066 苦労事の香り
担当:四葩
「……ん」
カーテンから漏れる光が顔に当たって眩しい
「朝か…」
寝起きでぼぅとする思考を少しずつクリアにしていく
たしか
昨日は落とした呪石と新しい呪石の在処だった子を捕まえて
目になっている呪石とシナが作る義眼と交換にすることになったんだっけ
大丈夫。段々動くようになってきたわね。
あたしの思考
隣のベッドを見ればエルが小さな寝息をたてながら眠っていた。
「二度寝しちゃおうかしら」
だって今日から自由行動なんだし
でも、うーん……シナが義眼作りしてるのにそれはどうなんだろう…良心が痛むなぁ
「アンジェ起きて」
目を開けるとエルがこちらを覗き込んでいた。
「…ん、エル。いつの間に起き上がったの」
今まで寝息をたててたのに瞬間移動したみたいね
「いつの間にって…少し前ぐらいよ。ふふっアンジェ寝ぼけているの」
柔らかく笑うエルの言葉に自分が図らずも二度寝してしまったことを知る。
ごめんシナ。ベッドの誘惑に負けてしまったわ
「さて、何をしようかしら」
エルに起こされたあたしは身支度を整え予定を思案する
「王宮へ行くのはどうかな」
「そうね。ルイにも見てきたらって言われてるし」
今日の目的が決まると同時にコンコンッとドアがノックされた。
「はい。どなたですか」
「おはようアンジェ。ロートよ」
「あら、おはようロート。あぁそういえば話たいことがあるのよね」
「話したいのは私じゃなくて……替わるね」
部屋に招き入れると早々にフードを被った。
「よぉ、昨日ぶりだな」
見た目が同じなのに雰囲気ががらりとかわる
本当に別人が入っているという感じがするのよね
「いらっしゃいロート。まぁ立ち話もなんだし座ってて。お茶淹れてくるわ」
「んで、話したいことってなにかしら」
淹れてきた紅茶で一息いれてからロートに話を促す
「俺がなんで女のロートの中のいるのか疑問に思ってただろう」
「確かに疑問に思っていたわね。ここの住人じゃないんでしょ」
「そう。この国のというよりこの世界の住人じゃないんだ」
「はぁ、どういうこと」
この世界ってスケール大きくないか
「ようは交わることもない平行世界が呪石の力で弛みができて接してしまったと思ってくれたらいい」
「ふーん。なら貴方は別世界のロートってことになるのね」
「おおよそそんな感じだな。でここからが本題なんだが義眼の交換についてだ」
「なにか問題でもあるの」
「俺は義眼のせいで世界が弛んだと思ってる。つまり義眼がその機能をなくしたとき俺はどうなるのか」
神妙な顔つきのロートが言う。
確かに当事者だし気になるのだろ
「考えられるのは元の世界に戻るってことよね。あと考えられるのは……」
「俺の存在そのものがなかったことになるのか、だな」
言うのを躊躇ったら本人がそういってきた。
自分がなかったことになるなんて、そんなの
「まぁその辺どうなのか聞きたかったんだけど…その様子じゃわからないよな」
「……ルイならわかるかもしれない。たぶんたけど」
「…ごめん外出中だったみたい」
ルイの部屋に行くと誰もいなかった。
同室のシナさえもいないのだ。
ちなみにその隣の部屋にいるはずのヤオまでいない
忙しいのかもしれないけど一言ほしいのよね
「いいさ、とりあえずそれが疑問に思ってるってことは把握していてほしいだけだからな」
「わかったルイに訊いておくから」
「おう。そういえば出掛けるんじゃないのか。来たとき身支度してたもんな」
「ええ、王宮に行こうと思ってて」
「なら一緒に行ってやろうか。入城するのに国民のカードがいるしな」
「そうなのね助かるわ」
……気まずい
王宮を目指してエルとロートと伴って歩いている。
ロートは今フードを外して女の子モードだ
このモードは無口なんだなぁ
エルも話さないからひたすら無言の行進だ
「ねぇロート。入れ替わるスイッチがフードなのはなぜ」
沈黙を破ったのはエルだった。
