03 ステータス・オープン!
現在、僕たちは二階建てで木造の酒場の前にいる。
看板には.......何が書いてあるかわからない。
見たことのない字が書いてある。
「ふぅ......やっとついたぁ〜」
少年、つまりエフォルが大きく伸びをしながらつぶやいた。
どうやらここが目的地のようだ。
エフォルたちは二階でも借りているのだろうか?
「じゃあ、私はお父さんにペットを飼っていいか聞いてくるね」
ルーは僕をエフォルに渡し、駆け足で酒場の中に入っていった。
.....お父さん?
ん?一緒に住んでるの?
僕が頭の中に疑問符を浮かべていると、
「オッケーもらえたよ!
エフォル、中に入ってきてぇ!」
ルーが酒場の中から声をかけてきた。
.....仕事が早くて助かる。
「わかったぁ!...いくぞ....」
.....なんか僕に対してのセリフが暗い。
何だぁ?まだ対抗心でもあるのか?
そもそも人間と動物が結ばれるわけないだろ?
それに、お前らラブラブじゃん!!
....独占欲が強いタイプか?
ルーは、苦労するなぁ....たぶん。
まあ何にせよ、僕は少年に抱えられながら酒場に入った。
「ギュッ!?キュキュー!!」
(グエッ!?酒クセェ!!)
僕は強烈な洗礼を受けた。
こんなに強烈な酒の匂いは、人間だった頃も嗅いだことがない。
匂いだけで酔いそうとはこのことだろう。
「お父さん、どう!?かわいいでしょ!?」
ルーが僕を指さしながら、エプロン姿のおっさんに話しかけている。
おそらくこの人がお父さんなのであろう。
「あぁ、もちろんだとも!!
ルーは世界で一番かわいいぞぉ!!」
そう言ってルーを抱きしめて、ほおをスリスリさせてる。
.....わかった.....親バカだ、この人....。
さすがにここまでくると......キモいな.....。
「違う!私じゃない!!
......もう、お父さんやめて!!」
ルーが苦笑いしながら、親バカから逃げようとしている。
.....結構本気で嫌がっている。
「何を言うか、我が愛しい娘よ!!
父親たるもの、六時間も会えなかった娘を心配するのは当然であろう!?」
.....そうなの?
「んん〜....しつこい!!」
ルーが耐えられなくなり、親バカを腹パンして拘束から脱出した。
.....あまり効果はないようだが。
「ルーよ、まだまだ腕力が足りていないぞ!!
もっと修行に励みなさい」
あれ?この人単なる親バカじゃなかったの?
結構いいこと言ってる。
僕も、ルーは冒険者にしては細身だと思っていたところだ。
「......もしくは......」
もしくは?
「一生パパのそばにいなさい!!
そうすればいつまでも守ってあげられる!!」
だめだこいつ.....救いようがねぇ.....。
「.....修行頑張るね」
ルーが冷めた笑顔でそう告げた。
「ど、どうしてだ!?そんなに頑張らなくてもパパが守っt.....」
「私はエフォルと結婚するの!!」
酒場が一気に静まった。
「.....だから....いつでも一緒に居られるように....強く....なる....」
ルーがそう言うと、
「ヒューヒュー!!いいねぇお嬢ちゃん!!おじさんも強くなってお嬢ちゃんと結婚するよぉ!!」
「エフォルは幸せもんだなぁ!!そんないい嫁さん候補がいてよぉ!!....俺なんて....今年で32なのに.....まだ彼女すらいねぇんだぞ!!」
「エフォルも根性見せねぇとなぁ!!そんないい子すぐに取られちゃうぞぉ!!たとえば俺とかにな!!」
酒場の賑わいは最高潮に達した。
挙げ句の果てに、
「テメェらごときに俺の娘はやらん!!」
とか言って親バカが暴れ始めて、酒場は大乱闘オッサンブラザーズになった.....。
それからしばらくおっさん達が暴れまくり、閉店の時間までまともに僕のことを切り出せる状態じゃなかった。
まったく....迷惑な話だぜ。
喧騒が収まった現在、閉店の看板を外に出して、丸い机で親バカ、エフォル、そしてルーが向かい合っている。
僕は机の上にいる。
「.....ルー....それはモンスターだ.....」
親バカがさっきとはまったく別人のような表情で言った。
「うそ....だよね、お父さん?」
ルーが困惑した表情で聞き返した。
「いいや、本当だ。
ルーも知っているだろうが、パパは肉屋とモンスター売りをやっている。
だから、動物とモンスターの区別はしっかりとできる」
親バカ以外の全員が沈黙した。
「モンスターには微量であっても魔力がある。
ルーもエフォルも冒険者なのだから知っているね?」
二人とも頷いた。
「動物なら、魔力を感じない。
だけど『そいつ』からは魔力を感じる。
しかも今まであった中でも最大級だ.......」
親バカは僕のことを顎で指しながら言った。
「そんなぁ.....」
ルーが悲しそうな表情をしている。
「.....間違いない、そいつは化け物だ」
その言葉を聞いた途端、僕を見るルーの目が変わった。
化け物を見る目だ。
そうか.....モンスターってそういう目で見られるんだ.....。
僕は少しだけこの世界を理解した。
ガタッ......
