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人種

人種差別。それを無くす事は、可能であろうか?

 人は、外敵が現れた時、団結する物と思われがちだが、これには、条件がある。

 相手と協力する必要性があり且つ、戦いの足手まといにならない場合である。

 ここで問題になるのは、どこまで協力体制を維持し、何処から協力体制を拒むかである。

 国や宗教と言う区切りもあるが、人類は、古来より人種による区切りをつける事が多い。



 異邪と対抗する為の国際会議。

 較も参加していたが、目の前にある資料に苛立ちを覚えていた。

 アメリカ等の国々から敵意の視線を向けられる中、較が資料を見せて言う。

「この結果を見て、おかしいと思わないのですか?」

 それを聞いてイギリスの首脳が答える。

「その人種別、異邪専用兵器の普及率に何の問題があるというのですか?」

 本気でそう考えている答えに較が議会を見回すと、白人達は、当然と言う顔をし、黒人達は、悔しげだがどこか諦めの表情を見せ、黄色人は、我関せずの態度であった。

「白人組織に対する武器普及率が黒人組織のそれの二倍以上って言う数値について何も感じないのかと聞いているのですが?」

 すると、別の白人の首脳が答える。

「それを言うなら、こちらの八刃の救援先に黒人が多く住む地域が多い方が問題だと思われますが」

 それに対して較が即答する。

「何度も公式にお答えしていますが、我々八刃は、現地の人間を助ける為に行っている訳では、ありません。あくまで異邪の殲滅の為の行動です」

 すると別の白人の首脳が答える。

「その様な態度をとると言うなら、我々の政策に口を出さないで貰いたい」

 較が苦笑する。

「私は、あくまで、この数値について何か感じないかと質問しただけで、政策に口を出して居ません。勘違いしないで貰いたい」

 舌打ちする白人達。

 会議は、そのまま大きな実りが無いまま、現状の確認だけをして終っていった。



 八刃の基地に戻って較が怒鳴る。

「こんな状況で人種差別なんてしてるんじゃねえ!」

 そこに較の親友、大山オオヤマ良美ヨシミが来て言う。

「今日も荒れてるな。どうした?」

 較は、今回の会議の資料を見せる。

 良美は、傍に居た中学時代のクラスメイトで、色々な事情から較の下で働いている鈴木優子ユウコにパスする。

 優子は、ため息を吐いて、それを斜め読みして言う。

「それにしても今時、白人、黒人、黄色人、赤色人、茶色人で人種を分けるなんて乱暴ですね」

 較が不機嫌そうに言う。

「もっと詳細な人種識別の奴もあるけど、そっちは、もっと腹立つよ」

 差し出された資料を見て優子が呆れる。

「どうしたら普及率一パーセント未満の人種が居るんですか?」

 較も苛立ちながら答える。

「知らない。まあ、そういった人たちは、今でも古来のシャーマンが現存してる場合が多いから対抗できているけど、限界があるからね」

 良美が感心した様に言う。

「しかし、人種ってこんな色んな分け方があるんだな」

 優子が首を横に振る。

「生物学上は、ホモ・サピエンス種以外のヒト属の種が絶滅した現在の地球では、現生人類はホモ・サピエンス種の一属一種のみよ。さっき言った人種の差別化は、どちらかというと奴隷の発生に深く結びついていると言われているわ」

 較が呆れた顔をして言う。

「自分と同じ生き物が奴隷として売られるのが心情的に嫌だから、別の生き物とする為に人種なんて概念が生まれたんでしょね」

 良美が言う。

「結局の所、黒人差別って奴だろう?」

「正確に言うと、有色人種への差別。ただ、黄色人に関しては、中国や日本という大国があるからかなり救われている所があるのよ」

 優子の説明に良美が言う。

「黒人だって主権を持つ国もあるだろう?」

「主要国の大半で白人が権力を掴んでるの。それが同時に主要企業への影響力となっていて、どうしても白人組織に優先的に異邪専用兵器が流れる」

 較の説明に優子が言う。

「こんな状況ですから、人種差別等は、軽減するかと思ったのですが」

 較が嫌そうな顔をして言う。

「異邪専用兵器は、十分に普及していないこんな状況だから、余計に出てくる。命の切捨てする時に、自分と同じ人種より違う人種の方が、気が楽になる。まあ、人種だけでなく、国籍や宗教なんて言うのも切捨て対象になりやすいんだけど、肌の色ほど明確に差別し易い物は、ないのよ」

