031 解呪
担当:宮居
「兄様が持っていたものが…どうして母様に?」
「ウルがあげたんだ。君を守護するものとして」
「実際は呪いだったみたいだけど?」
そう、それは呪いのかかった腕輪だった。
正確に言えば、呪石が装飾された腕輪。
「知っててウルは、彼女にそれを渡したんだよ」
「いつからそれは?」
「何10年も前の話しさ。誰が呪いをかけたのか、元々のものだったのか、誰が作ったかは、オレは知らない。ウルに聞いてくれ」
「どうして、呪いってわかってて……?」
母親に、渡したのか?
「ウルは半竜人だって言ったよな。君に、苦しい思いをさせたくなかったから、かな。後で聞いた話だと"死より苦しいものが、この先待ってるから"…とか」
要は、殺そうとしたわけだ。
その呪いは、そういうものでは無かったのだけれども。
呪いには種類がある。
殺すもの、苦しめるもの、姿を変えるもの。様々だ。
「呪いの種類を、ウルは知らなかった。オレかシナに1度ちゃんと見せてくれれば、わかったんだが、彼はそうしなかった」
「ウルがそれを持っていたのを知らなかったの?」
「直前までな。竜の子を身篭った彼女に、ウルが渡しているのを見た。その時が初めてだ」
沈黙ーー。
それを破ったのは、シイだった。
「兄様はボクの為に、ボクを殺そうとして……呪いに頼っちゃったんだ……?」
確かに、殺すなら、呪いなんていう不確定なものに頼らずとも方法はあった。
「まだ産まれる前だしな」
「産まれた後は…?ボクは兄様に何度も会ってるよ?色々なことを教えてくれたのは兄様だよ…?」
「可愛くて仕方なくなっちゃったんじゃないか。気づけなかったオレらもだが……1人で悩んでいたんじゃないか。真偽は知らないけど」
「かわ……っ」
シイの顔が赤くなる。単純かこの娘は。
「……ウルは、この国の未来を考えて、初めて産まれた半竜人を殺そうとして、失敗した」
シイの反応を無視してルイは話す。
「お陰でこの国はぐちゃぐちゃだ……おそらく、彼もかき乱された1人。だから、弱っていて、簡単に入られちゃったんだな」
ルイが、よく分からないことを言い切った後、
外から、大きな音が聞こえた。
「……暫くオレは向こうに戻る。どうしてもってなったら呼んでくれ。出来れば関わりたくない」
まだルイは、こちらの理解など知らず話す。
口笛を吹いた。竜の翼の音が聞こえる。
「中心街に行けば、何が起こったかわかるんじゃないか?まぁ、安易に近づけば死ぬだろうが。あぁ、アンジェ、これ」
ルイがなにかを投げる。石のような形をした何か。
「彼らの会話だ。聞けばわかるさ」
録音を頼んだやつだ。
これは、魔法か?
「再生を命じれば再生される。じゃあ後は頼んだ」
やって来た竜の背に乗って、ルイは飛んでいった。
「……何が起こっている……?」
「とりあえず、中心街の様子が見れるような場所へ……」
エルが言う。シイは走り出していた。
付いていくことにする。
走りながら再生する。
4人の会話だ。殺気やなんかも感じられる。
その場にいるような感覚だ。
あいつら、何者なんだ……?
