02 注視
ここはアルト草原西側......ゴブリンが多いのは東だ。
まだ日は昇っているから、うまくいけば夕方になる前に帰れるだろう。
「キュー....討伐クエストは初めてだろ?」
「キュ!キュキュー!」
(うん!楽しみだよ!)
「今回はポーチに入ってろ......顔だけは出しておくんだぞ.....」
経験値を稼ぐためだ。
最近わかったことがある...........キューの成長は遅いということだ。
ゴブリンなら、普段生活しているだけで一週間くらいでレベルアップできるらしい。
なのにキューは二週間で1レベルも上がらなかった。
......レベル上限が1とかじゃねぇよな?
「キュキュッキュ!.....キュキュキュゥ.....」
(わかったよ!.....気をつけてね.....)
「....心配するな.....オレは負けねぇ.....だから安心してろ」
そう言って頭を撫でてやった。
すると、
「キュゥ.....」
甘い声を出してきた。
かわいいなぁ......最近飯をちゃんとくわせているから、少し肉がついてきた。
豆ばっかりだけどな.....。
でも、まだ痩せ気味な気がする......。
あぁ....クソッ......せっかく買ってやることができたのにこんなんじゃ.....あの店主と同じじゃねぇか.....。
気に入らねぇ......。
「キュー.....今回は少し多めに狩るぞ.....飯いっぱい食わせてやるからな.....」
せっかくの討伐数で報酬が増えるクエストなんだ......しっかり稼がせてもらうゼ!
「キュー!!」
(イェイ!!)
「クフフ.....現金なやつだな.....」
それからしばらく歩きながら、ギルマスの悪口を言っていると、
「グギィィィ!!」
オークだ。
三体もいる。
にしても何回見てもキモいよなぁ.......。
以前にもゴブリンとの戦闘中に乱入してきたりした。
最初見たときは、吐きそうになった.......酒を....。
「キュゥ.....キュッキュ」
(うぅ.....きっも)
「キュー....ポーチの中に吐くなよ?」
気持ちはわかるけどな。
「キュー!」
キューはいつも元気だよなぁ......。
ちょっとはその元気を分けてもらいたいくらいだ。
「プギィィィイア!!」
オークがきもい鳴き声をあげながら、走って接近してきた。
チッ!気づかれたか......。
槍持ちが2体、棍棒持ちが1体だ。
棍棒1体と槍1体が先行して接近。
棍棒の方がわずかに早い。
槍持ちには注意しておこう.....リーチが長いからな。
それだけを頭に入れながら、オレは全速力で走り出した。
迎撃しようと一体が棍棒を振り上げてくる。
そいつにナイフを投擲。
ナイフは吸い込まれるようにして片目に命中した。
その隙に剣で足を切ろうとしたが、槍が接近してきているのに気付き、身を引いた。
オレがさっきまでいたところを槍が通過した。
あとちょっとで命中するところだった。
「チッ!良い連携してんじゃねぇか!」
オレは悪態をつきながら二回目の槍をギリギリで回避した......が、
「キュー!!」
キューが悲鳴のような声を出した。
若干キューの毛が宙に舞っている。
「な!?大丈夫か!?」
オレが動揺したところに、
「ゴファッ!!」
棍棒が脇腹に直撃した......そして変な声を出しちまった。
そのままオレは吹き飛ばされ、地面をしばらく転がり停止した。
......ゴブリンの比じゃないくらいに力があるのがよぉくわかった。
「キュ、キュキュー!?」
(だ、大丈夫!?)
「なんだよ.....結構大丈夫そうじゃねぇか....」
思ったよりもキューは怪我とかしてなさそうだ。
「あわわ.....どうしたこっちゃ!!どないしたら!?」
(キュキュ.....キュキュゥッキュ!!キュキュー!?)
