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少女と呪石とほどほど人外  作者: 宮居/四葩
第3章
45/80

044 昔の出来事

担当:四葩

「当時のオレは研究がしたくてこの国に来たんだ。ある人に会うために……「そのある人というのが私の母、フヨンだったのですよ」

ニコルの言葉に割って入ったのは扉に寄りかかるヤオだった。

「なんであんたがここに?アンジェたちはどうしたんだ」

ルイが驚きつつも訊き出す。

「アンジェさん方との話も早々に終わりましたので……ふむ……まだフヨンが外の域に送っている最中ですよ。あなた方はやはり此方にいらしていたのですね」

実際に眼で見たのだろう……言葉の途中目を閉じながらアンジェたちのことをヤオが答えた。


「やはりって貴方、予知もできるの」

「いえいえそんな大層なことは出来ません。ただ呪鎖を使うならばニコル殿の知り合いかと……推測したまでですよ」

「なるほどな……ニコル兄さんの知り合いだし、そうなるか」

「でもなんで薬師が学の域に入れたのかしら。ニコル兄さんに招声してもらったにしても……それって持続するものなの」

シナの質問にヤオが袂から結び目の付いた布を取り出してみせた。

「ご明察ですシナさん。招声は基本継続されます。加えて、した者がされた者の域での行いに全ての責任をもつというものです。……フヨンを罪人にしないでくださいね」

「ん?フヨンってあんたの母親もフヨンなんだよな」

ルイの言葉に応えたのは吹き出す一歩前なニコル

「そうそう、こいつ引き取った嬢ちゃんの名付けするのに母親の名前使っただもんな…まぁおかげでヤオに会えて法術も完成したんだけどな」

近くに寄ったヤオを小突く

「女性と接する機会が乏しく結局母の名しか良いものが浮ばなかったのですよ……まさか四年も前に故人となった人を捜している人が現れるなんて思いませんでしたから」

ヤオが苦笑してニコルをみるとニコルはしみじみと頷いた。

「あの時は色んな偶然が重なったからな…最後に法術で眼鏡が外れれば大団円だったのに」

「やはり最後の調合が改善できればもしくは……と、いえ過ぎたことは仕方ありませんね」

「ニコル兄さんと会ったときには既に呪石持ってたのね」

「ええ、呪石を受け取った次の日に出会いまして」

「次の日にっ?待って……当時ニコル兄さんまだ外の域にいたんでしょう……どうゆうことなの」

あまりの急展開にシナが叫ぶ。言葉にしなくてもルイも同じくらい驚いているだろう。ヤオを見つめていた。

「そうですねぇどこから話せばよいやら」

「もう幼少期から遡って話してやれよ」

「そうですね。全ての始まりは『母様これは毒入りです』この一言からでした」







「クーロンおめでとう。貴方が健やかに育ち母は嬉しい限りですよ」

今日は待ちに待った五回目の誕生日。いつも王家専属薬師としてお忙しい母様がこの日だけは私だけをみつめてくれる

「クーロンおめでとう。義姉上はお忙しいから料理は私の作ったものだけど」

叔父上も叔母上も従兄弟もそれぞれが薬草の薫りを漂わす。ヤオ家の一族が揃えば薬湯に入っている気分になった。でも一つの皿から漂う薫りは

「ニァトゥの匂いがします。母様これは毒入りです」

賑わっていた場が一斉に静まる

なぜだろう……いつもの毒目利きではないのかな?

