古神
神谷VS古神の対決
古神界、古来よりこの世界に現れては、神とも魔王とも呼ばれていた存在達。
彼等にとっては、この世界は、支配する対象でしかない。
異空門の閉鎖によって閉ざされた道が開かれて、今こそその野望を満たそうと大きく動き出したのであった。
異界転移八極陣で、古神と戦っていたのは、神谷であった。
彼等は、元々、古神とは、因縁が深く、その対抗策も多く持っていた。
そして、神谷の長、夕一がクリムゾンクラスの古神と相対していた。
『我が名は、万能神ケルケルスなり。お前が、現在の神谷の長だな。名を聞こう』
それに対して夕一が答える。
「私の名は、夕一。私達は、お前達の支配を受けるつもりは、無い!」
鼻で笑うケルケルス。
『それは、お前達、人の外に居る、八刃の考えであろう。この世界の愚か者達は、偉大なる我らに支配される事を望んでいるのだ!』
『我は神をも殺す意思を持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』
夕一は、己の意思力の刀、神威を生み出し、構える。
ケルケルスは、余裕たっぷりの態度で告げる。
『我は、万能神と言ったぞ。それは、刀による戦いも神としての力を発揮できる』
ケルケルスの手の中に刀が生み出される。
夕一は、油断無く、斬り込む。
それを鮮やかに受け止めていくケルケルス。
そして、ケルケルスは、人の神経伝達速度より早い動きで夕一を斬る。
夕一は、完全に感だけでそれを神威で防ぐが、暫撃の威力で吹き飛ばされる。
そのまま、ケルケルスは、夕一の脳から立ち上がれと身体に指示が送られるより早く、刀を振り下ろす。
しかし、その刀は、受け止められた。
「ここから先は、私が相手をするわ」
ケルケルスの刀を受け止めたのは、夕一の娘で、千剣の母親、一文字千夜だった。
『女一人で勝てると思っておるのか?』
次の瞬間、ケルケルスの刀が後方に振られた。
「すまないが、妻を一人で戦わせる訳には、いかないのだ」
そう言ったのは、直前に気の刃を伸ばして行う、遠距離からの居合い、無間合いの居合いの使い手、千夜の旦那、剣一郎であった。
『何人がかりでも関係ない。まとめて終らせてやろう』
余裕の態度を崩さないケルケルスであった。
八刃学園は、その名の通り、学校でもある。
その為、多くの生徒が居た。
しかしながら、この大戦が始まり、その実態が、八刃による若い生徒の精神を利用した儀式施設だと公表され、多くの生徒が自宅に引き取られていった。
そんな状況でも、この八刃学園に残る生徒は、居たのだ。
上空で異邪と八刃が激しく交戦する中、玄武エリアの図書館で本を読む生徒達。
そこに用務員の男性、豆田太郎が言う。
「君達、もう十時で閉館だから寮に帰りなさい」
それを聞いて、生徒が元気に返事をして帰り支度をする。
そんな生徒達を寮まで送る途中に太郎が言う。
「君達は、こんな状況なのに家に帰らなかったのかい?」
それを聞いて生徒達は、笑う。
「こんな状況って、この学校って前からこんなもんじゃないですか」
「確かにそうだな」
思わず納得してしまう太郎に他の生徒が言う。
「大体、家に帰ったからって異邪に襲われる心配が無くなる訳じゃないし。それだったら、確実に護ってもらえるここの方が安全じゃないですか」
頷く生徒達。
「でも、家族は、心配しないのかい?」
それに対して、一人の生徒が苦笑する。
「あたしの両親、最初の方の襲撃で死んじゃった。ここの寮だったら、生活にも困らないから」
太郎が頭を下げる。
「余計な事を聞いてしまってすまなかったね」
「気にしないで下さい。それに、本当に危なくなったら、用務員さんが助けてくれるんですよね?」
その言葉に太郎が胸を張る。
「勿論だ。君達は、安心して寝ていなさい。明日、目を覚ました頃には、全てが終ってるよ」
