vs 地方公務員6
話が違う。
宮本靖がそう思ったのは市役所勤務を始めて、まだ研修も開けない頃のことだった。
まず、全然もてない。
婚活市場においては安定職である勝ち組公務員はもてるはずなのだが、それがない。女はもっと自分に媚びを売るべきだ。
金もそれほどもらえない。
生涯年収でいうならば大企業並みの賃金をもらえる計算になるが勤続年数の短い今では中小企業並みだ。
コンプライアンスも問題だ。
自分は難関試験を潜り抜けて公務員となった勝ち組のはずだ。なのに役所は負け組愚民どもに頭を下げろという。こんなのは間違っている。周りはもっと有名大学を卒業し公務員となった自分を敬うべきだ。
そんなことを考えながら靖は仕事を続けた。
研修を終え、専属部署に配属になって忙しく仕事を覚えている頃、あの女が接触してきた。
「ご公務おつかれさまです」
歳は30代中盤だが、まだ十分にセクシャルを感じさせる容姿をしたそいつは、誰もが知っている大企業の役職付き名刺を渡してきた。
その女は靖を下へ置かぬ扱いをした。
靖の愚痴を嫌な顔せずに聞き、その日の飲食代も率先して払う。
そうだ、自分は本来こういう扱いをされるべきだ。勝ち組とはこうあるべきなのだ。
気分のよくなった靖は、何度目かの会合の時に「女」の頼み事を聞いた。
「実は、まだ企画段階なのですが朝桐市に新たな支店を出すことを考えていまして。朝桐市の綿密な地形図が欲しいのです」
そんなものは少し大きめの書店に行けば白地図が手に入るし、はっきり言ってしまえばネットでいくらでも調べられる。
まあ、今まで奢らせた酒代に比べれば安いものだ。
靖はそう思い、「女」に白地図を渡した。
それを「女」は、謝礼として10万円で買い取った。
靖は狂喜乱舞した。
たった数百円の白地図が10万円になったのだ。
それからも「女」の頼み事は続いた。
少しずつ、少しずつ合法的なことから違法的なことへ変わりながら。
「大丈夫、この情報で誰かが死ぬなんてことはないんですから。それにみんなこれくらいのことは言わないだけでやってますよ」
そう言われてしまえば靖に抗う力はなかった。
高額な報酬は魅力だったし、「女」の自分に対する態度も靖の虚栄心を満足させた。
そう、これは公務員である自分の特権であり、正当な権利なのだ。
そうじゃなければあれほど頑張った試験勉強が割りに合わないじゃないか。
靖はこうして自分を正当化していった。




