母国に帰還 という名目での潜入留学
『再度貴官に命じよう。世立明十学園に潜入、彼の国の不正報告、並びに関与した組織・研究資料・研究員等の抹消の任に就かれよ。』
『は。その任務、我が受け負おう』
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世界の内の日本国、その首都である東京に着いた。
俺がこの地に踏み入れたのは何時ぶりだろうか。今までの長きにわたる大戦の数々の兵器的被害や度重なる終戦後の条約の事もあり、この国及び世界の領土・領海における陸地は一目瞭然で激減・激変した。そのため、俺の記憶にある日本ではあてにならない。とにかく先ずは例の学園に向かおう。ちなみにこの学園も日本を変えてしまった原因でもあったりする。
「すみません、世立明十学園行きのバスか何かはありますか」
空港内の場所については空港職員が一番詳しいだろう。
「それなら第一出口を出た目の前にあります」
「ありがとうございます」
なるほど、世立とだけあってわかりやすい場所にあるな。ということはこの同じ制服を着ている人たちが同学園生なのだろう。そんなことを考えている間にバスが来たので乗車し、空席だったところに座った。数分後、とある女学生が合席して来て声をかけてきた。
「あの〜、すみません、こちらは学園行きなのですが乗り間違えですか?それとも新任講師さんですか?」
なんともまぁ、俺が講師じゃなくて良かったが、初対面にかける言葉遣いじゃないでしょ。面倒くさい奴だったら怒鳴られてるぞ。
「いえ、私はあなたと同じ生徒になるものです」
「え? すみません、制服を着ていないのでてっきり講師か客人か、はたまた乗り間違えかと思ってしまいました」
講師ならまだしも客人なら余計丁寧に接しなきゃダメだろ。
「いえ、大丈夫ですよ。私は今学期、第一学年に編入…留学することになったシンウィルート・ラグヴェルというものです」
今回の任務のために用意された名なのだが…何しろ潜入捜査なんて初めてだからな、諜報訓練は受けているがうまく言えただろうか…。
「あ、確か欧州諸国連合からの代表留学生…だっけ?」
「はい、よくご存知ですね」
「だって先週、その生徒が私のクラスに来るって通告があったもん」。という訳で私は愛莉、よろしくね」
「私は…いや、俺はシンウィルート。愛称のシンで構わない、よろしく」
「うん、よろしくね、シン」
とまあ、こんな話をしている間に学園についた。学園は中・高等教育機関と大学しかないが、それでも最新の技術を使った教育及び高等部と大学が使用する部活動と大学にある魔法学においての全学部のための施設があり、東京都と県境にある千葉に作られているのだが、いまはその大半を占めている。そして、日本全土の人口の半分以上といってもいい億単位の生徒と教師がいてその数に対応できるように入口もまた数十箇所に渡る。その中で今回は、高等部に一番近い入口に来たらしい。
バスを降りると知らされていた通り、出迎えらしき人が声をかけて来た。
「やあ、君が留学生君か?」
「ええ、ということはあなたがこの学園の統括者ですか?」
「統括者は理事会の爺いどもで、私は学園長の神隠だ」
なに?確かあいつは長が来ると俺に言っていたが…なにかの手違いか?
「すみませんでした、何しろ学園に着けばこちらの統括陣の方に出迎えられるとか聞いたものですからてっきりその長かと思ってしまいました」
「長か…なるほど彼なら言いそうなことだ」
俺はこの学校に留学をするが、本来留学というシステム自体存在しないはずだ。ということはこの人はこっち側か?
