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科学

前半は、コミカルな雰囲気でお送りします

 科学、それは、人々の英知の結晶。

 それがあるからこそ人は、現在の栄華を手に入れられた。

 異邪との戦いにも多くの科学の力が活用されて居る。

 しかし、中には、人を不幸にする科学も存在した。



「今回は、あくまで調査なので、それを踏まえて動いてね」

 較の念押しに一華の弟、まだハーフな雰囲気の男子中学生の四剣シケンが胸を叩く。

「任せて! 次期長候補の俺が、きっちり問題の組織を壊滅させてきます!」

 その同じ年の従姉弟の吊り目な二華ニカが四剣の頭を叩く。

「もう、ヤヤさんの言葉をちゃんと聞きなさいよ」

「だって、ここんとこの俺達の仕事って八刃学園の警護だけじゃないかよ。ここで一発次期長の凄いところをアピールしておきたいんだよ」

 四剣の言葉に較が即答する。

「異界壁の補強がなされ、強い異邪に配置する人員に余裕が出来たからよ。出来れば、学生には、八刃学園の警護だけをやらせたいのが私の本音」

 それを聞いて、二華の双子の妹、垂れ目の三華ミカが手を上げる。

「それなのにどうして、あちき達がこんな任務に割り当てられたんですか?」

 較がため息混じりに言う。

「異邪排除の余裕が出来たけど、調査部門の余裕がなく、事が竜がらみだと思われるから、霧流にまわす事になったの。もう一度、念を押すけど、あくまで調査で、少しでも危険を感じたら、逃げてくるのよ!」

「了解しました!」

 二華が普通の返答をするなか、明らかに不満そうな四剣と三華であった。



 ドイツの郊外。

 四剣達は、問題の研究施設まで来た。

「ここがDDCの技術を流用している所ね」

 二華の言葉に四剣が言う。

「DDCって、俺の母さんが戦っていた組織だよな?」

 二華が頷く。

「確か、ドラゴンと科学兵器を合わせた兵器をテロリストに卸して居た武器商人で、その技術がかなり流出しているみたい。百剣さん達が撲滅に動いていたけど、残っていたみたいね」

