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SEEKERS──The Cypher Boy──【休載中】  作者: ー
Ch1 : Dystopia, not Utopia.
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001 - a Boy and a Automata




 見渡すかぎりの荒野を一人踏みしめる中、僕をそっと包み込むような、そんな懐かしささえ覚える女性の声が、後ろから投げかけられる。「ルイス、ルイス」と慈しむように繰り返し僕の名前を呼ぶ声は間違いなく僕のすぐ後ろから聞こえてくるはずなのに、振り返れどもそこには誰一人いないのだ。


「ルイス!」


 おれの()はいつもそこで終わりで、今までに一度だってその続きを見れたためしはない。次に聞こえてくるのは慈しみも何もない、危うく鼓膜が破れてしまうのではないかと思うほどに大きな、おれの名前を呼ぶ呆れ返った声。


「起きてください、ルイス。何回アラームを鳴らすのですか。ああ、もう。そろそろ僕の人工鼓膜が破れてしまいそうだ」


 おれはルイス・M・ウィルソン。18歳、性別は男。種族は人間(ヒューマン)で、分類はサイファー。

 そしておれがアラームを消さないことについてうるさいこいつは、型番はRD-08、名前はロイド。旧式のヒューマノイド系オートマタ。気の遠くなるような昔の言葉で言えば、アンドロイドって呼ばれてたヤツだ。こいつの方がよっぽど、俺より “人間らしい” と思う。


「聞こえてるさ、ロイド。そろそろ朝はきみにミュート機能をかけておいた方がいい?」眠さで持ち上がらないまぶたを擦っていると、ロイドのうなじが見えた。「それよりきみ、バッテリーの残量が」

「ああ、もうこんなに。そろそろバッテリーを交換しなければ任務にも支障が出てしまいます」


 ロイドが自身のうなじをさする。彼の首には、バッテリーが残り少ないことを表す赤色のランプが点滅していた。


「今日、任務終わりにそのまま交換へ行ってきます」


 オートマタは人間との区別の意味も含めて、いずれの(モデル)もうなじに5センチ大の長方形をしたランプを埋め込むことを義務付けられている。彼らの動力源はそこであり、何か問題があればそこを撃つなり斬るなり刺すなりして破壊することですべての機能を停止させることを、所有者である人間は許可されている。


 長らく平和が続いていたこの世界で、オートマタたちは過去の産物とされており、新たな製造はされてこなかった。しかし20数年前、幾度目となる世界大戦が起こったことにより再びその数を爆発的に増やすこととなったのである。


 理由が理由なだけに、現在稼働しているオートマタの殆どが戦闘機能を初期搭載されたモデルだ。ロイドにもその機能は搭載されているが、彼はそれよりも前に発売されたモデルであるため、それは後付けである。彼の型は生産数も少なかったため、今も機体(ボディ)を新型に移していないRD型はロイドだけなのではないだろうか。少なくともおれは18年生きてきて、旧式機体のRD型は彼しか目にしたことがない。


「今日の任務は遅番だから、午前中に交換に行ったら?」


ベッドから起き上がり、キッチンにいるロイドに聞こえるよう声を張り上げた。コンクリートの床に触れた素足が()てつきそうだ。ああ、今日は遅番で良かったと、開いたウインドウで室温を確認しながら思った。


「そうですね。これだけなら10分もあれば終わる」

「おれもついて行くよ。そしたら、そのまま支部に」

「わかった。そうしよう」


 さて、この世界で知的生命体と認識されているのは、人間とオートマタの2種族である。

 オートマタはおおまかにヒト型オートマタ(ヒューマノイド)動物型オートマタ(アニマロイド)ロボット型オートマタ(ロボノイド)の3種類の分類があり、人間もまた、彼らと同じ様に3種類の分類がある。


 しかしかつて、人間はただ1種類だった。それが何故、3種類に分かれたかって? それは、オートマタが再び人類と共に知的生命体として生きることとなったきっかけである20数年前の世界大戦にある。


 20数年前の世界大戦で、現在(いま)おれたちが生きているこの地で、イニシエーターと呼ばれる何者かがとあるウイルス・U-p7を開発した。その詳細は、政府下の組織に属するおれにも隠されているので、それが何者なのかは今までも、そしてこれからも知ることはない。

 ただこの出来事について分かるのは、それがおそらく、爆発的な生産によって必要な素材が不足したためオートマタだけではなく人間を利用した生物兵器を生む為に開発されたのだろうということ、そして──


 U-p7は、“失敗作” だったということ。


 しかしU-p7は撒かれた。何を思ったのか、この地全体に。

 そして生まれたのが、人間の3つの分類だ。


 まず1つ目、U-p7に感染し、死に至った者。皮肉なもので、彼らには呼び名が与えられていない。


 2つ目、U-p7への抗体を持っていたため生き残った者。おれもこのうちの1人であり、“サイファー” と呼ばれている。


 3つ目、U-p7の感染により破壊的能力を持った者。普段はサイファーと同じように生活をしているが、何らかが引き金となりサイファーや他の仲間をを攻撃すると記録されている。彼らは、“アウトロー”と呼ばれている。


 今この瞬間も、除去しきれず広がり続けているU-p7によって、新たな死者、サイファー、アウトローが生まれ続けている。そう。U-p7によって、この世界はディストピアへと変貌してしまったのだ。


「そうだ、ロイド。今日の任務って──」

(ノース)支部と合同のものです」

「流石は相棒(ロイド)。聞きたいことを的確に答える天才だ」

「それは僕が、オートマタだからですよ」


 おれたちの言う “任務” とは、“アウトロー狩り” のことだ。狩りと言えば聞こえは悪いが、捕獲して施設へ入れるということなので、あながちその表現に間違いは無い。


 おれとロイドはバディを組み、政府下でアウトローを捕獲する組織 “シーカーズ” の(イースト)西(ウエスト)(サウス)(ノース)の4つ支部のうち、(イースト)支部に所属している。


 参考文献を映しているウインドウの上部に、チリンと軽やかな音がしてバナーが降りてくる。


[ すまない。今日の任務は午前からに変更だ ]


「ロイド! 任務は午前からに変更だ」

「では、バッテリー交換はそのあとですね」


 寒さに顔をしかめて、おれは朝食の匂いのするキッチンへと向かっていった。




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