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2. ゲキトツサイは倒れる

 次の日、つまり冒険が始まる日。


 僕と明日架とリンディは、街の冒険者ギルドで待ち合わせることになっていた。


 冒険者とは元来、「危ない所に行く奴ら」を表す言葉だった。

 今では、凶悪な獣を狩ったり、珍しい素材を探し出したり、旅人の護衛をしたりと、遠出して収入を得る者全般を指す。

 冒険者ギルドは、供給の安定しない素材を売買し、不定期な依頼の仲介をしてくれる場所だ。

 そして、冒険者たちの酒場でもある。


 僕は集合時間をきちんと守るが、あの二人はもっと先に来ているだろうから、僕だけが遅れて着く運命だ。

 ギルドは街の入り口近くにあって、初めてでも道に迷う心配はなかった。

 頑丈なレンガ造りの黒い建物に入り、仲間を探すと、


「おはようございます、サトル」


 意外なことに、先にテーブルに着いていたのはリンディだけだった。


「おはよう、リンディ。待たせてしまったな」

「いえ、わたしは決して待ってなどいませんよ。ちょうど今来たところですから」

「ということは、同じ時間に来る運命だったんだな」

「運命? 何を言い出すんですか、急に……」


 リンディが口ごもっていると、


「おはよう、サトルちゃん。待たせちゃったかな」


 後ろから明日架がやって来た。


「おはよう、明日架。僕も今まさに来たところだよ」


 僕も挨拶を返す。


「じゃあ、運命だね」


 目を輝せる明日架。

 リンディは颯爽と立ち上がった。


「馬車を借りて出発しましょう」




 見事に晴れ渡る空。

 明日架の操る馬車が遥かな平原をゆく。


 リンディと向かい合って座る。

 馬車の壁はほとんど透明な窓で、風景がよく見える。

 草原に涼しい風が吹き抜ける。


「今日はどこに行くの?」


 僕はリンディに尋ねる。


「泉の狩り場ですよ」


 とリンディ、


「新米冒険者の定番、ヘイゲンウサギを狩りましょう。初めてなら、30ドーカも稼げば上等で——」

「右から、何か来るよ!」


 運転していた明日架が声を上げる、


「こっちに走ってくる。大きくて、速い」

「来てしまいましたか、悪名高いアレが」


 リンディが悪い微笑みして、振り返る、


「ゲキトツサイ、障害を力尽くで排除して駆け抜ける、はた迷惑な存在ですよ」

「ほら、やっぱりサトルちゃんがいてよかったでしょ。わたしたちラッキーだよ」


 明日架が馬車を止める。


「ええ、サトルを仕掛けて仕留めましょう」


 リンディが馬車から降りて、僕も続く。


「ゲキトツサイはあの方向からこちらに向かって来ます」


 とリンディが指さす。

 僕はリンディの後ろに立つ。


 馬車を進ませた明日架が降りてくる。

 僕の後ろから肩に手を乗せて、気配の方をのぞく。


「もう半歩、左だね」


 明日架は僕が動いたのを確認すると、


「うん、ぴったり。待避っ」


 リンディと一緒に逃げ出して、馬車の陰に隠れた。


 そのとき、ゲキトツサイは僕にはよく見えないほど遠くにいた。

 次の瞬間には、巨体が目の前にいた。


 それでも僕はただ立っていた。

 僕が何もしなくても、僕のパッシブスキルがやってくれる。

 『因果応報』が自動で僕への攻撃を跳ね返す。


 僕の胸元で、鈍い音が響いた。

 ゲキトツサイは、決して崩れないに立ち塞がられたかのように、止まって潰れる。

 そして、倒れた。


 ゲキトツサイは僕を撥ね飛ばそうとしたばかりに、逆に真正面からの衝撃を食らったのだ。

 サイはもう動かない。


「珍しいもの見ちゃった。さすがはサトルちゃん」

「あなたは強いですね」


 馬車から明日架とリンディが降りてくる。


「僕にはこれしか出来ないんだ」


 僕はパッシブスキルのおかげで周りから傷つけられないことだけを頼りに今まで生きてきた。

 他の人がするような、努力とか、決断とか、無縁だった。


「だから、サイを運ぶのも任せるよ」

「そうですね、馬車の後ろにつないで引いていきましょう」


 リンディが片方の手で馬車の後枠を、もう片方の手でサイの足を掴む。

 明日架も同じようにした。


「『チェーン』」


 二人がスキルを発動する。

 二本の太い鎖が現れて、馬車とサイをしっかりとつなぎ止めた。

 僕以外はみんな、こういう便利なスキルを当たり前のように使っている。


「十分な成果だろう。馬車も重くなるし、帰ろうか。ヘイゲンウサギは狩っていないが」

「なにも、ゲキトツサイを狩っておいてヘイゲンウサギを心配することはないでしょう」

「このペースで狩り続けちゃうと、キュミリアの周りから動物がいなくなっちゃうもんね。帰ろう」


 明日架が手綱を引く。

 馬車は大きな獲物を引きずりながら、キュミリアの街へと走り出した。

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