表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

人獣

百母VS人獣の対決

 人獣界、それは、完全なる強者弱肉の世界。

 弱き者達は、強き者の食料としての価値しかない。

 そんな弱者に取れる選択肢は、多くは、無い。

 少しでも強くなるか、もっと弱き者を求めて別の場所に移動するかである。

 この世界に来ている人獣達は、自分の命をつなぐ為に、来た弱き者達でしかないのだ。

 それが故に、この世界の生物ピラミッドと同じ様に、その数は、とてつもなく多い。



 人獣達は、序盤戦からその桁違いな数で、百母を圧倒しようとしていた。

 しかし、八刃の中でも輝石獣を操る、百母の戦力もまた、数であった。

『火炎の牙で噛み千切る狼、百母柿生カキオの名の元に、合わせ鏡に映せし様に増やせ! 合鏡獣晶ゴウキョウジュウショウ

 桃の父親、柿生が獣晶ジュウショウしていた、炎牙狼エンガロウが無数に分裂して、次々と人獣達を炎の牙で噛み砕いていく。

 その後ろで桃が力を溜め込み、竜のぬいぐるみを掲げる

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、光集進竜コウシュウシンリュウ

 光の竜が一気に人獣の大群を蹴散らしていくのであった。

 だが、光集進竜を受け止めた者が居た。

『お前等は、強者の様だな。ならば、我が食らってやろう』

 そう告げたのは、他の人獣より二周り大きな牛の人獣だった。

「クリムゾンクラスか……」

 柿生が汗を拭い桃が嫌そうに言う。

「八百刃獣様達が見逃す中では、最高レベルですよね」

 柿生が頷く。

「これいじょうのクラスになると、世界そのものがおかしくなり、他の世界にも影響が発生する。だから、八百刃獣様も、通さない筈だからな」

 自分の身体より大きな斧を振り上げる牛の人獣。

『我は、この集団の長、豪牛人ミドグスなり!』

 柿生は、その前に立ち返礼する。

「私の名前は、百母柿生。百母の長だ!」

 睨みあった後、ミドグスは、周りを見回して言う。

『この道を進むためには、お前を倒す事が絶対条件の様だな』

 柿生が頷く。

「当然だ。モゴ、お前は、他の高位人獣を相手しろ」

 桃が戸惑う。

「いくらお父さんでも、クリムゾンクラスと一対一なんて、不利すぎる」

 それに対して、柿生が言う。

「レッドクラスも何体も現れている。分家の奴らだけでは、対応は、無理だ」

 その言葉通り、かなりの苦戦が強いられていた。

「解ったけど、死なないでね」

 他のレッドクラスの人獣の相手をする為に、離れていく桃を見送ってから、柿生が言う。

「最後に聞きたい。どうしてもこの世界に侵攻するつもりか?」

 ミドグスが頷く。

『我が世界では、これ以上、我が集団を生きながらえさせる事は、出来ない。滅びから集団を守るには、この道を進むしか無いのだ』

 振り上げられる斧。

 柿生が懐から犬の彫刻を取り出す。

『百母柿生の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、堅剣犬ケンケンケン

 彫刻が犬に獣晶する。

「剣と化せ!」

 犬から剣に変化した堅剣犬で斧を受け流す柿生。

 そのまま、ミドグスを斬りかかるが、弾き返される。

『我が身体の強度は、無限。いかなる攻撃も通用しない』

「ならばこれでどうだ!」

 そのまま懐から竜の彫刻を出す柿生。

『光集めて突き進む竜、百母柿生の名の元に、その身をならび在れ。双獣晶ソウジュウショウ

 桃が使った竜を二匹発生させて、左右から同時に攻める。

 しかし、ミドグスは、避けもせずにそれを食らう。

『効かないと言った筈だ!』

 ミドグスの拳の一撃で柿生は、吹き飛ばされる。



 当然、異界転移八極陣の外でも戦いが行われている。

 特に異界転移八極陣の要である八刃学園に対する攻撃は、執拗を極めた。

 地面を覆いつくすような人獣の大群に八刃の人間も言葉を無くしていた。

 その状況で、柿生の妻、栗里クリリが必死に部下達を励ます。

「ここに現れているのは、低位の異邪ばかり、簡単な術を連発し、疲れたら交代して。たった二十四時間よ、踏ん張りなさい」

 そう言いながらも、自分でも、ガラス細工の鳥を構える。

『百母栗里の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、爆炎鷹バクエンヨウ

 獣晶された炎の鷹、爆炎鷹が人獣達を蹴散らしていく。

 百母は、頑張っていたが、人獣の数は、圧倒的過ぎた。

「栗里様、戦線が維持できません」

 部下の報告に悔しそうにする栗里。

 そこに較からの伝言を受け取った、桃の娘、ウリがやって来た。

「お祖母ちゃん、ヤヤさんが、予定を変更して、爆破作戦を実行するから、後退して下さいって」

 それを聞いて栗里が呟く。

「早過ぎるわ。間結に作らせた特殊魔方陣に因る爆破は、八刃の疲労が高まった後半にする予定だった筈よ」

 それに対して瓜が周りを見回して言う。

「でも、実際、もう前線が維持できてないよ」

 その言葉通り、百母をメインとした八刃の部隊は、数の暴力の前に完全に押されていた。

「それでも、まだこちらには、余力がある。こんな所で使ったら、本当に余力が無くなった時に、どうしようも無くなる」

 瓜が慌てて言う。

「そうだ、ヤヤさんが言っていたよ。最悪は、買い込んだ科学爆弾で時間だけでも稼ぐ方法があるから大丈夫だって」

 栗里が苦笑する。

「下手な言い訳ね。多分、本当にやばくなったら、八刃学園すら放棄するつもりでしょ」

 瓜が驚く。

「でも、そんな事をしたら、この異界転移八極陣が維持できなくって異邪の好き勝手になってしまうよ?」

 栗里が頷く。

「最悪のケースだけどね。ヤヤちゃんは、世界を守る為に自分達を犠牲にする気なんて最初からない。自分達が生き延びる事を最優先に考えるヤヤちゃんらしい方法よ」

 瓜が眉を顰める。

「それって、かなり自分勝手だと思う」

 苦笑する栗里。

「そうね。だけど、八刃なんてそんな組織よ。それでもヤヤちゃんは、自分達を第一にしていても、出来るだけの多くの人を助ける為の努力を一切の妥協無くしているわ」

 栗里は、瓜を優しく撫でながら告げる。

「自分も自分の大切な者も、そしてそれ以外も出来るだけ助ける。何一つ諦めない。ヤヤちゃんの生き方は、理想なの。あたしには、それは、出来そうも無いわ。瓜、最優先事項よ。あたしが奥の手を使うから、爆破作戦を中止するように八刃の長に伝えて」

