020 お茶会問答
担当:四葩
嵐のような人だわ
ウルが姿を消して部屋が静寂に包まれ、初対面だった青年をアンジェはそう表した。
「さて、シイの説得は彼に委せましょう。わたしたちは、というかアンジェが嫌われてしまったし……」
扉をみつめながらため息を吐き脱力感を漂わせたシナはあたしをチラリと見た
「正確にはコーネリヤって人よね。理由を調べなきゃ」
責任転嫁……否や正しく責任の在処を示してシナに次のやるべきことを話す
「シイは相当コーネリヤって人を恨んでるみたいだったけど、アンジェから見てコーネリヤはどんな感じがした?」
「そうね…優しい印象が大きいかな。虫も殺せないような……弱々しいとはまた別だけどね」
思い返せば返すほどコーネリヤは恨まれる印象から遠ざかる。いったい過去に何があったのかしら
「出来た」
シナと二人思案し唸っているとポツリと小さな、けれども満足げな声がした。
「どう……可笑しくはないか……な」
声の主、エルは普段のフード付きマントを脱ぎ新しく出来上がったケープ……フード付きだが丈が胸元より下くらいのを着ていた。
淡い紫がエルの雰囲気を和らげている。
「似合ってるわそれ。というか手縫いでそこまで出来ちゃうのね」
「うん。似合ってる。それならフード被って出掛けても大丈夫。というか連れ歩きたい」
真顔で言うシナが恐い。エルも……うん引いてる。シナの気持ちもわかるけど
「あ、出掛けるならエルをコーネリヤの所に連れて行ってもいいかしら」
「エルの承諾次第だけど、どうして?」
「去り際にお茶会しましょうって言われてね。元の布は貰った物だし身に付けて行けば話題にもなるかなって」
「行く。お礼言わなきゃ、いけないし」
「じゃあ、行ってくるわ」
朝食の後支度を整えたあたしとエルは昨夜の予定通りコーネリヤの屋敷へ行くことにした。
やっぱり王宮に近づくにつれて賑わいは大きくなってる……エルは、フード深く被ってるけど大丈夫かしら。まぁ、不躾な視線も無いようだしさっさと行こう
「アンジェ。目的の場所は知っているの」
「ええ、それは大丈夫。王宮に近い屋敷は一つしかないから、きっとそこでいい」
「わかった」
ちなみに屋敷に着くまでのエルとの会話はこれのみだった
白亜の建物は周りをバラらしき花が咲く低木が囲み、正面にくるとアーチ型になっていた。アーチは建物まで続き、その下は石造りの道が真っ直ぐ敷かれていた。もちろん、全体は芝の海であった。この西洋屋敷然とした光景に目を奪われつつもアンジェとエルは正面玄関まで辿り着いた。
確かこの輪みたいなのでノックするのよね。インターホンがあればいいのに
「すみませーん」
扉に装飾された金属の輪を打ち付けながら声をかける。
「如何なされましたか」
出てきたのはクラシックなメイド服を着こなす妙齢の女性だった。
使用人も西洋屋敷然としているのね
「すみません、コーネリヤ様はいらっしゃいますか」
「畏れながらお客様、コーネリヤ様と約束はなされているのでしょうか」
「いいえ、会う約束はしているけど今日だとは話してないわ……もしかして今はいらっしゃらないの?」
「はい。主様は只今外出しております故、御用件を承ります」
「そう……なら、アンジェが伺ったと伝えて。ご都合の良い日にお茶会致しましょうと」
いないなら仕方ないと思い、来たことだけでも知ってもらうために伝言を頼んだが……ん、なんかメイドさん目を見開いてるんだけど
「申し訳ございませんっ、アンジェ様でしたか。すぐ主様のもとへお連れします」
慌て出したメイドさんに連れられ第一関門はクリアした
その一室は落ち着いた色調で彩られ、花々が咲き誇る中庭と繋がる所はガラス張りになり部屋の中でも目を楽しませる造りだった。
「先ほどは家の者がすみませんでした。どうか悪く思わないでくださる?使用人たちに初対面のお客様は帰すよう言い付けているのは私なのよ」
お茶菓子の準備をしている、自分の客を連れてきたメイドに視線を向け屋敷の主、コーネリヤは言った。
「大丈夫ですよ。用心深いのは良いことですから」
「ありがとうアンジェさん。そちらのエルさんはあの布を一日でそんな可愛らしい物にするなんて素敵ね。でもお顔が見てみたいわ」
未だフードを被り続けているエルに嫌悪感を出さず、少女めいた様子で窺うコーネリヤにエルはフードを外してみせた。
