ep.2 『商売の島』
「……そうだな。色々話すことはあるが」
帰ってきた彼は店の前のベンチでそう言った。
「順番に話すか。まずは……『商売の島』。あそこは賑わいすぎだ。俺には合わん」
「そうかい?私は好きだがね」
「ただ、行って良かったとは思う。良くも悪くも価値観は変わった。お陰でいい買い物ができたからな。」
「ま、誰だってそうだ。あの島は異質だからな……それ土産って言わないよな?」
「な訳ないだろ。アンタもアッチ側の人間か?」
「私はそこの区別はできているとも」
会話が一区切りした後、その男が店主に聞いた
「そうだ、一つアンタに頼みたいことがあるんだが」
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「あんた『幸福の島』に行ったことなかったのか?」
その古臭そうなエプロンを着た店主はそう尋ねた。
「あぁ、初めて聞いた」
背が高く、若い見た目の男性がそう答える。中に白のパーカーを着ており、黒のチェスターコートを羽織っている。男の隣にはシベリアン・ハスキーがちょこんと座っている。
「なら行くといい。パンフレットあったかな…あったあった。500ベラ(1ベラ=1円)だ」
「高騰したのか?前は200そこらだったろ」
「冗談だ。300…いや250ベラでいいよ」
「あいよ」
「まいど」
パンフレットを渡してから、あっ。と何か忘れていたかのような声を上げてその男に話しかける。
「その島、ここから結構遠いから、ツリーツアー(=複数の島を回る船。中型観光遊覧船に近い)の方が良いと思うぞ。その犬も連れて行けるだろうし」
「そうか、分かった。次いつ来るか分かるか?」
「ちょっと待ってろ…あったあった。『幸福の島』に行けるやつは……明後日だな。途中で『商売の島』と『大きな穴の島』に行くらしい」
「『大きな穴の島』は知ってる。ただ商売の方は知らないな」
「ならいい旅になるだろうな。持ってくか?まけてもいいが」
「本当か?なら買ってこう」
「あいまいど。帰ってきたら感想を聞かせてくれ。ここで待ってるから」
◇◇◇
時はすぐに過ぎ、そうして2日後。
俺は船着場にやってきた。船にはさっき店主が言ったように種類がある。ラダムス(=行き先がランダム)、リザーブ(=指定船)、ツリーツアーの3つ。今回はツリーツアーだ。早速行くとしよう。
船が出航した。周りを見渡す限り、他には旅人が5〜6人、帰省する親子らしき人らが4人ほどだった。俺は旅人に話しかけた。
「どうも。旅の目的は?」
「やあやあどうも。僕の目当ては『商売の島』さ。僕はコレクターでね、色んな希少品を求めて旅をしてるんだけど、あそこは探せば何でもある。僕のためにある島かもね」
「成程、欲しい物が見つかるといいですね」
「そうだね…それで言うなら、君のシベリアン・ハスキーも中々だ。300万ベラまで出せるけど、どう?」
「……言っちゃ悪いが相当狂ってるぞ」
「冗談だよ。僕にも善悪ぐらいは分かる。それで、君はどうして旅を?」
「俺は『幸福の島』を目指して。島は色々回ったつもりだが聞いたこともなくてな。興味があって」
「あそこね〜いい島だよ。観光目当てなら尚更ね」
「………そうか」
一瞬コレクターの目が鋭くなったような気がする。多分、想像を超える何かがある。
◇◇◇
「着いたか」
その場所は船から見るだけでも瞭然だったが、端から端まで繁華街のような島だった。右を見ても左を見ても店だらけ。まさに『商売の島』だった。
「滞在期間は4日か…最終日は出航と考えて2、3日…金は多く持ってきたし、とりあえずは宿だな」
そうして歩こうとした矢先に
「旅の人!良かったらウチの商品どうだい?」
「いやいや俺んとこのはどうだ?品揃えバッチリだぜ」
「この島の特産品を売ってるの。どう?」
