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ep.3 『大きな穴の島』

「どうだった?この島は。普通で、特に何もなかっただろう?」


「普通………確かに、普通なんでしょうね。あの島に比べれば。でも、普通って何でしょうね」


「さあな。誰かにとっての普通は誰かにとっての異質、逆も然りだ。全員に共通する"普通"なんかそうそうない」


「そんなものなんですか?」


「分からん。ただ……大多数がそれを当然と思っているからそうなってるだけだ」


「……変な世の中だなぁ」


ボソッと、ボクはそう呟いた



______

_____

____

___

__

_


心地よい海の風が身体を吹き抜ける。船の中は長閑で、旅人や旅行客の人達が和気藹々としていた。その中で、白のパーカーを着ており黒のチェスターコートを羽織っている旅人と、白くて簡素な服を着た青髪の男の子が話をしていた。



「わぁ…」


「あれが次の島ですか?」


「あぁ」


ボクとソフィ(=ボクの妹)はその島を眺めていた。『商売の島』とは違って、山に囲まれていた。凄い賑やかって訳じゃなくて、閑散とした雰囲気だった。


「島の名前が確か……『大きな穴の島』ですよね」


「そうだ。何回か訪れた事はあるが、至って普通の島だな」


「普通……普通ですか」


普通って、何気なく言うけど、普通って何だろう。あの島に長らくいたせいで、感覚が麻痺してる。でも、行ってみれば普通が分かるかな。


「……そろそろだ。準備しておけ」


「分かりました」


準備といっても、何もないんだけどね


◇◇◇


「着きましたね」


「こっから道に沿っていけば、山の中の町に行ける。どうする?着いてくるか?別行動を取ってもいいが。金は……少ししか渡せないが」


「えっ?」


「どうした、変なことを言ったつもりはないが」


「いや…別に」


ボクが逃げる、とか考えないのかな。もう島のルール適応外なのに。何でそんな提案をするんだ?自分の側に居させた方が安全に決まっている。うーん…何か理由があるのか?


「………自分の目で見るためだ」


「えっ?」


「今、理由を考えていただろう?お前に別行動をさせる理由を。邪魔だから、とかでは決してない。ただ、お前らで生きていくとなると……その目で自分の判断で生きていく必要があるだろ?だから提案した」


「なるほど……でも、どうしてそこまで?」


「買ったからな。それに、約束しただろ?」


「………あ」


未来、旅人のお兄さんは未来を買ってくれた。ボク達のことをそこまで考えてくれてるのか。何だか嬉しい気持ちでいっぱいになる。ほんと、良い人に出会えた。


「おにぃ、どうするの?」


「うーん……折角だし、2人で回る?」


「おにぃがそう言うなら」


「じゃあ…いいですか?」


「分かった。何かあった時用に緊急ブザーと小型ナイフは持っとけ。この島でそんな事は起こらないだろうが、念には念を、だ。」


「あ、ありがとうございます」


此処までくると逆に利用されてるんじゃないかと思ってしまう。そう言う訳じゃないんだろうけど、そんな自分がちょっとイヤになる。あの島に居過ぎたせいかな。


「お前はどうする?」


お兄さんがライラ(=元奴隷の女の子)に声をかけると、もじもじとしながら、小声でお兄さんに何か話しかけた。


「………分かった。ならそうしよう。ライラは俺に着いていく。いいな?」


「大丈夫ですよ」



そうして


「ようこそ『大きな穴の島』へ。特に変わりのない島ですが、ごゆっくりお楽しみください。こちら地図になります。ご自由にお使いください」


「ありがとうございます」


行き着いたその町は『商売の島』とは違い、見渡すと皆んな楽しく話していたり、畑仕事をしていたり、お店のテラスでゆったりとケーキを食べていたり……いわゆる普通の島と呼ばれるものだった。ただ、地図を見ると円形の町の真ん中に大きな黒い空間があった。察するに本当に大きな穴みたいだ。