 瓜が戸惑う。

「奥の手って、ヤヤさんが知らない手でもあるの?」

 栗里が前を向いて答える。

「今回、八刃の長が用意してない奥の手があるのよ」

 瓜が笑顔になって頷く。

「解った。直ぐに伝えに行く」

 瓜が駆け出した後、栗里が呟く。

「ヤヤちゃんが、今回の戦いでは、禁じ手としていた奥の手を使えば、この状況をどうにか出来る」

 呪文が始まる。

『ああ、我等が守護者、百の姿を持つ獣、偉大なりし八百刃の使徒、我が魂の願いに答え、その特性を、我に与え給え、百母流終奥義 百姿獣ヒャクシジュウ

 そして、術が発動する。



『そういう訳で、爆破作戦は、不要だそうです』

 特別司令室で瓜の報告を受けた較が怒鳴る。

「瓜、もっと深読みしなさい! この戦いの中で、そんな奥の手を私が用意しないと思った!」

 瓜が戸惑う。

『でも、ヤヤさんが知らないだけで……』

 口篭る瓜に良美が告げる。

「こんな戦いの中、そんな手を栗里さんが八刃の長であるヤヤに教えていない訳が無いでしょうが」

 状況を確認していた較が舌打ちする。

「案の定だ、栗里さん、百母の終奥義を使ってる」

 それを聞いて慌てる瓜。

『それって、身体をスライムに変化させて分裂させる奥義ですよ! 分けた身体は、元には、戻らない筈だから……』

 青褪めていく瓜の顔。

「直ぐに戻って、これ以上の分裂を止めさせなさい! 生きていれば戻す方法をなんとか考えるから!」

 較の言葉に瓜が頷き駆け出す。

 較は、悔しそうに言う。

「皮肉すぎるね。異空門閉鎖大戦でそれを使った人の名前は、瓜だった。同じ名前の孫を助ける為に別の百母が終奥義を使うなんて」

 良美が忌々しげに言う。

「こんな歴史を繰り返す必要なんてないのがどうして解らないんだ!」



 瓜が戻った時には、栗里は、身体を数十体に分けていた。

「お祖母ちゃん、そんなに分裂したら、もう意識を保つのだって大変なはずだよ!」

 それに対して、分裂した栗里の一体が答える。

「意識は、長くは、保たないと思うわ。長期間、獣晶出来る輝石獣を使えば、まともな意識が無くても大丈夫よ」

 瓜が泣き叫ぶ。

「駄目! お祖母ちゃん、死んだら、絶対に駄目なんだから!」

 分裂した栗里の一体がそんな瓜の傍に寄り添い答える。

「ゴメンね。貴女達を悲しませる事は、解っていた。それでも、少しでも瓜達を護れる可能性が高い方法をとりたいのよ」

 そして、栗里は、分身達を八刃学園の周囲に展開させて、己の限界まで、輝石獣を獣晶し続けるのであった。



 異界転移八極陣での柿生とミドグスとの対決は、かなり一方的な物になっていた。

 堅剣犬を振るい、必死に隙を突いては、急所になりそうな場所を攻める柿生。

『百母柿生の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、光集進竜』

 目に光集進竜が直撃するがミドグスは、意に介さず、柿生の身体を掴み、地面に叩きつける。

 血反吐を吐く柿生。

「お父さん!」

 駆け寄ってくる桃にミドグスが斧を振るう。

『百母桃の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、暫刃猫ザンバビョウ

