05 石鹸と骨
「おい、キュー.....いい加減こっち来いよ......」
「キュキュゥッ!!」
(いやぁっ!!)
現在、僕とベルは水浴び中だ。
ギルマスから石鹸をもらったのだ。
今までも川の水を使って体を洗っていたが、そこまでしっかりは洗っていない。
だから今回はしっかり体を洗おうって話になったのだが、いつものことながらベルが僕の体まで洗おうとしてくるのだ。
自分でできるっていつも言っているのだが......
「ったく.....こちょこちょこちょ.....」
「キュッキュッキュッキュ!!キュ、キュキュー!!」
(うっきゃっきゃっきゃ!!や、やめれぇ!!)
こうされると一切抵抗ができへんのよ......。
僕はあっさりベルに拘束されてしまった。
「まったく.....そんなに水が嫌いなのか?」
「キュキュー!!」
(違うよ!!)
水も確かに嫌いだ。
体全体がべちょべちょして気持ち悪いから。
でも....でもそうじゃない!!
今.....ベルは.......フル・フロンタルなの!!
しかも、そのまま密着した状態で体を洗おうとしてくるの!!
恥ずかしいってレベルじゃないっすよ!!
謎の光さん仕事してぇ!!
「毎回毎回逃げまくられると.....さすがに面倒だな......。
どうしたらいい?」
どうしたらいいって......ねぇ?
どうしようもなくない?
......あ!いや、そうでもない!
「キュキュ!!キュキュキュー!!」
(スク水!!スク水着て!!)
「あん?何言ってんだ?」
自分でもわかりません。
だが、本能が告げる!!ベルにはスク水が似合うと!!
「キュキュ!!キュキュ!!キューキュキュ!!」
(スク水!スク水!はだけたスク水!!)
「......めんどくせぇ....オラ!抵抗すんな!」
ベルが強引に僕の頭を洗い始めた。
結局こうなるじゃん.....。
「......ん?なんだ.....急に大人しくなりやがって......。
できれば、初めからそうしてくれるとありがたいんだがなぁ.....」
さ、さすが洗わてる間だけは静かにしてあげようと思ったのだ......。
一応はやってもらってる立場なわけだし......。
「.....あ!本当に尻尾の毛が減ってる.....」
ベルが僕の尻尾を触りながら言った。
毛が減ってることに気づくんだぁ......僕だってやっとわかるぐらいの差なんだよ。
はったりで言ってるのか......いや、真剣な顔だ......。
ベルは僕のいろんなことに気づいてくれる。
そもそも言葉が通じないのに、意思疎通がある程度できてるのはベルが真剣に僕のことを見てくれるからであって.......そういうところが......大好きなんだよね......たぶん.....。
「おう?どうした?尻尾をそんなに振って....?
あぁ.....強すぎってことか.....すまん.....」
ベルが優しく尻尾を洗ってくれた........ものすごく気持ちぃ.....。
恥ずかしいけど.......悪くないかも......。
「......流すぞ!目ぇつぶれ!」
ベルがいきなり立ち上がり、蹴って水をかけてきた。
ドバシャーン!!
僕についていた泡が一瞬で洗い流され、ずぶ濡れの僕が月夜に現れた。
.......いや.....まあ、仕方ないんだよ.....。
バケツとかないからね.....。
でもさ.......なんか嫌じゃない?
そもそもベルの蹴り上げた水だってさ、僕からすれば大津波なんだよ?
僕の身長の何倍もある水が壁になってかぶさってくるんだよ?
......怖くない?
「......よし、ふくぞ.....」
よしじゃないっす.....。
ふきふきされた。
拭き方がすごく気持ちよかったから、津波の件は許してあげることにする。
体を洗った後、ベルはだいたい間をおかずに寝る。
まあ、それはいい。
けど、
「おい、寒いだろ?
なんだよ.........布は一枚しかないんだからよ.....我慢しろよぅ.....」
僕は寝る時どうしてると思う?
バックの中はポーション瓶とかがあるから中では寝られない。
草原の上では寒い。
布は1枚しかない......しかも小さい。
夜は寒くて、布でもない限り寒くてねれない。
したがって僕のいられるポジションは一つ!
ベルの服の中だ!!
......た、確かに、僕を服の中に入れれば、あったかいのだろう......もふもふだからね。
でもさ.....僕のメンタルがおかしくなりそうなんだよ!!
僕だって男っすよ!.....忘れられてるかもしれないが.....。
だから.....ね?.....わかるでしょ?
「......じれったいなぁ.....早く来い!」
つまみあげて、抱きしめるように僕を胸の中に入れた。
あったかくて.....少しプニプニだぁ....。
や、やばい!!
