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黒猫勇者と怠惰の宰相 〜引きこもりの俺、安眠のためにリモートワークで異世界を改革する〜   作者: 香箱
第1章:怠惰の聖域

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第17話:領主、聖域に

 ――ピンポーン。


 またかよ。どうせまたあいつらだろ。

 俺はポテチを口に放り込みながら、リモコンで門扉の映像を確認した。


 ……バルトスとエリシュア。そして、その横に――


「……誰だよ、あの優男は」


 映像の中で、整った身なりのイケメン金髪が、まるで処刑台に向かう囚人のような顔で突っ立っていた。


「あ、あの……主様。本日は……その……」


 バルトスが震える声で言った。


「領主グスタフ・フォン・フェルゼン閣下を……お連れしました……!」


「は?」


(いやいやいや、なんで連れてくんだよ。俺、行かないって言ったよな?)


 門扉が開くと、グスタフはバルトスの後ろに隠れるようにして敷地へ入ってきた。

 その姿勢は、どう見ても“神殿に入る前の下級神官”だ。


「し、失礼いたします……ゼクト様……!」


「いや、そんな畏まらなくていいから。てか靴脱いで」


「は、ははぁっ!!」


(なんで土下座みたいな姿勢で靴脱ぐんだよ。怖いわ)


 三人はソファの端に緊張しながら着座し、俺はパジャマ姿のままコーラを置いた。


「で、何の用?」


 グスタフは喉を鳴らし、深呼吸してから言った。


「……ゼクト様。まずは、このフェルゼンを救ってくださったこと……心より感謝申し上げます」


「救ってないよ。俺は何もしてない」


「……っ! その“何もしていない”という静寂こそが……!」


(いや、何その解釈。怖いんだけど)


 グスタフは涙目で続けた。


「フェルゼンは三年前の“灰色の冬”以来、ずっと怯えていたのです。魔族の影に、戦火の記憶に……。しかし、ゼクト様が示された“静かなる抑止力”によって、領内は今、奇跡のような安定を取り戻しております!」


(いや俺、紙に落書きしただけなんだけど)


 足元でたまが「ナァ」と鳴いた。


「……なんだよ、たま。コーラこぼしてないぞ?」


 たまは俺の膝に飛び乗り、尻尾で俺の腕を叩いた。


「ナァ(……あんたのせいで領地が大騒ぎなのよ)」


 グスタフは身を乗り出し、俺の手を取ろうとした。


「ゼクト様……どうか、我らに“さらなる叡智”を……!」


「いやいやいや、やめて。俺、人と関わるの苦手だから」


「っ……! 申し訳ございません!!」


(なんで謝るんだよ。俺が悪いみたいじゃん)


 グスタフは震えながらも、必死に言葉を続けた。


「フェルゼンは今、静寂の中にあります。しかし……その静寂が、いつ破られるか分からない。魔族は沈黙し、周辺諸領も不気味なほど動きがない……。まるで、嵐の前の静けさのようで……!」


(いや知らんがな。俺に言われても困るんだけど)


「どうか……どうかゼクト様。フェルゼンの未来を……お導きいただけませんか……!」


「無理。面倒くさい」


「…………」


 部屋の空気が凍りついた。


 バルトスは青ざめ、エリシュアは祈るように手を組み、グスタフは魂が抜けたような顔をした。


(いや、そんな反応されても……俺は本当に面倒なんだよ)


 たまが俺の膝を軽く引っかいた。


「ナァ(言い方!)」


 俺は咳払いして言った。


「俺は“動かない”。それが俺の最善だ。だから……勝手にやってくれ」


 グスタフの目が見開かれた。


「……勝手に……やって……よい……?」


(あ、これまた誤解したパターンだな)


 次の瞬間、グスタフは床に額を擦り付ける勢いで頭を下げた。


「ははぁぁぁぁっ!! ゼクト様は我らに“自律”をお与えくださった!!」


(いや、ただの放置宣言なんだけど……)


 バルトスも涙を流しながら叫んだ。


「ゼクト様の御心、確かに受け取りました!!」


(いや受け取るなよ!!)


 

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