ベルは大丈夫そうじゃない。
表情を見ればすごく痛いのがよく分かる。
「.....んん!!.....大丈夫だ.....安心してろって言っただろ?」
なんとか立ち上がった。
まだ走ったり斬ったりするのはできそうだ。
「キュゥ......」
全然大丈夫じゃないでしょ......。
若干ふらついてるし、顔とか体に擦り傷のようなものが何個かできている。
「....それに.....やられたらやり返すってのがオレの『ぽりしー』なんだ」
オレはそう言いながら、オークの方へと目をやった。
さっきと同じ布陣で突っ込んで来ようとしている。
目を失ったやつも結構元気だ......。
「ギュゥ......」
僕はオーク共を睨みつけた。
逃げたほうがいいのでは?とも思うがベルが戦うっていうのなら、僕はそれを応援するだけだ。
槍持ちが後ろでいつでも援護できるようにしている。
2体をどうにかしたとしても、もう1体が一撃を入れてくる。
危険だ。
ベルは気づいているのかな?
「チッ.....厄介な奴らだ」
ゴブリンと違って連携が上手い。
武器もリーチが長いし、当たったら痛い。
本当に厄介な奴らだ.......。
とか考えていると、槍持ちが先にオレに迫ってきた。
それを避けて接近しようとしたところに、棍棒が横に振るわれた。
後ろに下がって避けた。
そして、距離が開いたところにまた槍が来る。
接近すると棍棒が振るわれる。
「クソッ!キリがねぇ!!」
いっそのこと無理して突っ込むか?
でもなぁ.....後ろの槍持ちがなぁ.....。
「.......」
僕はひたすらに戦闘を見続けた。
ベルは、僕からすると神業のような動きで攻撃を回避している。
でも、これでは勝てない。
そのうちスタミナが切れて.....ベルが殺されちゃう!!
何か....何か....突破口はないのか......。
僕が頭が痛くなりそうなくらいに脳みそをフル回転させていると、頭にキーンっという音(?)が聞こえた。
なんか.....頭がクラクラする.......。
その感覚が抜けると、体の違和感に気付いた。
.......体があったかい….それに…..若干光ってる!?
こ、これって.....いわゆるアレだよね!?
「キュー!!」
(ベル!!)
レベルアップだ!!
ベルは僕の声を聞いて、少し目を見開いた後、
「....わかった」
短く返事をした。
いまいちよくわかんねぇけど、今はこれだけで十分だ。
重心を前に傾け、足を踏ん張る。
また槍が来る。
回避しつつ槍の真ん中を剣で切り裂く......全く手応えがしなかった.....それに、体が軽い!
別の個体が棍棒を縦に振るってきた。
それを股下にスライディングして避ける。
すると、後方にいた槍持ちが目の前に来る。
槍を突きつけようとしてきたが、体を一歩横に動かして回避した。
前にいた二体のオークはまだ振り向ききっていない.......。
「隙だれけだぁ!!」
槍を突きつけることで下がった頭に、剣をかちあげるようにして一撃を食らわせた。
肉を潰し、骨を粉々にする音ともに顔面を完全に粉々にした。
とんでもねぇ威力の一撃が放てた。
「ピギィィ!?」
急な動きの変化を察知したのか、オーク共が逃げ始めた。
今殺った奴がリーダーだったのかもしれない......そんなことはどうでもいい!
そう簡単に......
「逃すわけ......ねぇだろ!!」
オレは叫びながら剣を投げた。
強風を纏わせた剣が放たれ、オークの胸を貫通し、遠くに飛んで行った。
もう一体のオークがびっくりして腰を抜かしてやがる。
そんな奴にはこいつをくれてやる。
近くに落ちてた槍を持ち.....投げた。
さっきよりも早い速度の槍がオークの頭を貫いた。
あっという間にすべてのオークを討伐できた.......。
二体は顔面をぐちゃぐちゃになっていて、一体は胸元に剣でやったとは思えない穴が空いている。
「おいおい.....どうなってんだよ.....。
こんなすげぇ力.....持ってなかったはずだぞ....」
思い当たるのは......キューなんだが......当の本人も驚いているようだ。
おそらくさっきのは、レベルアップによって習得したスキルの影響なのだろう。
でも、普通レベルアップでスキルを習得できる確率は低い。
スキルを習得できたとしても、ここまでの強化系スキルは滅多に手に入るものじゃない。
そんなことができるテイムモンスターがいるとして、そいつは無能なのか?
