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体長15cm、異世界にて恋願う  作者: 愛♡KEMONO
シルバー・エンカウント編
8/60

08 闘志

 あぁ.....足に力が入らなくなってきたなぁ.....。

 僕が毛づくろいをしていると、そんなことに気づいた。

 だけど、今の僕にとってはそんなことどうだっていい。

 どうせ今の僕には何もできることはないのだから......。

 最近は体の限界をよく感じるようになってきた。

 ご飯は少ないし、行動範囲は小さいし、お風呂ないし......。

 もうなんにもやる気が出ない......『あの人』を妄想する以外は。

 

「キュキュ…..キュゥ........」

(早く来て…..会いたいよぉ......)


 明後日が僕の『運命の日』だ。

 もう月が輝いていて、今日は終わりを告げようとしている。

 短かったのかな?.....長かったのかな?

 もう少し長い時間があれば、『あの人』は僕に会いに来る時間を作れたのかな?

 .......それとも、もう『あの人』は僕のことを......見捨てているのかな?

 僕が人知れず()きだした。

 すると、銀と『赤色』の女性がフラフラしながら僕の目の前に現れた。


「キュキュー!!」

(大丈夫ですか!!)


 僕は驚きのあまり声を張り上げた。

 その声には、どことなく悲しみが混じっていた。

 

 その人は、僕が会いたいとずっと思っていた人だ。

 けど、その『姿』は見たくなかったのだ......。




********************************




「キュキュー!!」

(大丈夫ですか!!)


 キューの声が聞こえた。

 .......しまった。

 オレはいつも行きつけの酒場を経由した道を通るから、この道は通らない。

 でも今回はギルドへ直行するため、この道を通ってしまった。

 

「.....よう.....元気....じゃなさそうだな........お互い様にな」


 オレは笑顔を必死でつくりながらキューに近づいた。

 以前にも増して、キューは痩せている。

 しかも、どうやらさっきまで泣いてたようだ.....目に跡ができてる。


「キュキュー!?キュ.....キュキュッキュー!?」

(どうしたんですか!?その傷......モンスターにやられたんですか!?)


 僕は必死に心配の声を出した。

 駆け寄ろうともしたが、(かせ)が邪魔で動けない。

 

「なんだ?心配してくれんのか?.....ありがとよ。

 だが、心配はいらねぇよ....こうしてピンピンしてる」


 オレはそう言って、右腕を上げようとしたが、


「イテッ!!」


 激痛でほとんど動かせなかった。


「キュキュッ!?」

(大丈夫!?)


 僕は絶望的な気持ちになった。

 僕のせいでこの人は傷ついた。

 .....きっとこの人も僕を嫌いになる......フリークみたいに......。


 ゴブリンの餌にしてやる!!

 フリークの怒声が聞こえたきがする。

 この人.....この人に『だけ』は、あんなこと言われたくないよぉ......。


「おい.....泣くなよ.....大丈夫だって言ってるだろ.....」


 オレは、泣き出したキューの頭を撫でた。

 余計に泣き出した......困ったなぁ......。

 キューがオレの手にしがみついきながら、オレの目をまっすぐ見てきた。


「キュ.....キュキュ.....キュキュー......」

(もう.....いいです......僕のことは忘れてください.....)


 それは僕にとって最悪の決断だ。

 未だにフリークは僕に鋭い視線を向けてくる。

 間違いなく有言実行(僕をゴブリンの餌に)するだろう。

 でも、僕は僕を撫でてくれた人に傷ついてほしくない!!


 ガブッ......

 僕はこの人の手に噛み付いた。


「いてぇ.....何すんだよ......」


 オレは低い声を出した。

 キューがいきなり噛み付いてきのだ。

 .......よくわからん。

 こいつはモンスターだ。

 たとえ人間の言葉を理解していたとしても、こっちが理解できないこともするだろう。

 でも、『泣きながら』オレを噛む理由は『さっぱり』わからん。

 だから、

 

「よくわかんねぇけど......すまん.....」


 オレはキューの頭を撫でてやった。


「キュキュッキュ.......キュキュ.....キュ.....」

(そうじゃないんです......僕のせいで.....傷ついて.....)