「匂いだけで判別できたのですか?腕を上げましたわねクーロン。ヨジェも協力ありがとう」

「とんでもございませんわ…クーロンが苦しむのを見ないで済みましてホッとしております」

義理姉妹の会話に場の空気が動き出す

失言したと思った私はそれにホッとして毒なしの料理に手を付けていった



「貴方は此処にはいてはなりません」

年が二つ過ぎた同日

母様にみつめられている私がいたのは宴席ではなくゴンドラの上だった。目の前には御馳走ではなく愛用している日用品ばかり

「母様っなぜです!なぜ私が薬の域を出なければならないのですか」

「今度こそ貴方は殺されてしまうでしょう……クーロン……大事にしないようそう伝えてきましたが、毒目利きなど本来ないのです」

しゃがみこんで目線を合わせる母様のその瞳には悲しみと確かな決意が湛えられていた

「……わかりました」

「賢い我が子……どうか、どうか生き延びなさい」

言葉とともに私を包んでいるこの温もりを、微かに震える声音を、覚えて生きていこう


「ジムナ。この子をよろしくお願いします」

母様が声掛けしたのは青色の服、軍の域の男性だった。

「クーロン。私は君の母君の友人ジムナだ。軍師を務めている。よろしくな」


「さて、君はこれからキジムと名乗ってもらうよ。私の息子の名だ……病弱な子でな、フヨンさんに薬を頂いていたがね。逝ってしまった」

「その、なぜ大切な人の名を私に」

「『誰かを守る者になりたい』息子の遺言だ……病弱でも心は一端の軍人だったようでね……君がキジムの名で生き延びれば叶えられるだろう」

その微笑みに壮年のそしてその息子の願いを叶えたいと思った。

「名をいただきます。父さん」

生き延びてみせると、そっと誓った




兵役について6年。新兵から軍師への地位に登り詰めた。これで要人の護衛が出来るようになった。愛武器は薙刀、兵役に就くと決めた折に父から譲り受けた物で手によく馴染む

「顔も知らぬ恩人キジム。これで貴方の夢を引き継げます……どうか母様とともに見ていてくださいね」

家の奥に鎮座する小さな2つの墓に手を合わせる。1つはキジムの、もう一つは4年前に亡くなった母様のものだ。

いつの日か薬の域にある墓に手を合わせたい


「軍師キジム。君にはこれからいらっしゃる国賓アーサー殿の護衛を務めてもらう」

「謹んでお受け致します」

アーサーといえばブシュリカ国の王子でありながら様々な事へ首を突っ込み解決していく変わり者と他国でも有名な人物だと記憶している

「さて、大人しくして頂ければ良いのですがね」

この国は自国民の自分が言うのもなんだが、きな臭い国だ。護衛と言いつつ監視が主な業務だろう



「はじめまして、ブシュリカのアーサーだ。今日からよろしく頼むよ」

金を延べたような髪に蒼穹を映し込んだ瞳が撓む

同性の自分ですら美しいと思う異国の要人はその白磁の顔に爽やかな笑顔を添えていた。

「護衛を務めさせて頂きます、軍師のキジムでございます。希望の場へは私がご一緒致しますゆえ何なりとお申し付け下さいませ」

「では、国王陛下の許しも受けているし薬の域とやらに連れて行ってもらえるかい」

11年ぶりに故郷の域に踏み入れることになった


「懐かしい」

前を歩く彼に気づかれないように呟く

久しく嗅いでいなかった薬草の薫り

「薬草の薫りが立ち籠めるなんて流石は薬の域だ。さて、これなら捜し物は在りそうだね」

「おや、何かお探しでしたか。申しつけして頂ければは揃えます」

「いや、気配を辿るから大丈夫だ。それに捜し物、いや捜し人かな……はきっと隠されているだろうから」

気配?それに隠されているとは……止めたほうがいいのか

「あぁ見つからなければこの国は塵となるよ。だから止めないでね。見つかれば国王の失脚だけで済むから」

ますます拙いのではないか……

「そんなに怖い顔しないで。今のは冗談じゃないけど、この国を塵にするっていうのはこの域を調べるための牽制。絶対見つけられないと思ってるんだろう」

ずんずんとまるで行き先を既に知っているように歩きを止めないアーサー

気配とやらを辿っているのだろうか

「この下だね」

何もない辺鄙な地で立ち止まったアーサーは腰に携えていた剣を地面に突き刺す

柄を押し下げると、てこの原理か地面が人がちょうど入れるくらいの正方形にくり貫かれる。穴の中には階段が有り進んで行けそうだった

「屋敷は厳重に警戒しているだろうからね。こういう抜け道から入ったほうが楽なんだ……さぁ行こうか」

「私もですか?」

「そうだよ。希望の場へは私がご一緒致しますって言っていたよね。あれは頼もしかったな……それにここは君のよく知る域だろう」

