連戦
序盤戦、八刃は、何をしていたのか?
世界中で戦いが続いて居た。
異邪でも最も多いのが通常兵器も通用するグリーンクラスである。
しかしながら、地方でも通常兵器が通用しづらいイエローグリーンクラスも頻繁に現れる。
その状況で、なんとか配備され始めた異邪専用兵器を中心に地元の術者が協力して対応していた。
都市部になると、通常兵器が殆ど通用しないイエロークラスや通常兵器の他に低レベルの術も通用しないライトブルークラスも現れる。
その場合は、配置された異邪専用兵器の部隊が対応する。
重要拠点の場合には、通常兵器が通用せず、低位の異邪専用兵器も通用しないブルークラスが現れる事があり、数が少ない強力な異邪専用兵器が使用される。
多大な被害を出しながらも異邪に対抗出来る様になりつつあった。
しかしながら、対抗しきれない絶望的な状況とは、当然発生する。
ニューヨークの自由の女神像の周りを悠然と飛ぶ、天人。
天人界から来た彼等は、背中に翼を持ち、高度な魔法を操る、嘗ては、天使とも呼ばれた事もある存在である。
『愚かな人類よ。貴様らに自由など不相応。自らの行いを悔い改めよ』
そんな宣言を悔しそうに見る人々。
「軍隊は、何をやってるんだ!」
市民が声を荒げるが、一人の警官が首を横に振る。
「もう戦った。奴らには、ダークブルークラスの異邪も居た。ここには、サイコミサイルまで装備された戦闘ヘリまで用意されていたのに、全滅させられたよ」
その言葉に、愕然とする人々。
そんな市民を黒髪の女性が見ていた。
そこに金髪のナイスバディーの女性が声をかける。
「ヤヤお姉ちゃんからGOサインが出たよ」
黒髪の女性が笑みを浮かべる。
「こそこそ隠れて、人命救助するのも限界だったからね」
その二人は、街灯を足場に人混みを抜けると、自由の女神の傍に行く。
『愚かな人間め、まだ逆らうのか』
リーダー格、ダークブルークラスの白銀の髪をした天人の言葉に、金髪の女性が言う。
「我らは、例え相手が神であろうと、自分達の意思を貫く。その為の八刃!」
それを聞いて白銀の天人が言う。
『八刃だと!』
金髪の少女が頷く。
「あたしは、八刃の一家、白風の小較」
『我等に逆らう愚か者を滅ぼせ!』
白銀の天人の言葉に、周りの天人が動き出す。
すると黒髪の女性、嘗て異邪だった支配眼の魔王と人とのハーフ、豆田瞳子が近くの海面を見る。
それと同時に海面が盛り上がり、天人達を飲み込む。
『恐れるな!』
白銀の天人を始めとする高位の天人達は、防御結界を作り出し、それを防ぐが、小較が彼らの上空に居た。
『シヴァレイン』
海水が凍りつき、鋭く尖った氷の雨が白銀の天人を除く、天人を滅ぼす。
『お前らだけは、私が滅ぼす』
強力な雷球を生み出そうとする白銀の天人。
しかし、小石が白銀の天人の防御結界を突き抜けて当たる。
ダメージこそ小さいが、白銀の天人の集中力は、激減される。
瞳子が笑顔でいう。
「実害があるレベルの攻撃は、防御結界を越えられなくても、嫌がらせは、出来るのよ」
『それでどうなると言うのだ!』
白銀の天人が叫んだとき、落下していた小較が答える。
「あたしの力を溜める時間が出来る。『オーディーングレートソード』」
両手を合わせた小較の手刀が白銀の天人の翼を切り落とす。
『馬鹿な……。力では、私が上回っていたのに!』
そのまま氷の槍が乱立する地面に激突し滅びる。
地面激突直前に慣性制御を行い軟着陸した小較が言う。
「八刃は、力で勝る相手と戦い、撃ち滅ぼし続けてきた。その差よ」
アフリカのサバンナの上空を多くの竜が飛び回っていた。
竜王界から来た彼等は、異邪の中でも高位の者が多く、特にこの群のトップ、サンドラゴンは、ダークブルークラスであった。
『ここを第二の故郷にするとしよう』
その下では、アフリカ軍が悔しそうにしていた。
彼らも抵抗しなかった訳では、無い。
今も断続的に戦車や戦闘機による攻撃を繰り返しているが、ドラゴンワールドと呼ばれる、自分の周囲の理を自分の意思で変更出来る力の前に無力であった。
なけなしのサイコミサイルの投入も行われたが、サンドラゴンが前面に出て防がれてしまうのだ。