「我が校の者をご存知なのですか?」
「そのことも含めて一旦場所を移さないか? ところでそこの子は確か君が入ることになるクラスの者だったはずだがもう知り合ったのか?」
「ええ、彼女にはバスの中でこの学園のことを軽く教えて頂きました」
「挨拶が遅れました。学園長、今学期もよろしくお願いします」
「ああ、だが君は一般生なのだから早くクラスへ行きなさい」
「あ、そうでした」
「担任には私から事情を説明しておくから」
「ありがとうございます。それじゃあ後でね、シン」
彼女がクラスへ駆けて行ったとともに学園長が学園内の案内をするというので後を追うことにした。
「随分と広い土地の上、膨大な数の建物が乱立してますね、それとも何か順列があるんですか?」
「これと言った順番はないが乱立とは…まあ、確かにそうだな」
なにやら乱立という言葉が気に入らなかったらしい。
「まあ、一通り外から見える範囲は見ただろう、そしてここがこれから君がよく通うことになるであろう私の部屋、学園長室だ」
このフロアの最端にある割には他のフロアより明らかに進めた歩数が少ないから随分と仲は広いのだろう…まてよ、これからよく通うとはなんのことだ?
「さあ入ってくれ、あと茶は出せんが適当に座ってくれ」
「さて、この部屋には防音措置が施されている」
?!
「私は貴官がどのような任務によってこの学園に来たか聞いている」
「改めて自己紹介をしようか、私はWoT学園科日本支部最高責任ラウンズが第1席、世立明十学園学園長及びWoT特殊諜報部隊統括長の神隠 景藍という者だ」
「なるほど、貴方がそうでしたか」
この世界には第十回世界大戦終了時の大都市上位十カ国に学園が設立された。この日本はその十位だったことによって、十が名に入った学園が建てられた。この設立は終戦後、小国と大国に差が起きぬ為、という対策でもある。学園では国にとっては兵器、世界にとっては秩序の調律者を育てる為の施設である。だからと言ってもいいのか、この世界でこの学園を滑るものは十人しかおらず、その十人は少なからず世界で注目される存在なのだ(この役目は学園長とはまた違う)。しかしながら十人はお互いにしか知らされていないので世間一般にとってはだれかもわからない存在なのだ。それはたとえ国のトップだとしても例外ではない。唯一例外をあげるならば学園というシステムを束ねる者か世界のトップだろう。
「では改めて私も…我はWoT所属ドゥーズが一位、ラヴェグス・イルミンスール・ユッグ・奏宮である」
「な?!先ほどまでの無礼のお許しを、我らが盟主!」
「良い、我は現時点この学園の位置生徒でしかなく貴官は講師である。ゆえに、初会の時のように接しってはいただけないだろうか?」
「盟主が望むのであればそのように、出過ぎたことであると承知の申し出でありますが貴方もまた同じ接し方をしてもらってもいいだろうか」
「ええ、もちろんそのつもりですよ」
「しかし、なぜ貴方のような方がこの任務に就かれたのか教えてもらってもいいだろうか」
俺が答えようとした瞬間、液晶コールがタイミングを見計らっていたかのように鳴った。学園長は俺に目を向け許可を求めたので「ええ、どうぞ」と促した。
『久しぶりだな、学園長』
『その様子だと彼との自己紹介は済んだみたいだな』
どうせ部屋の片隅についている監視カメラでもハッキングして様子を伺っていただろうに、白々しい。入室時には起動していなかったカメラがたった今液晶をつけるまで起動していたのは部屋を見回した時に確認済みである。「悪いがいまは時間が押してるんだ。また後にしてくれ」俺は学園長が手にしていたリモコンを攫い反論させる隙も与えずに液晶を消した。
「いいのですか?彼は一応ドゥーズの知恵だったはずでは」
知恵とはドゥーズの中で最低階級、つまり12位で下から這い上がって来る実力を認められた者と交代以外昇格、降格、転職、退職が許されず能力も戦闘用でないので戦地にも駆り出されない。が、能力は情報処理に長けたものであることから情報科最高司令官という役職が与えられ、出兵させる権限も持っていることから時には盟主にも命令できる特殊な役職のことである。また今の知恵は俺の育て親でもあるため周りより少しばかり気のしれた中である。ちなみに、知識という地位は変動があまりない…少なくとも俺が一位に君臨してからはないが、他のドゥーズは今まで年に一度は変動があったらしい。だがそれも俺が一位になる前の話であって、今のメンバーは俺が直々見出だした者たちで埋められている。未来予知ではないが、当分の変動はないだろう。
