vs 仇敵3
夜、仕事を終えた私は正和を連れて自宅まで戻ると、あることに気が付いた。
玄関に明かりがついていたのだ。
「どうしたん? 早く行こうぜ」
なにも気づかない正和は勝手知ったる他人の家に入っていく。
ちなみに今日はゲーム大会の日で一緒にFPSをやる予定なのだ。
「あ、詩織!」
「ぎゃあああ!」
正和の歓喜の声と女性の悲鳴、そして殴打音が玄関内から響く。
慌てて中に入ると、そこには地面に倒れ伏した正和と、妙齢の女性がいた。
「あ、ねえちゃ」
「伊織! あんたまだこいつと付き合ってたの!?」
女性の名前は『永野詩織』。
私の15歳違いの姉で親代わりだった人。
職業は医者。稼ぎも多いしなんでもこなすスーパーウーマンだ。
……バツイチでもある。
「ねえちゃ、どうしたの?」
「どうしたのじゃありません! 心配で来てみたらいきなりこの蛆虫に飛びかかられて。ああ、鳥肌が止まらない」
なるほど、それで正和は返り討ちに遭ってそこで伸びてるのね。
ちなみにこの人、男運が悪い、というか男が寄ってこない。
完璧すぎて並の男じゃ歯が立たないのだ。
寄ってくるのは凄い下の正和か凄い上のにいちゃ(前旦那)ぐらいだ。
「それより伊織、お仕事お疲れ様。ご飯の用意はできてるから手を洗ってきなさい。あ、その前にその汚物は捨ててきなさい」
「あ~、うん。ほら、正和。今日はねえちゃが来てるからゲーム大会中止ね」
正和はスクと立ち上がった。
「しょうがねえなあ。詩織、なにか困ったことがあったら連絡してくれ。お前のためだったらすぐに駆けつけるよ」
「っひぃ! 早く去ね、去ね!」
正和は私に顔を寄せて一言。
「照れちゃって、かわいいな」
いやあ、ねえちゃ、本気であんたのこと嫌ってると思うけどね。
颯爽と去っていく正和を尻目に、私は手を洗いに行き、リビングの食卓に付いた。
そこにはすでに和食が並べられていた。
白いご飯に大根ワカメと豆腐の味噌汁。
小松菜と油揚げの炒め物、イカと人参、大根の煮物。
メインは豚の生姜焼き。
うん、すごくおいしそうだ。
こういう定番メニューって自分ひとりじゃ面倒くさいから作らなくなるのよね。
「脱ぎ散らかした服もちゃんと洗濯しておきましたからね」
……うん、ありがたい。
「それと、おかずも作り置きしておいたからちゃんと小分けにして食べるのよ。野菜も食べること!」
「もうねえちゃ、干渉しすぎ! こっちはこっちでちゃんとやってるんだから!」
「そんなことは下着くらい脱ぎ捨てなくなってから言うのね」
くそう、完璧超人め。有無を言わさぬ口調だ。
「……それよりも、なんの用なの?」
私はほっこりご飯を口に運んだ。
なんで同じ炊飯ジャーで炊いてるのにこんなに味が違うんだろう?
「わかってるんでしょう? そろそろまともなところに就職しなさい? 私も口利きするから」
「今の職場だってちゃんとした職場ですぅ!」
「グッダーが? 時給950円が? 将来どうするの? もっと他にいいとこあるでしょう?」
私は黙々と食事を進める。あ~ごはんがおいしいのがむかつく!
「本来だったら私よりあなたは優秀なのに、こんな底辺で燻ってるのは見るに忍びないのよ」
「……底辺て言わないでよ。こんなでも一生懸命頑張ってるんだから」
「あなたが大学で仲間に傷つけられて酷い目にあったのも知ってる。でも、そろそろ前を見て進むべきよ」
「簡単に言わないでよ」
そんなこと、わかっているんだ。
自分だって、わかっているんだ。