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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜   作者: 香箱
第2章:怠惰の辺境

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第25話:異世界改革の裏側で

 あいつは今日も家から出る気なんてない。

 朝からソファに沈んで、ぼんやり天井を見ている。

 私が近づくと、眠そうな目で手を伸ばしてくるだけ。


(……ほんと、よくこれで異世界改革なんて言えるわね)


 まあ、あいつは絶対に動かないんだから、私が動くしかない。

 私は静かに家を出て、駐留所へ向かった。


 昨日完成したばかりの駐留所は、朝日を浴びて妙に立派に見える。

 バルトスが掃除をしていた。

 私に気づくと、慌てて姿勢を正す。


「た、ターメイン様……!」


「おはよう、バルトス」


 私は軽く手を挙げた。

 その手には、魔石の詰まった袋が二つ。


(あいつのポイントと神力のために毎日魔獣狩りしてたけど……まさか都市計画に使うことになるとはね。取っておいてよかったわ)


「あなたに渡したいものがあって来たの」


「私に……でありますか?」


「ええ。魔石が足りないって言ってたでしょう?」


 袋を足元に置くと、バルトスの目が見開かれた。


「こ、これは……!」


「必要なんでしょう?都市を作るんでしょ?」


 バルトスは震えながら膝をついた。


「ターメイン様……あなた様は……」


「それより、お願いがあるの」


「冒険者登録をしたいの。案内してくれる?」


「も、もちろんであります!ですが……ターメイン様ほどの御方が冒険者に……?」


「必要なのよ。動きやすくなるから」


(あいつのために動くには、正式な身分があった方が便利だしね)


 バルトスに案内され、冒険者ギルドへ向かった。


 扉を開けた瞬間、ざわめきが一瞬止まった。

 朝のギルドは活気に満ちている。

 依頼掲示板の前で揉めている者、酒を飲んでいる者、受付に並ぶ者。

 その喧騒が、私が入った途端にぴたりと止まる。


 視線が一斉に私へ向く。

 銀髪、金の瞳、黒と紫の衣装――そりゃ目立つわよね。


(……あいつの膝の上で丸くなってる時の方が、よっぽど落ち着くんだけど)


 受付の女性は、のんびりした声で言った。

 周囲の緊張感とはまるで無関係な、独特の空気をまとっている。


「ご用件は……?」


「冒険者登録をしたいの」


「かしこまりました……。ですが……」


 受付は申し訳なさそうに眉を下げた。


「身分証の提示が必要でして……。お持ちでない場合、保証人が……」


(ああ、そういう制度なのね。面倒だわ)


 その時、バルトスが一歩前に出た。

 ギルド内の空気が一瞬で引き締まる。


「私が保証人となります!フェルゼン騎士団長、バルトスが責任を持って!」


「バ、バルトス団長が……!?で、では問題ございません!」


 受付の態度が一気に変わった。

 周囲の冒険者たちもざわつく。


「団長が保証人って……誰だよあの女……」

「見たことねぇ……けど、ただ者じゃねぇな……」

「団長が頭下げてるぞ……?」


(……騒がしいわね。早く終わらせたい)


 書類が差し出され、私は名前を書き込む。


 ――メイナ。


(「ターメイン」では問題があるみたいだから……。これくらいでいいわね)


 登録証が手渡されると、バルトスが胸に手を当てて言った。


「メイナさん……これで、正式に活動が可能となりました!」


「ありがとう、バルトス。助かったわ」


 私たちは軽く礼を言い、ギルドを後にした。


 そのまま駐留所へ戻る途中、私はバルトスに声をかけた。


「ねえ、バルトス」


「はい、ターメイン様!」


「今日のこと、ゼクトには言わないで。冒険者登録も、魔石を持ってきたことも。…いや、私のことを言わないで」


「……理由を伺っても?」


「なんでもいいでしょ」


(わたしはあいつの前ではただの「たま」でいたいのよ……)


 バルトスは真剣な顔で頷いた。


「承知いたしました。ゼクト様には一切お伝えいたしません!」


「助かるわ」


 私は軽く手を振り、駐留所を離れた。


(さて……今日もあいつの膝の上で寝るとしましょうか)


 ゼクト邸の裏側にある、あの小さな窓。

 ほんの少しだけ隙間が空いていて、猫の私なら余裕で通れる。


 窓の前に立ち、私は深く息を吸った。

 身体がふっと軽くなり、視界が低くなる。

 黒猫の姿に戻った私は、尻尾を揺らしながら窓枠に飛び乗った。


 するりと中へ滑り込む。


 リビングでは、あいつがソファでだらけていた。

 私を見ると、眠そうな目を細めて手を伸ばしてくる。


「……おかえり、たま」


(まったく……)


 私はその手に向かって歩き、ひょいと膝に飛び乗った。

 あいつの手が頭を撫でる。


(……まあ、悪くないわね)


 喉が勝手に鳴った。


 こうして、私の一日は終わった。


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