シュリナの正体と残された願い
俺は、もう一度写真を見る。
そこに写っているのは、赤ちゃんを抱えている女性と男性だ。
ぱっと見ると幸せそうだが、よく見ると一つ違和感がある。
それは男性の瞳が赤くなっていることだ。
この世界の人族の瞳の色は青だ。
これは魔族も変わらないが一つ違いがある。
魔族は気持ちが高まると瞳の色が青から赤に変わるのだ。
これは魔族体質と、魔力が互いに反応しているらしい。
俺がこの男性が魔族だとわかったのはこのおかげだ。
この事は、人族に知られておらず魔族のみが知っている情報だ。
俺は写真から目を離しもう一度、フィアの顔を見た。
フィアはいまだに気持ちよさそうに寝息を立てて寝ていた。
俺は起こさないようにゆっくりと部屋を出て静かに扉を閉じた。
食堂に戻ると子どもたちはいなく、シュリナだけが椅子に座っていた。
「子供たちはもう寝ましたよ。どうぞ座ってください。」
シュリナはいうと座るように勧めてきた。
俺はそれに従いシュリナの向かい側の席に座る。
するとシュリナは立ち上がりキッチンから水の入ったコップを2つ持ってきて片方を俺の前に置いた。
俺はそれを飲むと、シュリナの方を見る。
シュリナもこちらを見ていた。
「まず確認だが、シュリナ君は人族と魔族のハーフだろ」
俺が聞くとシュリナは、頷いた。
【やっぱりそうか、最初に会ったときに見た目は人だが魔力の感じが魔族だったからな。】
俺がそう考えていると、シュリナの口が動いた。
「カリュさんは何で私の正体がわかったんですか?」
シュリナが聞いてくる。
確かに、魔族の知識と魔力を感じる事が出来なければ普通は気づかないだろ。
おそらく、シュリナも俺の正体には薄々気づいているだろ。
ここは、変に誤魔化すよりか素直に言った方がいいな。
「それは俺は魔族で、魔力を感じる事が出来るからだ」
「やっぱり、そうでしたか」
俺が答えると、シュリナ涙を流しながら言った。
さすがの俺も、いきなり涙を流されると焦る。
「どうしたんだ?」
俺はなるべく冷静に聞いてみた。
「いえ、やっと会いたい人に会えたと思うと嬉しくて。
すみません、少しお待ちください」
シュリナはそう答えると席を立って部屋を出た。
「会いたかった人って、魔族にか?そんな可能性が低いことが叶ったのが嬉しいのは分かるが泣くほどか?」
俺がそんなことを考えているとシュリナが部屋に戻ってきた。
シュリナの手には、封が破られた手紙があった。
シュリナはそれを俺の前に置くと再び目の前の席に座った。
「これは?」
俺はシュリナにこの手紙のことを聞く。
「これは、父が任務先で私に宛に送った手紙です。内容を読んでみてください」
シュリナは目を伏せて答えた。
俺は手紙を手に取ると、内容を読む
シュリナへ
この手紙が届いているということは私はもうこの世にいないだろ。
悲しむなというのは無理な事だと思うが一応言っておく、悲しまないでくれ。
そして、この手紙を読んだ後にお前の正体に気づいたものがいたら、その人にこの手紙を読ませてくれ。
きっと、そいつも魔族だ。お前も知っての通り俺達の招待に気づけるものがいたとしたら魔族しかいない。
このような内容で、お前には迷惑を掛けることを悪いと思っている。
さて、この手紙を渡されたものよ。君が善の魔族で有ることを願ってこの手紙を書いている。
私はいま、魔族が暴れているという村に行き、魔族の討伐の任についている。同じ魔族が人族に迷惑を掛ける何で私たちの恥だと思い私は志願した。
しかし、志願した理由は他にもある。
それは目撃された魔族の姿が、禍々しく化け物だったと。
そして、それが何十人もいて村を襲ったと聴いたからだ。
確かに、魔族のあの魔法を使えば禍々しくはなるが集団では行動出来ない。しかも、明確な意思を持ちながら襲ったと言うことだ。
読んでいる者もおかしいと思うだろ。だから私はこの任務に向かった。
そして調査を行っていると、とある文献を見つけた。
それは悪魔族についての文献だ。それを解読していくと例の魔族の特徴と全てが一致した。奴らは悪魔族だ。
しかも、世界を滅ぼす力があるとかかれている。
しかし、人族はあいつらを魔族だと思っている。
私がこの文献のことを話しても、誰も信じようとしない。この文献のことも魔族の事だと思っている。
私が無事に戻ったら一度、魔族の土地に戻り報告しようと思うのだが、この手紙を読んでいると言うことは私は戻らなかったのだろう。
これを読んでいると者よ、頼みがあるこの事を魔王様へ伝えてくれ。
今の人族では悪魔族に太刀打ちが出来ん。
魔族でも勝てるかは分からないが、今可能性があるのは魔族だけだ。
だから、頼むこの事を魔王様に伝えて世界を救ってくれ。
最後にシュリナ、こんな身勝手な父を許してくれ。
しかしこれだけは信じてくれ、どんなときもお前を愛している。
例え、魂のみとなってもお前を見守っている。
だから強く優しく生きてくれ。
手紙を読み終えた俺は何も言葉が出なかった、シュリナのこともそうだが悪魔族が復活しているとは思わなかった。
手紙が目を話をシュリナを見ると、涙を流していた。
「どうか、お父さんのお願いを聞いてください。私に出来ることなら何でもします。最後の願いを叶えてください。」
シュリナ泣きながら言うと頭を机に付けるように頭を下げた。
「悪いがその願いは叶えられそうにない。なぜなら俺は召喚された身だ。戻り方が分からん」
空間魔法を使えば帰れないことも無いが情報が少なすぎる。
シュリナは俺の答えを聞くと頭を上げたが下を向いた。
「しかし、ある程度は願いは叶ってるぞ」
俺が言うと、シュリナは顔を上げたが何を言っているかわかっていないようだ。
それもそうか、俺のの正体を明かしていなかったな。
俺は立ち上がるとシュリナの方を向く。
「改めて、俺の名はカリュスト・ドラジウム。魔王の息子であり次期魔王だ。」
俺が言うと、シュリナはポカーンとしていた。
そりゃそうか、魔族に会えたと思ったらその正体が俺だもんな。
俺は、シュリナに手をさしのべた。
シュリナは一度俺の手を見た後再び俺の顔を見る。
「シュリナの父の願い俺が叶えてやる。」
俺が言うと、シュリナの顔は明るくなった
しかし、その瞳からは涙がまだ流れている。
ちなみに、さっき俺が叶えられないと言ったのは魔王ではなく次期魔王の俺が受けるからだ。
シュリナが俺が差し出した手を両手で握った。
「よろしくお願いします。お父さんの願いを叶えてください。」
シュリナは言うと、小さく声を出して泣き始めた。
「泣いていいぞ、良く今まで我慢して頑張ってくれたな。こちらこそ礼を言う。お前の父がこれを残してくれなかったら大変なことになったいた。だから、ありがとう、」
俺はシュリナの頭を空いている方の手でシュリナの頭を撫でた。
それにしても、悪魔族か、面白いけど厄介な事になったな。
しょうがね、連絡するか。
俺はシュリナの頭を撫でながら考えた。