04 皿の音
ブクマ大感謝です!
「キューちゃん、おはよう!」
僕は地元の子供の一人から挨拶された。
5歳(?)くらいの女の子だ。
「キュッキュー!!」
(おっはよ〜!!)
僕は手を振りながら挨拶した。
「かわいぃ〜!」
少女は僕の類稀なる美貌を褒め称えた。
だから、
「キュッキュウ〜ウ?キュキュ!キュキュゥウ!」
(僕を買ってくれな〜い?銀貨1枚!お買い得だよぉ!)
セールストークをしてみたのだが、
「ママぁ〜、キューちゃんに挨拶されたぁ〜!」
母親の方へ走って行ってしまった。
また失敗かぁ〜.....。
僕が身売りを始めてから、もう一週間が立つ。
最初のうちはなぜ自分が即売り物行きになったのかがわからなかったが、ここ数日でよぉ〜くわかった。
コスト39はバカ高い!
まずコストとは、人族(エルフ、ドワーフも含む)が持つキャパ(正式にはキャパシティ)を削る数値のことだ。
キャパとは、人族が生まれつき与えられているもので、その数分だけコストを支払える。
コストを支払うことによって、スキルや魔法を覚えられる。
もちろんコストの大きいものばっかりを習得すれば、スキルの数は少なくなるが、その分強力なものが手に入りやすい。
すべての人族は固有スキルを持っている。
固有スキルは弱いものが多いが、強いものになると、村一つを消し飛ばすことも可能らしい。
固有スキルの中で『モンスターテイマー』がある。
これは割と多くの人が持つスキルで、冒険者の中では人気のスキルらしい。
この能力は、モンスターを屈服させ、見合ったコストを支払うことで、そのモンスターを自分の配下に加える能力だ。
つまり、モンスター売りは『モンスターテイマー』向けのお店というわけだ。
で、コスト39がどのぐらいの数値かというと......
世界最高ォォォォオオ!!イエェェェェイ!!
実際にそうなのだ。
僕以外のモンスターで最高コストは35。
確か.....『ヘカト・バハムート』とかって名前だった気がする。
百本以上の腕があるドラゴンらしいよ。
で、僕はそんな化け物よりも上のコストなわけです。
人族の平均キャパは6と言われている。
人族最高は38。昔の騎士団長らしい。
10超えれば才能大有りで、20超えれば騎士団クラス以上、30超えたら英雄のように扱われるらしい。
40超えたら?.....知りませ〜んなのだ。
ゆえに僕をテイムする人はいない。
当たり前だ。不可能なのだから。
この世界では、テイムされていないモンスターは完全に『敵』として認識される。
ゆえに僕が使われた『モンスタークリスタル』と呼ばれる水晶に、モンスターを拘束してからテイマーに売買される。
モンスタークリスタルの使用にもいろいろ条件があるらしいが、今のところよくわからない。
ここで、僕のステータスをもう一度紹介しよう。
Lv 1
Hp 5
Mp 100
攻撃 3
防御 4
素早さ 19
魔力 5
スキル なし
こ〜んな感じになっている。
あえて言おう!!カスであるとッ!!
まずHpが5!!そして防御が4!!
ゴブリンに石ころ投げつけられたら死にます!!
次に攻撃が3!!
ゴブリンに傷一つ付けられません!!
次の次にMpが100で魔力が5!!
魔法無しなので意味ありません!!
最後にスキルがない!!
ゴブリンでも攻撃力up(小)ぐらいは持っています!!
唯一の取り柄が素早さがゴブリンと同等にあることだけ.....。
雑魚中の雑魚!!キングオブ無能!!
それは俺様のことじゃアァァァアアッッ!!!
......てな感じ.....。
ああ、もう一個取り柄があった。
この愛くるしい見た目さ.....キリッ.....。
どうして売れないのか?
当たり前だろ!!大切なキャパを、愛くるしいだけの雑魚モンスターに使うわけないだろ!!そもそもコスト39である時点で、誰もテイムできない!!
挙げ句の果てに価格が銀貨1枚!!
結構上等な剣が買える値段じゃわい!!
あのバカ店主.....僕のことをバカにしてやがる!!
どっちにしてもキャパ不足で買えないんだけどね.....。
ちなみに、親バカバカ店主の名前はフリークっていうらしい。
ちょうどお金の話が出たから、この国のお金について説明する。
この国の名前は、パルトラと言うらしい。
使われてるお金は、パルトラ硬貨で、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。
鉄貨から順に価値が100倍ずつ上がっていく。
また、それぞれの硬貨に『大』がつくものがあり、それは普通の硬貨の10倍の価値らしい。
例えば、銅貨は鉄貨100枚分の価値があり、大銅貨は銅貨10枚分の価値がある。
ゴブリン先輩はおおよそ大鉄貨5枚くらいの値段だ。
つまり僕は、ゴブリンと比べて能力値(Mpと素早さ以外)が半分以下しかないくせに、値段は200倍なのだ。
ね?フリークってクソでしょ?
これらの情報を手に入れていくうちに、僕はこの国の文字を少しだけ読めるようになった。
読めるとは言っても、名詞とか動詞とかを少しずつ覚え始めたって感じだ。
数字とステータスに関わる単語が主に読める文字だ。
できればもっとちゃんと習得したい。
まあ、いろいろなことがわかるようになってきた今日この頃です....。
売れないってわかっているのに、なんで身売りなんか続けてるのか?