「それじゃあ俺らは宿を取りに行ってくるから、お前らは好きに回っていいぞ。場所はここな」


「分かりました。それじゃあまた」


「あぁ、行くぞ。ライラ、ハスク」


「うん」


「ヴァウ!」


そうしてボク達は別々に別れた。自由だ。滞在期間は3日ほどらしい。その間は何をしてもいいんだ。お金は1万ベラ。宿代は出してくれるらしいから、ご飯も考えると6千ベラぐらいは使えるかな。服は使い回しでいけるし。


「どうする?ソフィ。行きたいところはある?」


ソフィは地図をマジマジと見つめながら考えてる。楽しそうでなによりだな。


「うーんとね、うーんとね。おにぃの行きたい場所!」


「ならそうしよっか」



それからボク達は色々なところを回った。カフェだったり、お店だったり、町の人に声をかけたり……ただ、島の名前でもある大きな穴にはまだ行ってない。楽しみに取っておこうと思って、なるべく外側を回っていた。


「さてと、もうそろそろ例の穴に行ってみる?」


「うん!」


「よし、行こっか」


正直ボクもずっと気になってた。島の名前になるくらいなんだから。早速行こう。大きな穴に。




「………すご」


「大きいね!」


町の中心にあるその穴は100m先まであるんじゃないかぐらいには広くて、見ただけでも底が見えなかった。柵があるからちゃんとは見えないけど、お城一個は入りそうなぐらいだった。その穴は奥まで見ようとすると吸い込まれるかのような感覚に陥りそうになり、一番の目玉であるはずなのに目を逸らしてしまいたくなるような穴だった。


「圧巻だね。流石島の名前になるだけはある」


「ねーねー、あそこ何かやってるよ?」


見ると、そこでは穴の近くで人達が集まってた。心なしか子供の方が多い気がする。イベントでもやっているのかな。


「せっかくだし行ってみようか」


「うん!」


そうしてボク達はそこへ向かって歩いた。道中、ゴミの廃棄だとか、要らなくなった物を投げ入れている人がいた。この島じゃ普通なのかな?



「えっと、こんにちは。何してるんですか?」


ボク達はそこに着いて、案内人らしき男の人に話しかけた。


「ぼく、旅人かい?ここはバンジージャンプをしてるんだ。やっていくか?って言いたいところだが、その背丈じゃ厳しいかな」


「おにぃ、バンジージャンプって?」


「さぁ……あっちの島では聞いたこともないね」


「何だ知らないのかい?バンジージャンプってのは命綱を括り付けて飛び降りる遊びだよ。スリルを楽しむためかな。せっかくこんな穴があるんだ。使った方がいいだろ?」


「へぇ〜」


「他の島にはない魅力ではあるけど…落ちる心配とかはないの?」


「そこは大丈夫。防護ネットは完備してるし、綱もキットも毎回チェックしてやってる。心配はいらないよ。おっと、そろそろ始まるな。見てみなよ」


そう言われて見てみると、成人男性が紐一本を頼りに穴に向かって宙へと落ちていく様子が見えた。叫び声を上げながら落下していき、バウンドする頃には意識が飛んでいそうだった。


「これが娯楽?面白い文化もあるんだなぁ」


「ジェットコースターみたいな乗り物とは違って生身一つでやるからな。そこにスリルを感じるわけよ。やらせたい気持ちはあるが、ルールはルールだ。大人になったらまた来てくれな。」


