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11. 腕相撲は逆転する

 ディナリア城客室。


 僕はイザベルに案内された個室の机で休んでいた。

 広いディナリア城で迷わないように、おとなしくしていたのだ。

 飾り戸棚も、大きなのっぽの振り子時計も、一人の庶民には過ぎたものである。


 突然、バンと正面の扉が開く。


「うわあーっ」


 騎士が必死の形相で駆け込んできて、机越しに僕の手を取る。

 人が休んでいるところを襲うとはひどい不意打ちだ。

 そのまま腕相撲の体勢。


「おうっ」


 騎士は僕の腕を引き倒して転んだ。


「客人にとんだ粗相を、申し訳ございません」


 平謝りの騎士に返す間もなく、客室に三人の騎士がなだれ込む。


「おうっ」

「おうっ」

「おうっ」


 一人ずつ僕の手を取っては無抵抗に倒れる。


 さらに、混乱した様子のくせ者がもう一人やって来た。


「おっとっと、なんだなんだ」


 その右手は真っ赤に燃えている。


「む、そなたは昨日の——」

「おお、ネネムゥに会いに孤児院に来ていた魔術士のファリーダじゃないか」


 と言っている間に、燃えさかる手が僕の手をつかむ。

 ファリーダの腕が二倍燃える。

 バタンと倒れる。


「ぬうっ、歯が立たん」

「なんと、火が着いたファリーダでさえ相手にならないのか!」


 騎士は歓声を上げる。

 僕にとってはむなしい勝利だ。


「済まぬサトル、決してそなたを狙ったわけではないのだ」


 ファリーダは弁解する。


「我はイザベルと勝負しようとしていたのだがな」


 開けっぱなしの扉に目を移すと、


「ここに来ていたか」


 騎士団長イザベルが現れた。


「イザベルがサトルの仲間になったから、『人身供犠』でサトルに腕相撲をかばわれたのだ」


 ファリーダに指摘されて、イザベルも驚いている。


「ファリーダが僕の手を振り切って、腕を燃やしたまま飛び出していったのには面食らったよ」

「よもや、こうなると知っていて勝負を受けたのではあるまいな、いやはや、騎士団長閣下も人が悪い」


 ファリーダがからかうと、


「いや、本当に知らなかったのさ。パッシブスキルは見境がないね。腕相撲くらい見逃してくれればいいのに」


 イザベルが笑って首を振る。


「パッシブスキルのことは周知しておくとして、やられっぱなしでは話がつまらない。僕が仇を討とう」


 イザベルが腕をまくったが、無意味な勝負は避けたい。


「やめよう。『因果応報』に腕相撲で勝てるわけがない」

「勝つ方法を思いついのさ。さあサトル、僕と勝負だ」

「それはそれで、負けるとわかっている勝負はしたくないな」

「まあまあ、勝つと口だけで言って済ませるのは滑稽だ。僕が勝つ方法を見てみたくはないか?」


 イザベルが懇願する。


「仕方ないな」


 机に肘を立て、手を握り合う。

 イザベルの腕は太くないし燃えてもいないが、スキル込みの腕力ならイザベルが上だ。


「イザベルが勝てる方法とやらを見せてもらおうか」

「遠慮なくいくよ」


 二人の拳を、上からファリーダが押さえる。


「レディ、ゴー!」

「押してダメなら、引けばいい!」


 イザベルが腕に力を込めて、僕の腕を全力で引っ張った。

 『因果応報』でイザベルの腕が僕の腕に引きずり込まれる。

 それに巻き込まれて僕の腕が押し込まれて傾く。


 イザベルの腕を押し上げる僕に対抗して、イザベルは力強く慎重に僕の腕を引き上げる。


 僕の手の甲はますます机に近づく。

 それを見たイザベルは最後の一押し(・・・)をしようとして——。


「しまった」


 『因果応報』で押し返され、立て直そうとするも利かず、あれよという間に手の甲を机についた。

 その勢いで拳を支点に宙返りしながら横にふっ飛んでカーペットに膝をつく。


「はあ、はあ、精進が足りなかったよ。君は強い」


 イザベルは肩で息をしながら大いに悔しがっている。


「イザベルも健闘したな。これで満足しただろう」

「ああ、手応えはつかんだ」


 イザベルが不敵に笑って立ち上がる。


「だからもう一回だけ勝負だ! 次は絶対に勝つから」

「負けるとわかっている勝負はしたくないな」

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