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英雄

この大戦の英雄とは、なんなのか?

 英雄、大きな戦いには、多くの英雄が生まれる。

 この大戦の中でも多くの英雄が生まれていた。

 そしてその中には、多くの八刃の関係者が居た。

 何故ならば、軍隊ですら敵わない異邪を颯爽と現れ、絶望的な状態を救うのである。

 救われた人々にとっては、それは、奇跡であり、その人物を英雄と呼びたくなるのも仕方ないことである。

 しかし、英雄は、そうなれなかった多くの人々から嫉妬を受ける者でもあった。



 カナダの地方都市。

 そこにブルークラスの古神が現れた。

 それは、強固な身体をし、戦車砲の直撃すら、全く効果が無かった。

 カナダ軍の一兵卒、ガルディ=マドロスが必死に支給されたばかりのサイコシューターを撃つ。

「これでも食らえ!」

 しかし、ブルークラスの異邪には、サイコシューターが通用せず、他の仲間達と一緒にその拳の餌食になるところであった。

 その時、一発の弾丸が、古神を貫く。

 怯む古神に次々と着弾し、そのまま滅びてしまう。

 ガルティが振り返るとそこには、一人のガンマンが拳銃から出た硝煙を息で吹き消していた。



 古神の被害地で、再度の異邪襲来に備えて野営するカナダ軍。

「それにしても凄かったな」

「そうそう、単なる拳銃で、ブルークラスの異邪を倒してしまうんだかな」

 仲間の言葉にガルディが不機嫌そうな顔をする。

「どうせ、凄い異邪専用兵器を使ってるんだろうよ」

 それを聞いて仲間の一人が言う。

「そういえば、あのガンマンは、八刃の関係者らしいぜ」

 仲間達が驚きの声を上げる中、ガルディが鬼の首を取った様に言う。

「ほらみろ、八刃ってふざけた連中の関係者だったら、こんなオモチャじゃない、異邪専用兵器があるだろうよ」

 サイコシューターを地面に叩きつけるガルディ。

 すると、その部隊の隻腕の隊長がガルディを殴りつけた。

「何をするんですか!」

 殴られた顔を抑えながらガルディが言うと隊長が悔しそうな顔をしながらいう。

「そのサイコシューターすら無く、死んでいった仲間も居るんだぞ! それを、お前は! お前には、サイコシューターは、勿体無い! 工兵の手伝いでもしていろ!」

 サイコシューターを取り上る隊長に反発するガルディ。

「丁度良かったよ! 俺もそんなオモチャなんて要らねえ!」

 そのまま去っていくガルディを見て副隊長が言う。

「彼は、崩落大戦が始まってからの志願兵で、サイコシューターすら無かった時代を知りません。射撃の腕は、確かですから連れ戻しては、如何ですか?」

 隊長は、首を横に振る。

「射撃が上手くても、武器に頼るだけの男では、異邪とは、戦えない。それがこの腕を無くしてしった事だ」

 腕があるべき空間を見る隊長であった。



 問題のガンマン、オーフェンハンターの鬼神のフォーカードの一枚、ガンオブスペード、ホープは、一流ホテルに泊まっていた。

「崩落大戦が始まって唯一得したのは、経費が全部八刃持ちだって事だな。オーフェンハンターの時は、宿泊費なんかは、報酬に含まれてたから、倹約の為に安宿つかってたからな」