頷き生徒達が寮に入っていった後、太郎の目が鋭くなる。
「あいつ等も来たのか」
その時、太郎の娘、瞳子が現れる。
「お父さん、来たんだよね?」
娘の質問に太郎が頷く。
「ああ、これは、私の贖罪なのかもしれない」
瞳子は、太郎の手を掴み言う。
「あたしも一緒に戦うから!」
それに対して太郎が首を横に振る。
「瞳子には、大切な友達が居るだろう。小較ちゃんは、旦那さんを亡くし、傷心のまま戦っている。助けてあげなさい」
今度は、瞳子が首を横に振る。
「嫌! お父さんを一人で戦わせたら、予知通りになってしまう!」
予知、それは、現在の予知班のリーダー、星語明日が瞳子に伝えた、太郎が異邪との戦いの中で死んでしまうと言う物だ。
太郎は、瞳子の頭を子供のように撫でながらいう。
「解ってくれ。私は、妻や瞳子の様に寿命が無い。死ぬ時を選ぶ必要がある。それが今なのだ」
瞳子の目に涙が溜まる。
「お母さんが死んだから?」
太郎の脳裏に、自分の妻、瞳の死が思い出される。
「私の力を使い続ければ延命は、可能だ!」
病院のベッドで横になっている瞳に必死に言う太郎。
瞳は、首を横に振って言う。
「私は、貴方の力に惚れた訳では、ありません。貴方の心に惚れたのです。そして、貴方と私は、対等な関係で居たいの。解って」
悔しそうにする太郎に瞳が笑顔で言う。
「でも最後の我侭。死ぬまで手を握っていて」
太郎は、強く瞳の手を握り締める。
そして、瞳は、静かに亡くなっていった。
「その時、決めたのだ。私は、豆田太郎として死ぬと。それが出来るチャンスは、今回だけなのだ」
太郎の言葉に瞳子が涙を拭って言う。
「そんなに立派なお葬式は、出来ないよ」
太郎が頷く。
「別にかまわない。お金は、お前の結婚費用に回してくれ。そうそう、一つだけ心残りがあるとしたら、孫を抱けなかった事かな?」
頬を膨らませる瞳子。
「五年後、いや三年後には、セレブな旦那さんと赤ちゃんを連れて墓参りに行ってあげるわよ!」
「天国で楽しみにしているよ」
微笑む太郎。
瞳子は、零れそうになる涙を堪え、駆け出す。
その後ろ姿を見送ってから太郎は、歩き出す。
太郎が向かった先には、八刃の戦士を蹴散らしていた古神達が居た。
「お前達が、揃ってこの世界に来るとは、思わなかったぞ」
それに対して、レッドクラスの古神、血霧神が言う。
『お前が、この世界の支配を失敗したからだ、操目神』
にらみ合う二人。
「大人しく自分達の世界に帰れ! この世界は、この世界の人間の物だ!」
失笑する血霧神。
『まさか、他者を従わし、玩ぶ事を快楽とするお前にそんな事を言われるとは、思ってもみなかったぞ』
太郎は、自分の胸に手を当てて言う。
「私は、この世界で知った。どんな力であっても自由にならない物があり。一人で行うどんな悦びより、家族と一緒である悦びが勝る事を」
舌打ちする血霧神。
『こんな下らない世界に毒されおって! もはやお前は、我等の同志では、ないな!』
血の霧が太郎に襲い掛かるが太郎の視線が、それを逆に操り、他の古神を滅ぼす。
『流石は、この世界を支配する為に選ばれただけの事は、あるな。しかし、これでどうだ!』
今度の血の霧は、太郎自身でなく、太郎が護ろうとする八刃学園全てに向かって居た。
「やらせない!」
太郎は、視線を巡らせ、血の霧を操って、無効化していく。
しかし、その隙に他の古神が一気に太郎に接近し、視線の死角になる箇所から、己の力を注ぎこむ。
『どうだ、お前のその力も、視線すら届かなければそれまでなのだ!』
高笑いを上げる血霧神。
血を吐きながら太郎が告げる。
「私の力を舐めるな!」
太郎が地面に視線を向けると地面が捲れ上がり、古神達を叩き潰していく。
慌てて血の霧で防ごうとする血霧神だったが、その血の霧すら、支配されて抗う術を失う。
『待て、我々は、同志だろう? 助けてくれ、操目神!』
