ep.1 『変わらない島』
「……正直、悪くはなかったです。むしろ良かったですよ」
帰ってきた彼は店の前のベンチでそう言った。悩んでいるような、納得したような、どちらとも取れない声で。
「静かで、争いもなくて、皆んな親切で。ただ……長くいる場所じゃないと思いました。始まりも終わりもないような島でした。」
私は頷いた。感想としては、よくあるものだ。
皆んなと大体変わらない。ただ最後の言葉はかなり良いフレーズだな。キャッチコピーにしてみるのも悪くない。
「そう感じる方は、少なくはないよ。」
それだけ答えると、彼は少し安心したように笑った。自分の感じたことが、間違っていなかったと確認できたのだろう。
「今回の旅は、いい経験になったかい?」
そう聞くと、彼はただ「そうですね、きっと」と、頷いた。
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それは数日前。青色のニット帽を被り斜めがけの茶色のミニバックを持った少年がいた。その少年はその店の前で足を止め、並べられたパンフレットを眺めていた。色褪せた紙も、新しい紙も、同じ棚に並んでいる。島の名前と、短い紹介文、後は町への地図ぐらいで詳しいことはどこにも書いていない。
「この中で、一番オススメな島ってどれですか?安全な島だと嬉しいんですけど」
僕はその古臭そうなエプロンを着た店主にそう尋ねた。やがて店主はパンフレットを数枚手に取った。
「オススメの島なら他にもあるが、危険が少ないとも言えない」
そう前置きしてから、続ける。
「ただ、ここら辺なら安全面も含めて、初めての旅として丁度いいぐらいだろう」
僕はその紙を貰ってしばらく見つめていた。人工の島、旅人の島、大きな穴の島……たくさんあるんだなぁ。
「…………ん。」
そう思っていると。一つ、気になる島のパンフレットを見つけた。
「"穏やかな日常を追い求め、昨日を守り今日を行く"……この島ってどういった島なんですか?」
「それは自分の目で見に行くといい。それを見て、体験するのが旅人だからね。面白いと思った場所に行くといいさ。一つ言うなら、安泰な島だよ」
安泰なのか…このキャッチフレーズから察するにゆったりとした場所なのかな。初めての旅な訳だし、比較的穏やかな場所がいいな。
「じゃあ、ここにします。これお金どうぞ」
「まいど。帰ってきたら感想を聞かせてくれ。ここで待ってるから」
僕は「はい」と返事だけして、その場を去った。
◇◇◇
そうして僕は船着場にやってきた。船には種類があって、行き先が完全にランダムの船と、指定した島に行ける船と、観光ツアー的な感じの船。今回僕は指定船で行く。費用は高いけど仕方がないな。
「『変わらない島』でお願いします。場所はここです」
「……………あいよ。ちょっと待ってな」
船の運転手さんにお願いした後、はその船に乗った。船ってよりかはヨットとかボートに近いけど。
海風に当たりながら、僕は薄っすらと見えてきた島を眺めていた。この世界は沢山の島に分かれてて、それぞれの島に特徴がある。僕の行く『変わらない島』も何らかの特徴があるんだと思う。外からじゃわからないけれど。
◇◇◇
「とう…ちゃく!」
辿り着いたその場所は、山々が広がって草木が揺れる自然豊かな場所だった。長閑で穏やかな、パンフレット通りみたいな場所だ。
「さて、町は…ん?」
パンフレットを見つつ周りを見渡していると、茶色く禿げた機械のようなものを見つけた。
「誰かが捨てたのかな…こんな所に?まぁいいや。ええっと…あっちか」
機械を横目に、僕は町の方へと歩き出した。
「おぉ」
その町を一言で言うなら、"賑やか"だった。人は和気藹々としてて、楽しそうに話してる。これなら守り続けたいって思えるのかも。
「おや、旅人さんかい?珍しいね。ゆっくりしていきなさい」