 そうぼやくホープは、年がら年中浮気をしては、妻に平謝りし、その謝罪に高価なバイク等など買わされていて、いつも金欠であった。

「それじゃ、あたしも高級ワインを頼んでも良い?」

 ホテルのロビーで知り合った女性、カリナスがしな垂れかかりながら言うとホープが自信満々に答える。

「どんどん頼め!」

 その時、携帯が鳴る。

「次の現場への通知か?」

 ホープが出ると較の声がしてきた。

『最初に言っておきますけど、贅沢品は、別会計にしないと、キッドさんに浮気をばらしますよ』

 顔を引きつらせるホープ。

「どうして解ったんだ?」

 呆れた口調で較が答える。

『その周囲に大量の異邪の降臨が予測されていて、細かい予知をしてた時に見えたそうですよ』

 ホープが舌打ちしながら言う。

「俺が残っていた方が良いか?」

 真剣な口調に戻り較が言う。

『相手は、ゾンビ系なので、間結を手配する予定ですが、間に合わない可能性があるので、すいませんがお願いします』

 ホープが頷き、答える。

「任せておけ。その代わり、浮気の事は、秘密にしておいてくれ」

 苦笑しながら較が言う。

『贅沢品を別会計にするんだったら考えますよ。それでは、本日は、ありがとうございました。ゆっくりと休んでください』

 電話を切ってホープが言う。

「えーと、こっちのワインの方が女性向きだよ」

 苦笑するしか無い、カリナスであった。



 小一時間後、ホープと別れたカリナスが、町を歩いていると、酒を飲んでいるガルディを見つける。

「ガルディ、あんた軍に志願したんじゃないの?」

 ガルディが酔っ払った目で答える。

「あんなの軍隊じゃねえよ、効きもしない子供のオモチャを撃って。最後は、八刃の奴らに良い所を取られる。やってられっかよ。俺にも奴らと同じ武器があったら、大活躍して、英雄になれるのによ。そうしたら、オヤジやオフクロにも贅沢させてやれるさ」

 ため息を吐くガルディの姉、カリナスだったが、何かを決心した様に言う。

「あたしの家で待ってて。これは、鍵」

 鍵を渡してカリナスは、ホテルに戻っていくのであった。



 ホテルのホープの部屋にチャイムが鳴る。

「こんな時間に誰だ?」

 ホープが出るとそこには、カリナスが居た。

「忘れ物をしたので戻ってきました」

 それを聞いてホープが言う。

「そうか、探してくれ」

 それに対してカリナスが顔を赤くして言う。

「それが、その男の人には、探しているのを見られたくないもので……」

 ホープが頭をかきながら言う。

「解った。ちょっとバーで飲んでくる。そのまま帰ってくれ」

 ホープは、鍵を持って、部屋を出て行くのであった。



 カリナスの部屋で酒を飲んで待っていたガルディ。

「姉ちゃんは、何を考えているんだ?」

 その時、カリナスが帰ってきた。

「遅いぞ、姉ちゃん」

 そんなガルディにカリナスは、大きな包みを渡す。

「これ、八刃の人が持っていた武器よ。これで英雄になりなさい」

 ガルディの目が輝く。

「本当の本物なのかよ!」

 カリナスが頷く。

「話半分に聞いても、八刃では、そこそこ地位のある人間みたいだから、そうとうの武器よ」

 ガルディが拳銃を握り締めて言う。

「これで俺も英雄だ!」



 ガルディの出番は、直ぐにもやってきた。

 町をライトブルークラスの象のゾンビの集団が襲ったのだ。

「早速、俺の活躍の時だな!」

 そういって、ホープの拳銃を構えて撃つ。

 しかし、その弾丸は、エレファントゾンビをただ貫通するだけだった。

「嘘だろ! なんで通用しないんだよ!」

 必死に連射をするガルディだったが、どの弾丸も有効な攻撃にならなかった。

「クソ! 偽物かよ!」

 弾丸を撃ちつくし、拳銃を地面に叩きつけるガルディ。

「俺の拳銃を雑に扱わないでほしいぜ」

 ガルディが振り返るとそこには、ホープが立っていて、その背後に隠れるようにカリナスが居た。

「ごめんなさい。その武器は、ホープさん専用だったらしいのよ」

 苦笑するホープが、地面に落ちた拳銃を拾って言う。

「俺の拳銃と弾丸は、俺の気を全力で入れても耐えられるように作られた特別製なんだよ。お前らも知っているサイコマグナムみたいに最初から意志力が篭められているわけじゃない。それにサイコシューターだって、俺が使えばそこそこ使えるんだぜ」