暗い階段を降りていくアーサーを見失わないよう着いていく

「なぜ……」

どこからバレていた…キジムと私のことなんて亡き母様と父さんしか知らないはずだ


「王家専属薬師の血縁なんじゃないかな?そういうのなぜだかわかってしまうんだよ僕」

「それは……気配とやらでしょうか」

「いいや気配っていうのは種族しかわからないよ。う〜ん特異体質なのかもね」

本人もよくわかっていないようだがそんなので特定されるとは思わなかった

「気配が濃くなってきた……これは怪我をしているな」

段々と鉄錆の臭いが空気に混じる

通路を抜ければ広い場が現れた

「マルッカっマルク!」

アーサーが大きな水槽に駆け寄る

中には二人の子供がいた。下半身が鱗で覆われた尾の顔のよく似た少女と少年だった

「人魚……はっアーサー殿、女の子のほうが怪我をっ止血しなければ」

その言葉にアーサーが剣を振りかざす

硬質な硝子を容易く斬り伏せると周りが水浸しになったが構わない。

腕から流れ出て掌まで赤く染めた少女が痛々しい。服の切れ端で腕をきつく縛ってもぐったりと目覚めない

「なぜこんな……」

「……不老になる薬を作るって……奥に被験者の子達がいたよ」

アーサーに抱えられた少年がか細く呟く。進んでいくと牢が続く

ぼんやりと濁る無数の瞳がこちらをみつめているように見えた。まさか血縁が年端もいかない子供にこんな惨いことをしたなんて

「待ってくださいアーサー殿」

一つだけまだ光が宿っている瞳がある

大分弱っているが生き長らえるだろう

「この子は助かるんだねっ牢を斬るよ」

開いた牢へ入り少女に触れる…大丈夫まだ助かるはずだ

「罪滅ぼしにはなりませんが……彼女だけでも」

「あぁ連れて行こう」


屋敷の内部から出てきた私たちに現王家専属薬師の叔父を含む薬師たちはこぞって驚愕していた。誰も私がクーロンとは気づかず、流れた時間の長さを思った



「とりあえず、国王のところへ赴かなけば……マルッカとマルクを任せてもいいかな」

ふらつく少年マルクと未だ目覚めない少女マルッカをみつめるアーサーに頷く

「承知致しました。皆何かしらの薬が打たれているようですし中和剤を作りましょう」


ゴリゴリと薬研を挽く作業はまだ身についているようだ

それをマルクがみつめる

「お兄さんもヤクシって奴なの」

「いいえ私は軍人ですよ。昔学んでいただけです。きちんと体に良い物を作りますからね」

幾つかの薬草を挽き終わって三つに分ける。これなら大丈夫だろう

「えぇっとマルク君……飲んでくれますか」

「飲むよ。アーサー兄ぃが許した人だから……それにお兄さんに悪意が見えなかったし」

案外簡単に飲んでくれた……さて、少女の方は意識はあるけれど飲ませないといけなそうだな

「ちょっと失礼しますよ……」

薬皿を構えれば自然に口が開く。これほどまでに洗脳されているのか

「お姉ちゃん?」

少女に薬を与えているとマルクが叫ぶ

「……ん…マ…ルク」

「目覚めましたか?マルッカさん」

「いやぁ!!やめて!いやだぁ!!」

錯乱したマルッカが腕を振り回す止血していた布が解け再び血が流れ出す

「落ち着いてください。大丈夫ですアーサー殿が迎えに来てくださったのですよ……ぐぅっ」

パシッと頬を叩かれた。力は弱いのに目が焼けるように熱く痛む。滲む視界が赤い






「……というわけで目に人魚の血が入り呪いを受けました。この眼鏡はその人魚の姉弟から貰ったのです。石自体にも力がありますがより強力にするために人魚の呪いが複雑に絡まっていて副産物的に外れなくなっているのです」

そう締めくくったクーロンはその間に用意されていたお茶で一息ついた。

「んでその次の日にニコル兄さんにあったなんて結構密な2日間だったんだな」

「そうですねぇ……今思えば。おや…ふむ……」

「なにを見ているの……アンジェたち?」

「ええそうですよ。……なるほどエルさんは流石ですね。しかし……シナさん、エルさんに伝言をお願いしてもよろしいでしょうか」

「構わないわ、どうぞ」

「ありがとうございます。では、お探しの薬草が水に浸すと青く発光するものならばこの国にはありません……こうお伝え下さいませ」


血の繋がりがなくとも、申し訳なさそうなその顔はフヨンのそれと同一だった。

約5k。最長では?


次回更新1~2週間後を予定してます。

その後は番外編を更新予定。よろしくお願いします

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