心頭滅却.....心頭滅却.......。
こうやって僕は仏の世界に近づきながら、眠りにつく。
気を使うことも多いが、朝起きるとベルをすっごく近くに感じられる.....。
その感覚は......悪くない。
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「.......はぁ.....朝か.....」
オレは目を覚ました。
「ん?」
キューがまだオレ服の中にいる。
今までこんなことはほとんどなかった.......二日酔いでダウンしてることが大半だったからな.....。
にしても......スゲェあったけぇなぁ.......しかもモコモコしてて気持ちいい。
もうすぐ冬が来る......ここの冬は相当寒い.....凍死者が毎年何人か出るレベルだ。
もしかしたら、その間は絶対キューを服から出してやんなくなるかもしれない。
オレがそんなことを考えながら、服から飛び出たキューの頭を撫でていると、
「キュ、キュー?」
キューが起きた。
眠たげに目をこすってる........可愛いすぎる。
「よう.....ねぼすけ.....」
「キュキュー!?」
昨日のリーシャみたいな驚き方してやがる.......。
「オレだって早く起きることぐらいあるんだぞ.....」
.....酒さえなければな。
「クエスト行くぞ」
オレはあまり間をおかずに、キューにそう言った。
「キュキュゥ!?」
またキューが驚いた。
まあ......今までのオレのことを思い返すと.......ありえねぇ発言ではあるけどな......。
「......驚きすぎだ。
言っただろ?今、欲しいものがあるって」
「キュキュー!!」
「教えてってか?.....やなこった」
「ギュッ!!ギュギュー!!」
毛を逆立てて怒ってやがる。
「そのうち教えてやるから.....な?」
なでなで.....
「キュゥ........キュッ!!」
若干残念そうな表情をした後、いつものように明るく返事をしてくれた。
.....納得してくれたようだ。
「よし!行くか!」
「キュキュッ!!」
オレたちは朝早く.....ギルドが開くギリギリの時間帯を狙って、宿を出た。
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うぅん.......相変わらずジメジメした洞窟だよなぁ.....ここは。
訳あってオレたちは今、ものすごく湿った洞窟ことダンジョン’’もどき’’に来ている。
いや、実際にここはダンジョンではあるのだが、普通ダンジョンっていうのはもっと大きくて、お宝がいっぱいある洞窟とか遺跡とかのことを言うことが多いから、今来ている小さいし、お宝もないし、モンスターも弱いダンジョンはダンジョン’’もどき’’って呼ばれている。
「オラァ!!」
オレが掛け声とともに繰り出した回し蹴りで『骨』をぶっ壊した。
今やったように、オレはダンジョンもどきで『骨』を砕きまくっている。
そして、ようやくひと段落ついたところだ。
「ふぅ.....ひとまず片付いたな....」
「キュー!!」
僕はタオルを渡した。
「あぁ.....ありがとう」
ベルがお礼を言って受け取った。
僕たちはダンジョンにやってきている。
ダンジョンというのは、高魔力物質(だいたい強いモンスター。このダンジョンは何かの鉱石による影響らしい)が変化して、魔力の供給が常に行われる状態になった場所のことだ。
魔力に満ちた場所は、モンスターの発生源になる。
例えばさっき砕いた『骨』は、スケルトンというモンスターだ。
スケルトンは、骨に魔力が蓄積して動き出すようになったというモンスターで、主にダンジョン内に発生する。
ダンジョン外にも出没し、骨をダンジョンに持ち帰って増殖するという変わったモンスターだ。
ベルがやったみたいに、体の一部を破壊すると、魔力が抜けて活動が停止する。
しかし、魔力が蓄積できるだけの大きさの骨さえあれば何度でも蘇るため、かなり厄介なモンスターだ。
だから僕たちは、ダンジョンがスケルトンだらけにならないように、スケルトン退治のクエストを受注した......いや、ギルマスにさせられた。
クエストを受けないと雑用期間を延ばすぞぉ.......みたいな感じだった。
「キュー.....レベルアップしたか?」
今の僕たちの目的は、僕のレベルアップだ。
普通、レベルが2になったぐらいじゃスキルは手に入れられない。
レベル20とか30とかになって、初めてスキルが一つ増えるか増えないかっていうのが普通だ。
つまり、もしかしたら僕は、レベルが上がるたびにスキルを手に入れる可能性があるかもしれないのだ。
仮にも、僕はテイムコスト39だ。
強力なスキルがホイホイ手に入らなくては割に合わない。
で......それはいいのだが.....。
ベルがさっきからうるさいのだ。
しつこく「レベルアップしたか?」って聞いてくるのだ。
ベルは幻獣テイマーのせいで、スキルを手に入れられなかった。
その影響なのか、スキルが欲しくて欲しくてたまらないって感じなのだ。
「キュー、いっぱいモンスター倒すから、早くレベルアップしろよ」
目がキラキラしている。
......結構可愛い。
レベルアップしたいのは山々なんだが.....スケルトン退治はつまらない。
基本的にベルがスケルトンを見つけ次第、一撃で粉々にしている。
最初は爽快に感じていたが、三時間(体内時計を参考)も同じ光景を見続ければ飽きる。
「キュゥ......」
(はぁ......)