「我々は、無力なのか!」
司令官が叫んだ時、部下が報告する。
「司令官、大変です。新たな竜が現れました」
司令官が通信機を地面に叩きつける。
「まだ増援があると言うのか!」
しかし、新たな竜、全身から輝きを感じさせる竜の頭には、一人の少女が居た。
「あなた達の事情は、祖父から聞いています。元の世界で生きる場所を失ってこの世界に逃げてきたと」
それを聞いてサンドラゴンが悔しそうな顔をする。
『なぜそれをお前らが知っているかは、解らぬが、そうだ。我は、ともかく我が同胞の多くが更に強き竜に蹂躙され続けて居る。我らは、生き残る為にこの世界に来た!』
すると、少女を乗せた竜、シャイニングドラゴン、ワンが言う。
『だったら、ちゃんと移住許可を取れよ。俺だってそうしてこっちに居るんだよ』
それを聞いてサンドラゴンが不機嫌そうに言う。
『この人数で神々が許可を下ろす訳がないだろう。それでも、我等が生き残る為には、この世界への移住が必要なのだ!』
そして、ワンの頭の上の少女が言う。
「だからといって異界壁が崩落した今、強引に移住しても、相互にトラブルが起こるだけだって事が解らないのですか!」
サンドラゴンが言う。
『意見の相違は、力でねじ伏せる。今まで我々がされてきたようにな!』
ワンが舌打ちする。
『これだから弱者の言い分は、嫌いなんだよ。強い奴らに逆らえないからって自分より弱い奴にそのしわ寄せをするんだからな』
サンドラゴンが言う。
『お前に何が解る!』
それに対してワンが怒鳴りかえす。
『俺の親父達は、大勢力に抗い続けた。結局、負けたが、それでも何かを残せた筈だ! 俺は、何時か親父達の意思を継ぐ!』
睨み合う両者。
そしてワンの頭の上の少女が言う。
「力であたし達をねじ伏せるつもりでしたら、あたし達も力で対抗します。あたしは、八刃が一家、霧流の一華」
胸もとのペンダントを握り締めて一華が唱える。
『血の盟約の元、一華が求める、戦いの牙をここに表せ、竜牙刀』
ワンの頭上から飛び上がった一華がサンドラゴンにアクセサリーから変化した刀で切りかかる。
『下位世界の住人に負けるか!』
サンドラゴンと一華が戦っている間に、ワンが周りの竜を挑発する。
『ほら、ついてこれるか!』
『舐めるな、小僧!』
追いかけっこするなか、ワンが急上昇する。
それを追随するように竜たちが一直線に並んでしまう。
そこにワンの口から放たれたシャイニングブレスが竜達を飲み込み、撃墜する。
地面に落下した竜達。
それをチャンスと見たアフリカ軍の兵士達が次々に攻撃して滅ぼしていく。
その様子を見てサンドラゴンが叫ぶ。
『我が同胞を! 許さんぞ!』
そんな中、一華が言う。
「ワン、あいつは、強敵だからあれをやるよ!」
『おう!』
ワンが一華の背後につく。
『魂の契約にもとづき、我に力と化せ、シャイニングドラゴン! 超竜武装』
ワンが光と化し、ぶつかると、竜の鱗を思わせる装備をした一華があらわれる。
『シャイニングフィニッシュ』
一華は、一刀と共にサンドラゴンを切り滅ぼすのであった。
霧に包まれたロンドンを徘徊する影獣。
影獣界から現れた彼等は、光に憧れた。
しかし、未だ光の世界に住むだけの力は、無かった。
『いまは、こんな霧の中でしか存在できないが、おおくのこの世界の生き物を取り込む事で、太陽の下で生きていけることだろう』
刃を持つ狐の姿をしたダークブルークラスの影獣、ブレイドフォックスは、自分を捕らえに来た警官や軍人を喰らい終え、次の獲物を探していた。
その時、赤子の鳴き声がした。
ブレイドフォックスがその方向を向くと逃げ遅れた母子が居た。
母親は、泣く赤子を庇いながら言う。
「私を食べてもかまいませんが、せめて子供だけは、助けてください!」
しかし、ブレイドフォックスは、その口を広げて言う。
『駄目だ、私は、一刻も早く光の下に行くのだ!』
「話し合いの余地も無いようですね」
ブレイドフォックスが声の方を向くと黒髪の執事が立っていた。
『新しい獲物だな』
それに対して執事が言う。
「私は、八刃の一家、谷走の英志。異邪を排除する」
飛び掛るブレイドフォックス。
『影小円』