 大きなため息を吐く三華。

「それにしてもこれって、谷走か零刃ゼロバの仕事じゃん。さっさと終らせよう」

 やる気の無い三華に二華が言う。

「あのね、三華。今がどんな時だか解ってる?」

 三華が頷く。

「異界壁崩落大戦中で人手が足りないって言うんでしょ。解ってるけど、それでも本家の人間のあちき達が回されるのは、納得できない」

 四剣が指を振って言う。

「そこは、八刃の長としての立場上、口に出来ないが、ここを俺に潰して欲しいって事に決まってる。そうすれば、次期長としてのはくも付くってもんだ!」

 それを聞いて三華が手を叩く。

「なるほど。これだけ大きな施設を潰せば、分家の奴らに、四剣の実力を知らしめる事が出来るね」

 二華が怒鳴る。

「もう二人とも、ふざけてないで、行くよ!」

 そして、正面から入ろうとする二華に対して三華が言う。

「ところで、二華、何をしようとしてるの?」

 二華が極々当然の様に言う。

「事情を説明して、確認させて貰うに決まってるじゃない」

 三華が呆れた顔をする。

「何処の世界に極秘の研究を赤の他人に見せる人が居ると思ってるの?」

 二華が較から渡された書類を見せる。

「でも、ヤヤさんからは、国連認可の調査許可書を貰っているのよ?」

 指を横に振る三華。

「あのね、それは、発見後に見せる物。国連の認可があっても見せてもらえる訳無いでしょうが」

 二華が首を傾げる。

「でも、正式な調査許可証だったら、断れないでしょ?」

 四剣が苦笑する。

「あのな、奴らだって、馬鹿正直に発見できるところで作業をしてるわけじゃない。忍び込んで、調べるんだよ」

 二華が眉を顰める。

「それって不法侵入じゃ無いの? 犯罪は、いけないと思うよ」

 四剣と三華が頭を抱えるのであった。



 結局、較が二華を説得して、侵入する事になった。

「犯罪だ……」

 眉を顰める二華を見て三華が小声で呟く。

「いまさら、八刃って完全な犯罪組織じゃん」

 そんな中、四剣が、外から施設を確認して言う。

「警戒は、厳しいし、セキュリティーも厳重だな」

 三華が笑みを浮かべる。

「でも、そんなのは、あちき達には、関係ないけどね」

 祖母、八子から受け継いだ能力で、空間を渡り、あっさり地下部に侵入する四剣達。

「これって、異邪?」

 周囲の容器に解剖された異邪が浮かんでいたのを見て、二華が呟くと、奥に居た白衣を纏った男が言う。

「その通り、異邪だよ。この世のどんな生物とも異なる生態。興味が尽きないよ」

 三華が不機嫌そうに言う。

「ここの責任者の方ですか?」

 それに対して白衣の男が言う。

「私がこの研究の責任者、ダモン。八刃にすら、一目置かれる雲集クモツドイ四門シモン博士を越す科学者だ」

 四剣が呆れた顔をして言う。

「四門さんは、こんな悪趣味な真似をしないぜ」

 グモンが呆れた顔をして言う。

「雲集四門博士が天才な事は、認めよう。しかし、感情的過ぎる。自分の妻を蘇らせる為に無駄にその才能を浪費した。化学者は、常に、科学の発展の為に研究を続けなければいけないのだ。そこに個人の感情などは、不要。それが出来るからこそ私は、最高の科学者なのだよ」

 二華が睨む。

「四門さんがした事が正しいとは、言いません。でも、言われた言葉は、納得できます。科学には、善も悪も無い、だからこそそれを使う人が心を持たないと行けない。その通りだと思います」

 鼻で笑うグモン。

「そんな事を言っているから、不完全な物しか作れないのだ。ただ科学技術を高めて行けば、感情など無用。これがその証明だ!」

 その言葉と同時に、グモンの背後の扉を開き、全身に金属片が埋め込まれた竜が現れた。

「これこそ、私の最高傑作、メタルドラゴンだ。竜騎機兵と異なり、完全にマスターの指示に従う兵器だ」

 馬鹿笑いをするグモンだったが、殺気に気づき、その先を見る。

 四剣が無表情になっていた。

「俺が一番許せないのは、こう言う、他人を道具としか見えない奴らなんだよな」

 グモンが冷や汗をかきながら言う。

「竜騎機兵とて、兵器に転用している事は、変わりないだろうが!」

 二華が怒鳴る。

「違う! 竜騎機兵は、竜も了解して武装して操られていました」

 三華も頷く。

「そう、ちゃんと雇用費用が払われてた。でもそれは、違うでしょ?」

 グモンが自慢げに言う。

「当然だ。邪魔な思考など全て奪ってある。そうでなければ道具として使えないだろう」

 四剣が言う。

「楽にしてやるぞ」

 二華と三華が頷く。

『血の盟約の元、四剣が求める、戦いの爪をここに表せ、竜爪剣リュウソウケン

 四剣の両手に二振りの剣が現れる。

『血の盟約の元、二華が求める、戦いの爪をここに表せ、竜爪剣』

『血の盟約の元、三華が求める、戦いの爪をここに表せ、竜爪剣』

 二華と三華の手にも一本ずつ、剣が現れる。

「お前達、八刃の死体は、今後の研究資料として有効に使わせて貰う。やれ!」

 ブレスを放つメタルドラゴンに四剣は、左手の竜爪剣を振る。

『ドラゴンエア』

 突風がブレスを逸らす。

 その間に四剣が接近し、何も無い空間を切り裂く。

『ドラゴンブレイク』

 空間、メタルドラゴンが維持していた独自世界、ドラゴンワールドが崩れる。

『ドラゴンフリザード』

 三華が竜爪剣を振ると同時に放った冷気がメタルドラゴンを固め。

『ドラゴンシムーン』

 二華が竜爪剣を振ると同時に放った暖気がメタルドラゴンの全身に大ダメージを負わせる。

 その間に力を収束させた四剣が両手の竜爪剣を上下に振り下ろす。

『ドラゴンダブルフィニッシュ』

 両断されて消滅していくメタルドラゴンを見て愕然とするグモン。

「馬鹿な、こんな子供に私のメタルドラゴンが敗れるなど、信じられない……」

 四剣が竜爪剣を突きつけて言う。

「所詮は、失敗作だよ。ドラゴンワールドは、竜の精神があって初めて真の効力を発揮する。あんな風にして無理やり発生させたドラゴンワールドなんて、俺だって楽に崩せるに決まってるだろう」

