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別れたはずの婚約者が、私を忘れたふりをして離してくれない

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/06/24

「ユスティーナ、君との婚約は破棄する」


 学園の朝の通学路でこの国の第一王子である婚約者のセルディオが言った。


「な、なんでですか……」


 昨日別れた時はそんなこと一言も言ってなかったのに……。


 むしろ、セルディオは、すごく甘い雰囲気で家に帰るために別れるのすら嫌だって雰囲気だった。


 あなたは、私が別れたいと思っていることなんて全く気づく気配がなかったのに……。


 婚約者で第一王子のセルディオは、私、侯爵令嬢ユスティーナとの婚約を破棄すると、そのまま私の前から消えた。


 本当に学園でも会わなくなって、姿も見かけなくなった。


 後で、学園を辞めて隣国に留学したと聞いたけど、婚約者だった私に何も言わずに行ってしまうのは酷いと思った。


「セルディオ様には、留学から戻って来たら婚約しようと言われているの」

 浮気相手のイリシアにはちゃんと言っていたらしいから、私がどれだけ軽く見られていたかがよく分かったわ。


 イリシアと浮気してるって噂を聞いて、実際に現場を目撃して、別れたいと思っていたけど、間違っていなかったのね。


 もしかしたら誤解なのかも……って淡い期待もあったけど、打ち砕かれた。


 私とセルディオは、完全に終わった。


◆◇◆


 一年後、学園を卒業して、私は王宮で働き出した。


 第一王子のセルディオが追放されて、第二王子が王太子になっていた。


 何があったか知らないけど、学園時代に婚約破棄できて本当に良かったのね。


 ズキンッと胸が痛んだ。


 セルディオは隣国でどうしているんだろう?


 新しい婚約者のイリシアもまだこっちの国にいるみたいだし。


 私と婚約破棄しなければ、こんな事にならなかったかもしれないのに。


 ……ばーか。




 隣国からのお客様を迎える為の仕事をしていると、私を指名して来る人がいると言う。


 長く働いてる人の中には、他国の大物から指名される人もいるらしいけど、私は働き出したばかりで、他国の知り合いもいないのに。


 指名してきたのは、トラディスと言う、隣国の実質の支配者と言われる若い魔法使いだそうだけど……誰?

 隣国が王ではなく実質、魔法使いに支配されていると言うのも今知った。

 最近の出来事なの?


 とにかく、トラディス様を迎える準備をする。


 私が知っている魔法使いといえばセルディオで、一緒に空を飛んだりした。

 セルディオのイメージで準備してしまったけど、大丈夫かなぁ。


 お泊まりになる部屋で待っていたら来たのはセルディオだった。


「トラディス様、お荷物をお持ちしました」


 この国の案内係や、隣国の従者たちがトラディスと呼んでいて……やっぱり別人なの?


「トラディス様、はじめまして。ご指名頂いた、ユスティーナです。なんなりとお申し付け下さい」


「ユスティーナ、俺と結婚して下さい」


 ん?


「いえ、そういうお申し付けではなくって……」


「あなたに求婚するために来たのです」


 ん? そういえば特に何のための訪問か聞いてなかったけど……。


「って、別人のフリしてるけどセルディオよね」


「違います、トラディスです」

 

 違うと言うなら違うのよね?


「すみませんが、私は昔の婚約者のセルディオが忘れられないので、誰とも結婚する気はないん……」


「セルディオです。俺がセルディオだ」


「ん? 今、違うって……」


「君に嫌われていると思ったから、そう言っただけだ」


「セルディオの事、私が嫌いになった事なんてないわ。セルディオが別の人——イリシアを新しい婚約者にする事にしたんでしょう?」


「イリシアって誰だ!?」


 ん? 


「セルディオが『留学から戻って来たら婚約しよう』って約束した人よ」


「俺は、最初から帰るつもりなんてなかったんだ。そんな約束する訳がない」


「え? なんで?」


「俺が君にどれだけ愛を伝えてもずっとうわの空で、完全に嫌われたと思ったんだ。なんでこんなに嫌われたのか理由がわからなくて、別人になって、一からやり直して求婚しようと思った」


 だからって、王太子を追放されて、隣国の実質の支配者になる?


「別人になってないし……」


「これでも魔法で変身してるんだ。君の好みを徹底的に調べて、その通りに変身したのに……俺のままで変装にならないからおかしいと思っていたんだが」


 そういって、セルディオは魔法を解くが、何も変わらない。


 そういえば、ここしばらく私の好みについて同僚や友達、家族がしつこいくらいに聞いて来たけど……。


「私の好きな人も好みも全部、セルディオだもの」



 結局、セルディオがイリシアのことを思い出せないので、直接本人に聞きに行った。


「申し訳ありません! 同じ係になった時に嬉しくてつい嘘をついてしまいました!!」


 謝ってくれた。



「直接、あなたに他に好きな人がいないか聞けば良かったんだ」

「俺も、『嫌いだ』と君に直接言われたら立ち直れないから、聞く事を避けた……」


 ふふふ、二人で笑った。


「隣国の魔法使いのままなの?」

「一度、支配してしまったから、俺なしじゃやっていけない。ユスティーナ、一緒に隣国に来てくれるか?」


「はい!」


 私は即答する。


「でも、浮気はしないでね」


「一度もしてないし、一生しないよ」


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― 新着の感想 ―
すみませんじゃすまないでしょうね。
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