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7. 木の棒は光る

「わたし、ディナリアに行ってみたい。大きなお城があるの!」


 ネネムゥが両手を広げて大きなお城を表現する。


「王都ディナリアか、人が多くて楽しそうだ」

「いいね。ディナリアはここから馬車で半日くらいだから、明日の朝に出発しようか」

「今日は冒険に備えて、ネネムゥの装備を調えましょう」


 明日架とリンディの手際の良さには感心するばかりだ。


 ネネムゥは僕のパッシブスキルで完全に守れるので、防具は必要ない。

 だから僕たちは武器屋にやってきた。


 武器屋に足を踏み入れると、剣や斧や槍や弓が壁中に所狭しと掛けられている。


「……いらっしゃい、ここは武器屋だ」


 奥のカウンターで店主が仁王立ちしている。


「……見慣れない顔だな。武器の選び方を教えてやろうか?」

「お願いします!」


 ネネムゥがぴんと立って両手をぎゅっと握りしめる。


「……裏庭に来てくれ」




 武器屋の裏庭には、試し斬り用の全身鎧が立てられていた。


 店主はその前で、白い棒を僕たちに見せる。


「そこら辺に落ちている木の棒だ。最弱の武器だが、素手よりはマシだな」


 50センチメートルほどの真っ直ぐな枝を、そのまま持ってきたようだ。


 店主は鎧の正面で棒を振り上げ、ビュンと振り下ろす。

 ガイーン、と衝撃が走る。


「まあ、こんなものだな」


 普通の木の棒を脇に置いた店主は、次に剣を手に取る。


「この剣はうちの謹製で攻撃力が高い。武器の情報を知りたければ、鑑定書で確かめるといい」


 そう言って剣を鎧に叩きつけ、真っ二つに割る。


「だが、大切なのは攻撃力だけではない。武器を選ぶためには、自分との相性を知らなければならない」


 鎧を壊してしまったので、僕たちは一度店内に戻り、店主がシンプルな両手斧を持ってくる。

 もう一度裏庭に出ると、さっき割れた鎧が嘘のように直っていた。


「この両手斧は攻撃力で言えば先ほどの剣より弱い。しかし、両手斧は私の得意武器だ」


 店主は鎧から離れて立ち、両手斧を軽々と振り上げる。

 重力に従うようにスッと振り下ろす。


 その瞬間に地に亀裂が走り、全身鎧はその下の大地ごと真っ二つになった。

 僕たちは開いた口が塞がらない。


「得意武器は、手に持ってみればわかる。気になる武器をみつけたら、ここの鎧で自由に試していい」


 と、店主は説明を締めくくった。


「……もう一度説明しようか?」

「いいえ」


 ネネムゥが答えて、僕たちは店内に戻る。


 ネネムゥはまず試しに両手斧を持とうとしてみたが、


「んんっ、重い」


 持ち上げることさえ出来ない。


「落ち込んではいけませんよ、試す武器はいくらでもありますから」


 リンディがフォローする。


 で、壁に掛けられた他の武器も全種類持ってみたが、全くしっくり来ない。


 残念ながら、ネネムゥには武器の才能はないようだ。

 失礼な言い方をすれば、僕と同じくらい酷い。


 それでも、何かしら持っていた方がいいだろう。

 そう考えながら僕は、足もとに落ちていた白い棒をなんとなく手に取って、上下に振る。


 気配を感じて隣を見ると、ネネムゥが手をこちらに差し出していた。


「一応、持ってみるか?」


 と手渡すと。


「わあっ」


 両手で握ったネネムゥが、目を見開く。


「この棒、すごく持ちやすいの!」


 大喜びで木の棒を左右に振ったり、大きく円を描いたり。

 そして手のひらに棒を立ててバランスをとり、片足立ちでくるくると回ってみせた。


「ネネムゥちゃんの得意武器、見つかったね。使い込めば、もっと体になじんでくるよ」


 明日架も自分のことのように喜んでいる。


「これで決まりですね。店主さん、鑑定書はありませんか?」


 リンディが、一部始終を仁王立ちで眺めていた店主に尋ねる。


「悪いが、そんな普通の棒の一本一本まではわざわざ鑑定していない」


 店主は首を振る。


「3ドーカで売ってやるから、どんな品質だったとしても後で『やっぱやめた』ってのはナシで頼む」

「それで構いませんよ。ではカードでお支払いします」


 リンディは礼儀正しい笑顔で金色のカードを取り出す。

 それを受けて、店主は黒のカードを取り出し、二枚を合わせる。

 二枚のカードからカチャカチャチーンと決済完了の合図が鳴った。


「……まいどあり。装備を忘れるんじゃないぞ」




 結局、普通の木の棒だけを買って武器屋を出た。

 王都でもっといい武器を見つけたら買い換えればいいだろう。


 ネネムゥが僕たちの方を向いた。


「ありがとう、ずっとずっと大事に使うの!」


 そう言って誇らしげに掲げた白い棒が一瞬、新緑色の淡い光をまとったような気がした。

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