001 序章[#1]
担当:宮居
インターホンの鳴る音が聞こえた。
大好きな彼が、帰ってきたのだろう。
「兄様ー!」
やっていた作業を辞める。
扉をあけて、その人物を迎える。
「やぁ、アンジェ。元気にしてたか?」
「うんっ!兄様は?」
「こっちも元気にやってたさ」
「ウィル兄さんー!」
「よぅ、お前ら」
ここはログリール孤児院。
この地域の捨て子が集まる場所だ。
今日は特別な日。
この孤児院を出て、企業で成功した兄様が帰ってきたのだ。
みんなこの日を心待ちにしていた。
ウィル兄様を嫌いな人はこの孤児院には居ない。はず。
この孤児院の元最年長で、誰にでも優しく、平等に接する兄様。
そんな兄様が、テレビに出てた時は驚いた。
みんなと盛り上がった程だ。その日はパーティのようになっていた。
「今日はパーティね」
そして今日も。兄様が帰ってきたから。
奥からシスターが出てきた。
パーティの準備をしている。
何人かの子が手伝っていた。
あたしも、部屋の飾り付けをやった。
「アンジェ、ルイス、買い出しに行ってきてくれない?」
シスターが冷蔵庫を覗き、メモを書きながら言う。
「え、なんでこいつと」
「いいよー!」
ルイスが元気良く返事した。
「じゃあよろしくね」
あたしの不満を聞かず、シスターは財布とメモをあたしに差し出す。
買い出しに行くのはいいが、ついて来るのがルイスなのは気に食わない。
しかし……
他の子達はルイスよりも幼いし、兄様と行くわけにも行かない。
1人で行きたいところだが……
「仕方ないなぁ……行ってきます」
あたしはルイスのことを気にせず、外へ出た。
道中、ルイスはしきりに話しかけてきた。
あたしは、答えない。
答えてやる義理もない。
あたしはこいつが嫌いなのだ。
孤児院で、こいつだけだけが。
しかし彼は何故かあたしのことを好いてる。
姉とまで呼ぶ。
彼のことを弟だと思うことはできない。
こんな、頼りない弟なんて……
低身長、特技もなし。
長所といえば明るいとこくらい。
短所なら沢山あるんじゃないか。
人の話を聞かない、とか。
出てからすぐに、話しかけるな、と言ったのにこいつはずっと話している。
あたしが返事をしないから、大きな独り言みたいになっている。
それをこいつは気にしてない。
「あー……早く帰りたい」
小さく呟いた。
こいつには聞こえてない。
「よし、これで全部かな」
道中ずっとうるさかったルイスに必要な物を集めさせ、3箇所もの店を回って物を揃えた。
何故かルイスは嬉々としている。
パシリにされたことを気にしてないのか、または違う解釈をしたか。
……もうこの際どっちでもいい
「帰るよ」
品を袋に入れてる間、棚に陳列している商品を見ていたルイスに声をかけた。
一緒に帰ってこないと、シスターに怒られる。
後ろからついて来る足音を聞きながら、院に戻る道を急いだ。
予想もしてなかった空間が広がっていた。
白く綺麗な壁は、今や赤く染まっている。
「なにが……あったの……?」
アンジェは立ち尽くしていた。
大好きな人達がいる、自分の家が、出てくる前とは様子がだいぶ変わっていたのだ。
そろそろと、黒い塊に近寄る。
「兄様……」
親に捨てられて、ログリール院に引き取られた。
そこで出会った5つ上の兄様。
すごく優しいシスター。
同じような境遇の仲間たち。
たった1人を除いて、みんな大好きだった。
この現実を、認めたくない。
これは……そう、夢。
だってだって……
こんなの信じられないもの。
大好きなみんなが……
何者かに、殺されたなんて
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
ルイスがおそらく、電話したのだろう。
「なんで……こんなことに……」
「姉さん……」
声をかけてきたのは、ルイス・ログリール。
あたしのことを姉と呼ぶ、あたしが唯一、この院で嫌いだったやつ。
姉と言われるのだって嫌だ。
何度もそう呼ぶなと言った。なのにこいつは聞かない。
「……姉さん」
ルイスがまた呼ぶ。
答えない。
こいつなんかと話す気分でも、ない。
ポリスが院に入ってきた。
死体を確認していく。
数は全部で8。うち大人の死体が2。
などと言う声が聞こえてくる。
「お嬢さん、大丈夫かい?」
ポリスの1人が声をかけてきた。
大丈夫なわけが、ない。
あたしは答えない。
「少し、話が聞きたいんだ……構わないかな?」
隣にいたルイスの方を見た。
ルイスが頷く。
「僕が答えます」
荒らされることもなかったあたしの部屋。
そこのベットに2人腰をかけている。
しゃがんでいるポリスの1人から投げられる質問をルイスが答えていく。
と、言っても、あたしらに話すことなんてない。
買い物に出かけたら、院が襲われていたのだ。
あたしらが犯人だと、この人達は思っているのだろうか?
