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混乱

人々を襲う異邪達とそれと戦う人々

 較の異界壁崩落発表は、全世界に激震を起こした。

 主だった政府は、この発表を肯定的な立場をとり、異邪に対抗する手段の模索をとるのであった。

 しかしながら、民間では、激しい討論がなされるのも仕方ない事なのかもしれない。



「これは、神が下した審判なのです。全てを受け入れるべきです」

 戦争否定派の宗教家の言葉に戦争ジャーナリストが反論する。

「全ては、政府のデマコークだ! 異邪は、全て政府が秘密裏に作りだした特殊兵器に違いない!」

 肩をすくめるのは、妖怪博士とも言われる民俗学者だった。

「君達は、なんでもかんでも政府の陰謀と言うが、少しは、現実を見たらどうだ? 今世界を襲っている異邪が人の技術で作成可能な物なのか?」

 それに対してアメリカの有名大学の物理学教授が言う。

「しかし、異界やそれを隔てる壁など到底、今の科学では、容認出来ない」

 こんな収拾がつかない論議が繰り返される中、一人の日本の民俗学者が言う。

「今は、正体をどうこう言う前にする事があるのでは、無いでしょうか?」

 視線がその男、蒼井アオイ秀一シュウイチが言う。

「較という女性の言葉の検証です。ここでは、取り敢えず異邪という存在が居て、異界壁が崩落したという前提で話させてもらいますが、彼女の発言には、いくつか重要なポイントがあります。一つ目に異邪と異なる神なる存在。異邪を越す力を持つのは、ほぼ間違いないと思いますが、これが私達のいう所の神と同一なのかどうか? そしてその神は、人類を守護しているかどうか? 二つ目にその神が異界壁を修復するのに要する時間が一ヶ月と言う具体的な期間。彼女は、それをどうやって手に入れたのかは、解りませんが、それが信じるに値するのか? 最後に自分達の力で護れない時に異界壁の修復に問題が発生するとありますが、それでどれほど問題がでるかです」

 秀一の指摘に最初に答えを言ってきたのは、宗教家であった。

「神は、居ます。そして神は、正しい行いをしている限り、人を守護してくださる事でしょう」

 それに対して皮肉家の評論家が言う。

「今の堕落しきった人類が神様に護られる価値があるかどうか疑問だね」

 宗教家は、激昂する。

「だからこそ、身を清め、神の教えに従うのです!」

 宗教家達が息巻く中、秀一が言う。

「この議論は、答えが出づらいので、後回しにしましょう。次の期間について、意見がある人が居ますか?」

 すると比較的に落ち着いていた物理学者が言う。

「正直、かなり疑問がありますね。異界壁についての解説が彼女のホームページに書かれていました。実際は、壁と言うより強大な力を持った物を阻む網状になったそれを破損部分から切り落とし、新たな網を切り取った部分と結合するとありますが、主だった工程がこの新しい網の製造とありますが、神といわれた存在がこの様な状況を想定して予備の網を持っていないと言うのも不思議な事だと思います」

 秀一が言う。

「詰り、実際の期間は、もっと短いと?」

 その物理学者が頷く。

「そう考えるのが理論的でしょう」

 すると秀一が言う。

「ここで一番問題にしないといけないのは、一ヶ月と言う期間を大きくオーバーする可能性です。もしもそうなった場合は、精神的にも物資的にも困った事になるでしょう。その可能性については、どう思われますか?」

 その物理学者が答える。

「それについては、三つ目の案件と関わる話ですが、この一ヶ月と言うのが神と呼ばれるもののスケジュールの関係としたら一ヶ月を大幅にオーバーする事は、無いでしょう。ただし、その場合、網目が粗いもしくは、強度に問題あるものが出来ると考えるのが妥当でしょうね」

 頷く秀一。

「我々が一番問題としないといけないのは、そこなのでは、無いでしょうか? 一つ目の事とも関わる事ですが、神は、我々だけの神でなく、この世界に割ける時間が限られるとした場合、異界壁の修復は、完成しない状態でこの世界が放置される可能性があるという事です」