違うよな。
「どうやら、お前は無能じゃないみたいだぞ.......よくやったな」
オレがそう言ってツノのあたりを撫でてやると、目を細くして喜んでくれた。
オレとしては、かわいいだけのモンスターでもよかったんだけどなぁ.......スゲェモンスターを手に入れちまったみたいだ。
「キュキュ....キュ....キュキュゥ.....キュッキュゥ.....」
(よかった....僕も....役に立てるんだ.....よかったぁ.....)
にぃ.....
僕は精一杯の笑顔を見せ付けた。
ちょっと前のことを思い出して、胸が苦しくなったが....。
「はぁ......なんかキューにすら追い抜かれた気分だよ.....まったく.....」
ため息混じりにそういった。
キューの力がすごかったとして、今のオレはすごいか?
バカでもわかる........すごくねぇ......。
酒の事ばっかり考えてるし、オークにすら自分の力だけでは勝てない。
カッコ......悪りぃよなぁ......。
「キュキュキュー!!キュッキュキューキュキュ!!」
(そんなことない!!だって僕を使えるのはベルだけなんだよ!)
「クフフ.....慰めてくれんのか.....ありがとよ.....」
キューが必死に飛び跳ねながら、応援(?)をしてくれた。
オレは苦笑いしながら、キューの頭を撫でてやることしかできなかった。
「.......」
だんだん力が抜けていく感覚がある。
それと同時にベルの心が閉ざされていくのも.....すごくよく感じる....。
一体何がベルにこんな顔させるの?
ベルは僕にそれを教えてくれないの?
わからない.......けど!
ガブッ!!
「キュキュキュゥ!!」
(ウジウジするなぁ!!)
悲しいベルの顔は大っ嫌いだ。
僕の方が悲しくなる!!
「い、いてぇ!!.....何すんだゴラァ!!」
キューがいきなり噛み付いてきやがった。
結構痛い。
「キュキュキュー!!キュキュキュキュッキュ!!」
(ベルはすごい!!すごいんだから悲しい表情はやめて!!)
「.....わ、悪かったよ........だからそんな顔はするなって.....」
キューは......なんか悲しそうな.....寂しそうな表情をしていた。
ぺろぺろ......
「キュキュゥ」
(噛んでごめん)
歯跡がくっきりついてる。
これはちょっと......やりすぎたなぁ.....。
舐めるとなんとも言えない.......土っぽい味がする。
「あぁ!!やめだ!!辛気臭いのはオレに似合わねぇ.....だろ、キュー?」
「キュー!!」
「まったく....強い力が手に入った......キューはオレのもの.....それでいいだろ?」
キューはオレのテイムモンスターなんだ。
キューの力はオレの力も同然......そう考えたっていいじゃねぇか。
「キュゥ.....」
「お、おい.....ものとは言っても、ちゃんと相棒としてみてるんだぞ.....そんな顔すんなって......」
いきなりキューがシュンとしてしまった。
''もの’’は物ってわけではねぇんだけど.......。
ペシペシペシ.....
「キュキュッキュ!!」
(このニブチンが!!)
知ってるよ.....だからこんな顔してるんじゃないか!
そんなやつにはビンタしてやる!
「お、おう?よくワカンねぇが機嫌が直ってようで何よりだ」
「......キュッ!」
(......ふんっ!)
どうやら僕の気持ちはまだまだ伝わりそうにない。
でも、いつか伝える。
気長に待とう.....それでいい。
それからオレ達はオーク2体を4組、つまり合計8体を倒し、ギルドに戻っていった。
最初ほどじゃないが、オレの身体能力は上がっていた。
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「まったく.....一時はどうなるかと思ったけど、どうやら俺の手は必要ないようだね」
黒髪、赤目の冒険者装備に身を包んだ......おっさんというには少し若いって感じの男がつぶやいた。
「幻獣....やっぱりとんでもない奴だな....」
男は嬉しそうな表情をしている。
「やはり君は面白い.....ベル君....」
男の目には、銀髪の少女が映っている。
そして、その肩に乗った生き物も......新たに視界に入ることになった。
「キュー君.....君もとても興味深い.....しばらくは退屈しないで済みそうだ」
その男は巨大な大砲のような武器をしまい、ライリの街に入っていった。