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vs 地方公務員9

 しばらく話した後、小暮さんは仕事に戻って行った。

 その背中をきっかり10秒ほど見つめて、靖は口を開いた。


「ちょ、ちょっと伊織。なんで偉そうな人と話してるの? ここ、初めてじゃないの?」


 あ~あ、虚栄心で固めためんが壊れて昔の情けないバイトだったときの顔が出てきちゃってるよ。もっともこっちのほうが傲慢でいけ好かない今より好感持てるけど。


「私、ここが初めてなんて一言も言ってないけど?」


「だって時給920円じゃこんな高級なところ来れないだろ?」


 失礼な。私は時給950円で正和たちより30円高いんだ。なぜか夏木くんより50円低いけど。


「別に低額所得者は来ていけないなんてルールはないよ?」


「そんなの散財だ。貧乏人は贅沢するべきじゃないっ」


「べきってなによ。言わせてもらうけど、それじゃああんたはどうなの? 公務員の初任給はあまり高くないって聞いてるわよ?」


 靖は下卑た笑みを浮かべた。


「ご心配なく。上級国民にはおまえら愚民どもが想像もつかないような『副業』があるんだよ」


 そう言うと、靖の後ろに立つ人物がいた。


 おいおい、探していた「女」だよ。

 人差し指が靖の首筋に直接触れるように肩に手を置き、親密さアピール。

 なんか、エロい。

 性に全然興味のない小学生でもわかるエロさを醸していた高橋くんのお母さんと同じくらいエロい。


「靖、くん。このマダムは?」


 「女」は2流舞台役者がするような笑みを浮かべた。


「いつも靖先生にはお世話になっています」


 下の名前に先生、ね。


 さらに名乗ろうとする「女」を靖は制した。


「ああ、いい、いい。嫁が旦那の仕事に口を出すとろくなことにならないんだから」


 嫁って誰のことだよ。


「それよりこれ、今回頼まれていたの」


 靖は「女」にLサイズの封筒を渡した。「女」はそれを受け取ると、靖に小さい封筒を渡した。

 示威行為のつもりなのか、靖は私に封筒の中身が見えるように確認する。

 ……お金だ。だいたい10万円くらいか。


「いつもありがとうございます」


「ああ。しかし最近課長の目を誤魔化すのが面倒くさくなってきてるんだよなあ」


 「女」は、一瞬だけ同性にしか気付けない軽蔑の視線を靖に向けて、笑顔で言った。


「先生の苦労は心中察しております。次回からは少し謝礼を上げさせていただきますわね」


「なんか催促しちゃったみたいで悪いなあ」


「いえ。当然のことですわ」


 靖は終始鷹揚で、「女」は張り付けた笑顔を剥がさぬまま去って行った。


 ああ、行っちゃう。

 てか本当に夏木くんなにしてんだ?


 私は正和とつながっている携帯を切り、夏木くんにかけた。


「あんたどこでなにやってんのよ!」


『伊織さんですか? いつ来てもいいように1階ロビーで張ってます!』


「ばか、バカ、大馬鹿! 1階ロビーで下りるとは限らないでしょうが!」


『あ……』


 私が来たのが地下駐車場だし2階には商業施設があって直接外に出られるようになってる。


「とにかく! 今から下りるエレベーターに乗るはずだから! 夏木くんは2階に行って確認して。そこで下りなければ1階か地下でおりるはずだから」


『2階で降りなければどうすれば……』

「下まで走れ!」


「お、おい伊織」


 靖に声をかけられ私は携帯を切った。


「夏木ってあのバイトだろ? いくら俺が寛容でも目の前で浮気相手に連絡するのは……」

「帰るわ」


 私は席を立った。

 「女」がレストランを出て行った今、もうここにいる理由はない。

 でも、最後のチョコケーキバニラアイス乗せ、おいしかったなあ。


 足早で店を出る。

 慌てて追いかけてくる靖。


「なんでだよ! もうホテルも予約してあるのに」


 ホテルって。色々工程端折りすぎでしょうが。


「おまえだって女だろ! 女は安定の公務員と結婚したいはずだろ!? なら黙って言うことを聞けよ!」


「色々言いたいことはあるけど」


 私は足を止めて振り返った。


「たとえあんたが金を持ってる若手IT社長でもね、仲間や友人を悪く言うやつなんて願い下げなのよ!」


 そう言った瞬間、クラッカーが鳴った。


 カメラ片手に出てくる正和たち。

 あ、こいつらのこと、忘れてた。


「なんだ底辺負け組ども! なんでここに!」


「決まってんだろ! おまえがみじめに振られる瞬間を撮影するためだよ!」


 靖はそれを聞いて、へたり込んでしまった。

 ちょっと可哀そうかも。


「伊織、お疲れ。予定と違ったけどなかなかいい絵が撮れたよ」


「夏木くんどしたんよ」


「なんか急用ができたって出て行った」


「それ早く言いなさいよ! 私ももう行くかんね!」


 はしゃぐ馬鹿どもを残して私はエレベーターに乗った。




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