「…呪石をくれた人からもらったものなの。それが作用しているのかもしれない」
「そうなの…このフードもねアンジェからもらった布地から作ったの」
「そうなんだ……じゃあ大事なものだね」
「ええとても大事なものよ」
二人の会話に和んだ。エル大事にしてくれてるんだ。なんだか嬉しい
そこからぽつりぽつりと会話が続く
「……えっロートって果物屋の娘なのっ」
「…そうだけど」
突然口を挟んだあたしにロートが驚く
「あぁごめん。いやねロートのこと捜すのに果物屋に行ったのよ。貴方リンゴ持ってたでしょ。店主も教えてくれればいいのに…まぁ家族のでも個人情報を守るっていうのは美点なんでしょうけど」
「そうじゃない…あの人はわたしのこと不気味だって思ってる」
ロートはそういうとフードを被り俯いてしまった。
「辛気くさい空気になっちまったな」
「ごめん、ロートは…」
入れ替わったもう一人のロートに訊くも首を振られる。
「今のは別にアンジェのせいじゃねえよ…俺が初めてここで目を覚ましたとき目の前にいたのが父親だったんだよ。それからだな不気味がられるようになってのは」
「そっか。やっぱ知らなかったとは言え悪いことをしたわね」
「まぁそのうちひょっこり出てくるだろ。見えてきたぞ城」
存在感が凄い石造りで出来た城へ近づく
門番はいなくて正門のわきにパネルがある。それにロートがカードをかざすと正門がひとりでに開く。
「これが城内なの」
きらびやかさがなくどこまでもシンプルな内部は今まで見たものに比べると質素というよりは機械的であると思った
「あっアンジェ王宮で何がしたいのか訊いてなかったな何するんだ」
「あぁうん。王に会えればなって思ってたんだけど」
「ん、アンジェ残念だけど王には会えないぞ」
「なんでかしら」
「基本側近にしか会えないんだよ。国民は姿すら観たこともないんじゃねえかな」
「ふうんそうなの。今回は会えなくてもいっか。呪石が手にはいるんだし」
「ならよかった。暇なら王宮の図書館なら貸し出しもしてるし便利だぞ」
「それいいかもね。そうしようかな」
目的も決まりロートについて歩き出す。
『アンジェ今大丈夫か』
「ルイ、大丈夫よ今王宮の図書館に向かっているの」
『ちょうどいいな。今側近のクレズっていう奴がオレ宛の荷物渡すから部屋に置いておいてくれるか』
「いいわよ」
『頼んだ。クレズは長身赤髪つり目だから』
「わかった」
通信を切るとエルに袖を引かれる
「ルイからよ。なんか知り合いが荷物渡すから部屋に置いておいてほしいって」
「わかった」
図書館はけっこう広かった。
ジャンルで別れていて伝記、ファンタジー、学者が読みそうな難しそうな本、数は少ないけど呪術書っぽいものまである
背表紙に目を走らせながら面白そうなのを手にとっていく。
エルも少し離れたところで本を眺めていてロートは本は眺めず壁にある掲示物を見ていた。
「アンジェさんいますか」
各自が好きに眺めていたら男性の声が入り口から響いて、目を向けると長身赤髪つり目と聞いていた通りの人が立っていた。
「クレズさんですか」
「はい。これ言われてた物です」
ずいっと差し出されたのは鍵穴の付いた箱だった。少し重い
「はい確かに」
「あっ本を借りるならそちらの機械に背表紙をかざしてください。貸し出し記録が出ますから、それが証明になるんで」
「わかったわ。それにしてもこの国って変にハイテクなのね」
「失礼。今なんと…」
「この国はハイテクなのねって、ほら街並みに似合わず…とは失礼かもしれないけど正門がカード認証だったり貸し出しが機械にさせてたりしてるじゃない。他の国にはなかったし」
いつの間にか背後にいたエルも頷く。
「…ふむ……」
「クレズさんどうしたの」
思案顔をしていたクレズさんがこちらをじっと見つめる。
つり目だから若干睨まれているように感じる
「こちらへ見せたいものがあります」
さっと背を向けたクレズさんにただただ着いていくしかなかった。
3k突破してました☺️