「兄ちゃん安くするからウチ来なよ!」
「アタシのとこ見に来な!」
「……ハスク、迷子になるなよ」
ハスクと呼ばれたシベリアン・ハスキーは「わん」と吠え、旅人とハスクは商人達を掻い潜って宿を探した。
「ここはさっきと比べるとまだマシだな」
あれから俺とハスクは歩きに歩いた後、それ程人が少ない…いや普通の商店街ぐらいの人混みのところへ来た。あんな場所は2度とごめんだ。
「しっかし…宿がないな。ハスク、宿の場所とか分かったりしないか?」
「グルルル…」
「そうか…どうしたもんかな」
野宿は避けたい。気付けば日も沈みかけている。これだけ広いとなると、宿も幾つかあると思うんだがな…あの商人の中に紛れてたりしたのか?そう悩んでいると、見覚えのある人が見えた。
「アンタ、コレクターの人か?」
「あれ、船以来だね。順調?」
「全く。宿の一つも見つけられない」
「そういうことね。なら僕の家に泊まる?」
「えっ、アンタ家持ってんのか?凄いな」
「よく来るからね。買うことにしたんだ。今後のことを考えると、宿に泊まるより安く済みそうだし」
「どういうことだ?ここの宿はそんな高いのか?」
「そう言えばこの島も知らないんだっけ。この島では何をするにしても何かを買わないといけないよ。この島の宿は部屋の所有権を買わないといけない。元から人が泊まっていたら、買って自分の部屋にしないといけない」
「……何を言ってる?」
「この島に宿は少ししかないから旅人や観光客にとっては部屋の奪い合いになるんだ。金を積めばすでに泊まってる人を押し除けて泊まることができる。一度値段を決めたら、上書きされるまで変えられない。それがこの島の宿のルールさ。その期間に誰かに買われたら追い出される。次にその部屋を買えるのは6時間後。理解した?要はこの島の宿屋は金が全てなんだ」
何だか情報量が多いな。つまり、宿に泊まるには誰かが持ってる部屋をそいつが払った金額以上に金を支払って自分の部屋にすれば良いわけだな。どおりで宿の押し売りが無いわけだ。
「そう言うことなら、お邪魔させてもらいたい。ハスクは旺盛だが聞き分けはいい。迷惑にはならないはずだ」
「そ。なら3万ベラちょうだい」
「……ちなみに宿だといくらかかるんだ?」
「うーん…最低で7万?でも結構裕福な人が多いからね。もっといくかも。」
「なら3万出す。泊まらせてくれ」
「毎度あり〜」
最初はハスクを買おうとするヤバいやつかと思っていたが、そうでもなかった。申し訳ない気持ちを心で感じつつ、家に泊まらせてもらうことになった。明日はのんびりと観光しよう。それと、なるべく港には寄らないでおこう。
次の日、2日目のこと。
俺はコレクターの人にまた泊めてもらう約束をしたのち、町へと赴いた。色んな商店を見て回ったが、一つ気付いたことがある。物以外も売っている。例えば、未来だったり、名前だったり、自分自身ですら売り買いできる。コレクター曰く「相互が合意すれば何を売るのも何を買うのも自由」とのこと。正しく『商売の島』を体現してると言える。
「思ったより買ったな。俺の知らないものばっかりで飽きない。お前はどう思う?」
そう聞くと、ハスクはただワンと吠えた
「……退屈はしてなさそうだな」
「兄ちゃんら、良かったらどうだ?」
考え事をしていると、1人の商人に話しかけられた。
「何を売ってるんだ?」
「未来だ。売ってもらうことの方が多いがね」
「未来…と言うと?」
「そうだな…君の未来だったり、コイツらの未来だったり。無論、私の未来も買える。高いがね」
"コイツら"と商人が指さしたのは幼くか細い子供数人だった。奴隷と言う方が正しいのだろう。左から、青髪の男の子、兄妹か双子らしき女の子、そして白髪の女の子の3人。ただ、容姿は皆揃って良いのが不思議だ。商売のためか?
