10 出発
「あぁ.....だりぃ.......」
オレは今、ギルドで夕飯を食っている。
オークの討伐クエストを三往復して帰ってきたところだ。
ゴブリンの時みたいに複数受注ができればなぁって何度も思った。
ちなみに髪型は冒険者仕様だ。
水でキュッと髪をいつものように搔き上げると、冒険者仕様になった。
せっかくキューが整えてくれたようだが、さすがにあの髪型でギルドに行くのは......ちょっと勘弁させてもらいたい。
特にギルマスとかリーシャにあの姿を見られたら、バカにされる気しかしない。
今日の夕食は、肉と野菜を炒めたものと安いパンだ。
このパンはちょっと硬めで結構気に入っている。
そして何より酒と一緒に食べると.......ってダメだ!
酒は一回飲んだら止まらなくなっちまう......お金が必要な時にそんなことしたら......。
「で、でも.....一杯くらいは.....いいよな?」
オレは自然と手を挙げ、酒を注文しようとしたが、
「ダメですよ。キューちゃんのために頑張ってるんでしょ?」
リーシャが挙げた手の指を掴んできた。
「別に.....飲もうとなんてしてねぇよ..........たぶん......」
リーシャの手を振りほどいた。
「何がたぶんなんですか......。
あとちょっとなんですよね?
なら頑張りましょうよ!ね?」
「わかってるって......うるせぇなぁ.....」
リーシャから視線を逸らした。
「今のベルさん.....ちょっとキューちゃんぽかったですよ」
「........ふんっ!」
「ふふ......ベルさんも結構かわいいとこあるじゃないですかぁ」
うりうりぃって指でつついてきた。
だから、
「......しつけぇ!」
「ウニャフッ!!」
いつものようにデコピンで仕返ししてやった。
リーシャは額をさすりながら.......ニコニコしていやがる......。
デコピンされて喜んでいるのか?
「よかったです」
「え?オレのデコピン.......気持ちよかったのか?」
「何言ってんですか?痛いに決まってるじゃないですか......」
「それなら.....よかった」
リーシャがそっち系の変態ならちょっと......縁を断とうと思ってたところだ。
「最近......特に今日のベルさんは元気なかったですよ」
「.....そうか?」
「はい......やっぱりキューちゃんがいないのは寂しいんですか?」
「......かもしれねぇな」
「愛されてますね、キューちゃん」
「.........」
「早く帰ってあげたらどうです?もしかしたらベルさんのこと待ってるかもしれませんよ?」
ここで時間を潰しても何にもならねぇし......もしかしたらキューが腹空かしてるかもしれねぇ......。
「ああ、そうさせてもらうゼ」
「はい、そうしてあげてください」
リーシャと手を振って別れた。
特に大したことのない会話だった。
でも、ちょっとは落ち着けた。
今やらなくちゃいけねぇことは何か?
キューとの仲直り以外あるか?
プレゼントを渡せば機嫌直してくれるかもしれねぇ.....でも、それでいいのか?
オレにとってあいつは金で機嫌をとるようなやつか?
違う.....いや、違ってほしい。
オレはあいつに相棒でいてほしい。
ずっと一緒にいて、互いに信じて背中を預けられるような相棒でいてほしい。
昨日と同じようになんかの肉の串焼きを買ってから、宿に向かった。
宿に着いたらすぐ二階に上がった。
オレはちょっとだけ深呼吸をした後、ドアを開けた。
「キュー、いるか?..............って寝てるし.......」
体から力が抜けた。
キューにちゃんと謝って、気持ちを伝えようと思ってたのに.......完全に夢の中に入っちまってやがる......。
まあ、いきなり変なこと言われても......変だしな.....またの機会にしよう。
ん?なんか傷ができてないか?
手、足、尻尾にまで擦り傷のようなものが出来てる。
どれも大した傷ではないが、どうしてキューが?
.......わかんねぇけど、大丈夫そうだ。
『明日頑張って』
葉っぱにそう書いてあった。
キューの爪にも葉っぱのカスがついてるから、爪で書いたのだろう。
結局応援してくれんなら、オレたちは何のために喧嘩してたんだよ........バカが.......。
「キュゥゥ.....キュキュゥ......」
オレがなでてやるとすごく嬉しそうに寝返りする。
しばらくすると、指を抱きしめて、舐めてきた。
こいつをテイムした直後ぐらいは、こんなことしてこなかった。
本当に最近になってからだ。
最初の頃なんて触った瞬間噛み付いてきやがった......力は弱かったが......。
だんだん噛み方が優しくなって、次第に抱きつくようになって、最終的に舐めてくるようになった。
今思い返せば、最初の頃は今よりもよそよそしいって感じがした。
撫でてやっても気持ちいいって感じよりも緊張してるって感じの方が強かった。
そういえば、寝るときに服の中に入れるようになったのも最近の話だな......。
だんだん慣れてきてちょっと扱いが雑に......例えば飯を緑の豆だけにしちまったりしたのか?
