3. パーティー申請は受理される
キュミリアの街に到着すると、冒険者ギルドの職員が慌てて叫ぶ。
「そんな大きな獲物、玄関からは入りません! 裏庭までお願いします」
僕たちの馬車をギルドの裏庭に案内してくれた。
「こりゃあ大物だ!」
威勢のいい職員たちが、引きずられてきたゲキトツサイをてきぱきと馬車から外した。
僕たちはギルドのカウンターに案内されていった。
「素材の買取をさせていただきます。恐れ入りますが、パーティー申請はお済みでしょうか?」
「パーティー申請?」
「どうせそんなことだろうと思っていましたよ、サトル」
リンディはため息をつきながらも、全く憤りを感じさせない様子で、アイテムバッグから一枚の書類を取り出す。
「わたしたちがパーティーとして認められるための申請書です。今日、サトルが来る前に二人で書いていたのですよ」
「ほとんどリンディちゃんが書いてくれたよね。リーダーまで引き受けてくれたから、本当に助かっちゃった」
「さあ、あとはサトルの署名だけです」
「悪いな、そこまでしてもらって」
手渡された申請書には、パーティー制度についての説明が書いてある。
記載内容は完璧だ。さすがはリンディである。
僕も署名し、受付の職員に渡す。
「承りました。これで、リンディ・マレットさん、琴橋明日架さん、雛形サトルさんは、パーティーとして認められました」
職員から、パーティー制度についての退屈な説明を受ける。
その間に、裏では素材の検証が済んでいたようだ。
「それでは、代金をお渡しします。ゲキトツサイ1体で、3500ドーカになります」
カウンターの上に、3枚の1000ドーカ金貨と、5枚の100ドーカ銀貨が輝いた。
「そして……おめでとうございます。皆様は一気にCランクに昇格です!」
職員が大々的に発表すると、酒場のテーブルから、
「いきなりCランクだなんて、やるじゃねえか!」
「こんなスピード出世、聞いたこともありませんわ!」
「新星の誕生を祝って、飲むぞー!」
歓声と共に拍手が巻き起こった。
「Cランクまで上がっちゃって、いいんですか?」
「低すぎるくらいですよ。むしろ、Cランクで留まられていてはギルドの損害です」
力説する受付、
「これだけの逸材なのに、どうして……」
震えながらうつむく。
やがてギルドに叫びが響き渡る。
「どうして、もっと早く登録してくれなかったんですかーっ!」
* * *
堂々とギルドを後にした僕たちは宿を取った。
天井が高く、四台のベッドの他に家具はほとんどない簡素な部屋。
「本当に三人同じ部屋でよかったのか?」
「ふふ、駆け出しの冒険者なのに、一人部屋なんて贅沢できないもの」
当然、稼ぎで見れば一人部屋ぐらい余裕だが、明日架たちはむだ遣いしない。
「パーティーランクというものは結構簡単に上がるんだな」
「簡単なのは、サトルのように特別な才能を持っている人だけですよ。苦労があるからこそ、感動も一入なのですが……」
「サトルちゃんは、あまり自分の評価を気にしないよね。でも、わたしはちゃんとサトルちゃんのいいところ、わかってるよ」
「そういえば、明日架に励まされなければ、僕は冒険に出ることもなかっただろう。明日架には人の長所を見つける才能がある」
リンディが僕の隣に腰を下ろして、
「その徹底して他人事なところ、もうちょっとどうにかなりませんかね」
いたずらっぽく、僕の頬に手を添えて引っ張ろうとした。
だが『因果応報』だ。
逆にリンディの頬が、みにょんと伸びる。
「あんほゆーは、ほうぇはいああいんえふはあ」
「僕は所詮、流されてるだけの存在だ。僕を流してる奴らを褒めてやればいい」
「そんなサトルちゃんだから、近くにいたいって思うんだよ」
明日架も僕の側に座る。
「今日だって、サトルちゃんが冒険者ギルドに行くことを決めたからこうなったんだもの」
明日架まで僕の頬をつまんできた。
「ははあ、はほうふんあほおあんあえいーお」
「あまり自分で決めた気がしないんだがな」
「そうかもしれないが、明日架とリンディがいなかったら行かなかっただろう」
なぜ二人は笑っているのか、わからない。
あげくのはてに、リンディと明日架も頬を取り合って、
「あふはあひょっほはほうおあわやはひふいえふー」
「いんいーひゃんあっへはほうふんおひんふぁいわっはいー」
あまりにおかしくて、僕も笑った。