「倫理的に問題では?」
「俺は奴隷を売っているわけじゃ無い。あくまで未来を売ってるだけだ。それに、この島じゃ金がない奴は皆んなこうなる。野垂れ死は勘弁だからな。俺が売ってる」
「金は取るんだな」
「商売だからな。こうでもしないと稼げない。」
「因みにいくらで?」
「200万ベラだ。そこらの奴を安く売ったところで誰も買わないからな。良さそうな奴を揃えてる。まぁここ以外にも店を構えてるから心配はいらないんだけどな。足しになりゃいい方よ」
「そういう事か……検討しておく」
「欲しくなったから来いよ」
そうして俺は立ち去った。少し、心持ちが悪くなった。ハスクもグルグルと小さく唸り声をあげている。お前も相当来てるんだな。その後色んな商人に声をかけられながら暫くの間歩いた。どうやらここら辺の商店は概念の売買を中心にしているらしい。土地とか、夢とか、想像だとか。実に面白いもんだ、退屈はしない。そうして歩いていると、何も置いていない質素な店が目に留まった。
阿保
「どうも、ここは何を売ってるんだ?若しくは、何を買ってくれる?」
「選択する権利だ。一律20万ベラで買う」
「20万?結構な額だな」
「それほど大事なんだ。選択はな。どうだ?売るか?30万でもいいぞ」
「急に飛んだな…いや、なるほどな」
狡い商売してんな…残念だが、生憎俺はそこまで阿呆じゃない。選択は重要だ。旅人となれば尚更それを理解しているだろう。ここは逆手に取るとしよう。
「逆にアンタの選択権を買ってみたい30万…いや40万でどうだ?俺に30万出せるなら、それほど価値があるって事だろ?」
「お客さん、いいのかい?」
「あぁ、俺はただ選択権の重要性を知りたい。ただ、俺の選択権を買われるのが怖いだけだ。この島じゃ何が起こるかわからないからな。だからアンタの選択権を買って何をするつもりだったのか聞きたい。」
「成程な、俺はそれに答える権利、言わば答えるか答えないかの選択を買われるわけだ」
「そういう事だ。どうだ?俺がそれに納得したら、俺の選択権を買う値段はタダでいい。アンタは40万もらって俺の選択権を買うこともできる」
「俺に都合が良すぎる気がするがな」
「俺は旅人だ。その島でしか体験できないこと、知れることは何でもしてみたい。ただ危険は犯したくないから、こういう選択をとってるだけだ。」
「そうか……………分かった。俺の選択権を買え。30万でいい」
「まけてくれるのか、感謝しよう。30万ベラだな……これでピッタリだ。確認してくれ」
「………確かに30万あるな。よし、これでアンタは俺の選択権を買ったことになる。話すとしよう、俺がしようとし「ちょっと待て」」
俺は突如として選択権について語ろうとした店主の話を遮った。ここで話されては困るからな。買った意味がなくなってしまう。
「なんだ?聞きたくないのか?」
「いや、聞いてもいいが、その場合だと選択権の行使にはならないと俺は思う」
「なんだと?」
「選択権ってのは、"アンタが何かを選択する時に代わりに選択できる"って権利だろ?」
「あぁ」
「アンタが何かを選択する時に俺が何も言わなかったらそれはアンタが勝手にしただけで俺の選択権は行使されないはずだ。違うか?」
よくよく考えてみれば分かる話だ。誰かが俺のために何かをしたとて、それは俺が命令したわけじゃない。勝手にしてくれてるだけに過ぎない。
「……お客さん、謀ったな。どこまで知ってた?」
「あらかた全部だ。お互い様だろ?商売は騙される方が悪い。だから悪徳商業なんてものが後を絶たないんだ」
「それで?どうするつもりだ。商売は商売、やられた側はやった側に従うしかない」
「少し、着いてきてほしい」
「断る。着いてきて欲しいなら選択させるんだな」
