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体長15cm、異世界にて恋願う  作者: 愛♡KEMONO
シルバー・エンカウント編
9/60

09 ギルドマスター

ブクマありがとうございます!

 ゴッ.....

 鈍い音がオレの頭に響いた。

 床に頭を打ち付けたのだ。

 

「いてぇ....」


 オレは頭をさすりながら自分の居場所を確認した。

 洞窟....じゃないよな.....。

 見慣れた街の大通りだ。

 朝日は未だ見えないが、だんだん明るくなり始めている。

 ゴブリンキングと遭遇して、洞窟に逃げ込んだ時の夢を見ていた。

 常に警戒しながら、洞窟の入り口を見続けるのは精神的にきつかった。

 一回見つかって戦闘になった時は、マジで死ぬかと思った....死ななかったけど。


「キュー.....キュー.....」


 キューが寝息を立ててる。

 .....かわいいな.....。


 ツンツン......

 ほっぺをつつくと、嫌そうな顔をする......かわいい。

 なんだろう......変な気持ちになってくる....。

 なんて言うんだっけ......ああ.....独占欲ってこんな感情かもしれない。


 今のオレは戦えねぇ.....普通なら、金を借りるのが一番良い手かもしれない。

 けど、こいつは『オレが』貰う(買う)

 なんか金を借りると、こいつを貸せとかって言われそうだ。

 そいつは困るなぁ......嫌だから。

 

「今日中に身体を治せば良い......」


 オレは単純でわかりやすい答えを見つけた。

 おつむ()わりぃ(悪い)オレでも理解できる。

 そう言ってオレは立ち上がり、寝ているキューの頭を撫でてから、おととい寝た路地裏に向かって歩き始めた。

 



***************************




「キュッキュ……キュキュ!」

(ほっぺを......つつかないでください!)


 僕はそう言いながら目を覚ました。

 けど、ほっぺはつつかれてなく、頭には優しい感覚が残っている。


『あの人』は.....いなくなっちゃったか......。

 僕は将来のご主人様(仮)の姿がないことを確認した。

 きっとどこかで体を休めているのだろう......戦闘なんて....してないよね?

 今すぐ街を探し回りたいところだけど、枷があるしなぁ......それに体調も最悪で、超しんどいって感じだ。

 

 ......僕にできることなんて......何もないのか.....?

 僕は自分にできることを考え続けた。

 けど、結局何も思い浮かばなかった。

 次第に空腹を理由に考えるのを止め始めて、そんな自分に気づいて、自分が嫌いになった。

 もう......わけがわからないよ!!

 

 何か......したい......。

 ここ最近で、僕は自分の無力さを嫌という程思い知った。

 何かできないのか?

 僕が自問すると、

 何もできない。

 絶対にその答えが返ってくる。

 せいぜい出来ることは、空腹で死なないように動かないでいることだけだ。

 

 僕がゴブリンに食べられる日は、もう明日だ......。

 昨日も、おとといも『明日』のことを何度も考えた。

 そして、おそらく今日中に、あと100回は同じことを考えるだろう。

 

『あの人』の表情からして、余裕なさそうだ。

『あの人』は結構危なっかしいところがあるようだ。

 .....それを僕のためにしてくれる。

 嬉しい.....嬉しいけど、ちょっと嫌だ。

 無理はしないでほしいなぁ.....。


 そう思った瞬間、僕のすることは一つに決まった。

 無信教を貫いてきた僕が、神を信じて祈ってみようと考えたのだ。

 そうでもしてなくちゃ......僕の気が持ちそうもない。

 

 どうか『あの人』が、これ以上怪我しませんように.......。

 僕は、ひたすらにそう願い始めた。




*****************************




「うぅ〜ん......治ってねぇ......」


 オレは朝日を浴びながら言った。

 昨日はほとんど一日中動かずに過ごした。

 傷を少しでも治すためだ.......決してだらけていたわけではない。

 おかげで右腕と右足だけは、かなり痛みが引いた。

 とは言っても、左腕は動かないし、全身痛いし.......失敗だったが。


 今思い返せば、物の配達クエストでも受ければよかったと思う。

 怪我があってもそんぐらいなら出来る。

 やっぱりオレは頭悪りぃな.....。


 今日中に銅貨57枚集めなくちゃいけない。

 ゴブリンの弓を売ったら銅貨1枚だった。

 オレにそれ以外売れるようなものはない。

 

 もし......金を集められなかったら......キューが.....

