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vs 仇敵10

 『ティルナノグ』。


 永野伊織の職場である『グッダー膝折町店』の国道を挟んで真向いにあるパチンコ店『パラダイス天国』内にある喫茶店だ。

 パラダイス天国自体は地域の法定時間まで営業しているが、ティルナノグは8時には閉店する。

 『CLOSED』の看板のかかったドアを開け、夏木小次郎と前原麗華の2人は連れだって店内に入った。


 カランコロンとドアベルの音が店内に木霊こだまする。


「おつかれさま」


 店内から聞こえたその声の主は男だった。否、あるいは女かもしれない。

 170あるかないかの身長、中性的な容姿。

 スーツは男物。だが、すさまじく趣味が悪い。

 スーツも含めてネクタイ、シャツ、靴、目には見えないがおそらく下着や小物も名のあるブランド物、金額でいうなら安く見積もっても100万は下るまい、そんな身なりだが、全て違うメーカーで揃えている。

 シャツもネクタイも靴も、スーツの上下ですら別メーカーだ。

 そんな悪趣味な人物がそこにはいた。


「『上』に言われてここに来ましたが、あなたに会えってことでいいんですか?」


 夏木小次郎が聞くと、「そいつ」は鷹揚に頷いた。


「うん、そうだね。それより真壁朝子を逃がしたって? 残念無念だね~」


「……あなたが何者かは存じ上げませんが、私は今回の件、失敗とは認識していません」


「僕も同意します。朝倉朝子と永野伊織の間にあるつながりを確認できただけで一定の成果はあげられたと思います。そもそも、もし本当に真壁朝子を捕らえるのなら、決定的にマンパワーが……」


 「そいつ」は夏木小次郎の言葉を遮るように手を2回ほど叩いた。


「『天才剣士』夏木小次郎と『暗殺人形』前原麗華がそんなこと言ってちゃダメでしょ!?」


「……お言葉ですが、私と彼に関連性はありません。実際自己紹介すらまだなのですから。いきなり突き飛ばされたりはしましたが」


「夏木くんそんなことしたの! いかん、いかんなあそれ。もっと仲良くならないと。君たち、チームなんだから」


「チーム?」


 夏木小次郎が呟くと、なにかカードのようなものを投げられた。それを指に挟んで受け止める2人。


 それは、名刺だった。


 内閣調査室特別参事官

 佑月道夫


「内閣、調査室?」


「そ。根回しに苦労したけど、君たちはこれから内閣調査室管理下の特別チームになる。もちろん、イリーガル(非公認)だけどね」


 そう言って「そいつ」、佑月道夫はウィンクをした。


「僕の仕事は君たちのメンター(相談役)兼連絡役、つまり、上司ってことだね」


「ずいぶんと、胡散臭いんですね」


「おっと! いいなあその反抗的な態度。ま、信頼関係はおいおい築いていくとしようか。とりあえずきみたちがやることは永野伊織の監視」


「監視、ですか?」


「まだ真壁朝子と完全にグルではないとは言い切れないからね。それで、彼女はなんて?」


「真壁朝子の捜索に協力をお願いしましたところ、快諾してくれました」


「お? いいんじゃない? 近くで監視できるじゃん」


 佑月道夫は、なんの警戒もなく前に出て、夏木小次郎と前原麗華の間を通り過ぎた。


「そうだ。ひとつ情報を上げる。永野伊織。彼女、『オライオンのお姫様』だから」


 2人は、その事実を知らなかった。

 政府が持つデータベースには膨大な情報がある。

 だが、外部組織に身を置く2人はアクセス権限が低かった。

 せいぜいが犯罪歴の有無がわかる程度で他は一般的検索エンジンと変わらない。

 永野伊織の出身大学すらわからなかったのはそのためだ。


「……『オライオン』関係者ですか」


「そ。しかも身内ね。わかると思うけどそれだけで彼女の重要度は赤丸急上昇だからね」


「真壁朝子の狙いは『オライオンの遺産』だと?」


「その可能性もあるってこと。まあ、しばらくはスリーパー組織として日常を楽しんでよ。じゃあね」


 佑月道夫はドアに手をかけ、そのまま外へと出て行った。

 どのようなテクニックを使ったのか、ドアベルは鳴らなかった。

 それを一切の妨害もせずに見送った2人は顔を見合わせた。


「……どう思います?」


「……上の決定ならば」


「……それじゃあよろしくってことで」


「あ、はい」


 2人はどこか他人行儀に、握手をした。









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