「やってみたかったなぁ〜」


「また来ればいいの。ありがとうございました」


「いやいや、こちらこそすまんね。嬢ちゃんにぼく。また来な!いつでも歓迎するよ!」


そうしてボク達はその場を後にした。そろそろ夕暮れ時だし、言われた宿に戻るとしようかな。ソフィも疲れているだろうし。



……あ、そう言えば穴の事聞くの忘れてた


◇◇◇


「戻ったか。どうだった?」


あれからボク達は宿屋に戻り、お兄さんと今日の話をしていたり


「圧巻……って言えば良いんですかね。感想としては、凄いと怖いの2つが混ざり合ったような感じでした。ただ、穴についてを聞き忘れちゃって」


「そうか、なら丁度いい。明日町長と話をしようと思っててな。着いてくるか?」


「え、あ、はい!是非!」


「分かった。なら明日は一緒に行くとしよう。早いからな、寝坊はするなよ。」


「分かりました。そう言えば、ライラは?」


「あぁ、アイツなら」


そうして指を刺した先では、ライラがお兄さんが飼っている犬のハスクと一緒にぐっすり寝ていた。


「今日はハスクとずっと遊んでてな。少し前からあの感じだ。よっぽど、楽しそうだった」


「……そうなんですね」


なんか、安心したな。

そんなこんなで、明日は町長さんにお話を聞きにいくことになった。一体どういう穴なんだろうか。隣で寝ているソフィを見ながらそんなことを考えながら、床に就いた。




「………ん、ん…あ、今何時!?」


「起きたか、まだ7時過ぎだが」


「7時か…ソフィ、朝だよ。起きて」


「んー……まだねるぅ」


「もう……またそんなこと言って」


「10時に出る予定だから、それまでは自由にしてていいぞ。」


「分かりました。ごめんソフィ、まだ寝れるってさ」


「ん…うん」


多分、こういうのを幸せって言うんだろう。今まで大きく空いていたボクの中の空洞が少し埋まったような気がした。




「何処にあるんですか?町長の家って」


「南南西辺りの住宅で、穴に近い所にある。地図だと……ここだな。多少面識はあるが、覚えていてくれてるだろうか」


約束の時間が来て、ボクとお兄さんは町長さんの家を目指している。ライラとソフィはまだ寝ていたのでハスクとお留守番している。今日ばっかりはゆっくり寝てほしいな。


「着いた、ここだ」


辿り着いた家は2階建ての赤い屋根の木造建築で、本当に周りの家と変わらず特徴もこれと言ってない感じだった。 


「町長、いるか?」


お兄さんがドアをノックして少しした後、家からご老人が出てきた。その老人の方はお兄さんを見るや否や目を見開いていた


「どちら様で?……あぁ、シオンさん!お久しぶりですね。どうぞ入ってください」


「失礼する」


「お邪魔します」


「失礼する」


「お邪魔します」旅人の人……シオンって名前なんだな。2日間一緒にいるのに名前聞いたの何気に初めてかも知れないな。そんなこんなでボク達は町長さんのお家にお邪魔させてもらうことになった。


「ごゆっくりしていってください。今お茶を出しますね」


「はーい。……名前、シオンって言うんですね」


「言ってなかったか?ま、いい。呼び方なんて自由にしてくれ」


「分かりました」


「待たせたね2人とも。変わりはないかい?」


「可もなく不可もなし、だな。町長の方こそどうだ、穴の方は?」


「そうですね…特になんとも。調査隊を派遣させておりますが、ここ3年間は何の成果も得られていないですね」


「やはりそうか」


「…………ん?」


"ここ3年間は"ってことは、つまり3年前に何か進んだってことなんだろう。でも、3年以上作業されててまだちょっとの成果しか出てないのか。


「あの、お聞きしたいんですけど、あの穴って一体なんなんですか?いつからあるんですか?」


「……さぁ?なんなんでしょうな?」


「いや俺に聞かれてもな。さっぱりだ」


「え?」


つまり、何も知らないってこと?あの穴は今まさに調査真っ最中でどういう穴か調べてるって事なの?