無数とも思える小さな影がブレイドフォックスに襲い掛かる。
『この程度の攻撃が効くか!』
ブレイドフォックスが吠えながら英志の喉に牙を向ける。
『影走』
英志の身体が、影に沈み消えた。
『馬鹿な!』
困惑するブレイドフォックスの背後に現れた英志が腕を上げる。
『影断』
英志から伸びた影がブレイドフォックスを両断し、滅ぼした。
伊勢神宮に巨大な神が光臨した。
『我は、土の神なり。我に従え』
それは、古来この世界に現れ、たびたび神としてその力を振るい、人に恐怖を与えた存在、古神。
古神界から来た彼等は、このチャンスにこの世界を自分達の物にしようとしていた。
ブルークラスの異邪と判断された土の神に自衛隊が攻撃をしたが、全て返り討ちにあった。
宮司達が恐れる中、ライフルを持った白人が現れる。
「随分と勝手な言い草ね。あたし達は、あんたなんかに従わない」
『愚か者め。我が力を思い知れ!』
土の神が地面を蹴ると土が盛り上がり、白人女性に向かっていく。
戦車すら一撃で破壊した土の攻撃だが、白人女性の前に出た少女の一刀で切り崩される。
「拙者、八刃の一家、神谷の千剣。いわれなき服従は、絶対にしない」
『そうか、貴様は、古来より我々を邪魔し続けていた八刃なのか、ならば手加減は、不要!』
地面が捲り上がり、まるで津波の様に千剣に襲い掛かってきた。
両手につけたプロテクターの力を発動させる。
『百母栗理との約定を持ちて、強風隼の力を解き放て』
加速された千剣の刀は、土の津波を打ち砕く。
白人女性、ツモロー=ホープがライフルで土の神に狙いを定める。
『百母栗理との約定を持ちて、空力鷲の力を解き放て』
ライフルから翼みたいな飾りが展開すると周囲の力が収束し、放たれた弾丸に篭められた。
その弾丸は、戦車の主砲すら通じなかった土の神の一撃で滅ぼすのであった。
上海の町を我が物顔で闊歩する人型の獣、人獣。
人獣界からきた彼等は、食べられる物を求め暴れていた。
多くの人獣は、イエローグリーンクラスだったが、中には、イエロークラスも居た為、中国の軍隊も苦戦を強いられていた。
現場の司令官が怒鳴る。
「とにかく、イエロークラスを潰せ。イエローグリーンクラスなら通常兵器でも対処出来る」
そんな中、一際大きな犬の顔をした人獣、犬人が現れる。
『仲間をやらせぬ!』
「馬鹿な、ブルークラスだと!」
司令官が困惑している間にも兵士達がサイコシューターやサイコマグナムを放つが、弾かれる。
彼らが死を覚悟した時、日本人の声がした。
「そこまでだよ。それいじょうは、あちきが、八刃の一家、百母の桃がやらせない!」
竜の形をしたぬいぐるみを突き出す桃。
『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、光帯進竜』
ぬいぐるみが光の竜と変化して、犬人と周囲の獣人達を滅ぼすのであった。
ソロモン諸島を飛び交う巨大な鳥、神鳥。
神鳥界から来た彼等は、神の使いからの脱却を望んでいた。
『この世界なら、我らは、自由になれる』
新天地に夢を語る炎を纏ったブルークラスの神鳥、炎神鳥。
それに対して、現地の軍隊が通常兵器で何度も攻撃を仕掛けるが無効であった。
「サイコミサイルがあったら」
悔しそうにする軍人達を尻目に黒髪の少女達が前に出る。
「君達、危ないぞ!」
それに対して、背が低いが長髪の少女が言う。
「そっちこそ、危ないから下がっててよ」
もう一人の背が高いが落ち着いた雰囲気がある少女が弓を構える。
「無駄だぞ、戦闘機のミサイルすら通じないんだぞ」
『ブルーアローツー』
少女が放った弓が信じられない事に炎神鳥の翼の一部を凍らせた。
軍人達が驚いている中、炎神鳥が視線を向けてくる。
『貴様達は、何者だ!』
それに対して背が低いほうが告げる。
「あちきは、八刃の一家、遠糸の貫。こっちが走。お前は、正規の移住申請が無い。とっとと帰れ!」
それに対して炎神鳥が言う。
『うるさい! お前達に神々の言うことに従うしかない我らの気持ちが解るか!』
その言葉と共に放たれる炎の羽根。
貫は、右手親指の爪で、左手の黒色の小指の爪を擦りつけ放つ。
