007 key
担当:宮居
-翌朝-
こんこん、と扉がノックされる。間延びした返事をすると扉が開いた。
そこに立っていたのは……
「シナ……」
「おはようございますアンジェ様。国王がお呼びです。お迎えに上がりました」
「シナが来るとは思わなかったわ…」
「……。」
準備をするのをじっと見ている。
「お待たせ」
「いえ。では行きましょう。お連れの方は?」
ルイスこことを言ってるのだろう。しかしそれには答えてやらない。
無言のまま、外へ出る。
シナは疑問を持ちながらも何も言わなかった。
朝早い商店街を2人で歩く。
……ルイスも来たみたいだ。付いてくる足音がした。
シナも気づいているのだろう。しかし何も言わない。振り向きもしない。
城の門の前まで着いた。
門兵がいる。シナが目で合図すると門が開けられた。
あたしのことを気にもしない。1度通ったことがあるからってそれでいいの?とも思ったのだけど、見えてないかのようだ。
ルイスが門兵の前で手を振っている。門兵は気にしてない。見えてないのか?本当に?
「国王様のいるところまで、貴女たちの姿は隠させていただきます」
シナが静かに言った。
手を見せてくる。
……鎖が出ているのが見えた。
呪の力を使っているのだろう。
シナの言葉に頷いた。
しかしこの警戒よう……何かあったのだろうか。
聞いてみればわかるか……。
とりあえず黙ってシナに付いていく。
「おぉ、よく来たな、アンジェ。シナありがとう。2人の呪いを解いて呼ぶまで下がっていて良いぞ」
他の人との対応が違う。シナはやはり特別な奴隷らしい。
一礼してシナが退室した。鎖は外れてる。
「さてさて……先に色々、話せばならないことがある」
真剣な表情で言う。
「予定していた愛機は今日の午後帰還。共に我が息子も帰ってくる。誇れる我が子だ。それまでに解決しなければいけないことがある」
王が立ち上がって、椅子の裏にあった扉をノックした。
傷だらけになった人がその扉から入ってくる。
奴隷……ではなさそうなのだが……。昨日、見た人のように思える。確かではないが……
「正直に言ってくれよ」
その人を連れて王は目の前まで来た。これは見せしめか。
「私たちのキー……逃がしたのは、お前らか?」
キー……?
「失礼ながら、キーとは何のことでしょうか……?」
「ふむ……本当に知らないのか?確かめさせてもいいぞ」
「本当に、知りません」
「……まぁ君たちがあれから城に戻って奴隷を逃がすなんて真似、しないと思ったんだが……念のため、な。後ろの少年も何も知らないか?」
ルイスにも問うた。声は発しない。首を横に振ったらしい。
「そうか……とりあえず今は信じるとしよう」
「ありがとうございます」
「国王様!」
後ろの扉が開いて誰かが入ってきた。
会ったことない人だ。
「キーが見つかりましたっ!」
「そうか。犯人はわかるか?」
「いいえ。そちらの方はまだ……。シナを連れて現場へ向かいたいのですが」
「あぁ。シナ!」
国王がシナを呼ぶ。後ろの扉からシナが入室してきた。
「お呼びでしょうか」
「聞こえていたか?キーが見つかったらしい」
「はい。わかりました」
冷淡的な声でシナは答える。
そして呼びに来た男の方へ歩いていき──
「行ったか。あとはなんとかやってくれるだろう」
姿を消した。
「あれも、呪いの1種だよ。シナ自身にかかってる、呪いのな」
王が静かに言う。
「シナは生まれてからすぐ、両親に棄てられた。近くの森にだ。森の中を彷徨ったのに彼女に拾われた。そして一緒に生活していた、のだが……」
「その方に、ご不幸なことがあったのですか?」
「いや……まぁそう言っても語弊ではない。彼女はまだ生きている、んだが……意識がないんだ。シナを庇って、眠っている。そろそろ、3年が経つんじゃなかったか」
「そう、なのですか……」
正直、何を思って王がこんなことを話すのかはわからない。
知っていても仕方ないどころか、知らない方が良いことだと思う。
シナの過去……。何から重要な意図が隠されてるのか?