ベットの近くにある棚の上に写真が飾られていた。
そちらの方に目をやる。
兄様と、仲間たちと、シスターと……
みんなと撮った写真。
何故かルイスとの写真もあった。
2ショットではないけれども。
「そっか、ありがとう。今日は……どうする?」
「こちらでどうにかします。大丈夫です」
ポリスなんて嫌いだ。
どうせこの事件だって、解決してくれない。
「そう……か」
「気遣い結構ですので、帰っていただけますか?」
ポリスの目を見て、感情も込めず伝える。
「……わかった。ではわたしたちは退散するよ」
顔を逸らす。
部屋から出ていったポリスが号令をかけたのだろうか。
バタバタと移動する音がする。
暫く経って、静かになった。
「姉さん」
ルイスが声をかけてきた。
それに答えず、携帯を取り出す。
「もしもし、ファザ?お願い……こっちに来てくれない?」
呼び出した相手はファザ・ログリール。
シスターの、彼氏なんだそうだ。彼はそう言っている。初めて会った時の自己紹介でそう言っていた。シスターは否定しなかった。
彼氏、なのに同じ名前。
指摘しても、何も答えてくれなかった。
「いいから……来たらわかるよ。お願い……ありがと」
「そっか。ファザがいたね」
ルイスがあたしの顔を見ながら呟いた。
あたしに投げかけたものではないと判断し、それを無視して部屋を出た。
ルイスも出てくる。
とりあえず……ファザが来るまでに片付けられるものは片付けないと……
雑巾を取り出す。
ルイスに1枚投げた。
バケツに水を汲み、テーブルのそばに置いた。
飛び散った血を、拭いていく。
何人かのポリスが、壁の掃除をしてくれたみたいだ。
初めに見た光景よりは綺麗になっている。
涙を堪えて、血を拭き取る。
暫くしてインターホンが鳴った。
ファザが来たのだろう。
扉を開ける。
「よぉ、アンジェ……ってこりゃひどいな……」
「事情、知ってるの?」
先ほどの電話では状況を教えてない。
「ここに来る道中で耳にしたもので」
「そう……」
「どうするつもりなんだ?」
雑巾で床を拭っているルイスを一瞥してから問うてくる。
「特になにも考えてない。というかできそうにない。だから呼んだの」
「……俺も彼女を亡くしてるんだけどな……まぁいいか。じゃあどうにかしてやるよ」
と奥へと進む。
冷蔵庫を開け中を確認してから
「夕飯、作るか。何食べたい?」
と生き生きと聞いてきた。
始まりました、リレー小説!
今回の担当は宮居です。はじめましての方はじめまして。覚えてる方いらっしゃったらお久しぶりです!
良ければ最後までお付き合いください!よろしくお願いします!
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