 僕は噛むのをやめて、牙の跡がついたところを舐めた。

 血と土の味がした......苦い......。


「....その....実はな.....ちょっとしくじっちまってな......。

 あれだけ偉そうなこと言ったのに.....もう剣も持てねぇ........まったく.....かっこ悪いな、オレは......」


 オレは崩れるようにキューの前に座った。

 全身が悲鳴をあげてるのが聞こえる。

 左腕はバッキバキに骨折。右足はあんまり動かない。右腕はギリギリ動かせる。脇腹には小さな穴が空いている....一応止血したが。

 その他にも切り傷、打撲が全身にある。

 めまいがするし、空腹で死にそうだし....意識が....もう....なくなりそうだ。


 オレがふらふらしてると、キューがオレの右手を持ち上げようとしてきた。

 力足りてねぇ......指三本持ち上げるくらいが限界らしい.......。

 弱っ!!本当にこいつが幻獣なのか!?


「クク.....お前って本当に弱っちぃんだな」


 オレは笑いながら言った。


「キュキュ!キュ・キュ・キュ・キュ・キュ!!」

(僕は弱くない!ち・か・ら・も・ち!!)


 僕は精一杯力を出したが、手はびくともしなかった。

 けど、笑わせられたからオッケーだ。

 

「ちょっと愚痴聞いてくれよ…….実はな…..ゴブリンキングと会ったんだよ......」


 オレは崩れるように座り、キューに話しかけた。

 それからキューに色々話した......忌々しいゴブリンどものことを思い出しながら.....。




***************************************




「クソ.....いてぇな......」


 オレは暗い洞窟の中で、息を荒くしながら言った。

 腹に刺さった矢を抜いたのだ。

 矢とは言っても、木の枝を尖らせただけのものだ。

 そこまで深くは刺さってなかったが、表面がトゲトゲしていて、抜く時クソ痛かった。

 矢を抜いた後、すぐにズボンの裾を破き、脇腹に巻きつけて包帯代わりにした。

 これで少しはマシだろ.....たぶん.....。


 ゴブリンキングの群れと遭遇した後、なんとか目をくらまして洞窟に逃げ込んだのだ。

 時刻は......お昼の時間はもうとっくに過ぎたって頃だ。

 まだ日は高いにもかかわらず、この洞窟は薄暗くてジメジメしている。

 ここに来てから数時間が経つ。

 そろそろ洞窟を出て街に帰り始めてもいい時間だろう。

 オレがそう思って立ち上がると、


「ギャギャッ!!」


 剣を持ったゴブリンが洞窟の出口に現れた。

 しかも、どうやらオレに気付いちまったようだ.....。


 ダッ!

 オレは地面を蹴り、ゴブリンに向かって走った。

 普段の半分くらいの速度だが、ゴブリンよりは早く動ける。


「オラァッ!!」


 オレは剣を叩きつけたが、避けられてしまった。

 しかも、


「グンッ!!」


 剣を左腕に食らってしまった。

 オレは変な声を出しながら吹き飛んだ。

 そして地面を転がり、木にぶつかって静止した。

 あぁ.....左腕.....もう治んねぇかもしれねぇな.....まったく動かせねぇよ.....まあ、斬り落とされなかっただけマシか.....。

 オレは冷や汗を流しながら、そんなことを考えた。

 だけど.....やられたら、やり返すってのがオレの『ぽりしー』なんだゼ!


 オレは起き上がりながら、剣を投げつけた。

 ゴブリンはそれを回避しながら接近してきた。

 距離は......2メータル!!

 シュッ......


「グギャアアッ!!」


 ゴブリンの額にナイフが刺さった。

 もちろんオレが投げた。

 オレはゴブリンの持っていた剣を奪い、顔面に叩きつけた。

 .....すごくグロいことになってる。


「ギャギャッ!!」


 さらにゴブリンが4匹ほど接近してきた。

 弓が2、槍が1、棍棒が1か......厄介だな...。

 ここで逃げ出せば、後ろから弓で撃たれることになる。

 最悪の場合.....死ぬ.....。

 なら、弓持ちだけは殺さないといけねぇな.....。


 オレは自分の剣を拾い、ナイフを捨てた。

 片手しか使えねぇんだから仕方ない.....。

 

「ギャギャァ!!」「ギャッ!!」


 棍棒持ちと槍持ちが接近してきた。

 弓持ちはいつでも矢を放てる構えだ。

 だから、オレは『わざと』フラフラし、今にも転びそうだって感じを全身に醸し出した。

 すぐさま風切り音とともに矢が飛んできた。

 オレはニヤリと笑いながらそれを回避し、弓持ちの方へ走り始めた。

 弓持ちが悔しそうな表情をしている.....ザマァねェゼ....。


 走るオレに槍持ちが突きをしてきた。

 オレは剣の腹でそれを受け流し、剣で槍持ちを袈裟懸けに斬った。

 槍持ちが悲鳴を上げて倒れた。

 まず1匹......オレがそう考えた瞬間、


「うぐっ!!」


 右足に激痛が走った。

 反射的に後ろに剣を振ると、そこには棍棒をオレの足に叩きつけたゴブリンの顔面があった。


 ゴキィィッ!!

