第19話:神界、開き直りの女神と胃痛の主神
――神界・主神庁舎。
巨大な水晶盤が、異常な光を放っていた。
「……ルミナ。説明しろ」
主神の声は重く、低く、そして怒気を含んでいた。
だが、当のルミナは――
「はいっ! 全部順調です!」
満面の笑みで胸を張っていた。
「……順調?」
「順調です! 世界は安定、神力は爆増、魔族は沈黙、フェルゼンは平和! 全部ゼクト様のおかげです!」
「……いや、そういう話ではない」
主神は水晶盤を指差した。
【フェルゼン領・安定度:過去最高値】
【魔族活動:沈静化】
【世界負荷:激減】
【神力収支:+4800%】
【ターメインの旅の進捗:0%】
「……ターメインが一歩も旅に出ていないのに、世界の負荷が下がり続けている。どういうことだ?」
「ゼクト様の改革がすごすぎるからです!」
ルミナは即答した。
「フェルゼンの防衛体制を“最適化”して、魔族の誤解を解いて、騎士団の過労を解消して、領地全体を静かにして……結果、世界の負荷がガンガン下がってます!」
「……ターメインは?」
「ゼクト様のそばにいたいから旅に出ません!」
「いや、出ろよ……」
「無理です! ゼクト様のそばにいたいんですから!」
「いやいやいや、勇者が旅に出ないのは問題だろう!」
「でも世界は安定してますよ?」
「……」
「神力も増えてますよ?」
「……」
「むしろ、ゼクト様がカズヤだった頃の何十倍も増えてますよ? あの頃は生活でダラダラ使ってたのに、今は改革でガンガン増えてます!」
「……ルミナ。お前、完全に開き直ってないか?」
「はい! だって結果出てますから!」
「結果が出ていれば何をしてもいいわけでは――」
「いいんです!」
「よくない!!」
主神は机を叩いた。
「ターメインは旅に出るべきだ! 世界を巡り、魔族を討ち、世界を救う存在だ!」
「でもゼクト様のそばにいたいんです!」
「知らん!!」
「知らなくても事実です!」
「……ルミナ。お前、ゼクトに甘すぎるだろ」
「甘いですよ! だってゼクト様、動かないのに世界を救ってますから!」
「動かないのに世界を救うな!!」
「でも救ってます!」
「……」
主神は胃を押さえた。
「……ゼクトは何者だ……?」
「ただのすごい引きこもりです!」
「それが一番怖いと言っている!!」
「でも神力増えてますよ? 世界も安定してますよ? ターメイン様も幸せそうですよ? 全部丸く収まってますよ?」
「……ルミナ」
「はい!」
「お前……この状況を変える気はないのか?」
「ありません!」
「即答か!!」
「だって、変える必要あります?」
「ある!!」
「ないです!」
「あると言っている!!」
「私は“結果”を見て判断します!」
「……」
主神は深く息を吸い、巨大な水晶盤の横にある“個体情報照会柱”へ手をかざした。
「……ルミナ。ゼクトの情報を確認する」
「どうぞ! 誇らしい経歴ですよ!」
「誇らしい……?」
光柱が淡く輝き、文字が浮かび上がる。
【氏名:佐藤カズヤ(現:ゼクト)】
【年齢:36歳】
【前世職業:サラリーマン → リモートワークのフリーランス】
【専門:Webディレクション/UI改善/SEO最適化/サイト運用管理】
【特徴:引きこもり気質/作業効率化オタク/外出嫌い/会議嫌い】
【備考:コーラ常飲】
「……ルミナ」
「はい!」
「こいつ……ただの“Web系フリーランス”じゃないか」
「はい! すごいですよね!」
「どこがだ!!」
「だって、サイト運用管理ですよ?領地運用管理に応用できます!」
「できるか!!」
主神は震える手で次の項目をめくった。
【行動傾向:外出を極端に嫌う】
【行動原理:効率化/省エネ/最小労力最大成果】
【現在:ソファでコーラとちくわ】
「……ルミナ」
「はい!」
「こいつ……“勇者の旅”という概念と……相性が最悪では?」
「はい! だから旅に出ません!」
「出ろよ!!」
「無理です! 外出嫌いなんですから!」
「勇者が外出嫌いって何だ!!」
「でも結果は出してますよ?」
「結果が出ていれば何をしてもいいわけでは――」
「いいんです!」
「よくない!!」
主神は頭を抱えた。
「……36歳のWebフリーランスが、なんで世界を救ってるんだ……?」
「効率化の鬼だからです!」
「鬼って言うな!!」
「でも事実です!」
「……」
主神は最後の項目を見た。
【世界への影響:怠惰の聖域を中心に、安定化が進行中】
「……怠惰で世界が安定するわけが……」
「してます!」
「……ルミナ」
「はい!」
「ゼクトを監視しろ。だが――」
「だが?」
「絶対に怒らせるな」
「……それは難しいんじゃないですか!?」
こうして、フェルゼンの静寂は世界へ広がり、神界すら揺るがす異変となった。
だが――当のゼクト本人は、今日もソファでコーラを飲みながら、
「ポイントもっと増えないかな」と呑気に呟いているだけだった。
世界は静かに、しかし確実に。
“怠惰の聖域”を中心に回り始めていた。
第1章:怠惰の聖域 完結です
第1章完結記念に「番外編:棚卸し」を公開しています




