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竜王

霧流VS竜王の対決

 竜王界、竜の中でも強力な竜が集まる世界。

 そこでは、絶対的な力差による差別が横行する世界である。

 その差別から逃れる為に多くの竜がこの世界に逃げてきたのである。

 しかし、弱いと言っても、強力な竜達の中での話であり、この世界に侵攻してきた異邪の中でもトップクラスの戦闘力を持っているのであった。



 その戦場は、凄まじいの一言であった。

 山の形を変化させる程のブレスが乱れ飛び、そんな竜の首が切り落とされては、落下し、ビルを倒壊させかねない衝撃波を発生させる。

 無数とも思える竜の相手をして居たのは、たった一人の青年、二華や三華の父親、霧流一刃であった。

竜角槍リュウカクソウの威力を思い知れ」

 回転を篭めた突きを放つ。

『ドラゴンスクライド』

 その一撃で、数対の竜が落ちていく。

 呼吸を荒くする一刃の肩をその父親で、前の霧流の長、六牙ムガが叩く。

「代わろう。暫く休め」

 一刃は、無言で頷き、竜魂刃リュウコンジンを構える六牙と場所を譲り、異世界で巫女をやっていた妻のハジメが竜眼玉リュウガンギョクを使って張った結界に戻る。

「大丈夫?」

 一刃は、座り込み頷く。

「ああ、十八時間以上の攻防で、残ったのは、俺とオヤジだけだ。交代でやるとしても後六時間、保つか?」

 珍しく不安を口にする一刃にハジメが真剣な顔で言う。

「何体かは、突破される可能性がありますね」

 一刃が首を横に振る。

「それだけは、出来ない。高位の竜が一体でも抜ければ、この世界にどれだけ大きな影響が出るか解らないからな」

 そんな中、今までの中で最強のブレスが放たれ、ハジメの結界すら打ち消す。

 一刃が咄嗟にハジメを連れて飛びのき、その方向を見ると、六牙が片膝をついていた。

「ここに来て、新たなクリムゾンクラスか……」

 それに答える様に高貴な雰囲気を持った竜が言う。

『我が名は、竜皇子グランドス。臣下の為に、我は、この命に代えても新たな世界への道を作る!』

 グランドスの宣言に六牙が答える。

「お前の覚悟は、解った。しかし、私達にも私達の大切な者を護る覚悟がある!」

 睨みあう両者。

 そこに一刃が来る。

「オヤジ、こいつの相手は、俺に任せろ。オヤジは、他の奴を頼む」

 六牙が思案してから言う。

「出すのか?」

 一刃が頷く。

『一対一で我と渡り合えるつもりか?』

 グランドスの言葉に一刃が言う。

「そうだ、おれには、この切り札がある!」

 そして、神経集中と共に一刃が唱える。

『世界の四方を司る、調和たる竜の力を我に与えよ。四和竜装シワリュウソウ

 空間が割れ、四体の高位竜が現れた。

 土の調和竜が、左手から巻きつき、胴と左手を覆う鎧と盾と成り。

 水の調和竜が、両足から巻きつき、足と腹を守る鎧と成り。

 火の調和竜が、右手から巻きつき、右手と肩を覆う鎧と成り。

 風の調和竜が、背中から巻きつき、背中を覆い、翼を持つ鎧と兜と成った。

 強大な力を纏った一刃にグランドスが告げる。

『お前が、数多の世界に名が轟く、調和竜の力を引継ぎし、ドラゴンバスターだな? それでも、我は、負けない!』

 強烈なブレスが放たれるが、一刃は、それを盾で防ぎながら接近し、竜角槍で突く。

 グランドスの咆哮と共に発動する魔法障壁がそれを防ぐが、強烈な炎がグランドスに襲い掛かる。

『まだだ!』

 グランドスの尻尾が一刃に襲い掛かり、一刃は背中の翼を使って飛び上がる。

 そこに再びグランドスのブレスが放たれ、弾き飛ばされる一刃。

 大きなクレータを生み出されたが、その中心から直ぐに一刃が現れる。

「こっちも負けられないんだ!」

 並の竜ですら立ち入る事が出来ない、莫大なエネルギーに満ち溢れた戦いが始まった。



 特殊司令室で良美が時計を見る。

「零時を過ぎたわね?」

 較は、八刃学園の戦況を見ながら言う。

「こっちの消耗が激しいね。巨大ミサイルで戦力の殆どを失った神鳥がメインの上空戦は、まだ大丈夫だけど、栗里さんが最後に残してくれた輝石獣で維持していた地上の防衛線ももう限界だよ」