シイの足が止まる。
と同時に、コーネリアの仕上がるという台詞。
ウルの苦しむ声。
「アンジェ!」
遠くから、聞きなれた声が響く。
「どうしてこんなところに」
シナだった。
「シイまで連れてきたの?」
彼女の口調は刺々しい。
「あなたにとやかく言われる筋はないわね」
「ボクはボクの意思でここに来た」
「ルイからなにか聞いたわね?」
何故そんなことがわかるんだ。
誰も、何も、言わない。
「まぁいいわ。ルイに会っているなら好都合。シイ、あなたに聞くわ」
シイに寄る。
「あなたは、ウルを、助けられる?」
「兄様を、助ける……?」
やはりなにか、呪いか、魔法か、なにかにやられたようだ。
「今ウルは、操られている」
とある"誰か"の呪いによってー。
それをシナは教えてやらない。
「方法がないわけじゃない、上手くいけばあなたの嫌いな人たちも殺せるわ。だけど、失敗すればウルか、あなたが死ぬ」
「兄様が死ぬのは嫌……」
……なにか、嫌な予感がする。
シナの言うことを、聞いてはいけないような……
その時翼の音が聞こえた。
先ほど聞いたばかりの音だ。
上から、誰か降りてくる。
「……ルイ」
「帰ったんじゃなかったのか?」
「事態が変わった」
ルイは指で自分の竜に指示を出す。
頷き彼は、壁の向こうへと飛んでいった。
「この国の崩壊を、1番望んでいる人が、邪魔しに?」
「邪魔したいわけじゃないさ。壊れるなら壊れた方がいい、こんな国」
「じゃあ何しに来たの?」
「もっと簡単で、確実な方法を教えに」
そう言ってルイは1冊の本を取り出した。
「どちらがいい?この国が滅ぶのと、ウルが死ぬの」
「そりゃあ……」
シイの言いたい事はわかる。
ルイはシナに聞いているのだ。
彼女は黙っている。
この国と、ウルを天秤にかけているのだ。
シイがルイとシナの顔を交互に見る。
彼女にとっては……この国も、大切なものなのだ。
そして、彼にとっても。
「……ウルは、多分、怒るだろうね……」
小さく呟くシナ。
決めたようだ。
「いいよ、ルイの望むようにしなよ」
「りょーかい」
ニヤっと笑ってルイは言う。
そして1度目を閉じて、開いて。
なにかを呟き始める。
呪文……?
魔法か?呪いか?
本が自然に開いて、空に浮かぶ。
文字が空で踊り出す。
「はぁ……じゃあ、安全なとこ行こうか?」
シナが寂しそうに、そう提案した。
「安全なとこ?」
「ルイの子が、話つけてると思うし……とりあえず、シイの家まで」
「ボクの?」
「話って?」
「いいから」
静かに笑って、多くを語らず、シナは歩き出した。
それに続く。
……この人たちは全く、どうしてこう自分勝手にことを進めるのか……
「待っていたぞ」
シイの家に戻ってくると、見知らぬ誰かがいた。
「久々だな」
「今はあんまり時間が無いの」
「あぁ、そうさな。話は終わってるから、急ごうか」
「ついてくよ」
シナはこちらにそれだけ言って、明らかに人ではないものについていく。
……この人(?)も半竜人か。
どちらかと言うと、竜が強めに見える。
今まで会って来た人たちが、人に近いだけで、本来の姿はこちらなのかも知れないが。
人肌ではなく、緑色の鱗。
赤色の角も生えている。
髪の毛は人並みにあって、茶色だ。短髪なので性別はわかりにくい。
ただ話口調や声からして男性のようだ。
「着いたぞー」
そこに居たのは、たくさんの竜だった。
壁に小さな穴が空いていて、そこを通った先の景色だ。
色々な色の鱗を持つ竜たち。
「いっていいよ」
シナが言うと、1匹の竜が飛んでいった。
ルイの子だろう。
見知った影が、中央街の方へ消えていく。
「あの子がルイと合流したら、あの壁は消える」
シナが言う。シイの方を、(正確には腕輪を……?)見つめる。
「そしたら……」
大きな音が鳴った。
壁が、崩れていく……
「わっ」
シイが声を上げた。
腕輪が光っている。その呪石が。
緑色の光を放っている。
「何……?」
「さぁ、始まるよ」
シナがその光を見て言う。
「ガァァァァ!」
竜たちの目の色が変わった。
叫び声を上げながら、人の住む街へ突っ込んでいく。
シイの姿も、変わっていた。
半竜人ではなく、ちゃんとした竜に。
竜の並に巻き込まれないよう、シイの背中に乗った。
シイがそう言ってくれたのだ。
彼女は狂ってはいないらしい。
「あなたの場合は半分浸食されてるからむしろ力が付くんじゃない?」
とのこと。
