始まりの朝
薄く開いたカーテンの隙間から真夏の日差しが射し込んで、七美の顔を照らした。陽の光が眩しくて七美はうっすら目を開けた。輪郭のぼやけた太陽が目に飛び込んできて、思わず顔をしかめる。陽が当たらない場所まで頭を動かし、再び眠りにつこうとしたその時、七美は微妙な違和感を覚えた。勢いよく起き上がると、そこは住み慣れた部屋ではなく、どこかのホテルの一室だった。
不意に気配がして振り返ると、七美の隣では知らない男が静かに寝息を立てていた。驚きのあまり声にならない声をあげ、男からしばらく目が離せない。20代半ばくらいだろうか。整った顔立ちだが、少しだけ不健康そうに見える色白の男だった。
七美はすぐに、下着をつけているか確認した。下着はもちろん、昨日着ていた服は全く乱れていなかった。断言はできなかったが、なんとなく何もされていない気がした。
はっと我に返った七美は、男を起こさないようにそっとベットから抜け出し、少し遠くの方に転がっていたカバンを持って部屋を出た。
ホテルを出ると、すぐに見慣れた道についた。どうやら七美は、家からそう遠くないホテルに居たようだ。
家までの道を歩いているうちに、七美はいくらか断片的な記憶が蘇ってきた。バイト終わりに朱里とファミレスに行ったところまでははっきり覚えている。確か、その後に男二人にナンパされてジュースを奢ってもらった。
そこからの記憶がどうしても思い出せなかった。さっき横で寝ていた男がナンパ男だったかは、正直わからない。
そうこう考えているうちに家についた。
「ただいま」
誰もいない家からは、相変わらず返事はない。
七美は、急いで制服を着ると学校へと向かった。