 唾を飲み込む参加者達に秀一が言う。

「そして我々が出来るのは、自分達の力で異邪を排除する事のみ。その為の協力体制を作るのが順当な判断じゃないでしょうか?」

 すると議論者達の中からも賛同者が現れる。

「そうかもしれないな」

「きっとこれは、神が我々に与えた試練なのです」

「神様なんてあてにしてられないからな」

 議論が新たな方向に進み始める。

 討論会が終った後、秀一が控え室に行くと較が居た。

「ご苦労様でした」

 苦笑する秀一。

「世界で一番の有名人がこんな所で何をしているのですか?」

 較は微笑をしながら言う。

「リサーチです。ここは、秀一さんが居たからまだまともな方ですよ。場所によっては、異邪の事なんてどっかに行って、お互いの罵り合いで終始していた所もありましたからね」

 秀一は、椅子に座って据え置きの水を一口飲む。

「実際問題、この工期は、確実なのですか?」

 較が頬をかきながら言う。

「はっきり言えば、八百刃様や八百刃獣様達がかなり無理した結果、なんとか搾り出したのがこの一ヶ月です。予備の使用なんて認められないみたいですし、一部には、この世界の救助は、諦めた方が良いと言う意見が有ったらしいですね」

 大きな溜息を吐く秀一。

「随分と低い評価なのですね」

 較が頷く。

「元々がそんなに高くなかった、この周囲には、高位世界が多いから、そのターゲットにされるのは、半ば仕方ない事だった。それを今まで何とか凌いでいたのが現状だからね」

「凌ぎ過ぎたのが原因かもしれませんね」

 秀一の指摘に較が嫌そうな顔をする。

「そこを指摘されると八刃も辛いのですけどね。ところで、ご家族は、大丈夫?」

 苦笑する秀一。

火姫ヒキが頑張ってくれるみたいです。戦う力もない俺に出来るのは、こうやって少しでも火姫の戦いが楽になる様にする事だけですよ」

 較が微笑み言う。

「そういった助け合いこそ、この戦いの鍵ですね。八刃みたいな強い力を者だけで戦っても負けるのは、殆どの予知能力者が予測する未来ですからね」

 秀一が立ち上がり言う。

「それならば尚更頑張らないといけませんね」

 そして次の討論会に向う秀一であった。



 アメリカの片田舎、そこを豹の人獣達が襲っていた。

 陸軍の兵隊がマシンガンやバズーカーで反撃しているが、十分に成果を挙げていなかった。

「くそ、下から二番目のイエローグリーンクラスで、殆ど通常兵器が通用しないじゃないかよ!」

 文句を言いながらも新規配布された精神力を撃ちだすサイコシューターを放つ。

 その兵器ならばある程度効くのだが、まだまだ配備数が少ない。

「隊長、異邪に増援です!」

 部下の言葉に新たに表れた山羊の人獣を見る兵士達に軽い安堵の息が漏れる。

「ライオンが来たらどうしようかと思ったぜ」

 そんな事を言う部下達に隊長が叱咤する。

「油断するな、クラスカウンターを使え!」

 隊長の言葉に兵士達が最優先で配置された異邪のクラスを判別するクラスカウンター(眼鏡型とか色んなタイプがあり、選べる)を通して新たに現れた山羊の人獣を見て叫ぶ。

「冗談だろう、なんで豹がイエローグリーンで山羊がその上のイエローなんだよ!」

「文句を言っている場合か、イエロークラスには、殆ど通常兵器は、通用しない、サイコシューターを集中させろ!」

 隊長の命令にサイコシューターを持った兵士達が必死に打ち出すが、絶対数不足しているので、山羊の人獣の接近を許してしまう。

「サイコシューターを持っていない奴は、サイコナイフを持って、格闘戦を行え!」

 隊長は、そう宣言してから、腰の精神を刀身に纏わせられるサイコナイフを抜き取り、サイコシューターを放っていた部下に襲い掛かろうとした山羊の人獣と相対する。



「どれだけ生き残っている?」