「どうにか成りませんかね?」

 優子がため息混じりの言葉に良美が言う。

「八刃から直接要請する訳には、行かないのか?」

 較が首を横に振る。

「それをやったら、八刃が干渉した事になって、逆に協力を求められる。最終的に、八刃頼りの戦争になるのだけは、避けたいの」

 そこに予知班の責任者、星語明日が来て言う。

「白人が多い場所と黒人が多い場所で、八刃の派遣が必要な異邪のクラスが異なり、判断を間違えて全滅した集団も多いです」

 較は、遠い目をして言う。

「黒人の人たちが長い間かけて、少しずつ変えてきた現状を更に推し進める事は、簡単じゃない。それでも何とかしないと……」



 ロンドンから少し離れた所にある町。

 そこに較の父親、白風焔ホムラが組織したオーフェンハンターで、鬼神のフォーカードの一枚、クンフーオブクラブと呼ばれる地龍が来ていた。

「地龍さん、この付近です」

 そう、地龍を先導するのは、ICPO所属のシンガポール人だが、八刃に協力している女性、アリス=ロンである。

「一つ聞いていいか? お前らは、八刃と縁があると言っても、ICPO所属だ。八刃の指揮下で、高位異邪の排除なんて危険な事をしなくても良いだろう」

 それに対して、アリスの相棒である年上の日本人男性、鈴木真兎シントが答える。

「こんな状況だからな。ICPOも上層部の利益関係で動かされる。馬鹿な上司の都合に命を懸けるより、少しでも多くの人間を救える道を選んだだけだ」

 アリスが頷く。

「そんな所です。私も真実に近い情報が入る八刃と関係を維持したいですから、丁度良かったのです」

 地龍が言う。

「私は、一度、先行者として八刃を裏切った。それでも奴らは、私を普通に仲間としている。正直、正気を疑いたくなるな」

 それを聞いてアリスが微笑する。

「ヤヤさん達は、本当の意味で現実主義者ですから。過去や因縁に囚われず、今の力と思いで判断しているのですよ」

 真兎が苦笑する。

「罪人も平気で使うのは、さすがに問題だと思うがな」

 そうしている間に、町の中心部に着くとそこでは、黒人が抗議行動を起こしていた。

「我らにも異邪専用兵器を渡せ!」

「黒人を見殺しにするつもりか!」

「白人の横暴を許すな!」

 そんな騒動を見て、地龍がため息を吐く。

「ここでもか」

 アリスが嫌そうに言う。

「異界壁の補強がなされ、落ち着いた途端、一部の権力がある人間が異邪専用兵器の独占を始めましたからね」

 真兎が頭を掻きながら言う。

「序盤戦は、配布する相手の人種を選ぶ余裕すら無かったから、まだ増しだったな」

 そんな騒動を尻目に地龍達は、町の民宿にチェックインする。



 夕食を食べ終えて、部屋に居ると、ドアがノックされた。

「何の様だ?」

 真兎がドア越しに問う。

「少しお話をさせていただけませんか?」

 女性の声に、地龍が言う。

「殺気は、感じない。入れても問題ない」

 真兎がドアを開けると、そこには、一人の黒人女性が居た。

「入りな」

「ありがとうございます」

 黒人女性は、頭を下げて中に入ると、地龍のところに来て頭を垂れる。

「お願いします。あなた達が持っている異邪専用兵器を売ってください。これで足らないのでしたら、私の身体を好きにして下さってもかまいません」

 困った顔をするアリスや真兎と違い地龍が即答する。

「無理だな。我々が持っている少ない異邪専用兵器を売った所で、何の解決にもならない」

 黒人女性はすがり付いてくる。

「せめて、わが子だけでも助けたいのです!」

 そんな時、部屋のドアが開き、白人警官達が乗り込んでくる。

「ここに、異邪専用兵器を不正所持する者達が居ると聞く。大人しく差し出せ。さもないと監獄にぶち込むぞ!」

 真兎が呆れた顔をする。

「おいおい、異邪専用兵器を所有する事に違法性なんて無いだろうが。何の根拠があって言ってるんだ?」