 それだけは避けなくちゃいけねぇな.....。


「ギルマスに会いに行こう.......」


 オレは冒険者ギルドに向かって歩き出した。


 それは、自分の言葉を取り消す行為だ。

 例えそれが、かっこ悪いことだったとしても......キューの命とは比べもんにならねぇ。



=========================



「......よう.....久しぶりだな、リーシャ」


 オレはリーシャに挨拶をした。

 ゴブリンキングの一件でものすごく時間が空いたような気がする。

 挨拶されたリーシャはというと......またカウンターに突っ伏して寝てやがる.......。


「....ベルさんは.....死んだぁ〜........えヘへぇ〜......」


 こいつ!?.......なんて縁起でもねぇ夢見てんだよ!!

 .......しかも笑いながら。


 オレはモーニングパンチをしようとしたが、


「クッ!!」


 右腕に力を込めた瞬間、激痛でうめき声をあげてしまった。


「.....ん?.....ベルさん?

 もう....ひさしぶりってぇえ!?どんだけ怪我してるんですか!!」


「うるせぇ.....耳もおかしくなってんだから、あんまり大声は出すな....」


 ゴブリンに耳を殴られた時におかしくなった。

 顔殴られたとき......痛かったなぁ.....。


「す、すみません.....で?まさかと思いますが、ゴブリンのクエストを受けるとかって言いませんよね?」


 リーシャが肯定の言葉を待ちわびるように聞いてきた。


「ああ.....今回ばかりは無理だ......ギルマスはいるか?」


 オレが歯を食いしばりながら言うと、リーシャは安心した表情になり、


「はい、いますよ。今から呼んできます」


 それだけ言って、早足で二階に登って行った。


 オレは自分の気持ちがわからなくなった。

 ギルマスは腹黒で、意地悪で、胡散(うさん)臭い奴だが信用はできる......と思う。

 金を借りるのも初めてじゃねぇ。

 前に剣が買えないことを憂いて、ギルドで暴れまわった時、金を貸してくれた。

 .......後で返済と雑用三ヶ月を押し付けてきたが。

 

 ギルマスに金を借りることには問題ないはずだ....。

 なのに、なぜかそれが嫌だと言う自分がいる。

 その場しのぎ、甘え、自業自得...............『無能』......。

 あぁ....なんで馬鹿のくせにそんな言葉ばかり覚えちまうんだろうな.....オレは.....。


「やあ、『随分と』久しぶりじゃないか............」


 なぜか少し怒ってる感じのギルマスが降りてきた。




********************************




「やあ、『随分と』久しぶりじゃないか............」


 俺は愛嬌たっぷりに挨拶した。

 目の前にいる冒険者ことベルは......傷だらけだ.....。


 まったく.....どうして君はそうも意地っ張りなんだろうか.....。

 俺は心底そう思った。

 俺が『ギルマス』をやってもう4年とちょっとになるが、ゴブリン退治にそこまでボロボロになるやつは見たことない。

 ......『キュー』とかいう幻獣のためか?


「ベル君......俺は言ったはずだ、無茶はするなって」

 

 俺は少し強めの口調でベルに言った。

 彼女は、左腕がだら〜んってなっていて、右足も本調子ではなさそうだ......立っているのも辛いってやつだ。


「いや、すまねぇ.....ゴブリンキングが出たんだ.....」


 ゴブリンキングか......確かに狡猾なやつだな......おそらく逃げ道をふさがれてどうこうって感じか....。


「逃げるに逃げれなくて......しくじっちまった......」


 .....やっぱりか。

 

「ポーションは持って行ったのかい?.......聞くまでもないな....」


 ベルが無言になった。

 

「ポーションのない状況下で予想外にゴブリンキングと遭遇した.....。

 不幸といえば不幸だけど.....冒険者である以上、そういった事態には常に警戒しておくべきだ」


 冒険者が死ぬ理由で最も多いのは、討伐対象以外のモンスターの乱入だ。

 次に道中の事故だ。

 その次に討伐対象によって殺されることとなっている。

 つまり、冒険者が最も警戒すべきなのは予想外の事態ということになる。

 もう何度も言い聞かせているんだがな.....このバカは言うことを聞いてくれない......。


「.....今回のことで少しは頭を冷やしてくれるって約束するなら、これ以上は何も言わない。

 .....分かったかい?」


「.....あぁ....心配かけた....」


「本当だよ.....こっちがどれだけ心配したと思ってんだよ......」


 俺は小声で言った。


「あん?今なんか言ったか?」


 ベルはどうやら聞き取れなかったらしい.....。

 少し残念だ.....