「その時は周りに頼んで無理矢理にでも連れてくかな。この島の商売ってのは極端な話利害の一致で成り立つ。周りも黙認してくれるだろうよ」
「……アンタこの島初めてじゃないだろ?何回目だ」
「初めてだよ。いいからついて来い」
そうして、未来の店まで戻ってきた。
「さっきの兄ちゃんじゃねぇか。気が変わったか?」
「あぁ、全員の未来を買う。コイツの金でな」
「そりゃまた随分と太っ腹だな。いいのかい?」
「断る」
「権利を使わせてもらう。買うか買わないかの選択だ。買え」
「断る!」
「無理だ。この島じゃ通用しない」
「よくは知らんが、商売のルールは絶対だ。陥れられたならソイツが悪いぜ。600万だ」
「ふざけるな!俺は払わねぇぞ!」
「全く同じことを旅人にふっかけて金を稼いでるであろうのに何言ってんだか。商人、この島に警察とかはいないのか?取り締まって欲しいんだが」
「わ、分かった払う、払う!だから勘弁してくれ。商売全部に影響を与えちまう」
「感謝する。先にその子達をくれないか?後はコイツに払わせるから、頼む」
「金くれんならいいぞ。ほら持ってけ。コイツらの未来はお前のもんだ。好きにしな」
「ありがとう。では俺はこれで」
「まいど」
「お前!覚えておけよ!必ず後悔させてやる!」
「俺は何も悪いことはしていない。ただ売買をしただけだ。行くぞ、歩けるか?」
俺はハスクと、その子らの合計5人で家に帰ることにした。流石にこのまま回るのは大変だろうしな。
かくして、俺達は家に帰ってきた。鍵を開けようとしたら既に開いていたのでコレクターの人は既に帰ってきてるらしい。
「戻った」
「おかえり〜早かったね…………えーっと……僕がいうのもアレだけど、すごい買い物をしたね。いくら?」
「30万だ。570万もまけてくれたよ」
「それは……うん。随分と羽振りが良かったんだね?それで、今の所持金は?」
「…………4万と600ベラ」
コレクターは呆れたような顔をしていた。いや、呆れた顔だった。
「君、これからどうするのさ。今日はいいけど、明日も泊まるなら出航時には1万600ベラだよ?」
「そうだな…俺の未来でも買ってくれないか?」
「遠慮しとくよ。高すぎて買えないかも。そうだ、シャワーとか服は自由に使っていいよ。流石にサービスしないと僕としても申し訳なくなってくる」
「感謝する。そうだ、一つ聞きたいんだが、この島で信頼を失うことってどれくらいの損失になるんだ?」
「難しいことを聞くね?そうだなぁ…この島で商売をしているのなら、死に等しいかな」
「………そうか」
それだけ聞いて話を止めた。その日は奴隷の子らに飯を食わせたり風呂に入らせたりと、子育てのような1日を過ごした。マジで疲れた
次の日、3日目のこと。
所持金もほぼ底をつきかけていたので、ぶらぶらとその辺を歩きながらその子らにある提案をした。
「さてと、聞きたいことがいくつかある。まず、これからお前達はどうしたい?」
「………」
「そうだな…お前達は何がしたい?好きなこととか、何でもいいぞ」
「………」
「んん……もしかして俺が怖かったりするか?」
様子を伺っていると、1人の子が身体をビクビクさせながら、視線を落として頷いた。それもそうだ、急によく知らん人に買われたんだからな。奴隷商売とやってることは変わらない。これは俺の気持ちをしっかりという必要があるな。
「一つ、話しておこう。俺はこの島が嫌いだ。何にでも価値を定めて商品として売るからな。それで人が傷ついているから尚更だ。ただ否定はしない。郷に入っては郷に従えなんて言葉もある。ルールには従う。」
その子らはようやく俺の方を向いた。ハスクも大人しく、その子らを介抱するようにしている。