「まぁやっぱり可愛らしい」
「お初にお目にかかります。先ほど紹介に与りました、わたくしエルと申します。このような良い布をわたくしめにくださったこと御礼申し上げます」
手を合わせ微笑むコーネリヤにエルは深々と頭を下げた。
エルがこんなに話してるの初めて見たかも
「あらあら、ご丁寧にありがとう。アンジェさんに渡した甲斐がありましたわ。……メリジェ紅茶ありがとう。アンジェさんエルさんこの人の紅茶は絶品なの、召し上がって」
メリジェと呼ばれたメイドさんが淹れた琥珀色の紅茶は甘さが控えめであるためか、茶葉の薫りが引き立ち上品な仕上がりになっていた。一緒に出されたバター芳しいマドレーヌとも合っている。
つまり、
「美味しい」
無意識の言葉だったんだろう。手中の琥珀に映る自分とみつめ合いながらエルがぽそりと呟いた。
「本当に美味しい。今までで一番美味しい紅茶かも」
世辞でなく本心からそう言葉がでた
「ありがとうございます。お口に合いましたようで良うございました」
にこりと微笑みを残してメリジェは部屋を後にした。
「壁の反対側には竜が住んでいるのですよね。竜とはどのようなものですか?」
メリジェの気配が遠のくのを確認してコーネリヤへ話題をふった
「どのような、ですか」
「ええ、共に暮らしていた時期もあったそうですね」
「そうね。良い関係が続いていたわ……私も親しい友人に竜がいたの。ここにいる国民は殆どがそういう関係だったわね……竜は強力な力を秘めていて、それでもその力を使って人を貶めることは決してなかった……十年前まで」
話すその瞳が思い馳せるように遠くをみつめ、言い終わり瞼を閉じることでコーネリヤは現に戻ってきた。
「十年前に竜は暴走したのですよね。その時魔法で抑え込んだと訊きましたが、今この国で魔法を使っている人はいませんね……何故だか窺っても?」
「アンジェさん、どこでその事を……人は他言出来ないし…貴女、半竜人に会ったのね」
あたしの言葉に驚き、コーネリヤは見つめてきた。
見つめるというよりは、睨み付けていると言った方が妥当ね。
この反応は当たりかも……
「会いました。すみません……どうしても壁が見てみたくて」
殊勝な態度を見せるとため息をつかれた
「まあいいわ。……あの壁が魔法で出来ているのは知っているのでしょう」
「はい。王が造り今も維持しているのですよね」
「そう、だからその魔法を阻害しないために誰も使わないの。魔法自体は国民全員が能力があるらしいけれど一般人は使い方がわからないから使えない、貴族は教養として魔法を習うから全員つかえるわ……魔法が使えるから貴族、貴族だから魔法が使える。魔法は貴族の証なの」
「でしたら、コーネリヤさんも使えるのですか」
「ええ、もちろん。竜たちと私も闘ったわ。哀しい闘いだった」
そう締め括り、コーネリヤ紅茶に手を出したところでアンジェは賭けに出た。
「その原因の人物に恨みはないのですか」
ガシャンッ
白磁のカップが無惨にも砕け散り、琥珀色が床に広がった。
勝ったわ。彼女がシイの母親ね
「………人物?」
「竜の妻にして、半竜人の母であった女性ですよ……知りませんでしたか」
「知っているし恨んでもいないわ。彼女は罪を償った」
「罪を償った?」
コーネリヤがベルを鳴らす。
「貴族の誰よりも高度な魔法を使って夫となった竜を含むその多くを殺し、最期には戦死した彼女を、誰も責めないわ」
「主様、お呼びでしょうか」
どうしてベルの音が聞こえたのかわからないけれど、扉の外からメリジェが声が聞こえた。
「ごめんなさい、せっかく淹れてくれたのに手を滑らして仕舞ったの。悪いけどアンジェさんたちのお見送りの後にここを片付けてちょうだい」
「畏まりました。アンジェ様エル様ご案内したします」
「アンジェさん、エルさん次は貴女方の故郷の話を聴かせてね。今日はありがとう」
扉が閉まる間際コーネリヤの微笑みをアンジェは見た。
勘が外れた?
いえ、嘘かもしれない。あの慌てようだし
けれど、どうせつくなら知らないと言った方がよかったんじゃないのかしら
シイのことを解決しようとしたのに、余計ややこしいことになったわ
もっと情報が欲しいな……
さて、迷走しないようにしなければ…
あと更新忘れてたの申し訳ないです……(宮居)