「.....何も言ってないよ」


 .....もう一度は言ってやらないが。


 何気にベルとは4年くらいの付き合いになる。

 ギルドで暴れまわったり、金かせ酒くれってせがんできたり......ろくなことをしない奴だ。

 固有スキルの関係でDランクから抜け出せないとか騒いでいるが、確実にBランク以上の実力があると思う。

 酔っ払ってフラフラの状態で、単身ゴブリン討伐の成功率が半分以上なんだぞ......頭おかしい。

 挙げ句の果てに、ゴブリン400匹以上を1日で仕留めてきたりしやがった。

 マジで.....マジでもう少し性格がマシだったら、今頃軽くAランクはいってた気がする。

 

「で?金を借りに来たんだって?

 .....高く付くのはわかってるね?」


 俺は悪役スマイルで尋ねた。

 けど、ベルは真剣な眼差しで、


「ああ....図々しいのは承知だ。

 けど.....マジで頼む.....」


 頭を下げてきた。


「はぁ!?......ベル君が....頭を下げてきた!?

 リーシャ、俺は少し寝る。

 どうやら疲れてしまったようだ....。

 そのベル君『もどき』の相手は頼んだよ」


 俺はそう言って二階に上がろうとすると、


「おい、ゴラァ.....ちょっとツラ貸せヤ!オラァ!」


 ベルが不良っぽいことを言ってきた。

 ....もう少し女の子っぽい言葉使いさえすれば、パーティメンバーも集まってくるだろうに.....。

 ....逆に安心もできるけどな。


「それが人にものを頼む態度かい、ベル君?」


「うっ......ツラを貸して.....くださいヤ.....」


 何も変わってなくない?面白いからいいけど。


「わかった、ツラを貸してやろうじゃないか。

 で?いくら欲しい?」


「.....大銅貨5枚だ」


 確か、ゴブリン退治で銅貨42枚稼いでるから....残りの分は集められたってことなのだろうか?

 まあ、集まってなくても、配達クエストとかで集める気なのだろう。

 .....一応釘を刺しておくか。


「今日は討伐クエストは受けるのは禁止だからな」


「ああ、わかってる......」


 すっごく悔しそうな表情だ。

 いつもは金を借りた挙句に、酒に使ってしまう大バカ者がここまで必死になってる。

 幻獣(キュー)は一体何をしたんだ?

 俺だって、結構頑張ってベルの性格をどうにかしようとしたんだぞ......全部失敗したが.....。

 クソッ.....気に入らねぇ.........けど、


「ただし、こいつは例外だ」


 助け舟ぐらいは出してもいい。


「ん?シーフデビル討伐?.....大銅貨5枚!?」


 シーフデビルは小さいくて、物を盗み、盗んだものをどこかに溜め込む癖があるモンスターだ。

 戦闘能力が低く、武器さえあれば楽に倒せる相手だ。

 ベルなら片手でも万に一つも負ける確率はない。

 問題なのは、すばしっこくて見つけにくいことだけだ。


「ああ、最近被害が多発していてね.....君みたいな人にはうってつけのクエストだと思うけどなぁ」


 俺がそういうと、


「ああ.....ああ!ありがとな!ギルマス!」


 いつになく笑顔で礼を言ってきた。

 そして、そのまま走ってギルドを出て行った。

 .....まだクエストの受注が済んでいないのに.....。


「リーシャ、クエストの受注手続きを頼む」


「ふふ....以外とギルマスもいい人ですね」


 リーシャが嬉しそうな表情で言ってきた。

 

「.....クエストの報酬は俺の貯金から下ろしといてくれ」

 

 さっきも言った通り、シーフデビルは弱い。

 10歳の子供でも頑張れば倒せるレベルだ。

 その報酬が大銅貨5枚.......うぅ〜ん....なんで違和感を感じないのかなぁ.....。

 

「俺は仕事に戻る。

 .....君も.....残業はもう少しで終わりってことになるな。

 今後は、もう少し真面目に働いてくれることを祈っておくよ」


「はい.....でも、たまには残業もいいですよね.....お互いに」


 リーシャがゴブリン討伐のクエスト達成書類の束を渡してきた。

 俺はそれを受け取った。


「ああ.....たまにならだけどな」


 まったく.....うちのギルドには本当に困った奴がいるなぁ.....。

 でも、退屈なギルドよりも数百倍マシだな。


 今日も残業しなくちゃならないが、俺はギルマスだ......もう慣れた。

 唯一慣れないことがあるとすれば、ベルが心配なことぐらいだな.....。

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