ひとまずこの店に居れば、飯と寝床ぐらいは提供してくれる。
他の場所に行ったってただ餓死するか、踏まれて圧死するかのどっちかだ。
だから身売りを頑張っているふりをして、ここにとどまろうとしているのだ。
「キュー!!キュッキュー!!」
そして五日ほど前に思いついたアピール方法が、この『皿洗いキュッキュ法』だ。
なんと皿洗いしながらキュッキュ言ってるだけで、アピールできるのだ。
弱点は、腕の力を使うため、一時間に一度休憩しないと次の日、筋肉痛になってしまうことだ。
まあ、どちらにしても、無心で皿を磨いてるだけでご飯がもらえるのだ。
やらないわけがない。
「今日も『きゅーちゃん』の皿磨きは絶好調だなぁ!!ガッハッハッハ!!」
そしてこんなことを言われるようになったのだ.....。
ちょうど今、夕日が沈み、モンスター販売の時間が終了した。
こうなったら、あとはご飯をもらって寝るだけだ。
ちなみに僕の寝床は外にある藁が少し置いてあるところだ。
少々寒いが、尻尾にくるまれば、耐えられないこともない。
ゴブリンには専用の小屋があるのに.....解せぬ。
まあ、相当臭いらしいからそこは嫌だけど。
......冬になるまでには、ご主人様が欲しいなぁ.....。
そんなことは起こりえないか.....。
僕は自分のご主人様を妄想しながら眠りについた。
次の日の朝、僕はまだルーたちが起きる前に目が覚めた。
結局、ルーとエフォルは同じ部屋に住んでいることがわかった。
なんでも、ルーが自ら望んでそうしてもらったらしい。
お熱いねぇ〜、まったく!!......僕は寒いよ!!
僕がそんなことを考えていると、
パリィィンッ!!
何か....おそらく皿の割れた音が店内から聞こえた。
「キュ、キュゥ?」
(な、なんだぁ?)
僕はとっさに音のなった方向に向かった。
僕は別に店内に入れないわけではない。
ただ、寝床が外に置いてあるから外で寝ていただけだ。
音のしたところは厨房の方だった。
僕がたどり着くとそこには.....小悪魔がいた。
紫の肌で大きさは小さな子供くらい、ツノと羽、尻尾があり、爪が長い。
.....小悪魔としか言いようがないよね?
「....ギギ....オタカラ!オタカラ!」
厨房は割れた皿が散乱し、調理器具も地面に落とされている。
.....おそらくこいつは何かを盗もうとしているのだろう。
「...ギギ!ウマソウ.....」
小悪魔が僕に気づきそう言った。
出会って早々、うまそうって言われるのって.....結構複雑。
不味そうって言われるよりは良くない?
だけど、食べられるわけにはいかな!!
僕は近くに落ちている果物ナイフを手に取った。
結構重い。でもないよりはマシ!
「.....シネ!」
小悪魔が飛びかかってきた。
僕は横に飛び、それを回避した。
そして、
「キュゥキュー!!」
(おぅりゃあぁあ!!)
体勢を立て直し、小悪魔の背中に斬りかかった。
浅〜く背中の皮を切ったぐらいしかダメージを与えられなかった。
知ってはいたけど、力なさすぎ!!
「....コロス....」
小悪魔が再び攻撃体勢をとった。
そこで、
「なんだぁ〜......ふぁぁぁああ......こんな朝っぱらから何やってんだぁ?」
あくびをしながらフリークが階段を降りてきた。
騒ぎで起きたのだろう。
よかった!これで2対1になる。
小悪魔はそこまで強くなさそうだから、きっと勝てるだろう。
そう思って小悪魔を見ると、脇目も振らず逃げてる最中だった。
きっと人間に対して警戒心が強い所属なのだろう。
......助かったぁ....。
僕がそう思って一安心していると、
「.....おい.....これ.....どういうことだよ......」
低く、明らかに怒気を含んだフリークの声が、僕の耳に届いた。
僕はフリークの立場になって考えた。
騒音がして目が覚め、厨房に来てみると、僕と荒らされた厨房があった......。
そりゃあ、僕のせいだと思うだろう。
「キュッキュー!キュキュキュッキュー!!」
(待って!これは僕がやったんじゃない!!)
僕が必死に弁解しようとしたが、キューだけしか言ってないため伝わらない。
「.....この厨房作るのに、どれだけ頑張ったと思ってんだよ......。
ルーにもたくさん我慢させて、やっと皿とか揃えられたんだぞ!!
......それをお前はぁあッ!!」
今にも包丁を持って襲いかかってきそうな気配だ。
まずい!!
「お父さん!?どうした.....の?」
ルーが登場した。
そして厨房の有様を見て言葉を失っている。
「.....もういい......得体の知れないモンスターを店に置いた俺がバカだった......」
フリークは、はっきりと後悔の感情が混じった表情をしている。
「......一週間だ.....一週間くれてやる......。
もし、一週間経ってもお前が売れ残ってたら......ゴブリンの餌にしてやる!!」
それだけを言い残し、フリークは二階に戻っていった。
ルーは悲しそうな表情で僕の顔を見た後、フリークの後を追っていった。
その日から、僕に大量の足枷が追加され、皿に触れることが禁止された。
また、食事もかなり減らされて、常に空腹の状態にさせられるようになった。
お決まりのパフォーマンスができなくなり、枷のいっぱいついた僕の姿を見た人々は、初めの方はびっくりしていたが、モンスターだから仕方ないみたいな反応になっていった。
状況は絶望的だ。
唯一の取り柄の可愛さを失った僕は、ただ単なるでかいコストの無能モンスターでしかない。
買う人はいないだろう......。
そして、約束の日まであと三日になった。
....確かにさ.....そう判断するのが一番妥当だけどさ.....本当に僕は何もしてないんだよぉ......。
.....辛い......辛いよぉ.......。
「キュキュ.....キュー!!」
(誰か.....助けて!!)
とうとう僕は、悲痛な思いを乗せた叫び声を上げ始めた。
すると、銀髪で酒臭い『おっさん』が僕の方に寄ってきた。