話を戻すと、今回学園長が先ほど一応とつけたということは少なからず縁があってその性格も知っているのだろう。
「そんなことよりそろそろ俺は編入すべきクラスに行ったほうがいいんじゃないですか?流石にもう時期ホームルームが終わってしまうんじゃないか?」
「ああ、確かにそうだな。知恵には教育機関には通ったことがない世間知らずだからしっかり教育してくれとは言われたがホームルームがわかるということは基本は分かるようだな」
「流石に俺も教育機関はないが書物くらいは読む!あいつは一体どこまで俺を無知だと言いたいのだ」
「ははは、そういえば前以て君が来ることは伝えられていたから君の学年にいるあちら側の者たちは全員君の入るクラスに集めておいたぞ」
「ほお、それは随分と荒れた留学になりそうだ」
「ついでに君が朝会った子は、諜報のエキスパートで私の部下でもある。今回の君の留学中は側近にでもするといい、そちらついてはまだ話をつけてないから君から話してみるといい」
「後、ここがこれから君が入るクラスだ」
ついたようなので学園長はクラスのドアをノックして入室し、担任と見られる教壇の上に立っている女性に話を通してくれた。手招きをされたので俺も入室してみるが冗談でなく本当に鼓膜が破れるほどの女子生徒の声が聞こえてきた。そして自己紹介を軽く済ますと席につけるかと思えば…そうではなかった。クラスの生徒たちの希望でクラスメイトとなる生徒も順番に自己紹介を始め、人数が多いので聴き終わるまで十分弱かかった。これが終わればようやく座っても良い席に案内してもらえるだろうと思ったのだが…
「先生、これからシンウィルートくんについて質問会がしたいです!」
どこか甲高い声で講師に提案する女子がいた。まったく、余計なことをそして講師もあっさり了承するな!と、喉元まで出かかったツッコミを飲み込み、仕方なくその案を受け入れた。この提案には授業を潰したいと言う目論見があったのか、と思わせる質問の数が飛んできて担任が担当するべき授業の3時間分が一瞬で消えた。一部を抜粋するとこの類のものだ。
「シンウィルート君って欧州諸国連合からって聞いてるけど、本当はどこからなの?」
「髪は白いけど輪郭はアジア系に見えるな!ハーフか?それともクオーターか?」
「お前強そうだな、あとでバトろうぜ」
なんとも高等教育機関とは思えない光景だ。まるで紛争地帯の孤児院に行った時みたいな質問攻めだ。
そんな中一人聞き覚えのある声で偽名のであるが、シンと呼んでくれた事を俺は聞き逃さなかった。
「みんな、シンは今日日本にきたばかりで疲れてるんだからそんなに質問攻めにしたらかわいそうよ」
ナイスタイミング!確かに今日は色々な意味で疲労があるし、ここでのストップは本当にありがたい。真面目に側近にしようか悩みそうだ。
「ん?…シン?ねえ、愛りん、今名前じゃなくて愛称で呼んだでしょっ!」
「どう言う関係なの〜?私たちは初対面なんだけど!」
助けてくれたのはいいが今度は、女生徒達の矛先愛莉に向いてしまった。
「私だって今朝くるときのバスであっただけだよ、とにかく次の授業は担任じゃないんだからさっさと座りなさい!チャイムもう鳴ったでしょ」
「「「は〜い」」」
そう愛莉が一括すると女子生徒は散り散りに自分の席へ戻って行った。側から見れば本当に孤児院みたいだが、きっと愛莉はこのクラスの代表的存在なのだろう。
俺の席は愛莉と友達になっていたこともあり、担任の配慮で彼女の隣になった。なぜ今まで空席だったのかはわからないが男子生徒からは少々睨まれた。そして授業が始まった。
その授業は数学だったが一通り説明を聞いたところ、この程度であれば習得済みなので適当に終わらせて教材の後方に乗っている自分が未習得で、興味がある分野について読み込んでいると隣から話しかけられた。