 左腕を負傷した隊長の言葉に、後方で状況を報告していた通信兵が答える。

「敵、人獣は、全滅。我等は、三十名中十名が死亡、重傷が五名、残った仲間も軽傷を負っています」

 隊長は、折れたサイコナイフを地面に叩きつけて怒鳴る。

「上は、何をやってるんだ! サイコシューターが後、十丁あればもっと被害が少なかった筈だ!」

 悔しそうな隊長に片足を引きずった副隊長が言う。

「しかたあるまい。異邪専用武装は、首都や軍基地防衛に優先して配備されているんだからな。サイコシューターが配備されただけでも俺達は、恵まれている」

 傍に居た兵士が言う。

「俺のダチが居た部隊は、サイコナイフだけで異邪と相対して、ダチを残してほぼ壊滅だったってよ」

 前線の兵士の中に不満が蓄積する。

 そんな中、民間人の少女が傷ついた兵士の所に水を持ってくる。

「兵隊さん、お水」

 兵士は、微笑み言う。

「ありがとよ」

 それに対して少女が悲しそうに言う。

「あたし達を護るために怪我したんだもん。ありがとう」

 そんな風景を見て隊長が溜息を吐く。

「それでも、俺達は、あの子の未来を護るために戦わないといけない」

 その時、通信兵が叫ぶ。

「隊長! 新しい異邪が!」

 隊長が振り返るとそこには、魚の人獣達が居た。

 副隊長がクラスカウンターを使った後、搾り出すように言う。

「イエローの上、ライトブルークラス。通常兵器は、ほぼ効かないクラスだ」

 残るサイコシューターも一丁、サイコナイフも何本も残されていない状況に兵士達が絶望する中、隊長が言う。

「時間を稼ぐんだ! 民間人が逃げる時間を!」

 負傷した兵士達もサイコナイフを構え、魚の人獣達と組み合う。

 しかし、どんどんと魚の人獣達は、兵士達をすり抜けて、武装をしていない民間人に襲い掛かろうとしていた。

 そして、足を負傷して動けない兵士が近くに居た少女を庇う様に覆いかぶさる。

「兵隊さん!」

 少女が叫び声をあげた。

 しかし、その兵士を魚の人獣が襲う事は、無かった。

 兵士が振り返ると、そこには、一人の男が居た。

『我は神をも殺す意思の持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』

 男の手に刀が生まれ、そして男が魚の人獣を一刀の下に切り捨てる。

 そのまま、魚の人獣の群に突入すると、そのまま全ての魚の人獣を葬り去る。

 戦いが終った後、隊長が言う。

「君は、どこの部隊の者だ?」

 それに対して男は、淡々と答える。

「俺は、八刃が一つ、神谷カミヤ百剣オケン。それ以上でもそれ以下でもない」

 その言葉に兵士達の間に動揺が走る。

 八刃の名前は、較の発表の中で出てきていたからだ。

 隊長が鋭い目をして言う。

「詰り、あの較という女の部下か? それがどうして我々を助けた?」

 百剣は、淡々と答える。

「八刃は、戦う意思を持つ者を好む。八刃の長もそう言っただろう。偶々目の前でお前達が強い意志を持って戦って居たから助けただけだ。単なる気まぐれだ、次を期待するな」

 そのまま立ち去る百剣を見ながら隊長が言う。

「八刃、奴等は、何をしたいんだ?」



「ブラジルの方は、お願いします」

 較は、八刃の分家の一つに頭を下げる。

 そんな較を見て、その親友の女性、大山オオヤマ良美ヨシミが言う。

「助けるんならどうして、あの発表で言わないのかね」

 較は疲れた顔をして言う。

「あの場でそんな事を言ったら、あちき達の力をあてにするでしょ。それじゃ駄目だから。それに政府の奴等に協力しても、無駄に自分達の警護に回すだけで意味が無いからね」

「政治家って何処も一緒だね」

 良美の言葉に較が肩をすくめるだけだった。

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