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休みの日

作者: 荒田森山


窓から外を眺めてみると、

そこには青々とした空が広がっていた。


雲はゆっくりと流れている。


向かいの家のベランダには布団が干してある。


休日の昼下がり、やおら寝床から起き上がってみると、そんな風景が広がっていた。


清らかな風が、窓からそよそよふき込む。


名も知らぬ小鳥が、数羽歌っている。


時折、遠くで車の走り去る音が聞こえた。


なんたる平和だろう。


こんな穏やかな日があるのだろうか。


普段のうるささは消え去ったとみえる。


今あるのは、信じがたいほど、緩やかな時の流れだけである。


やがて寝ぼけた頭が晴れてくると、


次第に自分も平和の一部に取り込まれたような気がしてきた。


その時ようやく、今日が休日であると自覚したのだった。


郵便受けには、どこからか届いた新聞があった。


なんの気なしにそれを開くと、人が殺されていた。


戦争があり、紛争があり、そして痴漢があった。


だが、そんなものに興味はなかった。


ただ、今日という日の静けさが有難くて、

ちょっと笑みを浮かべて感謝するのである。


誰に? 今日に。


新聞はたたんで、部屋のすみに放った。


すると、寝起きにありがちな尿意を覚えた。


しかし、すぐにトイレには行かなかった。


ひとまず座って、何も考えずにほうけた。


いつもはトイレに行くのさえも何者かに追われる。

今日は休みだ。ならば、トイレにもゆっくりと。


しばらくして、トイレに立った。


誰にも、何にも構わずに、

用を済ますのは気持ちのいいものだ。


すっきりして、また元の場所に座った。


テレビはつけない。今日は休みだから。


また窓から外を覗いてみると、

子供たちのはしゃぎ回る声が聞こえた。


子供は休日にこそ休まないのかもしれない。


昔は、その元気のよさを持っていた。


今はなくしてしまった。


別にうらやましくはない。ただ懐かしさのみ・・・。


などと考えてみた。


ふと時計を見ると、もう起きてからしばらく経っていた。


日はすでに高い。空はいよいよ青くなってきた。


ちょっと、床に寝転がってみる。


その時に、はじめて天井が白かったことに気がついた。



気がつくと、眠ってしまっていた。


起きたばっかりで、すぐにまた寝るとは、と苦笑する。


眠りから覚めたのは、太陽の光が静かに動いて、


顔のあたりまで射し込んできたからだった。


喉が渇いた。


さっと立ち上がって、


冷蔵庫から、冷えたお茶を取り出した。


飲むといよいよ目が冴えた。


今度は腹が減ってきた。


なにか食べ物と思って探すが、めぼしいものはない。


しかたなしにカップラーメンを1個作った。


これもごちそう。3分待つのも楽しい。


お湯を注いで、時計の秒針を見守る。


出来上がったら、静かにふたを外す。


悪くない。腹が減ってるからなおよい。


誰に気がねする事もなく、ゆっくり味わうのだった。


ところが、食ってる途中に、妙に恐ろしくなってきた。


麺をすすれば、すするほど、心の落ち着きがなくなった。


麺を一本食えば、一本分、スープを一口飲めば、一口分、


恐るべき何者かが、近づいてくるような思いがした。


はじめは、その存在を気にもとめなかったが、


そのうち気がついて、目をそらした。


それが、ますます接近してきてようやく向き合う事になった。


実は、はじめからこの平和は、


端のほうからパラパラと崩れ始めていたのである。


昼はもう半ば傾いていた。


もはや鳥の歌も聞こえぬ。


今日は知らぬ間に折り返して、終わりに向かっていた。


胸の中で、言いようのないモヤモヤした感覚、


不満や、寂しさやおののきが次第に膨れはじめた。


今あるこの穏やかさが、このゆとりが、この安寧が、


まもなく消え去ってしまうことが実感されてきた。


心の中で休みを悼んだ。


ふいに明日の事が頭に浮かんだ。


明日も休みになればいいのにと思った。


そして、その瞬間、休みは終わった。

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