現にあの小さかった半竜人が、立派な竜になって3人の人を乗せて飛んでいる。
上から見る景色は凄まじかった。
竜たちが暴れ、人を殺していく。街を壊していく。
「シイ、あっち。あの紫色の竜のところへ」
シナが言う。その竜にはよく見ると人が乗っているようだった。
「……兄様」
シイも気づいたようだ。すぐに飛んで行く。
紫色の竜の背中には、気を失ったウルが乗せられていた。
「こいつであってるのかい?」
「えぇ。ありがとう、アリゴール」
「お安い御用さ」
シナと彼(?)は知り合いだったらしい。
「彼はさっきここまで案内してくれた子よ。ルイの子の友達」
小さい声で彼女は説明した。半竜人の時の鱗の色と、竜になった時の鱗の色は違う場合もあるのか……
「一旦降りましょうか。シイ、あの樹のもとへ」
シナの指差す先には、何故か無傷な椎の木があった。
樹の根元に降り立つと、そこには大きな穴があって。
「ついてきて」
シナの後に続くと、樹の中だろうか……さっきまでうるさかった音が聞こえない、不思議な場所に出た。
「ここはもともと、わたしの師匠である、橘美月の暮らしていた家なの。彼女は死んでしまって今はいないから、彼女の人形たちの家になっているけど。美月は呪いの人形師だったのよ」
「そんな人に、呪いを教わったの?」
「形態が違うって言いたいのかしら。彼女の得意分野は人形作りだったけど、他の呪いも扱えたから。あの辺じゃ1番の人だった」
「あれー。久々に来てくれたと思ったら、会いに来てくれたわけじゃないのね」
しばらく歩くと階段があって、それを下っていったら人がいた。
「彼女は最期の人形、アルカリア」
人形……?こんなに大きいのに?
「自分の子供サイズの子が作りたかったのだって」
少しさみしそうな顔をしてシナがいう。
「それで、なんでこんなところに?」
あたしが問うと、アルカリアが答えた。
「それを治すため……と、その腕輪をとるためね」
どういうわけか半竜人に戻ったシイがウルを抱えている。それを指さしながら彼女は言った。
「裏を使うんでしょ?いいわよ。で、あなた達はこっち」
シナが言葉にうなずき、ウルを抱えて奥に消えた。
残されたあたし達はアルカリアの後ろをついていく。
「さーて、それ、あいつが持ってた物のはずなんだけどどうして?」
あいつ……ってことは、彼女はウルのことを知っていて、腕輪を持っていたことも知ってることになる。
「まぁ、取るのは簡単だし、あっちよりも早く終わる気がするし。いいんだけど、なんとなくね」
ルイから聞いたことを話す。
「はぁ……シナはそんな大事なこと黙ってたのね。全く……。まぁいいわ。ありがとう。じゃあシイちゃんこっちおいで」
シイを椅子に座らせる。
腕輪に手を当て、目を閉じる。
パリンっと小さな音が鳴って、腕輪が壊れた。
「はい取れた。痛みはない?」
ものの数秒だった。
「かなり呪いの力も弱ってたみたいよ〜こんな簡単にいくなんて思わなかったわ」
石は……無事のようだ。
「痛みとかは……ないです」
「そう?良かった。で、これはどうする?」
「それ、あたしが貰っていいかしら」
石を掲げ聞くので答える。
「特に異論がなければ壊そうと思ってたのだけど……これが必要なの?」
「そう」
「ふーん……まぁ、シナも返せとは言わないだろうし、シイが要らないなら」
「ボクはそんなもの」
「じゃあ決まり」
石を受け取る。これでやっと2つ目か……
随分と長かった……。
アルカリアは不思議だった。
呪いは解いた、あの石にはなんの効力も無いはずなのに、欲しいとは。
彼女はその石をどうするつもりなのか…?
恐らく、金にはならない。
他からみたらただの石だ。
わたしたちからしたって、元々呪いのかかっていたってだけの石。
文庫にもなにも書いてなかったし……。
彼女が呪いを扱えるとも思えないし、石の呪いは復活することないだろうし……。
大丈夫、かな……。
シナがなにか知っていたら、聞いてみるとしようか。
本人は、多分答えてくれないだろうし。
「じゃあ、ルイのところにでも行く?」
全てを押し隠して、問う。
4800文字でした。やっと2章が終わりそうです。
あと久々にアクセス解析とか、ブックマーク数とか見たら増えてました嬉しいです。間が開いてしまって申し訳ない。
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