 白人警官が偉そうに答える。

「お前ら有色人種には、異邪専用兵器を持つ資格なんて無いんだ。真に優れた白人のみが、その資格がある。さっさと出せ」

 アリスが真剣な眼で告げる。

「あちき達は、八刃の関係者です。それに敵対する意味を理解していますか?」

 その言葉に白人警官も黒人女性も驚く。

「何を証拠にそんな事を……」

 白人警官の言葉に、真兎が特別製のサイコマグナムを見せて言う。

「こんなカスタマイズを持っているって事がその証拠にならないか? ついでに言えば俺とアリスは、ICPO所属だぞ」

 舌打ちして出て行く白人警官達。

 そして黒人女性は、悔しそうな顔をする。

「貴方達は、力があるから平気でしょ! 力が無い私達に、その武器だけでも頂戴!」

 地龍は、揺るがない眼で答える。

「力が無いなど誰が決めた。私は、八刃だけが特別で、優れた存在だとは、認めない」

 歴戦の戦士の威圧に黒人女性が動けなくなる。

 アリスがそんな黒人女性を連れて外に出た。

 真兎がつぶやく。

「サイコシューターの一つでも売ってやればよかったかもな」

 それに対して戻ってきたアリスが反論する。

「さっきの白人警官を見たでしょ。そんな事をしても取り上げられるだけよ」

 地龍が頷く。

「根本的な解決をしない限り、この状況は、変わらない」



 翌日、町の市場にブルークラスの象の人獣が現れた。

『もっと食べ物を寄越せ!』

 トラックすら一撃でひっくり返す鼻の攻撃に、現地の警官も寄せ付けなかった。

 そこに地龍が到着する。

「お前の相手は、私だ」

『邪魔をするな!』

 鼻を伸ばす象の人獣。

 地龍は、それを紙一重でかわすとそのまま接近する。

『潰してやる』

 本物の象を凌駕する後ろ足でのスタッピング。

 地龍は、あっさり受け流すとそのまま膝を蹴り付け、転がすと地面に後頭部がぶつかる直前に相手の術を無効化する力を篭めた踵落としを額にぶつける。

 そのまま象の人獣は、頭を粉砕されて滅びる。

 圧倒的な力に、人々が困惑する中、別の所で騒ぎが起きる。

「火事だ! 異邪の身体から炎が移った火事だ!」

 それを聞きつけた真兎が駆け出す。

 その後を追うように、アリスと地龍もやってくる。

 そこでは、大きな屋敷が燃え上がっていた。

 白人男性が叫んでいた。

「誰でも良い! 私の娘を救ってくれ! 救ってくれたら何でもする!」

 しかし、誰も動かない。

 ただの火災では、無い、異邪が起した火災、そんな危険な場所に近づこうとする者が居る筈も無かった。

「条件だ。お前の子供を助けて来る代わりに、黒人達にも異邪専用兵器を行き渡るようにしろ」

 地龍の言葉に白人男性が驚く。

「本当に行ってくれるのか?」

 地龍は、淡々と問う。

「異邪専用兵器を行き渡るようにするか、聞いている?」

 白人男性が慌てて言う。

「娘が助かるんだったら、何だってする。頼む!」

 その言葉に頷き、地龍は、燃え上がる屋敷の中に入っていく。

「地龍さん、大丈夫かしら?」

 心配するアリスに真兎が気楽に言う。

「あの人だったら、異邪が居てもぶち倒すし、炎だって気の攻撃で吹っ飛ばせるさ」

「そうですよね」

 そう答えるアリスであったが、何か嫌な予感を覚えるのであった。



 屋敷の中に入った地龍は、何体ものイエロークラスの火事の精霊を滅ぼしながら、気の流れを辿りながら、奥に進んでいた。

 そこで、一人の白人の少女を見つける。

「大丈夫か?」

 それを聞いて白人の少女が咳き込みながらも言う。

「奥に友達が居るの。彼も助けて」

 地龍が頷き、少女を抱えながら、隣の部屋に行く。

 そこには、黒人の少年が倒れていた。

「ボビー!」

 少年の名を叫ぶ白人少女。