「先祖代々からこの島に住んでいるのですが、遡ると恐らく数百、数千前からあるんでしょうな。調査は幾度となく行われてきましたが、この穴の底に限界はない。強いて発見があったとすれば、3年前に新種の化石が見つかったことぐらいですかね」


「……でも、使ってるんですよね?」


「ええ。確かに、あの穴が何かは分かりませんが、ここ何千年と一歳変化がないのですから、せっかくなら利用しようとなりましてね」


「……怖くないんですか?何年も見てきたとはいえ、得体の知れないものなんですよ?」


「そうですな……ただ、もう私達にとってあの穴は普通のものなんですよ。何年も前から変わらないね。それがどういうものか、知らずに使ってるものなんて世の中沢山あるんですよ。その1つに過ぎない」


「例えば、重力とか、機械とかか?」


「ちょっと違う気がするけど……」


もっとこう……なんだろう。太陽?は違うか。未知の美味しい食べ物を食べてるようなものでしょ?何があるか怖くてしょうがないと思うんだけど……


「まぁ似たようなもんだ。解析を続けてるだけまだ偉い方だろう。ゴミ投げんのはどうかと思うがな」


「禁止してるんですがね……興味とは怖いもので、未だ途絶える事は無さそうです」


「なるほど……」


「とまぁ近況はこんなものですかね。特に変わりはないですよ」


「ふーん……」


その後は他愛もない話をした。近況報告とか、お兄さん……シオンさんの旅の話とか。『商売の島』の話もした。何というか……内容が普通過ぎてちょっと退屈だった。もっと穴について話すと思ったんだけどな〜




「んん……う〜ん」


「どうした?」


「いや…此処で暮らすのも悪くないのかなって」


「別に、俺は構わないぞ。それがお前の選択だって言うならな。此処で暮らすか?悪い所じゃない、むしろ良い方だ。皆んな優しくしてくれるし、至って普通の場所だ。次第に慣れる。」


「そうですかね」


「あぁ。この島に定住して、それで幸せになれるならそれでいい。俺はお前ではなく、お前の未来を買った訳だからな。いつか何らかの形で返してくれるなら、今は自由にしていい。選択も自由だ」


本当にいい人なんだな、この人。シオンさんの言う事はもっともだ。この島は悪い場所じゃない。大きな穴も違和感こそあるけど次第になれると思う。


「どうする?まだ時間はあるからゆっくり考えるといい」


「…………はい。ありがとうございます」


さて、どうしたものかな。



◇◇◇



「よし…忘れ物ないか?」


「大丈夫です」


「だいじょーぶ!」


悩んだ末に、辞めた。すごく良い所だけど、ボクはまた全然世界を見ていない。生きる力もそんなにない。もっと色んな人と関われる場所で、定住できる場所がいい。そんな貪欲な想いを持っている。多分、『商売の島』で感覚が麻痺してるのかもなぁ……


「次ってどこでしたっけ?」


「俺らの目的地、『幸福の島』だ」


_

__

___

____

_____

______



「とまぁ、こんな感じかな」


「ふむ…その子的には、なるほど確かにあの穴は異質だろうな。私はもうそんなものには慣れてしまっていたよ」


「非常識を大衆が普通と思えば、いつしかそれは常識へと変わり果てる。価値観も何も個人の解釈に過ぎない。それらを照らし合わせて、初めて常識が生まれるんだ。非日常だって、慣れればいつか日常になる」


「そう捉えるのなら、あの島は至って普通の島だな」


「ライラもそう思うか?」


うーん?とライラは首を傾げていた。


「間違った判断じゃない。普通を疑う事は非常識じゃないからね。これから慣れていくと良いさ、社会に」


何を言われたかあんまり理解してないだろうが、ライラは「うん。」と頷いた。



◆◆◆◆◆



◇月□日 曇り

題名『大きな穴の島』


"非日常を大衆が普通と思えば、いつしかそれは日常へと変わり果てる。価値観も何も個人の解釈に過ぎない。それらを照らし合わせて、初めて常識が生まれる"


時と状況において、それは大きく変わる。とても的を射ている言葉だ。せっかくだし、後でパンフレットに加えておこう。………"何て変わりのない、普通の島"

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