ep.4 『幸福の島』
「……おにーさん」
「何だ?」
船の上で女の子が旅人に問う。
「"幸せ"ってなに?」
旅人は少し悩んで答えた。
「難しい質問だな……自分自身が幸福だと感じる時じゃないか?」
「えっと……じゃあ今は幸せ?」
旅人はハッキリと答えた。
「……きっと幸せだろうな」
「なんで?」
「なんで……か、そりゃあ___」
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大海原の中、1隻のツリーツアー(=複数の島を回る船。中型観光遊覧船に近い)が航海をしていた。船に続くように周りにアホウドリが飛行しており、海は穏やかに波打っており、何処までも水平線が広がっていた。
船内では旅人や観光客が楽しそうに話をしている。その中に、シベリアン・ハスキーと共に海を眺める少女がいた。白髪で髪色に近い白色の簡素な服を着ている。
「よっぽどハスク(=シベリアン・ハスキー)が気に入ったんだな」
白のパーカーを着ており黒のチェスターコートを羽織っている旅人が少女に話しかける。女の子は何度も頷いた。
「さてと、あとは何処行くんだこの船。えっと……『幸福の島』か」
「……こうふく?」
「幸せって事だ」
「どういう島なの?」
「さぁな、サッパリだ。知ってるのはこのパンフレットに書いてあることだけだ。これもまた旅の一環だと思えばそれで良い」
パンフレットに書いてあったのは島の名前、ザックリとした地図、キャッチコピーの3つ。その島は、"不幸なんてない、ずっと幸福の島"と謳われる島だった。
「……あ、おにーさん。あれ?」
女の子が指を刺した先には島があった。
「ん?……あぁ、そうだな。あそこが『幸福の島』だ」
その島は自然豊かで木々が生い茂る山に、牛や豚、羊などが放牧されており、街並みは活気溢れる場所で自然とはまた一風変わって旧市街のような雰囲気を醸し出していた。
「間も無く、『幸福の島』に到着します。お忘れ物内容ご注意ください」
「さ、準備しとけよ」
「うん」
◇◇◇
「さてと……行きたい場所はあるか?」
島に着いてすぐ、一行は港近くの宿をとった後街をぶらぶらと歩いていた。宿は想定よりも遥かに格安、かつ好待遇であったためお金に余裕ができている。
「1万……呼び含めて3万は使えるな。まぁおいおい考えるとするか。あとは……」
「…………」
ブツブツと旅人が独り言を言う中、バウ!とハスクが吠えていた。振り返ると、女の子が店のガラス越しに何かをまじまじと見ていた。
「何かあったか?……服か?」
女の子が見ていた服はクラシックで上品な子ども向けのワンピース。黒のジャンパースカートに中は白の長袖ブラウス、首元には大きなリボンタイと、カジュアルなロリータファッションのような高級感溢れる服だった。
「これは高いだろうな。4万……5万ベラ(通貨。1ベラ=1円)はいくか?」
旅人は恐る恐る値札を見た。その値段を見るや否や、唖然としていた。何かの見間違いかと何度もを確認していた。
「……2000ベラ?凄く安いな。欲しいか?」
「……えっと」
「ちなみに全然買えるぞ。なんならもう3着ぐらいは行けるな」
「…………いいの?」
「構わない。好きなのを買え。他に気に入ったものがあればそれも検討しよう。」
女の子はほんの僅かだが笑顔になった。そうして、女の子は自分の気に入った服を持ってきては試着を繰り返した。
結局、最初に見た服を買うことにした。
「なぁ店主、この店の服はなんでこんなに安いのばっかなんだ?」
会計をしている旅人がふと気になった様子で店員に聞いた。
「そりゃ、この島は資源の豊富だからだね。安く大量に高品質のものを作れるんだよ」
「自給自足の国って事か。そりゃあ物価も低いわけだ。にしても、もう少し値上げした方がいいんじゃないか?俺が言うのもなんだが、儲からないだろ」
「ま、いいんだよ。お客さんのためだ。お客さんが幸せならそれでいい。あい丁度ね……そうだ、折角だしその犬の分の服も付けておくよ。確かあったはずだ」
「……待て待て、本当にいいのか?」
「これぐらい別にいいよ。誰かが幸せになるのなら、いい事じゃないか。またのお越しを」
その後、早速女の子は買った服を着た。
「すごく似合ってるな。元がいいからか?」
「……ほめてる?」
「褒めてるよ。俺が見た子供の中で一番に可愛いと思う。いや、冗談とかじゃなくてな」
なんて会話をしていると、女の子のお腹の音が鳴った。女の子は少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「昼時か……ご飯食べるか」
「うん」
「飯屋はどこに……っと丁度あるな。この店にするか」
「おいしそう……本当にいいの?」
「あぁ。遠慮するな」
昼ごはんのために訪れたお店のメニューに女の子が楽しそうに睨めっこをしていた。一方で旅人はまた不思議そうな面持ちをしていた。
「確かに、どの料理も安い上に美味しそうだ。だが、何もかも本当に安いな。倍の値段で売っても良いぐらいだ。本当に正規の値段か?」
疑い深い旅人に、店の人が優しく返答をする。
「この島は土地に恵まれておりますゆえ、毎年豊作で、漁業や牧畜も盛んです。それに加えて産業も発達しておりますので、お客様には満足いただけるようなサービスを提供できればと心得ております」