「おい......確かにつまんねぇが、見ていればレベルが上がるんだゼ?
そしたらスキルが手に入るんだ.......頑張ってくれよぅ」
「......キュゥ」
(......はぁ)
そう言われましてもねぇ......。
「......どうしたらやる気を出してくれるんだ?
オレにできることなら何でも言ってくれ!」
ベルにしてほしいこと?
そりゃあ、もちろん......
「キュキュゥ!」
(撫でてぇ!)
僕は両手をベルの方に突き出し、『抱っこのポーズ』をした。
「.....抱いてほしいのか?.....仕方ねぇなぁ....」
キューは結構甘えん坊だ。
基本的にオレのすぐ側を離れないし、オレに寄りかかったり、撫でて欲しいんですぅって感じを醸し出したりしてくる。
まあ.....そういうところがたまらないって感じはあるんだけどな.......。
オレは要望通りキューを抱き寄せ、ツノの周りを撫でてやった。
キューは最近、ツノの周りを円を描くように撫でててやると一番喜んでくれるようだ。
「キュゥウ.....」
ついつい甘い声が漏れてしまった。
ベルの撫で方がうますぎるのが問題なのだ。
「ちゃんとやる気出してくれよ......」
完全に脱力してやがる......。
けど、数分くらい撫で続けてやると、
「キュー!!」
(やる気出たぁ!!)
「よし!次行くぞ!」
復活したようだ。
「キュー!!」
僕たちは洞窟の奥へ進んだ。
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カッカッカッカ......
スケルトンが骨を鳴らしている。
もしかしたら、これがこいつらの鳴き声ということになるのかもしれない.....。
......まあ、スゲェどうでもいいが。
「キュー、しっかりとつかまっていろよ.....」
オレは念のためキューに一声かけた。
「キュー!」
今回、僕はベルの首につかまっている。
全力で握ってもベルは苦しくなさそうだ......僕の攻撃力は低いからね。
カッカッカッカ.....
スケルトンが走ってきた。
一体だけかと思ったが、奥からぞろぞろ出てきた。
人型が6、7、8.......15体以上と、ゴブリン型が20体以上はいる。
今までで一番多い数だ。
しかも、そのうちの一部は鉄の剣を持っている。
普通のスケルトンは武器を持つほどの腕力(耐久性?)がない。
つまり、骨に宿った魔力が多いってことだ。
「キュー作戦変更だ.....ぷらん『ナイフ』だ」
ベルが指3本を僕に見せつけてきた。
一応戦術番号を示している…….3(プラン、ナイフ)しかないけど…….。
「キュー!!」
僕は返事をして、ベルの左腰のポーチの中に潜り込んだ。
そしてナイフを取り出し、ベルに渡した。
「.....テメェら全員.....キューの経験値にしてやるゼ.....」
オレはニヤリと笑いながら、両手にナイフを持った。
ガッガッガガッガ.....変なリズムの足音がすぐそこまで......オレから3メータルのところまで迫った瞬間、オレはナイフを飛ばした。
それは先頭を走っていたスケルトンの頭を正確に粉砕した。
仲間の死(破壊?)に動揺して止まったスケルトンの頭を次々に破壊していく。
残ったスケルトンが慌ててオレの方に走り始めたが、もう既に残っているのは4体のみ。
剣を持って接近し、頭を剣で突き刺し、破壊する。
........あっという間にスケルトンが全滅した。
「あぁ〜......やっぱり骨はつまんねぇ......」
オレはスケルトンに投げつけたナイフを回収し始めながら言った。
スケルトンは生前の記憶の影響を受けて、多少の戦略(周りこめ!とか)を使ってはくるが、体が脆弱すぎる。
時々コケて自滅する個体がいるくらいだ。
一撃で体は粉々になっちまうし、斬った時の感触がつまんない。
「.....もっとこう......グシャァみたいな感覚がいいなぁ.....」
「キュキュ!?」
あ.....キューを驚かしちまった。
いや、でもだってそうだろ?
スケルトンを斬ったときの感覚は、なんか.....物足りない感じがするんだよなぁ。
仮にも剣士なら、肉斬りたいだろ?
「悪りぃ....でもよぅ、お前も見ててつまんなくないか?」
「キュキューキュ......キュキュキューキュ......」
(そりゃそうだけど......僕のことは斬らないでね......)
キューが何か心配そうな表情をしてきた。
「安心しろよ.....お前のことを斬ったりはしねぇよ.....。
別に何でもいいから斬りたいってわけじゃねぇんだ......。
ただ、どうせ斬るなら、もっとこう歯ごたえがあるやつを斬りてぇってことだ」
割とご主人様は戦闘狂だ。
戦闘中ニヤニヤしていることはよくあるし、何となく生き生きしてる気がする。
ちょっと怖いけど、僕はそんなベルも好きだ。
ベルにとって僕は、斬りごたえのないやつって認識らしいけど......。
「グ、グガァ.....」
そんな時、奥から何か気持ち悪い声が聞こえてきた。