『闇の鉾槍よ振るわれよ、ダークハルバード』
闇が扇状に広がり、炎を防ぐ中、走が言う。
「貫、合わせて!」
貫は頷いて、右手親指の爪で、右手の黄色の中指の爪を擦りつけ放つ。
『雷の砲撃を放て、イエローキャノン』
『イエローアロースリー』
貫から放たれた雷撃は、走の放った矢にまとわりつき、一気に炎神鳥の頭を貫き、雷撃となって滅ぼすのであった。
タヒチに大量のゾンビが現れた。
クラスこそグリーンクラスだが、その莫大な数に現地の人間の対応が追いつかない状態であった。
このゾンビ達は、不死界からやってきた尖兵であり、この世界の人々の生の力を吸収しようとしている。
そして、ゾンビに襲われた者達は、その影響を受けてゾンビに変化してしまう事で更にその数を増やしていた。
「もう駄目だ、俺達は、全員ゾンビになるんだ!」
現地の人々が恐怖に打ち震える中、一人の少女があくびをしながら地面に何かを書いていた。
当然、その少女にもゾンビが襲い掛かるのだが、少女の傍に居た長身の少女が倒していた。
『影刀』
自分の影から取り出した刀でゾンビを切り裂くその少女があくびをしている少女に言う。
「まだですか?」
「もうちょい」
そんな少女達に現地の男が声をかける。
「お前達は、何者だ!」
すると欠伸をしていた少女が言う。
「あちきは、八刃の一家、間結の曙です」
その言葉に、驚く現地の人々が近寄ろうとした時、もう一人の少女が遮る。
「曙は、今、大切な作業中だから邪魔しないで」
「あんたも八刃なのか?」
現地の男の言葉にその少女が頷く。
「八刃の一家、谷走の華夏よ」
現地の男が華夏に言う。
「貴様達は、何をしようとしているんだ!」
その時、曙が手を上げる。
「準備終了。行くよ!」
そして、曙が複雑な呪文と手印を刻み発動させる。
『死者昇華陣』
次の瞬間、強大な魔方陣から光が放たれ、ゾンビ達が昇華していってしまった。
オランダの風車が立ち並ぶ中、無数の風の精霊達が好き勝手に暴れていた。
精霊界に住む彼等は、何者に縛られず、自由に動いていた。
『やっぱり、自由って良いな。ルールを守るなんて面倒!』
敵意は、薄いが、全てがブルークラスの風の精霊たちに何も出来ないオランダ軍。
そんな中、大和撫子を現した様な女性が数名の人間を従えてやってきた。
「すいませんが、ここは、私、八刃の一家、萌野の静に任せて下さい」
驚くオランダ軍を尻目に、配下の人間に指示をして自らも呪文を唱える。
『我が攻撃の意思に答え、炎よ激しき流となれ、激流炎翼』
物凄い炎が風の精霊達を取り込み、燃やし尽くしていくのであった。
八刃が経営する私立八刃学園の地下施設。
そこでは、大型画面に世界地図が映し出されていた。
「新しい予言です。スペインでブルークラスの人獣が現れるみたいです」
「パリにダークブルークラスの竜の襲撃が予測されました」
そんな報告に答え、オペレーター達が世界地図にその反映していく。
「スペインには、百剣を。パリの方には、霧流の分家チームBを向かわせて」
オペレーター達が高位異邪の出現に対応する八刃メンバーの派遣指示を記録、通達に動く。
その様子を見て、日本人なのに白髪の女性、城田織羽が言う。
「なんとか、予知に因る八刃の派遣のシステムが動いているわね。事前準備は、十全にしたつもりだけど、上手くいって良かったよ」
その隣の大人しそうな女性、星語明日、この予知チームの責任者で、かつて八刃と争った事がある先行者の指導者が言う。
「私達は、傲慢なのかもしれません。襲撃を予知しながらも救うかどうかを勝手に判断しているのですから」
辛そうな顔をする明日に対して、状況を監督していた較が言う。
「勘違いしないでね。八刃は、あくまで自分達の利益の為、放置していたら問題ある高位の異邪を早期に倒しているだけだよ。他人を救ってやっているなんて思い上がった考えなんて無いよ」
明日が頷く。
「そうでした。人々が自ら努力して異邪と対抗する。そうでなければ負けると以前言ったのは、私でした」
織羽が苦笑する。
「予想以上に上手くいっているから仕方ない。本当は、予知なんて不明確な物は、防衛には、向かないんだけどな」
較が頷く。