親バカが立ち上がった。
手には鉈を持っている。
「危なかった.....まさか....こんなに小さいモンスターがいるとは......」
そのまま僕に近づいてきた。
「かわいい見た目で人間に取り入る奴なんて聞いたことないが、モンスターであるなら駆除しなくちゃ.....な.....」
そしてその鉈を振り上げた。
出口はエフォルが塞いでいる。
僕は、自分が非力であることをもう知っている。
.....今度こそ.....ジ・エンドかな?
僕はそう思った。
だが、
「待ってぇ!!」
ルーが僕と親バカの間に割って入った。
「ルー、どきなさい。
言ったでしょう。そいつはモンスターで、ルーを騙そうとしてたんだって」
親バカがルーの肩をつかんで無理矢理どかそうとしている。
けどルーは、一向にどく気配がない。
「まだこの子は何もしてないもん!!かわいそうだよ!!」
ルーが叫んだ。
「....でもいつか悪いことをするかもしれない。
いや、モンスターならきっとする!!」
親バカが強い口調で言った。
「じゃあ.....私がテイムする!!」
その一言でその場が凍りついた。
「私も『モンスターテイマー』のスキル持ってるもん.....『キャパ』は少ないけど....」
「何を言ってるんだ!?
確かにこの程度のモンスターなら、少ない『コスト』だろうが......それでも『キャパ』を使うのはもったいない!!
将来のために1でも多く温存しておいたほうがいいに決まってる!!」
なんだぁ!?
人....今はモンスターか?のことをこの程度とかって言いやがって!
しかもなんだよ!キャパとかコストとかって?
僕の疑問を軽く無視して、親子喧嘩は続いた。
「エフォル、いますぐ『水晶』持ってきて!!
一階の倉庫にあるから!!」
「あ、ああ!わかった!」
エフォルが出て行った。
「ちょ!?エフォル!行かなくていいんだぞ!」
親バカがエフォルを止めようとしたが、すでにエフォルは部屋から出ていたため、聞こえなかったようだ。
「水晶でこの子の能力を見てから、テイムする。
.....絶対にこの子は殺させない!!」
ルーがいつになく強い口調で言った。
やめて!僕のために争わないで!!
.....どうやら、なんとか助かりそうだ。
代償としてテイムされるそうだが、この際生き残れればどうでもいい。
.....今度からルー様とお呼びしよう。
「持ってきたよ!!」
エフォルが戻ってきた。
手には丸くて濁った水晶を持っている。
そして、それをルー様に献上した。
「.....まったく....後悔しても知らないぞ.....」
親バカが諦めたような表情をしている。
けど、どこか嬉しそうだ。
「う〜んと.....確か.....『スキャン』」
ルー様がそうおっしゃると、僕と水晶の周りに魔法陣らしきものが現れ、激しく発光した。
「キュー!!」
(まぶしい!!)
僕の目へのダメージはお構いなしに光は強くなっていき、急に発光が止んだ。
すると、水晶に文字が書かれていた。
.....もちろん読めないが。
「えぇ〜と.....お父さん.....これなんて読むの?」
ルー様もお読みになれないらしい。
この世界での識字率は高くないのかな?
「こういうときのために、ちゃんと文字の勉強しておきなさいって言ったでしょう.....」
勉強不足かぁ....ルー様はお勉強がお嫌いなのですか?
「えへへぇ〜、ごめんなさい」
ルー様がはにかみながらおっしゃった。
「かわいいから許す!!」
親バカが言った。
......なんだ....お前のせいか.....。
「どれどれぇ〜.....」
親バカが読み上げた。
まとめると、
名称 不明
Lv 1
Hp 5
Mp 100
攻撃 3
防御 4
素早さ 19
魔力 5
スキル なし
こんな感じになった。
なんかMpだけ高い。
「おっと、忘れてた。
テイムコストは.......39!?」
テイムコストが39らしい....すごいの、それ?
みんなの顔を見回すと、ルー様は絶望されていて、エフォルと親バカは腹を抱えて笑っていた。
「あはははっ!!なんだそいつ!!
こんな弱っちいぃ能力のくせにコストが39!?
あっはっはっは!!冗談にしてもおもしろすぎる!!」
エフォルは僕を馬鹿にしてきた。
こいつ......あとで報復する!!
......今はちょっと勝てそうにないから、あとでな!!
「うそ......どうして.....」
ルー様がその場でへたり込みなさった。
何?なんかやばいの?
「もうしょうがないから、こいつは店で売ることにするが......いいな、ルー?」
えぇ!?テイムしてくれないの!?
しかも店で売られちゃうの!?
ルー様、助けてください!!
「.....うん.....」
ルー様がお頷きになった。
「キュウゥゥゥッッ!!!」
(ルウゥゥゥッッッ!!!)
僕は精一杯叫んだ.....が、ルー様はお目々すらお合わせになってくれなかった。
こうして僕は、身売り中のモンスターになった。