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体長15cm、異世界にて恋願う  作者: 愛♡KEMONO
シルバー・エンカウント編
5/60

05 オレ

「あ゛ぁ〜....クソッ......あの野郎......死ねばいいのに......」


 とんでもない悪態をつき、酒を飲みながら、街の大通りを歩く男......のような女がいる。

 銀髪でオールバックにしたあとに、寝癖をつけたのかのような髪型をしている。

 服は冒険者の標準装備で、全体的に茶色っぽい色の服にポーチがいっぱいついているものを着ている。

 腰には誰もが安っぽいと思うようなボロい剣とナイフを下げている。

 そして酒臭い。

 すれ違う人々が三歩下がるような強烈な酒臭さだ。

 こんな見た目だが、忘れないでほしい.....この人は女性だ。


「.....はぁ....あのクソ槍使いがいなければ、楽勝だったのに....」


 この女性は、みんなから『ベル』と呼ばれている。

 本名ではないらしいが、冒険者はそんなこと気にしないものなのだ。

 そしてさっきからクソクソ言われているのは、ゴブリンだ。

 ベルは現在、ゴブリン退治のクエストを途中で断念して帰ってきたところなのである。

 その原因となったゴブリンに対して悪態をついているのだろう。


「.....まあ....今日の酒代はあるからぁ.....問題ないな.....」


 ちなみに現在ベルは、酔っている。

 クエスト失敗と判断し、帰り道で手持ちの酒を飲みながら帰ってきたのだ。

 でなければ、こんな大通りで独り言を言って歩いたりしない。


 しばらく歩き続けると、目的地の冒険者ギルドにたどり着いた。

 クエストの失敗報告をしなくてはいけないのだ。

 扉を開けて中に入ると、


「あ!アネゴォ〜、どうです?ゴブリンをぶちのめせましたか?」


 ベルと同じくらいの歳に見える少年が明るく話しかけてきた。

 ちなみにベルの歳は19歳だ。そして独身だ。

 19歳独身というのは、こっちの世界では結婚が遅れ気味と認識される。

 まあ、冒険者と言う職業柄ゆえに、女性は晩婚化が進んだりしているのも事実ではある。

 ......ただ.....ベルの場合、それだけが理由ではないのだが.....。


「あ゛ぁん?今そのことを、忘れようとして酒をぉ.....飲みに来たんだよぉ!」


 ベルは八つ当たり気味に返事した。


「もうすでに飲んでるじゃないですか......。

 ていうかまた失敗したんですか?.....もうお金ないんじゃ.....?」


 ベルは基本的に、ゴブリンとか弱いモンスターと戦うクエストを好んで受けている。

 しかし、ゴブリン退治の成功確率はおよそ二分の一なのだ。

 そして現在スランプ中で、三回連続ゴブリン退治に失敗している。

 ゆえにベルの所持金はお酒一杯分しかないのであるが、


「.....酒が飲めれば問題無し.....」


 ベルはこういう考え方の人間なのだ。

 しかも有言実行派だ。


「まったく.....今回はお金貸しませんからね!!」


 この少年、ウルクは、以前に一文無しになったベルにお金を貸したが、ベルはそれも酒に使い、結局帰ってきたのは一ヶ月後になった。

 これ以降、ウルクはベルにお金を貸さないことを決心したのだ


「.....オレは.....酒を一杯一杯味わって飲む派だ.....」


 ベルが渋い表情で言った。


「はい....一杯しか飲めないですからね.....」


 ウルクが慈愛に満ちた笑顔でそう言った。


「.....お金貸して.....」


「....絶対嫌です」


 ベルのお金がなくなると、いつもこんなやりとりをしている。


「チッ.....使えねぇ...」


「自業自得っすよ....おっと、そろそろパーティが出発するそうなので、失礼しまっす!」


 そう言ってウルクは、三人の男の方へ向かっていった。

 彼のパーティだ。

 ランクはBランクだが、もうすぐAランクに上がれるそうだ。

 一方ベルは、パーティメンバーはいなし、Dランクだ。

 酒癖の悪さで、いろいろとトラブルを起こしたが故に、パーティを組む人がいなくなったのだ。


「.....はぁ〜.....」


 ベルは深いため息を吐いた。

 さすがに酒だけでは人間生きていけない。

 ここは酒を我慢して飯を.......