「そう、本質的には、向いていませんが、効率的なシステムを構築することで、間違っていた場合のロスを減らしました。このシステムが正しく動いている限り、最後の難関までは、行ける筈です」
そう上手くいかない事をこの場に居た誰もが認識していた。
そんな中、較に一つの報告資料が渡される。
「やっぱり起こったか」
苦々しそうに言う較の手元の書類を覗き見して織羽が言う。
「八刃を騙り、金品等を要求する偽者だね」
明日がため息を吐く。
「世界中の人々が苦しんでいるのに、どうしてそんな事が出来るのでしょうか?」
織羽が肩を竦めて言う。
「どんな時でも自分だけは、大丈夫だと思っている馬鹿は、居るんだよ」
較が面倒そうに言う。
「八刃の人間が金品を求めたら偽者だと思えって全世界に通知しておきますか。まあそれでも騙される奴は居るけど、そこまでフォロー出来ないからな」
苦笑する一同であった。
アメリカ西海岸のロサンゼルスにダンス教室があった。
そこに数人の強面の男達がやってきた。
「だからさ、俺達は、八刃なんだ。俺達を護衛に雇えば異邪なんて怖くないって言うのが解らないのかい?」
男達の言葉に受付の女性が戸惑っていると、奥からこのダンス教室の社長の白人女性、マリンがやって来た。
「すいませんが、八刃の人間が金品を求める場合は、偽者だという公式通知がありますので、貴方達を信じる訳には、いきません」
それを聞いて男達の一人が力瘤を作って言う。
「そんないい加減な情報より、これを見ろよ。それに俺達は、これも持ってるんだぜ」
そういってサイコシューターを見せる。
「軍でも十分に支給されてないこれを持ってるのが何よりの証拠だろう?」
マリンは、笑顔で返す。
「すいませんが、何を言われてもお断りします。うちの会長が八刃の事を毛嫌いしていますので」
小さくため息を吐く男。
「その気持ちも解る。あの馬鹿なトップには、俺達も困っているんだ。俺達下の人間は、人類を救いたいんだ。ただ、俺達だって食わないといけない。だから、金が必要なんだよ」
そこにダンス教室の会長で、世界的なダンサー、谷歩進が来て言う。
「幾ら言っても無駄だ。俺は、八刃と関わり合う気は、無いんだ!」
進の迫力に怯む男達。
「後悔してもしらないからな!」
男達が捨て台詞を残して建物から出た時、空間が避けて、影獣、ニードルマウスが現れた。
「嘘だろ!」
困惑する男達だったが、周りの家々から声があがる。
「お金払ったんだ、力を見せてみろ!」
彼等は、ダンス教室に来る前にも周りの家々でお金を請求していたのだ。
「どうするんだよ!」
仲間に言われ、サイコシューターを持った男がサイコシューターをニードルマウスに向けて放つ。
しかし、効いていなかった。
「嘘だろ! なんで効かないんだよ!」
男は、サイコシューターを連射するが直ぐに煙を上げて壊れてしまう。
するとサイコシューターを投げ捨てて逃げ出す男達。
「なんだよ、八刃なんてあてにならないじゃないか!」
逃げ出す男達の前に立ちふさがり進が言う。
「何を当然の事を言っている。奴らは、自分勝手な集団なんだ」
男達は、首を横に振る。
「違うんだ! 俺達は、八刃じゃないんだ! だから逃げさせてくれ!」
涙ながらに哀願する間にもニードルマウスが近づいてくる。
「こんな小さいのにブルークラスなのですね」
マリンの言葉に進が答える。
「異邪を外見で判断するのは、間違いだ。異邪は、別世界の住人だからな」
その時、ニードルマウスが身体の針を伸ばして攻撃してきた。
『影断』
進の影が伸び、ニードルマウスを切り裂き、滅ぼす。
「嘘だろ!」
驚く男達にマリンが告げる。
「ススムは、元八刃の人間よ。因みにあたしは、八刃の長の個人的なメールアドレスを知ってるわよ」
男達が脂汗を垂らす。
「いつの間に聞いたんだ?」
進の質問にマリンが微笑をしながら言う。
「八刃関係でトラブルあったら連絡してってベトナムで会った時にです」
眉を顰める進であった。
この様な形で八刃の偽者は、出るが直ぐにボロが出る状態であった。
そして、八刃は、全ての戦闘を自己防衛と位置づけ、決して人助けをしないと断言し続けるのであった。