 獣晶した猫、暫刃猫を素早く、刀に変化させて桃は、ミドグスの斧を受け流し、柿生を救出する。

「大丈夫!」

 柿生が、よろつきながらも立ち上がり告げる。

「かなりきついが、大丈夫だ。それよりも、奴の身体は、単純に皮膚が硬いと言う訳では、無い。完全に外部と内部を遮断している結界の様になっているのだ」

 桃が眉を顰める。

「そうなると、その結界をどうにかしないと駄目だね」

 柿生は、桃の頭を撫でる。

「さっきも言っただろう。こいつは、私がなんとかすると」

 特攻を掛ける柿生。

『無駄だ!』

 ミドグスは、堅剣犬の一撃を正面から受けて、そのまま柿生の腕に噛み付く。

『強者の肉は、美味だ』

 笑みを浮かべるミドグス。

「今、助ける!」

 桃が助けに入ろうとした時、柿生が怒鳴る。

「お前は、斧の動きを封じろ!」

 桃は、咄嗟に言われた通りに、柿生に振り下ろされたミドグスの斧を暫刃猫で受け流し、下にめり込ませる。

「これでお前も終わりだ!」

 柿生の言葉にミドグスが断言する。

『我には、いかなる攻撃も通用せん!』

『百母柿生の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、界破楔竜カイハセツリュウ

 柿生の呪文に答えて、ミドグスが内部から、一匹の竜が飛び出す。

『馬鹿な、どうやって!』

 動揺するミドグスに柿生が告げる。

「お前に食わせた腕には、外部からの攻撃が効き辛い敵の為に忍ばせた、結界壊しの輝石獣の獣晶用の準備がしてあったのだ。そしてもう一方の手には、その隙間を有効に使う為の輝石獣の準備がある」

 残っていた腕を傷口から差し込む柿生。

『止めろ!』

 ミドグスが必死に止めようとするが、桃が涙を流しながら、その動きを妨害する。

『百母柿生の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、光射亀コウシャキ

 ミドグスの体内で、ガメラの様に回転して、光を打ち出す光射亀が獣晶して、内部からミドグスを撃ち抜き続ける。

 当然、その光は、腕を突き刺していた柿生にも次々と命中するが、柿生は、獣晶を止めない。

 体中に大穴を明けたミドグスが倒れる。

 そして、両腕を失い、自分の輝石獣の攻撃で致命的なダメージを負った柿生も倒れた。

「どうして、こんな無茶をしたの?」

 涙ながらに桃が訊ねると、柿生が言う。

「栗里は、禁を破って終奥義を使ったみたいだ」

 一気に顔を青褪めさせる桃。

「そんな、ヤヤさんに禁じられていたのに!」

 苦笑する柿生。

「大切な人間を護る為なら禁じられていてもする。それが八刃だ。私も、こいつだけは、命を懸けても倒しておきたかったんだ」

「酷いよ! そんなの勝手だよ!」

 桃の言葉に、頷く柿生。

「だが、お前の戦いは、まだ終っていない。大切な者を護る為、頑張れ。願わくは、お前が私達と同じ覚悟をする時が来ない事を祈る」

 そのまま息絶える柿生。

 桃は、涙を拭い立ち上がる。

「あちきにも護らなければいけない子が居る。だから今だけは、悲しまないで戦うだけ!」

 桃は、今だ、数え切れない人獣に向かっていくのであった。



 残り、二十一時間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