 そう考えているベルの横を、酒の入った木製のジョッキを持った店員(女)が通り過ぎた。


「すんませぇ〜ん!!こっちにも酒を一杯くださ〜い!!」


 ベルは考えるのをやめた.....。



ー次の日の朝ー


「.....ひもじい......」


 結局オレは、酒しか飲んでいない。

 ......空腹だ。腹減った。超ひもじい。

 そして仕方がないから、そこらへんに生えてた草をくわえて気を紛らわしている。

 しかも酒臭さがさらに増して、もうそろそろレディのボーダーを越えそうになっている。


 どこかに銀貨でも落ちてないかなぁ〜....。

 そんなことを考えながら歩いていると、


「キュー!!キュー!!キュッキュー!!」


 甲高い鳴き声が聞こえてきた。

 モンスター売りの方だ。

 気まぐれでちょっと寄ってみた......お金ないけど.....。

 そこには金と銀色の尻尾を持つ、狐のモンスターがいた。


「キュー!!」


 なんかオレの方を見て叫んでいる気がする....。

 多分気のせいだけど、少し見てみる気になった。


「なんだぁ?.....おい、お前.....この字.....なんて読むんだ?」


 オレは狐のモンスターに、板に書いてある文字の読み方を訪ねた。

 オレは字があんまり読めない。

 一時期習ってたが.....習得する気が起きなかったから、ある程度必要なものを覚えて、あとは全部忘れた。

 .....だからってモンスターに聞くのはおかしいか......まだ酔いが残ってんのか?

 オレがそんなことを考えていると、


「キュー!!キュッキュー!!」


 モンスターは皿を指差し、擦るようなモーションをした。


「ん?.....皿洗い....ってことか?」


 俺がそういうと、


「キュキュー!!」


 元気よく頷いた。


「おいおい.....うそだろ?

 .....モンスターが言葉を理解してるのか?」


「キュッキュー!!」


 また頷いた。


 オレは驚いていた。

 モンスターで言葉を話せるやつがいるのは知ってる。

 けどそれは、伝説のドラゴンとか、大精霊の一種とかってレベルのやつだ。

 こいつは話せはしないが、理解はしてるらしいし、文字も読めるらしい。

 .....もう少し試してみるか.......


「おい....右手を上げろ」


 すると、首を傾げたのち、右手を上げた。


「.....そのままジャンプしろ」


 ピョン.....スタッ......。

 右手を上げたままジャンプして着地した。

 ......本物だ!!


「....お前....喋れないのか?」


 モンスターは首を横に振った。

 ん?喋れないを否定したのか?それとも喋れるを否定したのか?


「....喋れるのか?」


 オレが聞き返すと、同じように首を横に振った。

 やっぱり喋れないらしい。


「キュッキュー!!」


 突然、さっきの木の板をペシペシと叩き始めた。

 そこには、


|ーーーーーーーーーーーーーーー|

| きゅーちゃんです。オスです。|

| 特技は皿洗いです。     |

| 値段は銀貨1枚です。     |

| 誰か買ってください。    |

|ーーーーーーーーーーーーーーー|


 と書いてあった。


「キューちゃん......皿洗い.....銀貨1枚!?」


 ただでさえ金のないベルにとって、銀貨1枚は高すぎた。

 おそらくオレの五ヶ月.....いや半年分の収入全てと同じくらいの値段だ。

 ゴブリン1匹が大鉄貨5枚ぐらいだから......こいつはその数百倍ぐらい(?)の値段がするってことだ。

 貴族のペットか?


「うっわ.....こいつはオレには身が重い.....。

 というわけだから、いい飼い主見つけろよ....じゃあ......な?」


 オレがそれだけ言って立ち去ろうとすると、左手の指を必死でつかんできた。

 泣いてる.....。

 しかも震えてる.....。


「キュキュー......」


 悲しそうな表情してやがる......。

 試しにオレはそのモンスター、キューちゃんの体を触ってみた。

 ふかふかで肌触りのいい毛皮だ。

 だけど、肉がない。明らかに痩せすぎだ。

 普通、テイムしてないモンスターを触るのは危険で避けるべき行為なのだが、オレはそんなことお構いなしに、キューちゃんの頭を指で撫でた。

 気持ちよさそうな顔してやがる......。


「おい.....お前のステータス.....見せてもらうぞ......」


 オレはそう言って、水晶に手をかざした

 こうして魔力を少し流すことで、その水晶に封じられてるモンスターのステータスを見ることができるのだ。


「キュキュゥ.......」


 気まずそうな雰囲気を出してる。

 大方ステータスが低いとかそんなことだろう。

 まあ、見てみないことにはわからない。

 オレは水晶に魔力を少し流した。

 すると、水晶が光り出し、水晶内に文字が浮かんだ。


 名称  不明

 Lv   1

 Hp   5

 Mp  100

 攻撃  3

 防御  4

 素早さ 19

 魔力  5


 テイムコスト 13


「おう......なかなかに酷いな......特に攻撃が酷いことになってるな.......」


 オレがそう言いながら、キューちゃんの方を振り返ると、すっごくびっくりした顔になっていた。

 あぁ〜....そういうことか......。

 オレは言いたいことを察した。


「テイムコストが『上がってること』が気がかりなんだろ?

 安心しろ....これはオレのスキルの影響だ......ほれ.....」


 オレはモンスターに自分のステータスが書かれた板を見せた。

 俗に言うステータスプレートである。

 正式名称は......なんだっけ?