 悔しそうにするグモン。

「まだだ、まだ他にも我が傑作が……」

 しかしグモンの言葉が途中で途切れる。

「どうして……」

 グモンが振り返るとそこには、改造された竜が居た。

『感謝しているぞ。お前のお陰で、死なずに済んだ。これで仲間の為にまだまだ戦える』

 グモンを突き刺した尻尾を抜き取る竜、一華とワンに滅ぼされた筈のサンドラゴン。

『人間に身体を好き勝手にされたのは、憤りを抑えられぬが、全ては、敗れた己の責任。この醜き身体で、我が同胞の為に道を開くまで』

 圧倒的な気配に二華と三華が怯む。

 そんな二人を庇うように立つ四剣。

「行かせるかよ! 俺がお前を倒す!」

 それに対してサンドラゴンが告げる。

『残念だが、我一人では、無いぞ』

 その言葉と共に、アフリカ軍によって滅ぼされた筈のドラゴン達がメタル化された状態で現れる。

 三華が顔を引きつらせる。

「こんなのには、勝てないよ」

 二華が悔しそうに言う。

「ヤヤさんの言われた通り、一度撤退しましょう」

 それに対して四剣が言う。

「馬鹿を言え、ここで引けるか。ここで本家の俺が引いたら、分家の奴らに示しがつかないだろうが!」

 三華が慌てて言う。

「そこは、そこ。当初の目的は、達成したんだから。それで撤退しても逃げたことにならないわよ」

 四剣が舌打ちして言う。

「これは、予知外の事だ。見逃したら、大惨事になるのが解ってるだろ!」

 三華にもそれは、解った。

 それでも二華が言う。

「それでも、あたし達だけじゃどうしようも無い。せめて一華お姉ちゃんに応援を頼まないと」

 それを聞いてサンドラゴンが言う。

『ほう、お前達は、霧流の者か。余計に捨てては、おけないな。ここで我が始末してやろう!』

 一発、触発の状況に四剣が言う。

「俺が足止めをする。その間に救援を呼ぶんだ」

 驚く二華。

「そんな、四剣だけをおいてくなんて出来ない!」

「そうよ、四剣が死んだらあちきの未来計画が台無しになる!」

 三華の薄情な台詞を無視して四剣が言う。

「これも、次期長の務めだ。急げ!」

『逃がさん!」

 サンドラゴンが強大なブレスを放ってきた。

「力を合わせろ!」

 四剣の言葉に二華と三華が四剣の竜爪剣と触れさせる。

『『『トリプルドラゴンエア』』』

 さっきの数倍の突風がサンドラゴンのブレスとぶつかり合う。

 しかし、威力は、サンドラゴンのブレスが勝っていた。

 吹き飛ばされる四剣達。

『とどめだ!』

 サンドラゴンが必殺のブレスを放つと最後の力を振り絞って二華と三華の盾になる四剣。

「それ以上、私の曾孫に危害は、加えさせない」

 その声と共に、一人の老人が現れ、サンドラゴンを放ったブレスに触れる。

『ドラゴンリターン』

 なんとブレスがサンドラゴンに帰っていく。

 その老人を見て、四剣が言う。

「あんた誰だ?」

 苦笑する老人を凝視し、三華が言う。

「もしかして、四牙シガ様ですか?」

 頷く老人、四牙をみてもまだ四剣が首を捻っているので、二華が答える。

「あたし達の曽祖父、六牙ムガお祖父さんのお父さんです」

 四剣が驚く。

「そんなのが居たのか? 俺、初めて見たぞ!」

 四牙が頷く。

「お前達が生まれる前から霧流ダンジョンの攻略をしていたからな。今回は、八子さん経由で八刃の長から頼まれた物を届けに来た途中にお前達の危機を察知したのだ」

 そういって、四牙が四剣に、不思議な珠を渡す。

「それを持って、逃げるんだ。ここは、私が引き受けよう」

 四剣が慌てる。

「俺にだって、面子があるんだ!」

