航海
午前1時の問い
「豊かさとは何だろうか」
興味もないネットニュースを画面に表示しながら自らに問いかける。
かつて僕の周りには雑多な音が溢れていた。
赤点の答案を見せてきてゲラゲラ笑っている彼、「終電逃した」と僕のベッドを半分占領して眠りにつく彼。
コンビニの袋をガサゴソと鳴らしながらクラスメイトのしょうもない話で盛り上がっていたあの夜、あの部屋。
あの頃の僕には「豊かさ」はこの生活を抜けた先にあるものだと信じていた。
彼らとの付き合いも少しづつ減らしていった。
常に正解といわれる選択肢を踏んでいけば「豊かさ」を得るのは容易なものだと思っていた。
模試で高い偏差値を出す。著名で偏差値の高い大学に進学する。学業とサークルに精を出す。誰もが知る有名企業へ就職する。
一般の理想とされる航路を航海する僕が得たものはこの無駄に広い寂しい部屋であった。
そんな僕の抑えていたもう一つの問いが喉元へ競り上がってくる。
「僕の人生は正解なのになぜ虚しいのか」
誰にも邪魔されず、望んだ仕事をし、広い部屋で独り。
客観的なスコアがあるのなら、これは「正解」のはずだ。
けれど、キーボードを叩く指先がひどく冷え切っているのはなぜだろう。
正解を選び続けたはずの僕の成績表に、なぜこれほど大きな「空欄」が広がっているのだろう。
あの時、友人のくだらない話に付き合って、朝まで笑い転げていれば。
あの時、友人と遊び惚けて地元で働いていたら。
あの時、あの時、あの時、あの時、
もういいか。画面に映るのは疲れ果てた僕の顔。
午前1時。
採点者のいない試験会場のようなこの部屋で、僕は二度と書き換えられない過去の解答用紙を、じっと見つめ続けている。