それに対して太郎が告げる。
「私は、操目神でも、支配眼の魔王でも無い。この世界の人間、豆田太郎だ!」
そして、血霧神を自らの血の霧で滅ぼした太郎は、地面に手を突く。
「私の力もこれが最後だろう。八刃学園の大地よ、お前達が育む八刃学園の生徒を護ってくれ!」
その言葉と共に太郎は、地面に倒れ、そして古神達と同じ様に痕跡を残さず消えていくのであった。
異界転移八極陣でのケルケルスとの戦いは、一方的な物であった。
『どうした? それが貴様らの限界か?』
悠然と立つケルケルス。
夕一、千夜、剣一郎、並の神や魔王すら倒せる者達が束になってもケルケルスには、一太刀も浴びせられないで居た。
「私が、終奥義を使う。後は、任せたぞ!」
そう告げて、夕一が呪文を唱える。
『おお、我等が守護者、闘気を統べる存在、偉大なりし八百刃の使徒、我が闘気を全て食らいて、その力を示したまえ。神谷終奥義、闘威狼』
夕一の全闘気を篭めた一撃が放たれる。
『甘いわ!』
ケルケルスは、その一撃を正面から受け止めてしまう。
『終わりだ!』
防御する気も無くなった夕一は、ケルケルスの暫撃で吹き飛び、そのまま動かなくなる。
千夜が決意を篭めて言う。
「ここは、私が決める。あれだけの力を連発出来る筈が無い」
それに対して剣一郎が前に立ち告げる。
「拙者が一撃を決めて隙を作る。それまで、待つんだ」
驚く千夜。
「あいつにつけいる隙は、無いわ」
しかし、剣一郎は、揺ぎ無い言葉で返す。
「拙者を信じろ」
その一言に千夜が頷き、呪文を唱える。
『おお、我等が守護者、闘気を統べる存在、偉大なりし八百刃の使徒、我が闘気を全て食らいて、その力を示したまえ。神谷終奥義、闘威狼』
千夜の呪文の間に、剣一郎は、ケルケルスの目前に移動する。
『何のつもりか解らぬが、お前等下位世界の人間が我に敵う理など無いぞ』
それに対して剣一郎が告げる。
「拙者は、物心つく前より、居合いの型の練習を繰り返した。毎日、毎日、一日も休まず」
微笑を浮かべるケルケルス。
『それが、お前らの限界。万能たる我は、生まれた時より、全てにおいて完璧なり』
剣一郎が告げる。
「次の抜刀に拙者の人生の全てを懸ける」
ケルケルスは、鷹揚に頷き言う。
『ならば、我は、お前が抜刀を開始してから、刀を振ろう。それでもお前の刀が届く前に我の刀がお前の命を絶つ事は、明白だがな』
極限まで神経を集中させる剣一郎。
そして、抜刀が行われた。
『早く抜かぬのか?』
ケルケルスが馬鹿にした様に言った時、千夜が動く。
『諦めたか!』
ケルケルスが千夜に向かって刀を振り上げた時、その肩がずれ落ちる。
『馬鹿な! 我が気付けぬ抜刀だと!』
困惑するケルケルスに千夜の全闘気を篭めた神威の一撃が決まる。
滅び行くケルケルスに千夜が告げる。
「神のスピードでも、貴方が認識して伝えるまでの時間が人の数分の一かもしれないけどあるわ。しかし、人生全てをかけた抜刀ならば、それすら要らない。抜刀を行うと思った瞬間、身体がその為に動くのよ」
驚愕の表情のまま完全に消え去るケルケルス。
そして、剣一郎もまた倒れる。
「神を越すスピードを常人が出せばどうなるか、解っていたわよね?」
悲しそうな千夜の言葉に剣一郎が告げる。
「それでも、拙者達が築き上げてきた物を否定させたくなかったのだ」
千夜が頷く。
「そうね、そしてこの技は、私達の子供達がまた引継いでくれる」
千夜が見守る中、人の肉体しか持たずに、人外と呼ばれる八刃と同じ戦場に立ち続けた剣一郎がその人生を閉じるのであった。
それを、人外の生命力で九死に一生を得た夕一が言う。
「我が未熟さが悔やまれる。しかし、まだ戦いは、終っていない。偉大なる剣士の魂に答える為に、必ず古神を退かせるぞ!」
痛みを堪え、神谷に号令を出す夕一であった。
残り、六時間。




