼女は収穫と言っても良さそうでしょう。やっと始まった魔術大会。指先から魔力の球を出すとか、手元につむじ風のようなもの作り出すとかかわいいものばかり。その中で一人、ビルジニだけは違った。草や木の実を握って手を開いたらそれは粉末になっていたのだ。
彼女のその力は明らかに他の子どもたちの域を超えていた。
そんな中、一人の子供が魔力暴走を起こしてしまった。指先から魔力の球を出していた子が、私達くらいの子供だったら三人入りそうなほどの大きな魔力の塊を作り出してしまったのだ。それが別の子供たちに向かって真っすぐ進んで行く。
周囲にいた大人たちが慌てて対応しようとしている。しかし、この場には魔術師たちはいなく給仕の者だけだ。彼女たちも魔法は使えるが、運悪く暴走した魔力の塊に対応できる大人はいませんでした。
ふいに私は前に出てしまった。どうしよう、何とかしないと。ジェラールの得意魔法は波動を自在に操る魔法で攻撃向き。いきなり使えるものじゃないけど、エリザベートの得意魔法だったらもしかしたらうまくいくかもしれない。
「時よ、従え時空魔法、遅延」
エリザベートの得意魔法、時空を操る魔法だ。私の魔法が魔力の塊を包み込むとそれの移動速度はどんどん遅くなっていった。
しかし、ぶっつけ本番でよく魔法が使えたわね。ゲーム内でエリザベートが言っていた口上通りに言ったら、上手くいった。
貴族の子供たちは魔力こそ持っていても、扱いに慣れていないと、調節が難しい。最初は手のひらの上に乗るボール位しかコントロールできないけど、潜在能力だけでいえば一瞬で民家を倒壊させることができるだろう。
気が付けば私の周囲に子供たちや給仕の者たち。騒ぎを聞いて駆けつけてきた保護者の魔法使いたちが集まってきた。
「さすが姫殿下」「見事だ」「王妃殿下と同じ時空魔法だ」「素晴らしすぎるっ」「さすが我が運命の相手」
悪目立ちじゃないわよね? まあ、別に目立って悪いことはないでしょう。私はその場はとりあえず笑っておいた。その後は魔術師の方々が監視しながらの窮屈なお茶会になりましたが、アクシデントとはいえ時空魔法が制御できることが分かっただけでも良しとしましょう。
今回もありがとうございました。