「何から何まで『幸福の島』なんだな。本当に裏があると勘繰ってしまうぐらいだ」
「お客様に良かったと思っていただきたい一心で営業しておりますので。お気に召さないようでしたら代金は大丈夫ですよ」
「いや、流石に払う。それに、どの料理も実に美味しそうだ。こっちがチップを渡したくなるほどにな」
「いえいえ、滅相もないです。お決まりになりましたらお呼びください」
「あぁ、分かった。ありがとう」
そうして店の人はニコッと笑顔のまま調理場へと戻っていった。
「…………大盤振る舞いだな。もはや怖いぞ」
「おーばんぶるまい?」
「沢山もてなしてくれる事だ。どうだ、決まったか?」
「えっと、うーんと……うーんと……」
「ゆっくりで良いからな。好きなの頼めよ」
それから、料理を注文した。想像の斜め上をいくほどの盛り付け具合に旅人と女の子はとても驚いて店の人に確認をしたが、店の人の「サービスですよ、遠慮なく」と言う屈託のない笑顔の前に何も言えなくなっていた。
「いや……にしても凄いな」
「わたし、食べきれないかも」
「食べれる量だけでいいぞ。残ったら俺が食べよう」
「うん」
そうして旅人たちはご飯を食べ始めた。食べる前から美味しそうな見た目をしていた料理は、口に入れるとこれまた想像以上に美味しく、2人は夢中で食べていた。
世間話をしながら2人が食べていると突然、ガシャン。と音がした。奥の席で、男が料理を落としたようだ。
「あ……すみません」
「大丈夫ですよ」
店員は笑顔で新しい料理を持ってきた。
「あぁ……どうしよう。すみません、いくら払えば?」
「不要です。お気になさらず」
「……いや、そんなつもりじゃ」
「困っている人を助けるのは幸せなことですから」
「でも」
男は困ったような表情をしていた。何かで返さなければ、と色々考えているようだった。しかし、店の人は気にも止めていない様子だった
「大丈夫ですよ、私たち一同、お客様が満足して頂けることを第一にしておりますので。ご心配なさらず」
「そう……ですか?」
「ええ、ですので、お客様は気になさらず、料理をご堪能ください。では」
そうして店の人はそそくさと片付けて戻って行った。男は呆然としていたが、運ばれてきた料理を食べるとたちまち表情が緩んでいた。
「…………俺たちには関係ないか」
「?」
「いや、何でもない。ゆっくり食べろよ」
「うん」
◇◇◇◇
「まさかあんな量の飯が出てくるなんてな……いい意味で詐欺だったよ。それにデザートも無料で提供してくれるとはな。どこもかしこも歓迎しすぎなぐらいだ」
「うん。それに、みんな優しい」
「あぁ」
「でも」
女の子と旅人と話していると、女の後がふと、ずっと気になっていた疑問を口にする。
「優しすぎる気がする」
「確かに、お節介焼きって感じだな」
「大変じゃないのかな」
「人によっては、考えられないと思う奴もいるだろうな。ただ、そういう人達はそれを苦と思ってないだろうからできるってだけだ。人を助けることに幸福を感じるのかもな」
「じゃあ店の人たちはそういうこと?」
「そうなんだろうが……あれは度が過ぎている気もするな。あくまで主観だから何とも言えんが」
「おにーさんは、そういうので幸せだって思う?」
「俺か?俺は……思わないだろうな。多分、俺は自己中心的だろうからな」
「じゃあこの島に残った方がいいんじゃ?」
「確かにな……でも、だからこそ、帰るんだよ」
「どういうこと?」
「ここはただ、幸せにしてくれる場所だからな」
「……?」
「俺は、自分で決めた幸せの方が好きだ」
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「この島はどうだった?」
「たのしかった。全部良かったよ。でも思ったことがあるの」
「思ったこと?」
「うーん……ねぇ、おにーさん」
「何だ?」
船の上で女の子が旅人に問う。
「"幸せ"ってなに?」
旅人は少し悩んで答えた。
「難しい質問だな……自分自身が幸福だと感じる時じゃないか?」
「えっと……じゃあ今は幸せ?」
旅人はハッキリと答えた。
「……きっと幸せだろうな」
「なんで?」
「なんで……か、そりゃあ___」
一拍をおいて、旅人は口を開く
「選択したから、かな。お前はどうだ?この島にいた方が幸せだったかも知れないぞ」
「うーん……あんまり思わないかも」
「どうして?」
「みんな優しいけど……優しすぎる?っていうか……イヤなものはイヤって言える方がいいとおもう」
「そうだな。それは賛同する」
「……………………それに」
「それに?」
「おにーさんと一緒にいた方が、もっと幸せだと思うから。ハスクもね」
「…………そうか、ありがとうな」
「ヴァウ!」
「……わぁ!どうしたの、急に」
ハスクが元気に女の子に体をなすりつけていた。どっちもとても楽しそうだった。それを見ていた旅人は、それは幸せそうな表情をしていた。
◆◆◆◆◆
○月○日 快晴
題名『幸福の島』
幸福の価値は人それぞれだ。あまり詮索するものじゃない。幸せの価値は人それぞれだ。カブトムシがいたとき、興奮する人もいれば嫌悪する人もいる。幸せとは、他人に左右されるものじゃない。自分がそう思ったのなら、それが幸せだ。