 骨を砕く音ともに、そのゴブリンの顔が弾けた。


「マジ....か....はぁ.....はぁ.....」


 オレは両膝をついた。

 激痛で体が言うことを聞いてくれないのだ。

 ......右手まで震えてやがる。

 今すぐ.....弓持ちを.....倒さないといけねぇのに......。

 オレの目には弓を放つ準備の整った2匹のゴブリンが映っている。

 オレを睨みつけている.....。

 仲間が殺されたら辛いのは.....全種族共通なのか.....。


 オレは目をつぶった。

 よくやった方だと思う......ゴブリンを1日で400匹以上倒したし.....銅貨42枚稼いだし......。

 何のためにこんなことしてんだっけ?


 キュー!!

 あのかわいい鳴き声が、また聞こえた気がする。

 死ねない.....オレが死んだら.....あいつまで死んじまう.....。

 死ねない.....あいつ(キュー)が欲しい.....だから......こいつらを......殺す!


 シュッ!

 矢が放たれた音が聞こえた。

 オレは即座に体を傾けて回避した。

 そのまま立ち上がり、右足を引きずりながら、ゴブリンに走り寄った。

 そして、


「グギャアアッ!!」


 その首に噛み付いた。

 ゴブリンが叫びながらオレの頭を殴ってきたが、それを無視して、麻痺した右腕で無理やり剣を持ち、腹に突き刺してやった。

 

「ギャアァァァアッ!!」


 ゴブリンが激しく暴れてきたが、だんだん動きが鈍くなり、やがて動かなくなった。

 耳がガンガン痛い......たぶん耳がおかしくなってる......。

 

 シュッ!

 さっきまで呆然としていたゴブリンが矢を放った。

 それをゴブリンの亡骸を盾にして防ぎ、


「ペッ.....うまくなぇな.....」


 ゴブリンの首肉の味を言葉にし、再び走り始めた。

 あっという間にゴブリンに接近し、剣を胸に突き刺した。

 

「ガッ!.....グギャ......」


 ゴブリンが絶命した。

 それを確認してから、剣を抜いた。

 血が剣、服、手、顔、髪......オレのいたるところにこびりついている。


「......疲れた...」


 オレは仰向けに倒れた。

 それ以外の言葉が出てこない。

 もう.....ここで眠ってしまいたい.......。

 けど、それは許されなかった......何かの足音が、地面を伝わってきたのだ。

 慌てて木の裏に隠れて、息を殺した。

 すると、ゴブリンキングの姿が見えた。


「グウゥ.....」


 ゴブリンキングが広がる惨状を見て、うなった。

 そして、しばらく間を置いた後に、来た道を引き返していった。


 .....助かった.....よな....?

 オレはしばらくその場を動かずに隠れていた。

 .......一向にゴブリン達が帰ってくる気配はない。

 オレは急いでゴブリンの棍棒と弓を回収して、帰路についた。

 本当は耳とかを切り取っておきたかったが、ゴブリンキングが帰ってくるかもしれないから、仕方なく無視した。

 

 帰りの道のりもきつかった。

 徒歩2時間の道が5時間ぐらいかかった。

 傷が痛くなって休憩したり、右足が動かなくなったり.....まあ、いろいろあった。

 右足はなんとか歩ける程度の怪我だったからよかった.....。

 



*************************************




「どうだ?すごいだろ?」


 オレは自分の武勇伝の感想をキューに尋ねた。

 オレが話している間、キューはうんうんって頷いたり、オレの傷を舐めたり、頬ずりしてきたり.....とにかく忙しそうにしてた。

 リアクションがいちいち可愛かった。


「キュキュー!」

(最高です!)


 僕は元気に言った。

 さりげなく僕のことを思い出してがんばれた、なんて言ってくるのって.....ずるくない?

 .....できれば、もっと安全に頑張ってほしいけど......嬉しい。


「....そうか....そいつはよかったゼ.....」


 どうやらキューからは好評価をもらえたっぽいから、ひとまず礼を言っておいた。

 それだけ言うと......オレの意識が.....なくなってきた......。

 オレが完全に意識を失うまで、キューがオレのほおにほっぺスリスリしているのを感じた。

 .......気持ち......良かった.......。

キューの『運命の日』までの日数の『表記』を変更しました。

四日後→三日後(5話、4話)

その日(今日)もカウントしていました。

申し訳ないです!

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