 それに対して四牙が首を横に振る。

「面子なんて下らない物で命をかけるな。命をかけるのは、大切な者を護る時だけにしろ。さあ、行くんだ」

 躊躇する四剣達に、四牙が胸を叩いて言う。

「任せておけ、お前達の姉、一華達の何倍も強いんだからな」

 三華が言う。

「ここは、四牙様の顔を立てましょうよ」

 不満気だったが、四剣も頷く。

 名残惜しそうに二華が言う。

「四牙様、四牙おじいちゃんに会えて嬉しかったです。ですから、死なないで下さい」

 無言で微笑む四牙を残し、四剣達が去って行った後、四牙が呟く。

「本当に良い曾孫達だ。五子ゴコ、お前の判断は、間違っていなかったよ」

 反撃から立ち直ったサンドラゴンが言う。

『貴様も霧流ならここで倒すまで』

 それを聞いて四牙が言う。

「それは、こちらの台詞。大切な曾孫に降りかかる火の粉は、残り少ないこの命に代えても取り払う」

 そして呪文が始まる。

『ああ、我等が守護者、天に道を成し、異界と結ぶ存在、偉大なりし八百刃の使徒』

 サンドラゴンが慌てる。

『その言霊、ただの呪文じゃないな! 防ぐのだ!』

 自分を含めて一斉に攻撃させるが、四牙は、呪文を唱えながらもあっさり攻撃をかわしていく。

『我が竜の血を触媒に、その力を行使し給え』

『こんな所で、また滅びると言うのか!』

 サンドラゴンが叫ぶ中、四牙の呪文が完成する。

『霧流終奥義 天道龍テンドウリュウ

 一斉に異界に弾き飛ばされていくメタルドラゴン達。

 必死に堪えるサンドラゴンが叫ぶ。

『このまま、術を使い続ければお前とて、宛て無き異界に飛ばされるぞ!』

 四牙があっさり言う。

「それが命を懸けるって言うことだ」

 そして、四牙共々、グモンの研究施設がこの世界から消えていった。



「これが、四牙さんから預かった物です」

 四剣が較に預かった珠を渡す。

「ご苦労様。疲れたでしょうから、ゆっくり休んでね」

 二華が質問をする。

「四牙様は、どうなったのですか?」

 較は、はっきり答える。

「きっと生きているわ。異界に飛ばされて無事に戻ってきた前例は、幾らでもある。四門さんもその一人。無事に戻ってくる事を信じなさい」

 三華が無理やり笑顔を作って言う。

「あちき達の曽祖父がそう簡単に死ぬわけ無いですよね。それでは、家に帰ってゆっくり休みます」

 四剣達が去った後、その祖母で四牙の義理の娘、八子が現れる。

「優しい嘘をありがとうございます。今のあの子達には、真実は、きつ過ぎますから」

 較の傍に居た、良美が言う。

「どういうことだ? 実際に天道龍を食らって戻って来た前例が居るから可能性は、あるだろう?」

 較がため息混じりに答える。

「四門さんが特別。あの時、万年竜と繋がっていた為、どんな世界でも死ぬことは、無かった。その上、終奥義を使用した直後は、力も出せない。そんな状態で異界に放り出された瞬間、死ぬ可能性が高い。それは、異界へ行くことが可能な霧流の人間である吸い込まれた使用者が誰も帰ってこないことが証明している」

 重苦しい空気の中、八子が問題の珠を受けとって言う。

「八刃の長の注文された場所は、これで可能になります。お父さんの為にも有効に使ってください」

 強く頷く較であった。



 科学、それに善も悪も無いかもしれないが、それを使う人間には、感情もあり、邪な心もある。

 何かを生み出す際、科学者は、常にそれを胆に命じておかないといけないかもしれない。

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