 そういって、ガルディが使っていたより小型のサイコシューターを連射して、エレファントゾンビの一体を滅ぼしてしまう。

 唖然とするガルディ。

 そんな事をしている間も、ガルディの仲間達は、一体に数人がかりでサイコシューターを撃ちこみ、一生懸命戦っていた。

 ホープが言う。

「こんな戦いに英雄なんて居るとは、思えないがな。もし居るとしたら、諦めず、一生懸命に戦った全員が英雄なんじゃないのか?」

 ガルディが涙を流す。

「俺は、馬鹿だ! 本当に馬鹿だ!」

 そんなガルディにサイコシューターを渡し、拳銃を構えるホープ。

「もう弾丸は、ないぞ!」

 それに対してホープが言う。

「あのな、こっちは、素人じゃないんだ。いざって時の為に予備の弾薬ぐらい、身に着けている」

 ホープは、十二発の弾丸を見せる。

「たったそれだけで、あれだけの集団と戦うのか?」

 ガルディの言葉に、ホープが答える。

「仕方ないだろう。ここでお前達を見捨てる訳にもいかないからな。お前は、お前の姉を護れよ」

 そして、ホープは、六発を拳銃に詰め、走りながらエレファントゾンビに射撃する。

「お前ら、こっちに美味しい餌があるぞ!」

 自分の強力な気を餌に、エレファントゾンビ達を誘導するホープ。

 そのまま町一番の体育館に行き、最後の六発を拳銃に充填しながら苦笑するホープ。

「いままで散々、修羅場を潜って来たが、女で失敗したなんて、キッドに知られたら、地獄に送られるな」

 近くのエレファントゾンビに牽制するように残りの全部を撃ち出すホープ。

 そして、その弾丸は、体育館の柱を粉砕していた。

 弾丸が無い拳銃を天井に向けるホープ。

「これが俺のラストショットだ!」

 それまでの射撃で周囲に撒き散らされた気を収束して放たれた気の弾丸は、天井を打ち抜く。

 柱が壊れ、天井に大穴が開いた体育館は、崩壊を開始する。

「俺の気を浴びた欠片なら、お前達にもとどめをさせる筈だぜ」

 その言葉通り、天井からの欠片で次々とエレファントゾンビが滅びていく。

「結局俺は、鬼神に勝てないままだったな」

 残念そうな顔をするホープに最後の足掻きとエレファントゾンビが襲い掛かる。



 ホープが倒壊させた体育館の前に一人の中年が居た。

 標準的な日本人男性だった。

 それを見て、必死に瓦礫を退かしていたガルディを見守っていたカリナスが言う。

「この下には、異邪が埋まっています。生きていたら危険ですから離れた方が良いですよ」

 それに対して、その中年が腕を振り上げる。

『ストーンゴーレム』

 それに答えて、瓦礫がまるで意思を持ったように動き、人型を成すとそのまま他の瓦礫を退かし、ホープの遺体を掘り起こした。

 驚くカリナスを残し、中年がその遺体に近寄った。

 そんな中年やゴーレムの事を無視して、ガルディがホープの遺体に駆け寄る。

「起きてくれよ! なあ、あんたは、英雄なんだろ!」

「英雄でも、死ぬ時は、死ぬ」

 そう言った中年を睨むガルディ。

「あんたは、誰だよ!」

 それに対して中年が答える。

「私は、八刃の一家、白風の長、白風焔ホムラ。その男を雇っていた人間だ」

 ガルディが悔しそうに怒鳴る。

「全部、俺の所為なんだ! 俺が馬鹿な事をしたから、この人が死んだんだ!」

 カリナスが慌てる。

「悪いのは、弟じゃないんです。私がその人から武器を盗んだんです。罰を与えるのでしたら私にしてください」

 そんな二人を見て、焔が言う。

「八刃に人を処罰する権限などないから安心しろ。それに戦いでの死を他人の所為にする事は、ホープの侮辱する行為。二度としないでもらいたい」

 ホープの遺体を抱き上げ、その場を離れようとする焔。

 去っていくホープの遺体に向かってガルディが力の限り叫ぶ。

「俺は、絶対に英雄になる。最後の最後まで全力で戦い続ける英雄になってやる!」



 八刃の強さの秘密が武器にあるといった誤解により、この手のトラブルがいくつか起きた。

 しかし、その大半が、直ぐに間違いだと気付く事になる。

 そして八刃の関係者の大半が口をそろえて言う。

 英雄なんて望まない、危険な事などしないで済めば一番だが、大切な者が済むこの世界を護る為に自分達は、力の限り戦うだけだと。

 英雄とは、仕方なくつらい戦いを強いられた悲しき存在の事なのかもしれない。

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