 良美が一つのスイッチを指差す。

「そろそろ、これを使うのか?」

 較が頷く。

「爆破作戦を決行するから、全地上班は、安全なエリアまで後退!」

 その指示に答え、どんどん八刃の戦士達が後退する。

 良美がスイッチに触れて言う。

「押すよ?」

 較が頷いたので、良美がスイッチを押した。



 八刃学園の青龍エリアで超竜武装して、竜と戦っていた一華の目前で、八刃学園を包み込むように強力な爆発が発生した。

 装備状態のワンが言う。

『これで、時間まで持ちそうだな』

 一華が頷く。

「栗里さんが残してくれたお陰です」

 そこに一華の母親で霧流の長、七華が来て言う。

「最後まで油断しないでね。多分、向うも必死だから」

 一華が悲しそうに頷く。

「彼らも好きでこっちの世界に来てる訳じゃないのですよね?」

 それに対してワンは、きっぱりという。

『奴らのは、単なる逃げだ。俺は、いつか、自分の世界を変えてみせる』

 そんな中、較から通信が入る。

『面倒な事になった。竜がそちらに集結しつつあるの。一点突破に作戦を切り替えたみたい。そっちの戦力じゃもたないから、一度後退!』

 七華が舌打ちする。

「ここを突破されたら、異界転移八極陣が維持できなくなるわ!」

『残り五時間くらい、力を合わせればどうにかなる。独力でどうにかしようなんて単なる自己満足。目の前に居る一華ちゃんに悲しい思いをさせて平気なの!』

 較が怒鳴り返してくる。

「あたしは、頑張ります!」

 そういって、一華が竜牙刀に力を注ぎこむ。

『行くぞ、一華!』

 ワンの声に合わせて一華が竜牙刀を振り下ろす。

『シャイニングフィニッシュ!』

 強烈な光の攻撃が竜達の動きを止めるが、それが限界だった。

 力を使い果たし、倒れる一華とその身体から離れ、小竜の姿になってしまうワン。

『今の内に、後退しなさい!』

 較の言葉に七華が言う。

「ここが踏ん張り所だと思う。死なない様にするから頑張らせて!」

 通信を切って、七華が力を高めて呪文を唱える。

『ああ、我等が守護者、天に道を成し、異界と結ぶ存在、偉大なりし八百刃の使徒、我が竜の血を触媒に、その力を行使し給え、霧流終奥義 天道龍』

 七華の力によって、空間に大きな穴が生まれて竜が次々に吸い込まれていく。

「もう少し!」

 そして、大型の竜があらかた消えた時、七華が安堵の息を吐いたが、その瞬間、七華の身体が穴に吸い込まれる。

「油断した!」

 そのまま穴に吸い込まれていく七華。

「お母さん!」

 疲労で動かない腕を精一杯まで伸ばす一華だったが、その手が七華に届く事は、無い。

 そして、空間の穴が消える。

 愕然とする一華。

『七華さんならきっと戻って来れる筈だ!』

 ワンが必死に一華を慰めるが、一華が首を横に振る。

「無理だよ、お母さんだって、人間だもん、そんな長い時間を異世界で漂流出来ない。どんな幸運があっても、この世界に戻る道しるべも無い状況じゃ……」

 ワンが反論できないでいた時、一華の手にあった竜牙刀から虹が延びる。

 そして虹が延びた先の空間が開き、七華が落ちてきた。

「お母さん!」

 驚き、なんとか立ち上がって七華に近づく一華。

「良かった!」

 涙ながらに抱きつく一華。

『しかし、どうやって?』

 首を傾げるワンに七華が竜牙刀を見つめて言う。

「貴方のお父さん、レインボードラゴンのレイに助けて貰った」

 一華が驚く。

「死んだ、ワンのお父さんが?」

 七華が頷く。

「異空間に飛ばされ、残った力でガードしていたけど、空間移動なんて後一回出来るかどうかで、助かる可能性は、皆無だった。その時、虹の光が私を導いてくれた。それを信じて力を振り絞ったの」

