008 気に食わない奴
担当:宮居
「見ての通りの水槽です。何が入るかお分かりですか?」
水槽自体は大きいが、この部屋が小さい分入るものは少ない。
「海の生き物と言いたいところだけれど、そんな生易しいものではないわよね?」
「さすがです」
「奴隷なんて入れたら面白いでしょうね」
そう笑顔で言うとシナの後ろから国王が入ってきた。
「アンジェ、お主は聡い者だな。まだまだ子供であろうに、本当に色々知っておるな」
……褒めるのか貶すのかどちらかにしようか。
出かかった言葉を飲んでお礼を言う。
「お褒め頂き光栄です、国王」
「今回、新しい奴隷が手に入ったんだ。今息子が連れて来るだろう」
国王がそう言った数分後、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
カティであろう。
……あたし、あいつ精神的に好かないから会いたく無いんだけどそうも言っていられない。
「誰だ?」
国王が問う。
「カティでございます」
「入りたまえ」
そうするとカティが入ってきた。うん、やっぱり近くで何度見ても兄様のほうがイケメンだ。
「やあ、アンジェ、ルイス。よく来たね」
「国王様に呼ばれたもので。パーティーを開くとのことでしたが、王子が新しい奴隷を連れて来るとのことだったので」
「王子でなくカティでいい。父上はアンジェにそんなことを話したのか。女の子にそんな話してどうするんです」
「いいえ、私も興味があったので」
と言っても、興味あるのはエルだけだけど。
「そうなのか。アンジェとは話が合いそうだ」
合いたくも無いけど。
「それで……新しい奴隷と言うのは?」
「そろそろ上から入れられると思うんだが……あぁ、ほら、あれだ」
そう言われて上を向くと、ゆっくり人型の何かが降りてくる。
「……合成獣、ですか?」
人、にしては角が生えていたりやけに爪が鋭かったりするので純粋な人間でないことは確かであった。
「おお!合成獣まで知っているのか!」
「以前、書物で読んだことがありまして、実物を見たことはまだありませんでしたが……」
それにしても傷が多い。動きもしないが生きているのだろうか。
じっと見つめる。するとカティは悟ったのだろう。
「傷は多いが大したことはない。捕まえる際に少し付けてしまったのだ。この水槽には特別な治癒能力が備え付けられてある。直に回復する」
と説明してくれた。
「なるほど、そうでしたか」
どうやらこの合成獣は森の首領核の者だったらしく、一番強そうで、丈夫だと判断して捕獲したそうだ。
百獣の王が混ざっているという。
こんな奴隷のこと話していても、肝心なエルには会えない。どうやって行くべきか……。
やはりシナを説得していくのがベストなのだろうか。
いやでも、さっきの冷淡的な表情……。きっと何かがある。どうにかしてシナと話をしなければならない。
「国王様、少しシナと話をしてみたいのですが」
「シナに何かあるのかね?」
一瞬の人を疑うような目つき。国王の称号も伊達ではないようだ。
「彼女の能力には大変興味深くございます。私のような凡人が聞くのもアレですが、是非能力についてどのようなものか聞いてみたいのです。この後カティ様のパーティーもありますので、終わった後にシナに時間があれば、と思います」
あわよくば、説得出来れば。そうすれば問題ない。
先ほどの疑いは晴れたのか、和やかに笑って国王は言った。
「いいだろう。だが今日のパーティー後ではもう時間も遅い。アンジェもルイスも大変だろうから明日にするといい。その方がゆっくり、そして確実に色々聞けるだろう」
「アンジェは勉強家だな。私も見習わなくては」
「ありがとうございます」
カティが何か言ったようだがあまり気にとめずにいた。
パーティーはその後それはそれは盛大に行われて、多くの人々が参加していた。どうせ、金持ちの裕福な所の家族ばかりであろうと思って大して混ざろうとはしなかった。ルイスの馬鹿は普通にいってご馳走をたらふく食べていたが。そんなことどうでもいい。
あたしは立てていた作戦をどうやって明日決行していくかを頭の中でひたすら巡らせていた。
そして、引っ掛かることが2つ。
シナの過去、そしてキーと呼ばれる物の正体。
もしかしたら、キーはエルかその身内の可能性がある。
そしたら厄介だ。きっとあの国王は女子供でもキーを奪えば見せしめにあった人物のようにされるだろう。そうなら尚更注意深くしていかなければならない。宿に戻ったら作戦をもっと細かく練り直そう。
そして、絶対シナをこちら側につけて、エルを、エルの石をいただく。
そう考えながらパーティー後速やかに宿に戻った。
勿論、ルイスを置いて。
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