声をかけられた方に視線を向けると、水玉のワンピースを着たお団子ヘアのお婆さんがいた。ここの町の人かな。
「ご親切にどうも。お婆さん、宿屋と食べるところってあるかな?」
「宿屋なら真っ直ぐ、食べるところはたくさんあるわ。好きなところ行きなさい」
「ありがとうございます」
「やっぱり旅人さんはいいわねぇ。皆んな同じことを聞いてくるから楽ねぇ、何日滞在するの?」
「3〜4日ぐらいですかね。では、僕はご飯を食べにいきます。ご丁寧にありがとうございました、お婆さん」
「例には及ばないわよ」
いい人だったな、あのお婆さん。
その後は立ち寄った蕎麦屋さんで蕎麦を食べて、ぶらりと町を見て、宿で寝た。何て事のない変わり映えのない一日だった。本当に穏やかな島だな
次の日。2日目のこと。
僕は町で色んなものを見ていた。そうして分かった事がある。なんか全体的にモノが古い。昔に作られたものばかりってわけじゃなくて、最近作られたって感じがする。他の島と比べて発展するのが遅いのかな?なんて思っていると
「あら、昨日の旅人さん?」
「お婆さん」
昨日のお婆さんに出会った。
「昨日と同じ服装なんですね」
「あら、貴方もそうじゃない」
「僕は旅の服が同じなものでして」
「私もよ、分かりやすいから着ているの」
「確かに分かりやすいですね」
水玉のワンピースにお団子ヘア。一目見て分かるから旅人としてはありがたいな。覚えやすいし
「周りの人もそうよ。皆んないつも通りを大切にしてるの。」
「へぇ〜……確かに、昨日と同じような感じがしますね。賑やかで。もしかして売ってるモノがちょっと昔なやつが多いのもそれが理由で?」
「そうなのよ。昔の人達が島を、皆んなを大切にしてきたから今があるのよ。今を大切にするには、昔の人たちを習わないと」
「なるほど、そういうこと」
先人たちの想いを大切にしている所以なんだな。いい町だ。
「まだ見ていくんでしょう?好きなところ行きなさい」
「ありがとうございます。では」
「例には及ばないわよ」
やっぱりいい人だな、あのお婆さん。
その後は立ち寄ったカフェでパンとカフェオレを食べて、ぶらりと町を見て、宿で寝た。何て事のない変わり映えのない一日だった。ちょっと退屈しちゃうくらいにはね。
次の日。3日目のこと。
見るところも少なくなったから今日で帰ろうと思う。でも、せっかくなので気分転換に町からちょっと離れて自然の真ん中を歩いていた。こう言うところは来た事ないから自然を謳歌するには丁度いいな。道はでこぼこしてるけど。舗装したりしないのかな?そう思っていると海沿いに人を見つけた。何やらカンカンと音を立てながら何かを作っているようだった。
「こんにちは。何してるんですか?」
その人は汚れたオーバーオールの服を着ていて、ヘルメットにゴーグルをつけ如何にも工場勤務って感じの人だった。
「この島を変えようと思ってな。」
「島を変える?どうしてですか?変える必要なんてないと思いますけど……穏やかで賑やかで、いい島じゃないですか。確かにちょっと技術の進歩は遅いですけど」
「バーカ。お前は何にも分かっちゃいない。この島はどこよりも進んでいて、どこよりも遅いんだ。」
「それはどう言う?」
「この島は何故か皆んな変わらない。服装も、喋り方も、店も何もかも変わらない。いや、変わろうとしていないのかもな。なんでかしらねぇけど、この島には所々に何故か機械が捨てられてる。実はな坊主、この機械には最先端技術が組み込まれてんだ。どんなアレかは俺にも分からんがな。とどのつまり、この島は昔に何かあったと思ってよ。俺はコレがなんなのか調べてんのよ」
「ふーん…直接聞いてみたらどうです?」
「そう言うなら聞いてみるといいさ、どうせ無駄だけどな。」
「そうですか……頑張ってくださいね、お兄さん」
「おう、お前もな」
その人とはその後少し話してバイバイした。
