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vs 仇敵5

 仕事が終わり、珍しく正和のいないひとりの帰宅。

 昼間、昔のことを思い出したから気分がすぐれない。


「気分転換に正和たちと映画に行ったほうがよかったかな?」


 いっそちょっとお高い外食でもして普段は飲まない酒でも飲むか。

 だが、そのためには駅前まで出なければならない。近場に遊び場がないのが田舎のつらいところだ。


 そんなことを考え、玄関に手をかけると鍵が空いていた。

 詩織ねえちゃが来ているのなら玄関に灯りがついているはず。

 朝、鍵を閉め忘れたか?

 そう思って中に入ると、微かにコーヒーを炒った匂いがした。


「……」


 うちは基本、お茶派だ。

 日本茶も紅茶もジャスミンティーもあるが、コーヒーは置いてない。


「誰か、いる?」


 私は足音を忍ばせて明かりをつけずに室内に入った。


 そっと覗く。


 リビングにはいない。

 ダイニングにもいない。

 キッチン、トイレ、風呂にもいない。


 1階はあと自分の部屋と仏間だけ。

 余談ながら2階は今は家を出ているねえちゃの部屋と死んだ両親の部屋。それに物置にしている部屋と客間だ。


「あれ? そういえば……」


 脱ぎ散らかした寝間着がない。

 下着もだ。


 もし泥棒なら、わざわざ脱ぎ散らかした服を片付けてくれるはずもなく、


「なんだ、ねえちゃか」


 休憩のつもりで自室で寝てたらそのまま寝過ごしたとか、そんなところだろう。


 そう思い、私は警戒するのをやめて自室のドアを開けた。


 そしたら、いた。


 黒のニット帽に黒のジャージ上下。黒のマスクを付けている、が、栗色のツインテールがぴょこんとはみ出ている身長150センチ以下の小柄な誰か。


 黒ずくめは私のネット用のパソコンに向かって四苦八苦していて私に気付くのが遅れた。


「……なにやってんの?」


 黒ずくめはその声に驚いて椅子から転げ落ちた。


「つーか、レイカちゃんだよね?」


「ち、違う! 私は前原麗華ではない!」


「自分で前原って言ってんじゃん」


 慌てて口を押える黒ずくめ。顔は見えないのに可愛いのはなぜだろう?


「な、なぜこんなに早く? 今日は映画を見に行くと聞いたのに」


「それ、正和に聞いたの? なんか気分悪いから帰ってきちゃった」


「大丈夫なのですか?」


 うん、この子、悪い子じゃあないのよね。だからといって不法侵入は見逃せないけど。


「そんで話を戻すけど、人んちでなにやってんの?」


「それは、その……」


 レイカちゃんは下を向いた。

 瞬間、私との距離を詰め寄り、腕を取って後ろに回った。


「い、いたいいたい! 乱暴はやめて」


「は、吐け!」


「な、なにを?」


「えっと、、、なにかを吐け!」


 レイカちゃんは後ろ手に取った私の腕を捻った。


「ちょ、マジで痛いって!」


「こっちはわかってるんだぞ!」


「だからなにをよ!」


「真壁朝子のことだ!」


 ぴしりと、空気が凍った。


「……レイカちゃん、手を放して」


「あ、はい」


 気圧されたのか、レイカちゃんは素直に従った。


「どういうこと?」


「どういうこと、と言われましても……」


 上から睨みつける私に、レイカちゃんは下を向いて視線を逸らした。


「なんでレイカちゃんの口からあいつの名前が出るの?」


「それは、その……!」


「伊織さん!」


「今度はなによ!」


 勢いよく開かれた扉を見ると、そこにはなぜか夏木くんがいた。

 夏木くんはダッシュで私のところまで駆け寄ると、レイカちゃんを突き飛ばした。


「ちょ、ちょっと! レイカちゃん大丈夫!? 夏木くん、なにするの? てかなんでいるの?」


 あれ? って顔の夏木くん。いや、こっちがあれ? だわ。


「伊織さん、大丈夫なんですか?」


「どう考えてもあんたが大丈夫じゃないでしょう。無断で人んち土足で入ってきて女の子突き飛ばして」


 夏木くんは目を逸らした。

 私はレイカちゃんを抱き起こした。


「とにかく! 一度整理する必要があるから仕切り直し!」






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