「だが、俺はそれに腹が立った。だから同じ方法で仕返し的なことをさせてもらった。別にお前らが欲しかったわけじゃない。辛い仕事をさせるつもりもない。好きにしたらいい」
「………」
「その上で聞きたい。お前らはどうしたい?俺に着いてくるか、この島で自由に生き延びるか」
「………」
「………」
「あの、選択させてくれるなら、ボク達は別の島で生きたいです」
一番年上であろう、15歳くらいの青髪の子はそう言った。その子の後ろでは、服の裾にしがみついている同じく青髪の女の子がいた。推察するに妹とか何だろう。俺に押されることなく発言できるあたり、かなり偉い子だ。有望だろう。
「別の島…と言うと、ツリーツアーに乗るのか?費用なら……あー…まぁ出せるが、俺の目的地までしか出せない。そこで暮らしてもらうことになるが構わないか?」
「いいです。ここじゃなければ。ボク達はこの島で親に捨てられました。正確には売られました。だから、ここを出たいんです」
「なるほど…後悔はしないな?」
「しないです。誓います」
「……分かった。ならそれを尊重しよう。一つアドバイスをするなら、思ってることを全部口に出すのは良くない。出していい情報と駄目な情報を区別できるようにしろ」
「分かりました。ありがとうございます」
「さて…君はどうする?」
「……ぁ…その…」
「決められないか?」
こくん、とその白髪の女の子は頷く。多分、7歳そこらか?コイツらみたいに兄妹がいるとかではなく本当に1人だったんだろう。目線を合わせつつ、俺はある提案をした。
「なら、俺に選択する権利をくれないか?どっちにするか、俺に決めさせて欲しい。代価は……おいおい決めよう」
「………」
その子は俺の目を真っ直ぐ見据えた後、深呼吸をしたのち頷いた。
「成立だな。じゃ、俺に着いて来い。悪いようにはしない。少なくともこの島での生活よりは裕福な暮らしができることを保証する。いい未来を約束しよう」
「……わ…わかった」
「よろしくな」
「うん」
その子の顔が少し晴れたような気がした。何はともあれいい買い物ができたと思う。スッキリした気分だ。2度とくることはないと思うが
「全員ついてくるってことでいいな。君ら2人は『幸福の島』まで、君は俺が何としてでも連れ帰る。約束だ」
「分かりました」
「……………うん」
「……分かった」
一件落着、と言ったところか。無事に収まってよかった。それと、この島で暮らすと言わなくてよかった。正直オススメはできないしハードルが高すぎるからな。さて、この後は何をしようか……
「おや。坊やたち旅人かい?こんなところまで来て、疲れてるだろ?ウチの宿に泊まっていくかい?」
「お婆さん、どうも。お気遣いはありがたいが、既に別の宿を取っていてね。ちなみに幾らで?」
「そうだねぇ……高くて申し訳ないけど、9000ベラぐらいかしら」
「……………ちなみに、他の宿って幾らぐらいだ?それと、どれくらい空いてる?」
「他は一番安くて5000ベラぐらいで、高いと3万はするわよ。基本的にどこも空いてるわ。どの宿も町から外れた場所にあるからなんだけれどね」
「………後で行くかもしれない」
「あらそう?なら1部屋とっておくわね。いつでも来てちょうだい。あそこに見えるのが宿だからね。」
「感謝する。お婆さん」
その後、お婆さんは歩いて行った。あのコレクター、俺を嵌めていたのか。してやられたな。どうやら阿呆はあの商人だけじゃなかったらしい。
「戻った。話がある」
「おかえり〜話って?」
「近くで宿屋を経営してるお婆さんから話を聞いた。俺を騙してたんだな」
「騙される方が悪い、でしょ?実際3年前ぐらいは本当にそうだったんだから」
笑顔は崩さないが、目だけは値踏みする商人の目だった。流石は入り浸っているだけはあるな。騙すのが上手い。