そして町に戻ってきて、あのお婆さんを探した。多分水玉のワンピースにお団子ヘアしてるはずだ。どこだろう………あっ居た。
「お婆さん、こんにちは」
「あら、昨日の旅人さん?」
「やっぱり同じ服装なんですね」
「あら、貴方もそうじゃない」
「昨日と同じ理由です。」
「私もよ、分かりやすいから着ているの」
「そうだ、今日はここを経つついでに聞きたい事があるんです」
「あら、行っちゃうの?寂しいわねぇ。いいわよ、なんでも聞いてちょうだい。」
僕は思い切って聞いてみた。
「この島って何で皆んな変わらないんですか?島に転々としてる機械って一体?それだけ知りたくて」
「……誰から聞いたの?」
「アッチの海沿いにいた機械をいじっていたお兄さんに」
「あの子…またそんな事して、変わらないわねぇ……そうねぇ」
そう聞くとお婆さんはうーんうーんと暫く悩んで、悩んで、そして答えた。
「今が平和だからよ。あの機械は昔の人の生活には必要ないわ。だから捨てられちゃったのよ」
「今後必要になったりしたら?」
「ないわね。多分。ここが『変わらない島』である限りは」
「……いつか変わるんですかね」
「そんなの、分からないわよ。革命でも起きない限りはね。でも大丈夫、今が一番平和。未来のことばっか考えちゃうと大変よ?」
「……確かに、それもそうですね」
「さて、もう行くの?」
「えぇ、船が来るので。ありがとうございました。お婆さん」
「例には及ばないわよ」
その会話を最後に、僕は町を後にしたいい町だった。穏やかで長閑で……でも、目新しいものはあの機械ぐらいで特に何もなかったな。見たことあるものばかりでちょっと悲しかったかな。それでも、楽しかったけど。
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そうして僕はあの店主のところへ戻ってきていた。
「こんにちは、店主さん」
「お、帰ってきたか。どうだった?あの島は」
「……正直、悪くはなかったです。むしろ良かったですよ」
僕は店の前のベンチでそう言った。
「静かで、争いもなくて、皆んな親切で。ただ……長くいる場所じゃないと思いました。始まりも終わりもないような島でした。」
『変わらない島』。名前の通り、昔からずっと変わっていないんだろう。それこそ100年くらいは。
「そう感じる方は、少なくはないよ。」
店主がそう答えたので、僕は少し安心したように笑った。皆んな同じ気持ちだったのかな。
「今回の旅は、いい経験になったかい?」
「そうですね、きっと」
あのオーバーオールのお兄さんはこれからどうするんだろう。何を発見するんだろう。でもまぁ、僕にはもう関係ないからいいや。
「そうだ、お土産があるんですよ。」
「お土産?」
珍しい。わざわざ私にお土産を買ってきてくれる人はそうそういないからな。土産話を持ってきてくれるやつはたくさんいるが。ま、ありがたく頂こう。
「何だ?」
「おはじきです。昔ながらでいいでしょ?」
「……まいど」
旅人ってのはやっぱり分からんもんだな。
「またここのパンフレット借りに来てもいいですか?」
「あぁ、構わないよ」
「ありがとうございます。ではまた、店主さん!」
「あぁ、例には及ばないよ。少年」
アイツ、結構ピュアなやつだったな。今度来る時が楽しみだ。
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○月△日 晴れ
題名『変わらない島』
変わらないのは本当に幸せなのだろうか?過去に幸せなどなく、未来を乗り越えた先に幸せはあるのではないのだろうか?人々は進んだのだろうか。それとも退いたのだろうか。いや、結局のところ、どう考えたって変わらないんだろうな。やめだ。寝よう。明日は平等にやってくるんだ。
単話完結のもの、よくないですか?僕は好きです。