 ワンがしみじみと悪態を吐く。

『オヤジも役に立つ事があるんだな』

 そこに較から通信が入る。

『竜牙刀に残っていたレイさんの力が、天道龍に因る空間の歪みで引き出され、竜騎機将として一つになっていた七華の所に戻ろうとしただけ。偶々で二度目は、無いからね』

 七華が苦笑する。

「もしかして怒っています?」

『怒っていない理由がある?』

 較の冷たい一言に七華が慌てる。

「そうだ、一華、残りの竜を倒しに行かないと!」

 逃げに入る七華に苦笑する一華とワンであった。



 一刃とグランドスの戦いは、二時間以上にも及んでいた。

 両者の力は、拡散する事も無く、双方の作る力場の中で渦巻いていた。

『次の一撃で決める!』

 力を溜め込んだグランドスが大きく口を開き、一刃もそれに答える。

『ワールドドラゴンスクライド!』

 両者の力が正面からぶつかり合い、激しいせめぎ合い見せた。

 しかし、一点に力を絞り込んだ一刃の穂先がグランドスを捉えた。

 そして、それと同時にたまりに溜まった力がグランドスに流れ込み、一気にグランドスの体力を根こそぎ奪い取った。

「勝ったぞ……」

 地面に着地した一刃から調和竜達が離れていく。

 そんな中、グランドスが最後の力を振り絞る。

『臣下の為にもお前だけは、倒す!』

 グランドスの最後のブレスが放たれたが 一刃に避けるだけの余力は、無かった。

 一刃が死を覚悟した時、それを庇うように六牙が立ち塞がって防ぐ。

「オヤジ!」

 一刃が叫ぶと、引きつった顔で六牙が言う。

「大丈夫か?」

 一刃は、詰寄り言う。

「俺の事より、オヤジの方こそ大丈夫なのか?」

 六牙は、一刃の肩を叩き言う。

「この程度のダメージで死ぬほど衰えては、居ないぞ。何にしても良かった。お前達に万が一の事があったら、八子に呪われるからな」

 笑う六牙にハジメが近づき、治療をする。

「ここは、暫くは、私が結界を張りますので、その間に二人とも体力を回復させて下さい」

「そうさせてもらう」

 一刃が頷き、ハジメより後ろに下がった時、それが現れた。

 十体を越すレッドクラスの竜達。

『皇子の無念、我らがこの命に代えても晴らさん!』

「まだ、こんな戦力が残ってたのかよ」

 顔を引きつらせる一刃。

 ハジメは、必死の形相で言う。

「私が頑張りますから、お父さんも早く!」

 それに対して六牙が言う。

「一刃を頼む」

 そう言って、六牙は、新たに表れた竜達に向かっていく。

「オヤジ、待て! やるんだったら俺もやる!」

 立ち上がりやってこようとする一刃に六牙が言う。

「ここで二人とも倒れてどうする! お前の出番は、俺が倒れてからだ!」

「カズバ! ヤヤさんは、いざとなったら通しても構わないと言っていました! ここは、諦めて防御に徹しましょう!」

 ハジメの言葉に六牙が言う。

「ここで逃がせば、八刃学園に行く。そこには、孫達が居るんだ。こんな状況で行かせられないだろう」

 次々と放たれるレッドクラスの竜達のブレスを受け流しながら近づく六牙。

『ドラゴンスライド!』

 竜魂刃の一振りで二体の首を落とすが、その間にブレスの直撃を食らう六牙。

「この程度では、死なないぞ!」

 そのまま突き進む。

『たかが人間の分際で!』

 四方八方から迫るブレスを六牙は、竜魂刃で絡めとる。

「返すぞ!」

 その一撃でまた数体を滅ぼすが、その時点で体力は、限界に達していた。

 延びてくる竜の首から逃れる事も出来ず、胴体から噛みつかれるが、六牙は、それを利用して、口の中から竜魂刃を振るい、その竜を倒してしまう。

『化け物か……』

 驚愕する竜達。

『それでも我々にも負けられない訳がある!』

 再びブレスが放たれる中、六牙は、それらを避けず、竜魂刃を投げつけ、一体を潰す。

 全身にブレスを受け、その力に生命力をどんどん奪われていくのに、ブレスを放っていた竜の口の中に侵入した。

『ドラゴンフレア』

 竜のブレスの力を暴走させて、一気に残った竜共々爆散させてしまうのであった。



 体力が回復した一刃が竜達の死骸の中から、見つけられたのは、竜魂刃だけであった。

 一刃は、それを握り締めて誓う。

「この道は、一匹だって通さない!」

 そして、更にやってきた竜達に挑む一刃であった。



 残り、三時間。

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