「ま、それはそうだ。それに、変な宿よりかは設備もいいし飯も美味いからな。感謝してるよ」
「ご飯おいしーよ」
「あくまで友好的に行こうってわけだ」
「ま、同じ旅のもんだしな。また何処かで会った時に気まずくなるのは避けたい。」
「それは同意見」
「そうだ、もう1つ言いたいことが」
「なに?」
「今日だけ無料に変えてくれ」
「ボクからも」
「わ…わたしからも」
「………しょうがないなぁ、今日だけ特別だよ?」
「感謝する」
今の俺には温情が一番効果的な気がする。どっと疲れたな。
次の日、4日目のこと。
俺達は朝早くに支度を済ませ、港へと赴いていた。
「兄ちゃん達どうだい!」
「安いよ安いよ!」
「サービスするしまけるからおいで!」
「ウチ来る?活きのいい奴いてるよ!」
「最後だしまけてあげるよ!」
「……案外、ここが一番安全なのかもな。」
「それはボクも同意します。お兄さんもそう思う?」
「僕にとったら全部同じように見えるね」
「そうか?にしても人混みが本当に凄いなここは。ハスク、ちょっと頼めるか?」
俺がそういうと、ハスクはその場で吠え始めた。客や商人がちょっと退いた隙に船着場へと向かった。
「ようやく着いた…暫くは御免だな」
「旅人さん達、もう直ぐ出発するから乗るなら早めにね」
「ありがとう、それじゃ行くとしようか。」
「うん」
「ヴォ〜ン」
ハスクが短く吠えた。まるで「行こう」と言うように。そうして俺達は『商売の島』を後にした。思ったよりは、楽しかったのかもしれない。
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今回の旅を終えた俺は、店主に旅の話をたっぷり聞かせてやろうと思った。まぁ、ありすぎて困るがな。
「……そうだな。色々話すことはあるが」
ベンチに腰掛けて続けた。
「順番に話すか。まずは……『商売の島』。あそこは賑わいすぎだ。俺には合わん」
「そうかい?私は好きだがね」
物好きな店主だ、と俺は思った。
「ただ、行って良かったとは思う。良くも悪くも価値観は変わった。お陰でいい買い物ができたからな。」
「ま、誰だってそうだ。あの島は異質だからな……それ土産って言わないよな?」
そう言いながら店主は俺が買った子を指差した。
「な訳ないだろ。アンタもアッチ側の人間か?」
「私はそこの区別はできているとも」
店主もコレクターの旅人のような一面があるのかと思ってしまった。思い込みは怖いものだ。そうして会話が一区切りした後、おれは店主にある提案をした。
「そうだ、一つアンタに頼みたいことがあるんだが」
「何だ?」
「この子を此処で働かせてやって欲しい」
「……これまた急だな」
「この子の将来の安泰を約束してるんだ。まずは金が手に入らないとだろ?だから、ここでバイトをさせてやりたい。条件はあるか?」
「いや、特にはないが……強いて言うならその子の判断、かな」
「どうしたい?」
その子はしばらく悩んだ後、ハスクの近くで「……お兄さんについてく」と言った。
「分かった。なら、話はなしだな」
「まぁ、私が預かったとて、だからな」
「ありがとう、話はそれだけだ。さてと…『商売の島』についてはこんなもんかな。次は……『大きな穴の島』か。」
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◇月○日 晴れ
題名『商売の島』
何でも買えて、何でも売れる島。物でも土地でもゴミでも未来でも、奴隷だって。全てを犠牲に商売を続ける者ばかりが集まる。彼らはおそらく倫理を売っぱらって利益を買っているんだろう。そういや、あの島って買ったら幾らぐらいなんだろうか。うーむ…考えるだけ無駄か。何の価値もないものに値札はつかないからな。