 地龍は、黒人の少年、ボビーに近づき、確認する。

「大丈夫だ。安心しろ」

 軽く気を篭めてやるとボビーも眼を覚ます。

「カレン。無事だったんだ。カレンが取り残されたって聞いたから、助けに来たんだ」

「あたしの為に……」

 白人の少女、カレンが感動しているが、地龍は、ボビーもカレンと逆の手で抱えて、脱出しようとした。

『まだ、生き残りがいたのか! 燃えちまえ!』

 強烈な炎が地龍達を襲った。



 屋敷の外で待機していた人々。

 白人男性、カレンの父親が心配そうに言う。

「あの男は、本当に大丈夫なのだろうな!」

 真兎が怒鳴り返す。

「助けに行ってもらってる癖に、言い方を考えやがれ!」

 その時、壁に大穴が開いて、そこから地龍が飛び降りて来た。

 そして、両手に抱えたカレンとボビーを開放する。

 父親に駆け寄るカレン。

「ボビー、どうしてあんたが!」

 そう声をかけたのは、昨日の黒人女性だった。

 ボビーは、涙目で近づき言う。

「カレンの事が心配だったんだよ!」

「あんな白人の娘の為に何でこんな危険な事をするの!」

 怒るボビーの母親にボビーが答える。

「だって、カレンは、友達だから」

 その時、地龍が倒れた。

 驚き駆け寄る真兎。

「どうして、あんたが、この程度の事で……」

 アリスが地龍の背中の重度の火傷を見て言う。

「酷い。これは、……」

 父親に抱きついていたカレンが言う。

「そのオジさん、あたし達に炎が来ない様にしてくれてた」

 真兎が舌打ちする。

「それで、自分をガードする余裕もなかったのかよ」

 そこに火事の精霊が現れる。

『ここにも燃えそうな奴らが居るぜ!』

 炎を撒き散らす火事の精霊に真兎がサイコマグナムを打ち込む。

「お前らの所為で!」

 白人警官達もサイコシューターで迎え撃つが、火事の精霊の数が多く、人手が足りない状態だった。

 その時、カレンの父親が庭の倉庫の鍵を開けて言う。

「ここに異邪専用兵器がある! これを使ってあいつ等を倒してくれ」

 戸惑う人々の中、ボビーの母親が倉庫に近づく。

「黒人のあたしでも良いのかい?」

 カレンの父親が頷く。

「娘の恩人の仇を討つためだったら、白人も黒人も関係ない!」

 そして、次々と武器をもった人々によって、火事の精霊が一掃された。



 地龍の遺体の前で較が言う。

「地龍さんは、格闘戦だったら、間違いなく私より強い。そんな地龍さんがたかが、イエロークラスの異邪に倒されるなんて思わなかった」

 寂しげな較の言葉に真兎が言う。

「本来のターゲットじゃ無かった。地龍さんの独断行動で、あんたには、罪は、無い」

 首を横に振る較。

「事情は、聞いているよ。私がもう少し頑張ってたら防げた可能性が高いわ。地龍さんは、八刃を嫌っていた。人外なんて何度も言われたよ。それでも、一緒に戦ってくれた」

 そんな中、アリスが言う。

「ヤヤさん、こんな時なのですが、あちきは、ICPOに戻ろうかと考えています!」

 真兎が驚く。

「いきなり何を言うんだ?」

 アリスが答える。

「八刃では、思うように動けます。でも、それだけじゃ駄目な事に気づきました。人々の考えから変えていかないといけないと。ICPOだったら、大変かもしれませんが、それが出来るかもしれないと考えています」

 較が頷く。

「貴女の信じる道を進んでください」

 真兎がアリスの頭に手を置いて言う。

「仕方ない。俺も付き合うぞ」



 こうして、また八刃から貴重な戦力が失われた。

 例えアリス達がICPOで頑張っても人種による差別が異界壁崩落大戦中に無くなることは、ないだろう。

 しかし、その為に動き始める事が、異界壁崩落大戦後にも生きて来るはずである。

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