 まあ、そこに書いてあるのは、


 ベル

 純人類

 Lv   21

 Hp   43

 Mp   18

 攻撃  45

 防御  46

 素早さ 52

 魔力  13


 キャパシティ 15

 スキル 剣技(小)、体術(小)、スタミナ上昇(小)


 固有スキル 幻獣テイマー


「....どうだ?なかなかすごいだろ?

 これでも同レベルの奴らの中では、ステータスが飛び抜けて高いんだぞ」


「キューキュッキュー!!」


 キューちゃん......なんか『ちゃん』を付けて呼ぶの.....嫌だな.....。

 キューが、ステータスプレートの『幻獣テイマー』の部分をピシピシ叩いている。


「あぁ〜.....お前のコストが上がったのはそのスキルのせいなんだ.....。

 簡単に言うと、『幻獣』様とやらをテイムするコストを下げて、それ以外のスキルのコストを上げるっていう.....いわばゴミスキルだ......」


 オレは少し目を背けながら言った。

 このスキルのせいで、コスト1のスキルすら習得できなくなったのだ。

 コスト1のスキルでさえ、20コストとかになってしまうのだ。

 ........忌々しい......こいつのせいでオレがどれだけ........ん?


 キューが泣いてる。

 でも悲しそうにではなく、嬉しそうな泣き方だ。


「おい!?.......どうした?

 なんか......なんかあったのか!?」


 全く予想ができなかった。

 オレ.....こんな表情にさせることしたか?

 

 テイムコスト 39

 キューの近くにもう一つの板が置いてあり、その文字が目に入った。

 思い当たることは......ひとつ。


「.....もしかして......お前が『幻獣』なのか!?」


 すると、キューがオレの手に抱きついてきながら、しっかりと頷いた。

 

 今まで幻獣を探したが、そんなものは俺の知る限り、古い歴史書の噂話にあるとか、ないとかって話しか知らない。

 そんなもんのコストを下げるとかっていう、意味不明なのがオレの固有スキルで、しかも他のスキルのコストを上げまくるせいで、15もあるキャパをドブに捨てさせられたのと同じだった。

 正直、憎くて.....憎くて仕方がなかった。

 このスキルさえなければと思った回数なんて、星の数よりも多い。

 だけど、やっと見つけた......しかも目の前にいる......『幻獣』が!!

 オレは久しぶりに興奮していた。

 そんな時に、


「.....まだ店はやってないぞ......」


 唐突に話しかけられた。

 声の方を向くと、中年のおっさんがいた。

 ここの店主だろう。


「あんまりそいつに関わらないほうがいいぞ.......そいつは悪魔だ......」


 店主が憎しみのこもった目でキューを見た。


「.....こいつがなんかしたのか?」


「......そいつは俺の大切なものをめちゃくちゃにしたんだ.......お前も関わればきっと不幸になる」


 店主が確信めいた口調で言った。


「キュゥ......」


 キューが俯きながらオレの掌に隠れた。

 オレの手が水滴10滴分ほど湿った。

 おいおい.....鼻水を擦り付けんなよ.....。


「お前はそうやって、また人を騙すのか!!」


 店主が怒鳴った。

 早朝の静かな朝に、その声は良く響いた。


 オレの掌に小さな『雨』が降った。


 ......こいつ(キュー)の表情......見たことがある.....。

 信じられてないんですぅって感じだ。

 .......昔のオレそっくりだ.....。

 まったく.....そんな表情されたら....

 

「うるせぇ.....黙れ.....」


 オレは低い声でそう言った。

 ....助けてやりたくなっちまうじゃねぇか....。


「......何?」


 店主が意味がわからないと言いたげな表情で言った。

 だからオレは、


こいつ(キュー)はオレが買う.....絶対だ.....」


 店主に宣言した。

 すると、


「......勝手にしろ。

 だがな、こいつは三日後にゴブリンの餌になる!

 せいぜい頑張って金と『キャパ』を揃えるんだな!!」


 店主が絶対に無理だとでも言いたげな口調で言った。

 

「ああ.....必ず揃えて持ってくる......だから.....こいつ(キュー)に酷いことすんじゃねぇぞ!!」


 オレは久しぶりに本気で怒鳴った。


「....わかった」


 店主はそれだけ言って店の中に戻っていった。

 

「キュゥ.....キュッ.....キュゥ.....」


 キューが泣きながらオレの顔を見上げている。


「安心しろ.....オレは、酒に関わる約束以外を破ったことがないんだ」


 ちょっとだけキューが笑ってくれた。

 

「.....三日後、必ず向かいに来る.....それまで絶対に死ぬなよ.....」


 オレはキューの頭を優しく撫でながら言った。


「キュー!!」


 キューは元気よく声を上げた。


「じゃあ、ちょっとお金集めてくる.....じゃあな.....」


 オレは最後にそう言って、冒険者ギルドに歩き始めた。


 銀貨1枚か......急がねぇとな......。

 自然と足取りが速くなった。

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