まあ、最初とはいろいろ違ってきてるって話だな。
.........にしても、今日は随分と甘えてくるじゃねぇか。
いつもは少し甘えた後すぐに飽きたようにぐっすり眠っちまうのに、今日はまだぺろぺろしてきやがる。
今は喧嘩中なんだぞ?
少しくらい噛んできてもいいんだぞ?
……噛みつかれたことなんて今回が初めてじゃないのに、なんで怒っちまったんだ?
訳わかんねぇ......訳わけんねぇよ.......。
よくわかんねぇから、ひとまず明日クィルの顔面を一発ぶん殴ってやる。
今思い返せばあいつと会ってからいろいろおかしくなっちまった。
そう思うと腹が立ってくるな.......。
稽古をしてほしんだっけか?
それなら存分に稽古をつけてやるよ......覚悟......しておけ.......。
オレはすぐに眠っちまった。
キューを抱きしめながら........。
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「..........あれ?キュー?」
オレは朝日が昇った直後ぐらいに起きた。
ここ数年で一番早い起床だ。
にもかかわらず、キューがいない。
でも、
『クエスト頑張って』
葉っぱに文字書いてあるし、髪もセットされてるし、なんかの肉も無くなってるし......キューは大丈夫なんだろう。
付いて来てはくれねぇのか?とも思ったが、今は気にしないでおく。
クエストには午前中に出発する予定だ。
確かあと二時間ぐらいで出発だったはずだ。
「...............」
ダメだ......やることがない。
いつも暇な時は........大抵キューにじゃれてたな.......。
ちょっと前までは酒の飲み過ぎで、頭痛くなって寝てたな........。
今は........やることねぇな.......。
仕方なく装備を整え、集合場所に向かうことにした。
オレにしては真面目な一時間前行動だ。
「ん?なんかポーチ.......重くねぇか?」
そんなに物入れたか?
ああ.....ポーションとかが入ってんのか......久しぶりで感覚がおかしくなっちまった。
まだ早朝だから街が穏やかな雰囲気だ。
こんな景色.......初めてこの街に来た以来かもな......。
ちょっと物思いにふけりながら、ゆっくりと集合場所に向かった。
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「あ!ベルさん!」
クィルが飛び跳ねながら手招きしてる。
一時間前だっていうのにもう全員そろってんのか........普通そういうもんなのか?
クィルはどことなく貴族服っぽいイメージが出てる冒険者服だ。
青色の布の所々に鉄っぽい装甲がつけられている。
得物は剣だ。
これもなんか金ぴかで高そうな見た目だ........でも、それって装飾用の剣ってやつじゃねぇのか?
細くてすぐに折れそうだ。
まあ、こいつはお飾りみたいなもんだな。
たぶん残りの二人が主に戦うメンバーだろう。
一人はスキンヘッドで、がたいが良いやつだ。
背中に大剣を背負っている。
ムッキムキの筋肉がスゲェ自己主張してきやがる。
正直こういうタイプの男は苦手だ........なんでも自慢げに話してくるのがウゼェ。
もう一人は片手剣使いだ。
片手に盾を装備して、もう一方の手に剣を持っている。
なんていうか.....普通のやつだ。
見た目も茶色の髪に茶色の目、背はオレより結構高いくらいで、程よく筋肉が付いている。
冒険者の中でも最もありふれた類のやつだ。
「ああ、今日一緒に冒険してくれるバルトとテディです」
クィルが二人を示しながら言った。
「バルトだ。よろしくな、嬢ちゃん!」
「あ、ああ.....よろしく」
マッチョの方がバルトだ。
挨拶と軽く握手をした。
大剣を使ってるだけあって、ゴツゴツの手だった。
「テディです。よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
普通のやつがテディ.........手も普通だった。
「ベルさん、クィルです!よろしく!」
クィルが手を差し出してきた。
握手.......必要か?
一応してやるが.......何の意味があるんだ?初めて会ったわけでもないのに........。
握手してやるとすごく嬉しそうにしてるから......まあ、いいか。
「イテッ!.....ん?」
なんかいきなりポーチから......攻撃された?..............気のせいか?
「ベルさん、せっかくなんで早めに出発しましょう!」
「ああ、わかった」
ポーチョン瓶でも倒れたんだろう。
割れたってことはなさそうだから、別にいいけど......。
「どうしたんですか?」
クィルが不安そうに顔を覗き込んできた。
「いや、なんでもない。行くぞ」
「はい!」
そのあと、クィルとおしゃべりしながらクエストの洞窟に向かった。
........正直クィルの話はつまんなかった。




