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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜   作者: 香箱
第2章:怠惰の辺境

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第28話:翻訳プリンタとインチキフリーランスの限界

第28話 翻訳プリンタとインチキフリーランスの限界


 二人が帰ったあと、家の中に静けさが戻った。


 レオンが助かった安堵と、フェルゼンの衛生問題。

 その両方が頭の中でぐるぐると回っている。


(……水道と下水道を整備する、ね)


 言ったのは俺だ。

 言ったのは俺なんだけど――


(……ああはいったものの俺、上下水道の知識なんてほぼゼロなんだよな)


 前職は“web系フリーランス”。

 しかも、胸を張って言えるような立派なエンジニアでもない。

 クライアントの要望を聞いて、テンプレをちょっといじって、

 「はい納品です」って言ってただけの、限りなくインチキ寄りのやつだ。


 そんな俺が、街のインフラ整備?

 水道? 下水道? 水車で揚水?

 いやいや、専門外にもほどがある。


(……まあ、でも。やるしかないんだよな)


 俺は書斎に入り、PCの電源を入れた。

 ファンが回り始め、薄暗い部屋に白い光が広がる。


 そして、机の端に置いていた“あるアイテム”に手を伸ばした。


【翻訳プリンタ:全部翻訳します 5,000,000L】


 ルミナショッピングでいきおいで買ったまま、まだ一度も使っていなかったやつだ。

 説明文には「異世界の文字も、古代語も、魔術式も、全部翻訳します」と書いてある。


(……これをPCにつなげば、ネットの情報をそのまま異世界語に変換できるはずだ)


 USBケーブルを差し込み、プリンタの電源を入れる。

 青いランプが点滅し、機械が低く唸った。


「……よし。動いたな」


 俺は検索窓を開き、キーボードに指を置いた。


(まずは……“中世 水道 仕組み”……っと)


 検索結果がずらりと並ぶ。

 ローマの水道橋、近代の下水道、揚水ポンプ、サイフォンの原理……。


(……うん。分からん)


 専門用語が多すぎて、頭が痛くなってきた。


(……でも、やるしかない)


 俺は深く息を吸い、画面をスクロールした。


 翻訳プリンタのランプが、静かに明滅している。


(……さて。インチキフリーランスの底力、見せてやるか)


 俺は図面ソフトを開き、川の位置、街の地形、揚水ポイント、水車の設置場所、配水管のルート、下水の流れ……

 専門家が見たら鼻で笑うような、雑な図面を描き始めた。


(……まあ、魔法があるし、なんとかなるだろ)


 自分に言い聞かせながら、翻訳プリンタに印刷をかける。


 プリンタが唸り、紙が吐き出される。

 そこには――


「……なんだこれ。めっちゃそれっぽくなってるじゃん」


 俺が描いた雑な線は、異世界語の注釈付きで、まるで“魔術工学の設計図”みたいに整えられていた。

 翻訳プリンタ、恐るべし。


(……これなら、グスタフたちにも説明できるか)


 だが――


(……現地の地形が分からん)


 川の流れ、土地の高低差、街の境界線、地下の状態。

 どれも“現地を見ないと分からない”ものばかりだ。


 しかし。


(……俺は絶対に家から出ない)


 これは譲らない。

 異世界に来てからも、俺の生活スタイルは変わらない。

 外に出るのは、どうしても必要な時だけだ。0時リセットのおかげで衣食住に困らない今では外出の必要性はゼロだ。


(……じゃあ、どうするか)


 俺はスマホを取り出し、ルミナショッピング(日本版)を開いた。


【カメラ・撮影機材】


(……あった)


 画面には、見慣れた日本製のデジタルカメラが並んでいる。

 コンパクトなやつから、プロ仕様のやつまで。


(これなら……俺が行かなくても、誰かに撮ってきてもらえばいい)


 俺は扱いやすそうなカメラを選び、購入ボタンを押した。


【デジタルカメラ:高画質・防水・衝撃耐性あり 24,000L】


(……安いな。助かる)


 数秒後、玄関のインターフォンが鳴り、 いつものように誰もいない玄関マットの上に小さな箱が置かれていた。


 箱を開け、カメラを取り出す。

 説明書も日本語のまま。

 異世界で日本語の説明書を読むという、妙な感覚。


(よし。これで現地調査はできる)


 俺はトランシーバーで駐留所のバルトスを呼んだ。


「バルトスさん、ちょっと来て」


 数分後、鎧の音を響かせながらバルトスが現れた。


「ゼクト様! 何かご用でしょうか!」


「これ」


 俺はカメラを手渡した。


「……これは?」


「カメラ。写真を撮る道具だ。川の流れとか、街の地形とか、……全部撮ってきてほしい」


 バルトスはカメラを両手で持ち、まるで聖遺物でも扱うように震えていた。


「こ、これは……魔道具……ですか?」


「まあ、そんなもんだよ」


「ゼクト様……! このような重要任務……このバルトス、命に代えても果たしてみせます!」


「いや、命は代えなくていいから」


 バルトスは深く頷き、胸に手を当てた。


「では、川の上流から下流まで、街の外周、すべて撮影してまいります!」


「頼んだよ」


 俺から詳しい使い方を教わったバルトスはカメラを抱えて走り去っていった。


(……よし。これで現地調査はバッチリだな)


 俺は書斎へ戻り、翻訳プリンタの前に座った。


(バルトスさんが撮ってきた写真を元に……街全体の上下水道計画を作る)


 画面の前で、俺は深く息を吸った。


(……引きこもりでも、街は作れる)


 そう思いながら、俺はキーボードを叩き始めた。


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