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フクチョーに起こされた日以来、
俺は放課後に寝ることをやめた。
他の生徒にまぎれて校門をくぐり、
いつもより少し明るい空を見上げて帰る。
……そんな日が一週間続いた。
フクチョーにも、委員長にも、会いたくなかった。
話したくなかった。声も、聞きたくなかった。
二人を見るとイライラして、モヤモヤして……
自分が自分じゃない気がして、
嫌になるんだ。
今日もまた俺は、教室に残らず家に帰ろうと思ってた。
いや、駅の一歩手前まで来ていたのだが、
俺は間抜けなことに鞄を、
宿題の入った鞄を、教室に忘れてきてしまったのだ!!
……ほんと、バカだな。
鞄ごと忘れるとかねぇわ。。
と、いうわけで、俺は今学校に居ます。
………教室の前にいます。
「いや。流石に一週間経てば委員長も待っていたりしないだろう。」
誰にいうわけでなく俺はそう呟き、
教室のドアを開けた。
「うぃーす……っ!?」
教室の中には、ポツンと、顔をふせている委員長が、
椅子に座っていた。
「委員長!? まだ残ってたのか!?
ってかそこ俺のせ……き……?」
動かない、どころか、顔を机に伏せたままの委員長に違和感を感じ、
俺はそっと近づいた。
「…スー。…スー。」
…………ずいぶんと可愛らしい寝息だな。
「―――寝てるのか。はぁ。良かった。」
ホッとしたやら、呆れたやら、
まぁ、気持ちよさそうだし……いいか。
とは言え、このまま放置して帰るのも気が引ける。
起こしてやるか。
「おーい。委員長。起きろー。」
「んー?ぅん。 ……あれ?私、寝てた?」
「おう。俺の席でぐっすりと。」
「あ、ごめんなさい。」
「あぁ、いいっていいって。
いつも起こしてくれてたお礼ってことで!」
「んっ。ありがとう。」
そうやって無防備に笑いかけられると……
これ以上はダメだ。
「じゃ、俺は帰るよ。」
「まって!」
委員長は叫ぶようにそう言い、
帰ろうとした俺の腕を引っ張った。
「ん?どうし」
「どうして最近はすぐに帰っちゃうの!?」
「どうしてって……」
そんな真っ直ぐな目で見られると、辛い。
俺は委員長の目を見ることが出来ずに
逸らしてしまった。
「っ!? どうしてよ……私、この時間が楽しみだったのにっ」
消え入りそうなほどか細い声でそう言った委員長は今にも
泣きそうだった。
「そんなの、委員長には関係ないだろ!!」
そう言って腕を振り払い、
逃げるように教室を出ていく。
「私っ、待ってるから!!」
――――、叫び声は、聞こえなかった。