「ただいま戻りました」
後ろから声がした。勿論主はシナだ。
腕に傷だらけの人……を抱いている。
あれが、おそらくキー……。
「ふむ。おかえり。よくやった」
シナは声を発しず一礼する。
そしてまた姿を消した。
「おそらく地下牢だな」
「よくわかりますね」
「あれを抱えたまま、シナが別のところへ行くとは考えられない。暫くは帰ってこないか……どうだアンジェ。そろそろ息子を迎えに行こうと思うのだが、来るか?」
「是非とも」
少々重かった空気が、晴れるなら……どこだっていい。
とにかく、この部屋から出たかった。
なにか……良からぬものを感じる……。
「そうか。では行こう。我が愛機も還ってくる。盛大に迎え、パーティでも開こうではないか」
王と共に退室し、先に城から出ているようにと言われ、外に出ようとする。
途中、シナに会った。
暫くは地下牢から動かないと思っていたのでここにいるとは思わなかった。
「シナ……」
「王より、案内を任されております」
静かな声で言う。
感情の波が感じられない冷淡的な声──
王は今さっき、暫く帰ってこないんじゃないかって話してたけど……言う必要はないか。
「ありがとう。是非とも案内してください」
シナが頷き、前を歩き始めた。付いていく。
「……ちょっと怖い」
ルイスが小さく、あたしに聞こえるように呟いた。
こればかりは、少し共感できる。
小さく、頷いてやった。
外に出て港へ向かう。
もう既にかなりの人が集まっていた。
国王の息子が帰ってくるのを待っているのか。それとも──。
「お待たせしてしまったかな?」
後ろから王に声をかけられる。
「いえ、そんなことはございません」
一礼して答えた。
王は静かに笑った。
「んふふ。もうすぐ帰ってくるみたいですわよ?」
さらに後ろから声がした。
王妃だ。お喋り。
「そうかそうか。国民も集まってきたな」
「息子が喜びますね」
「そうだな。あいつは、この国のことが大好きだろうから」
王と王妃が会話を続ける。
シナは隣で黙って聞いていた。
一言も発しない、表情も変えない。
あたしも、ルイスも、それを見ながら静かに王たちの会話を聞いていた。
「帰ってきたぞー!」
暫くして声が上がった。
とっておきのお出ましだ。
海の方に目をやると、ちょうど潜水艦が上がってくるところだった。
なにで作られているのだろうか。
機体は日の光を反射し、銀色に光っている。
とても、大きい。
かなり近くまで接近してから、ハッチが開いた。
「皆の者。帰ったぞ」
リーダーらしき人物が言い、手を上げる。
歓声が響いた。
王妃の方をちらっと見ると誇らしげに、そして目に涙を少し溜め、その男を見ていた。
潜水艦上部から陸へ飛び降りる。
まっすぐ、彼は王の元へ歩いてきた。
「父上、ただ今帰りました」
この男が……息子……。
王の容姿を見ると、本当に血が繋がっているのか不思議に思う。
もしかしたら、養子なのかもしれない。
その可能性が充分あるくらい、彼らは似ていなかった。
少々ふくよかな体型で、お世辞にも美形とは言えない国王と、何処かこことは違う国の、もっと裕福な家に生まれてそうなイケメン。この国の雰囲気より、多分あたしがいた国の雰囲気に合ってる。
まぁ、兄様には負けるけど。
兄様のことを思い出すと同時に、エルのことも思い出した。
あの首輪の石を、頂かなくてはならない……。
首輪が外れない物だとすれば、エルに付いてきてもらうしかない。
どうすれば彼女を説得できるのか。
そこまで考え、まだ問題があることに気づいた。
シナだ。
彼女をどうにかしなければ、そもそもエルをこの国から出すことが出来ない。
課題が多いな……。
王とその息子が話している間、あたしはずっと考えていた。
だから、ルイスにつつかれるまで、息子に話しかけられていると気づかなかった。
「あ……すみません」
「いえいえ。構いませんよ。いかがなさいました?」
「いや……お気になさらず」
「そうですか……」
なんだこいつ。
あたしはこいつから、すごく嫌な何かを感じていた。
「さて、そろそろパーティの準備をさせようか。カティは国を回りなさい。国民の皆様に挨拶するんだ。アンジェとルイスはどうする?」
この息子はカティと言うらしい。
「1度、宿に戻ろうかと」
「わかった。準備が出来たら使いをよこそう。それまでゆっくりしてるがいい」
「ありがとうございます」
宿に帰り、あたしは思考を再開した。
どうすれば、シナを、エルを、説得できるのか。
「おねぇちゃん、顔怖い」
ルイスが言ってくる。
なんでこいつはここにいるんだ。
「うるさい黙れ無能が」
紙を取り出しペンを走らせる。
作戦、と呼ぶのもどうかと思うが、思いついた案を書き並べる。
ルイスには、覗かせない。
辺りを警戒しながら書き進める。
暫くして扉がノックがされた。
予想通り、扉の前に立っていたのはシナだった。
「国王がお呼びです。パーティに参加して欲しいと。カティ様も挨拶なさるようで」
「わかったわ」
ペンを置き、シナに付いていく。
城に入る際、そっとシナの手を確認するとまた鎖が出ていた。
念のための警戒だろうか。
門を潜るとすぐに鎖が消えた。
いつの間にか、シナの手を目で追っている。
「なんとも言えないのですが、とりあえず解呪しておきます。カティ様が挨拶なさる前に恐らく公表があるかと」
「そうね。あたしも気を張っておくわ」
「そうしてください」
シナを先頭に1列で歩く。
向かっている先は……何処なのだろうか?
パーティというからにはそれなりの人数が集まれる広いホール……とかだと思うのだが。
今歩いているところの壁に扉は付いていない。
この先にホールがあるのだろうか?
そんな空気ではないー……
「シナ?」
「なんです?」
前を歩く背中に声をかけ尋ねる。
「自分は言われたところに、貴方たちを案内するよう、言われてるだけですので」
冷たい返答が返ってきた。
「何処に行くかだけでも教えてくれないかしら?」
「この通路の奥です」
答えはとても短かった。
長い通路を歩き、辿りついたところは──
「なに、ここ」
真ん中に大きな縦型水槽のある、小さな部屋だった。
4000ktkr←
少し長めにしてみましたよい(前回短かかったからね)
next→11月1日 20時