第24話:フェルゼンの現状
その日のうちに駐留所の建設が始まり、翌日にはもう完成していた。
魔道士の補強魔法と職人の手で、建設されたらしい。
(……ほんとに1日でできたな)
「ねぇ、グスタフさんだったよね?フェルゼンってどんなところなの?」
俺がソファに座って完成報告に来たグスタフにそう聞くと、グスタフは背筋を伸ばして丁寧に頷いた。
「はっ……!では説明いたします、ゼクト様!」
(いやそんなかしこまらなくていいんだけど……まあいいか)
グスタフの説明によると、フェルゼンはアルメリア大陸の北端、ヴァルメリア王国の最北部に位置する辺境の領地らしい。ヴァルメリアは南と東が海に面した国家で、王都ヴァルメリアは南寄りにある。一方フェルゼンは北へと延びる街道の果てにあり、そのさらに向こうには黒森地帯を挟んで魔族領ダルグレアが広がっている。東は霧深いエルンの森、西は黒鉄山脈に囲まれ、まるで天然の要塞だという。
ただの田舎かと思いきや、フェルゼンには古くから続く鉱山があり、鍛冶が盛んだという。大昔にこの地へ入植したドワーフたちの子孫が今も暮らしており、彼らの作る武具や農具は王都の職人よりも質が良いと評判らしい。資源も技術もあるのに、活かしきれていないのが現状だという。
さらに、王都と魔族領を結ぶ唯一の街道“北方交易路”が通っており、昔から交易の要衝として栄えていたそうだ。
(……つまり立地はめちゃくちゃ良いってことか。便利じゃん)
経済の中心は農業と交易で、農業はそこそこ、鉱山資源は豊富だが、人手不足で採掘量は伸び悩んでいるらしい。三年前の“灰色の冬”で魔族の大侵攻を受け、交易は途絶え、経済は一気に冷え込んだ。
(交易都市か……改善の余地しかないな)
政治的には王国から“辺境扱い”されており、軍事的価値は高いのに予算は少ない。王都の貴族たちからは冷遇され、グスタフ自身は有能だが、上から嫌われているせいで支援も乏しいらしい。
(あー……あるあるだな。現場が有能だと上が嫉妬するやつ)
俺はそこで気になっていたことを口にした。
「グスタフ、フェルゼンには予算はあるのか」
グスタフは少し困ったように眉を下げた。
「……ございます。ただ、正確には“使われずに残っている”と言った方が近いでしょうか。王国からの支援はほとんど届きませんが、鉱山の収益や鍛冶工房の税収など、フェルゼン独自の収入が蓄積しておりまして……使い道さえ決まれば、動かせる金は十分にあります」
(なるほど。金はあるけど、使う余裕も仕組みもないってことか)
グスタフは続けた。
「バルトスたち騎士団も王国軍の一部ではありますが、実質的にはフェルゼン独自の予算で運用しております。装備の更新も訓練費も、すべてこちらで負担している状況です」
バルトスが申し訳なさそうに頭を下げた。
「ゼクト様、我々は最低限の装備しか持っておりませんが、それでも領地を守る覚悟だけは失っておりません!」
(いや、そんな真剣な顔されると逆に困るんだけど……)
そしてグスタフは静かに言った。
「ですので、予算が“ない”わけではありません。むしろ、使い道さえ見つかれば一気に改革を進められるだけの蓄えはあります。ただ……私には、その道筋を示す力が足りませんでした」
(……いや、使い道ならいくらでもあるだろ。ポイントのためにも)
俺はしばらく考え込んでから、ふと思いついたことをそのまま口にした。
「……いまの城下町、思い切って作り直そう」
グスタフが目を瞬かせた。
「……作り直す、とは……城下町全体を、でございますか?」
バルトスは驚きのあまり口を開けたまま固まっている。
「ぜ、ゼクト様……城下町を、丸ごと……?」
(いや、そんなに驚く?普通に考えて古い町って不便だし、作り直した方が早いじゃん)
俺は肩をすくめた。
「土地は広いんだろ?だったら、いまの町を壊す必要はない。新しい町を別の場所に作って、あとで移動すればいいだけだ。駐留所が1日で作れる技術力があるのなら思い切って1からやり直そう」
グスタフは息を呑んだ。
「……新都市を先に建設し、段階的に移住を進める……確かに、それなら可能です。しかし……」
「問題は人手か?」
「はい。都市整備には大量の労働力が必要です。エリシュアたち魔道士の魔力で動くゴーレムが使えれば話は早いのですが……」
グスタフは苦い顔をした。
「……魔石が不足しておりまして。ゴーレムを動かすには高純度の魔石が必要なのですが、今のフェルゼンにはほとんど残っておりません。交易も止まっているため、入手も難しく……」
俺は軽く伸びをした。
「じゃあ、一旦持ち帰って予算のこと考えておいて。こっちは都市計画作っとくから。まずは駐留所が落ち着いてからでいいよ。」
グスタフは深く頭を下げた。
「……承知いたしました。ゼクト様のお言葉、必ず形にしてみせます」
バルトスも胸に手を当てて頭を下げる。
「我ら騎士団、全力で協力いたします!」
(いや、そんな大げさにしなくても……)
たまが俺の膝で尻尾を叩いた。
「ミャウン(魔石って……?)」




